Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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明けましておめでとうございます。

今年もFate/Red Knightsを宜しくお願い致します!!


閑話:毒と無垢

「何をしているキサマァァ!!」

 

人気も無い廃墟の一室で、狂ったように喚く怒声が、投げつけられたランプ灯と一緒に飛び交う。

 

「コレはコレは、申し訳ございませんね。なにせ異常事態が発生したものでして」

 

だが、アーノルドは全く動じない。甲高い怒声は耳を通り抜け、投げつけられたランプ灯は、身を捻って躱す。すると、ぶつかって弾け飛んだガラス筒に包まれたチッポケな火は、コンクリートの壁に吸い込まれて、直ぐに消えてしまった。

 

灯りが一つ消え、狂乱で充血する双眸が、薄暗い室内に浮かび上がる。それが近づくにつれ闇の中から、髪や衣服を見っとも無く振り乱したコスフィンが飛び出した。

 

「言い訳など聞きたくも無い!!お前は言ったな!!誰で有ろうと必ず殺すと!!」

 

溢れ出る憤怒を抑える様子も無く、コスフィンが神父服の裾を掴み上げる。そのままの勢いで揺さぶろうとするが、アーノルドの根を張る大木のような体幹相手では、首を振らせる事さえ叶わない。

 

「えぇ、確かに言いましたね」

 

狂気でギラついた眼光を受けて尚、アーノルドは泰然と言って退ける。そもそも、本当にそうするつもりだったのだから、言い訳をするつもりも無い。

 

―――コスフィンから同盟(利用)の条件として提示されたのは、セイバーのマスターである青年の抹殺。どうやら、京子(実益)よりも、最優のサーヴァントを一般人が引き当てた事(狂った嫉妬の感情)を優先したようだった。

 

だが、どんな理由があろうと、同盟を結ぶ以上は仕方がない事だろう。それに、周囲に選りすぐりの信者や結界で身を固めている術師より、無警戒な一般市民の方がよっぽど手間が少ない。

 

なので、アサシンの宝具でセイバーを惹きつけている間に、そのマスターである青年を殺害するつもりだった―――そして、それは間違いなく成功する筈だった。

 

「だったら何故だ!!何故あの男は生きている!!キサマが手を抜いたとしか考えられないだろう!!」

 

しかし、コスフィンが使い魔を通じて、壁に投影する外の光景には、マンションの窓から、呑気に顔を晒す、青年の寝顔が映っている。

 

―――やはり、この青年の中に、あのような異形が潜んでいるとは思えない。そう考えつつも、未だ治りきらない肩口の傷跡が、痛みでそれを否定する。

 

あの時、アーノルドの前に現れたのは、榊 浩一という青年の皮を被った異形だ。そうでなければ、此処までの傷跡を、一介の魔術も知らない少年が付けられる筈が無い。

 

「―――良いか!!私を裏切るというのなら貴様を殺す!!たかがアサシン如きバーサーカーであれば、一捻りだぞ!!」

 

傷口から主張する痛みにソッと掌を抑えていると、聞き流していたコスフィンの罵倒から、ようやく待ち侘びたバーサーカーの名前が飛び出した。

 

「成る程、そうでしょうね」

 

コスフィンに気付かれぬように、視線を出来るだけ動かさずに、部屋の隅へと寄せる。そこには、屈強な身体を小さく縮め込ませながらも、何時でも飛び出せるように唸りを上げているバーサーカーが街噛めている。

 

「ゔゔぅ……ゔゔぅ……!!」

 

見ている事が気づかれたのか、鉄仮面越しの眼光と目線が合う。それだけで、歴戦の異形からも感じた事が無い濃厚な殺気が、アーノルドの全身を堅く引き締めさせる。

 

―――今、あの男の中には、二つの芯がある。1つは、名家の魔術師としてのプライド、そしてもう一つは、バーサーカーと言う強力な切り札(サーヴァント切り札(サーヴァント)だ。

 

先ずは、その内の一つを狙うとしよう。

 

「私は聖杯戦争に勝利しなければならない!!たかが魔術も知らぬ小僧如き殺せぬと言うのであれば先ずは貴様を!!」

「お言葉ですが、それは違いますね」

「ナッ!?」

 

垂れ流し続けているコスフィンの憤怒を、否定1つで堰き止める。そして、更に薪をくべる為に、アーノルドはより効果的な言葉を選んでみせる。

 

「あの榊という人間は強いですよ。少なくとも貴方よりはね」

「な……に……!!」

 

沸点を超えた怒りとなれば、コスフィンも呼吸すらも忘れて、火でも点いたように顔を真っ赤に燃え上がらせる。

 

―――どういう感情が渦巻いているのか、手に取るように分かる。

 

魔術も何もかも知らない、ただ運だけでセイバーを引き当てた一般人が、自分よりも上であるという事実。家族からは見捨てられ、魔術師として落ちこぼれの烙印を押されても尚、磨き続けた魔術への冒涜。

 

「ふざけるなぁぁぁぁ!!」

 

それらが混ざり合った末に、飛び出したのは、魔術の強化も何もない、ひ弱な拳だった。

 

「ふざけてなどいませんよ」

 

ひ弱な拳如きであれば、避けるまでも無い。アーノルドは胸元で、何ら痛みを感じる事も無く受け止める。そして、そのまま忍び寄るように顔を寄せ、コスフィンの耳元で流し込むように囁く。

 

「でしたらーーー貴方の自信の手で殺してみては如何ですか?」

「何だと?」

 

コスフィンの怒りで暴走した頭を、甘い囁きで冷ましていく。その垂れ落とす言葉に(悪意)が混ざっている事を気付かせず、ゆっくりと脳裏に染み渡らせる。

 

「仮にですーーー私が彼の少年を殺したとして、貴方はそれで満足するのでしょうか?いいえ、貴方はきっと満足はしないでしょうね。自分の手で少年の顔も、尊厳もグチャグチャにし、その骸の上で高笑いをしなければ、満足はしない」

 

まるで奥底を見透かしているかのようなアーノルドの口振りに、コスフィンは怒りで歪んでいた顔を呆然と緩め、聞き入ってしまっている。事実、アーノルドはコスフィンの浅底など既に見透かしていた。

 

―――アーノルドは異形を刈り取る狩人であると同時に、異形を許しの道へと誘う神父でもある。故に騙し、語り、欺き、深い狂気の中で錬成された言葉の毒は、他人の心など簡単に導ける。

 

今、アーノルドの眼に見えるのは、底が抜けたバケツ。己こそが上であると証明せねば満たされる事のない、陳腐で浅慮な器。

 

そんな人間が満たされるのは、一つしか無い。自分が優れていると証明し、垂れ流す暇も無い愉悦の滂沱で、バケツを溢れ返らせる。

 

「何故貴方はそうしないのですか?私如きでは出来なくとも、貴方であれば容易いのでしょう?何を躊躇う必要がありますか」

 

だからこそ、アーノルドは想像という名の愉悦を一滴だけ垂らし、その渇きを持って。コスフィンを誘惑する。

 

「あ、あぁ……」

 

すると、お預けを喰らった犬のように目が見開き、欲求を刺激する甘美な誘いに、コスフィンの瞳がブルブルと震える。

 

―――そうだ、踏み躙りたいのだろう。存在自体が己を愚弄する青年を、足元に這いつくばらせ、みっともなく泣き叫び、底なしの屈辱と絶望に沈む様を見たい筈だ。

 

そして、その歪んだ願望は簡単に叶えられる筈だ。

 

アーノルドは、最後の一滴を注ぎ込む。

 

「なにせ、貴方はザー家の当主になるべき人間なのですから」

 

その一言が、コスフィンの心の蛇口を捻り壊した。

 

コスフィンの頬が醜く歪む。


廃墟の崩れかけている階段を、アーノルドが一段ずつ下って行く最中、バーサーカーとのやり取りを一部始終見ていたアサシンは、念話を通じて質問を投げかけた。

 

『マスター殿、一つ質問しても宜しいでしょうか」

「えぇ、どうぞアサシン」

『何故あのような男と同盟を?』

 

―――己のマスターを疑う気など毛頭ない。だが同盟を結ぼうとしている、コスフィンという矮小な人間に対し、それ程迄に魅力を感じられなかった。

 

なにせ、あの男は壊れ欠けている。目は虚に乾いて窪み、蒼白の肌から痛々しい程角張る骨格、そして異常なまでの執着と憎悪は、明らかに末期患者のそれに当て嵌まっていた。

 

「確かに、あの男は壊れ欠けている。いや、もう壊れているかも知れない」

 

―――それは我が主(アーノルド)も知っているらしい。アレが魔力欠乏症の典型例だという事に。

 

サーヴァントとは、突き詰めれば魔力の塊。例え優れた魔術師であっても、馬鹿にならない魔力を消費する。特にバーサーカーであれば強力な性能を持つ反面、その消費量は通常よりも桁外れだろう。

 

今は根城としている廃墟に、魔術陣地を形成する事で、土地に眠る僅かな魔力を吸い上げているが、それも時間の問題。いずれバーサーカーに魔力を全て絞り尽くされるのが、アサシンは目に見えていた。

 

「だからこそ、あの男は素晴らしい」

 

吹き抜けのように穴の開いた踊り場で足を止め、アーノルドは天井を見上げる。折り畳まれた階段の向こう側から、悪霊に憑りつかれたように狂った笑い声が反響している。

 

「壊れた愚者ほど、盛大に弾けてくれる物は無い」

 

―――アサシンは、どうやら見誤っていたらしい。主が望んでいるのは、聖杯戦争への勝利でも、況してや異形の暗殺でもない。

 

ただ望むのは、聖杯戦争を破壊する程の大爆発だ。


歪んだ笑いが廃墟中に轟く。それは壊れたスピーカーのようで延々と垂れ流されていて、壁に反響した声が、狂った多重奏を共鳴させ続けている。

 

「そうだ私はザー家の当主となるべき人間だ!!私があんなクソガキに負ける筈がない!あんな魔術も知らぬクソガキ相手など容易い!!」

 

時に怒り高々に、時に嘲笑に響き、絶えず変化し続ける叫びは、反響すればする程、更に増幅されている。そのいっそ哀れにも思える狂気の沙汰を、バーサーカーは牛仮面に開いた穴越しに見つめるばかりだった。

 

「まず、だー?」

「おぉバーサーカーよ!!」

 

その様子を心配して、呼びかけてみると、コスフィンの定まっていない焦点が、ピタリと集中する。そして、不規則な動きで這い寄って来ると、胴体にしがみ付くように抱きしめられた。

 

「喜べ!お前のマスターは、ザー家を継ぐべき優秀な魔術師だ!!貴様が手を出さなくとも聖杯を手に入れたも同然だ!!」

 

―――どうやら、マスターは喜んでいるらしい。反英霊として、そして怪物と名を残した自分を信頼してくれているのだと、そう真剣に思えてしまい、鉄仮面で冷え切っていた心に僅かながらの温かさが灯ってしまう。

 

「おれ、なにを、ずるぅ?」

 

だからこそ、バーサーカーはマスターの為に何かしてあげたい。

 

何かを欲しているのなら、それを奪ってでも差し出す。誰かを殺したいのなら、その誰かの首を喜んで差し出す。

 

しかし、何をすれば喜んでもらえるのか分からない。だからこそ、命令という形が、最もバーサーカーに取って分かりやすい気持ちの表し方だった。

 

「今は未だ動くな!!あのクソガキには私直々に最大の絶望を味あわせる!!ただ殺すだけでは足りない!何だ……何をすればもっともっともっと……!!」

 

しかし与えられた命令は待機。コスフィンの眼が再び焦点を捉えなくなると、バーサーカーから離れて、髪が抜け落ちる程に掻きむしり続ける。そして、ブツブツと口の中で独り言を呟き始めた。

 

「ゔぅ……」

 

動くなと命令されてしまい、巨体に似合わない気弱な呻きが漏れてしまう。マスターの為に何かをしたいと願えば願う程、その煩わしさに胸を痒くなってしまう。

 

―――何か、何か出来ないか。髪を掻き毟る真似をしながら、足りない脳味噌で延々と考え続け、そこでふと、マスターの履く高級革靴に、一点だけの鮮やかな装飾が張り付いてるのが、目に入った。

 

黄色の花びらだ。何処かに出掛けた際に、風に乗って付着したのだろう。それを見て、バーサーカーはようやっと、何をすれば良いのかを思いついた。

 

―――そうだ、花を送ろう。花を渡せば、きっと喜ぶ。両手一杯に抱えられた色とりどりの花束を思い浮かべると、途端にバーサーカーの胸は心躍った。

 

そうとなれば、バーサーカーは躊躇わらない。命令された時以外は動くな言われているが、コスフィンの事を思えばこそ、少しぐらい破っても良いだろう。

 

幸いにも、コスフィンは自分の世界に夢中で、自分には目を向けていない。バーサーカーはコッソリとバレないように霊体化すると、そのまま見えない足取りで廃墟の外へと歩き出す。

 

―――再び帰って来る時には、両手一杯の花を抱える事を目指して。

 




汚い大人達と違って、子供は純粋でいいですよね。

私のこの汚い心も、童心になれば……ダメだ、根本から腐ってやがる。


『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

面白かったら、作品の高評価や感想を是非とも宜しくお願い致します!!



それと、コミケから無事帰還しました。大量の戦果を何処にしまうか検討中です。

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