Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
ポテトチップスが2袋に、グミとチョコバーそれぞれ3個、それと内緒で装動フィギュアを1体。コレで丁度1000円、何ともお買い物上手だろうか。そう自画自賛すればするほど、直葉は自然と漏れ出す陽気な鼻歌が止まらなくなってしまう。
「一杯買っちゃったぁー! 一杯買っちゃったぁー!」
浮足立った足取りのままに向かうのは。両親が待つ家ではなく、兄が待っているマンションへの帰り道。片手に持ったお菓子一杯のレジ袋を、時折零れないように手で押さえつつも、弾むような胸の内が軽快なステップとなって漏れ出してしまう。
「兄ちゃんも太っ腹だなぁ! 可愛い妹の為にお小遣いまでをくれちゃうなんて!!」
袋一杯のお菓子の味を口の中で想像するだけでも、途端に直葉のニヤケが止まらなくなってしまう。お泊り初日限定の出血大サービスとは言え、まさか1000円も貰えるなど考えすらしなかった。正に棚から牡丹餅ならぬ、棚からお菓子が落ちてきたようなものだ。
「えっと、コッチだっけ?」
そんな帰り道の中で丁度、左右に分かれたT字路に差し掛かると、直葉のスキップ交じりの歩調がピタリと止まる。そして、頭の中でイマイチ土地勘を掴めない曖昧な地図を思い描いていると、ふと思い出してしまう事があった。
──―そういえば、この先を右に真っ直ぐ行けば、あの庭が広い豪邸の前を通る筈。そして、それは直葉が兄と向き合うキッカケをくれた
思い返せば、昨日はあの庭で遊んだ後、衝動のままに飛び出してしまって、ちゃんとお礼を言えていなかった。そう考えると、直葉の胸が誰かに後ろ指刺されるようにチクリと痛みだす。
───もし、パディに出会っていなければ、こうして兄の元に帰る事も出来なかったし、失ってしまっていたかも知れない。そう考えるだけでも、浮足立っていた気分が地に落とされたように、ブルッと寒気が過る。
だが、そうはならなかった。怖くて足踏みしていた自分を、大丈夫だと勇気づけてくれたからこそ、今この瞬間がある。だからパディという少女は、直葉からすれば自分を後押ししてくれた大事な友達だ。
故にだろう、その身体は兄の元へ帰る道をすっかり忘れて忘れて、迷うことなく右側に曲がって走り出していた。
「発見!! トゥ!!」
勢い良く走り出してから数分も経たずに、あの庭が広い豪邸の門前にまで辿り着く。そして、自分より遥かに高い西洋風のレンガ塀をどうにかよじ登ると、鉄柵越しに少女が何処に居るのかと探し始める。
──―居た。二階建ての窓から、晴れた昼下がりの空を見つめる少女の顔。日本人とは違う浅黒い肌、自分と同じ齢のあどけない面立ち、そしてちょっとオドオドしている雰囲気は間違える筈も無い。
お菓子一杯の袋を持っている事も忘れ、窓越しからだろうと分かるくらい大きく手を振るう。
そして、精一杯の声で、大事な友達となった名前を呼んだ。
「パディちゃーん!! あーそぼ!!」
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「パディ、どうかしましたか?」
呆然と窓越しの空を見上げる
「う、うん。何でもない。大丈夫」
しかし、その言葉と顔とは裏腹に、パディからは元気を感じられない。なら何故? と少し考えると、アーチャーは昨日に庭から飛び出したあの小麦肌の少女の顔が浮かんだ。
「あの少女の事ですか?」
「そ、それは……」
どうやら正解だったらしい。その瞳が分かりやすく狼狽えるのを捉えると、アーチャーは顎に手を置いて、ふと考える。
──―恐らく純粋なマスターの事だ。あの少女がその後どうなったのか心配なのだろう。だとすれば、コレは自分が解決出来る問題ではない。
それにだ。かつては英雄と称えられたアーチャーと言えども、子供一人を笑顔にする方法など心得ていない。所詮、授かるままになったお飾りの象徴など、戦闘以外ではその程度でしかない。
この少女の笑顔を再び取り戻すにはどうすれば───そう考えこんでいた矢先に、好機は突然に向こうからやって来た。
「パディちゃーん!! あーそぼ!!」
パディがさっきまで覗いていた窓の外から、いっそご近所迷惑になるくらいの活きの良い声が、部屋の中全体に押し入った。
「!?」
退屈そうに伏していたその瞼が一気に剥がれ、パディが慌てて窓の外へと身体を乗り出す。それに合わせてアーチャーもまた、千里眼を発動して同じ外の景色を見通す、すると、あの少女が塀の鉄柵にしがみ付いて、袋一杯のお菓子を片手に手を振っていた。
「スグハ……」
パディの口から言葉がポトリと零れ落ちる。それはこの地で公用語として使われている言葉───きっとあの少女の名前だろう。昨日知り合ったばかりだというのに、まるで思い人でもやって来たかのように、先程まで憂鬱に曇っていた顔は、もう晴れ上がっている。
だが───パディは窓の外に向かって、応えるように手を振りはするも、身を乗り出す椅子の上から動き出そうとはしない。
「会いに行かないのですか?」
「……うん、大丈夫」
嘘だ。純粋無垢な少女の嘘は、鈍いアーチャーでもそう直感で解る程に見え透いていた。
本当は今すぐ、あの少女の元へ向かいたいに違いない。だが、そうする事が出来ないのは、恐らくアーチャーと交わした約束のせいだろう。
『自分が居ない間は、外には出ない』───アーチャーが現地で確保したこの隠れ家に2人でやって来た際、最初にした約束がそれであった。
慣れない土地に時代、加えて幼いパディが聖杯戦争のマスターだと知られるリスクを考えれば、身の安全を考える上で、極めて妥当な約束だ。それは未だに間違いでは無かったとアーチャーは確信を持って言える。
───しかし、パディは一度破ってしまった。例え、どんな理由があれ、アーチャーが居ない時に庭に出てしまい、そしてその瞬間を見られてしまっていた。
無論、アーチャーは怒ってなどいない。あの時の全て視ていた上に、己のマスターが迷える少女の背中を後押しした事に誇りすらも感じている。だが、パディに取ってはそれが鎖となっているに違いない。
「そうですか───」
アーチャーは何時までも手を振り続ける己のマスターを、伏し目がちにただ見つめる。そして、己が犯した罰に唇を僅かに歪めた。
───パディには、この哀れな少女には、自分しかいないのだ。それは至極当たり前の事実であるが故に、アーチャーは今まで考える事が出来なかった。
この少女は、アーチャーが居なければ死んでいた。それはきっと今もそうに違いない。アーチャーが救い上げたからこそ、希望を持つ事ができ、パディは生きようとしている。
だがもし、その希望が消えれば───アーチャーが居なくなれば、この少女は耐えられない。アーチャーが見せた幸せの夢幻は、消えれば容易く少女の心を壊す毒とも成り得る。
だからこそ、
例え、それが生まれて初めて出来た友達と会えない事になってたとしても、きっとパディは何も不満は無いと作り笑顔で言うだろう───故に。
「失礼」
「王子様?」
アーチャーは半ば窓枠から身を乗り出していたパディの身体をそっと腕の中に抱き上げ、そして部屋の外に向かって歩み出した。
「それでは、あの小さなお客人を出迎えに行きましょう」
───行き先は勿論、パディの名前を呼ぶ、あの少女の元までだ。
「良い……の?」
信じられないと言った様子で、パディが尋ねる。その向けられた瞳に、アーチャーは胸を締め付ける罪悪感に、思わず困ったように眉を潜めてしまう。
「えぇ、今までは貴方を守る為とは言え、縛り付けてしまい申し訳ございません。先ず優先されるべきは、貴方の幸せだと言うのに」
確かに、他マスターの襲撃に遭わないように、出来る限りの外出を控えてもらっていた。しかし、それが逆にパディの幸せを阻害する原因になってしまっていると思えば、アーチャーに取って情けない事この上ない。
───真に幸せを願うのであれば、それは依存させる事ではない。少女自らが幸せになる為に助ける事だ。そして、その幸せが今、アソコにあるというのであれば、アーチャーはそれに従うのみだ。
「ほ、本当に良いの?」
「はい、大丈夫ですよ」
まだ信じられないのか、未だに目を伏せようとするパディに、アーチャーは優しく微笑みかけて、その臆病に隠れた感情を、安心と言う温もりで包み込む。すると、誘っていた筈の自分の手が、今度は逆に誘われる側となってしまった。
「王子様、ありがとう!!」
パディが手を繋いだまま、自らの足で部屋の外へ向かう。その時に垣間見せた、作り物ではない幸福を体現したような笑顔こそ、アーチャーが求めていた物だった。
──―この笑顔を、この幸せを続かせる為に、私は戦う。それが一時だけの夢幻などでは終わらせない。
残酷な世界しか知らなかった少女が、これから幸せに生きていく為ならば、アーチャーは聖杯を勝ち取る英雄にもなってみせる。
休むと言ったな……アレは嘘だ。
此処まで毎週投稿していたのに、こんな所で終われる筈がねぇでしょうがよぉぉぉ!!
という訳で、魔王を倒す度から帰還して掻き上げました。
本当に申し訳ございません!!
『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。
https://x.com/8f8qdLIQID34426
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