Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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少女と怪物

 何処までも広がる花の海を二人で渡って行く。土の畦道を踏み締めながら、次々と色彩や形を変える綺麗な風景に目を奪われては、足を止めてその美しさを肌で感じる。

 

「キレイ……」

 

 もう何度目かも分からない、夢見た星と同じぐらい綺麗な光景に、パディは心を奪われてしまう。

 

 今、目の前に広がっているのは、小麦よりも淡い黄金に輝く花畑。眺めるだけであっても、その活力溢れる色彩は、辛い過去の記憶を洗い流すように、現実を忘れさせてくれる。

 

「アッ……」

 

 ───そこでふと、その黄色い花畑の真ん中で、パディは一際大きな目立つ何かを見つけた。

 

「?」

 

 それは人影だろうか。それにしては、やたらと大きくて、伸びた白髪でモコモコとしている。オマケに額から角のような物が生えていて、絵本に出て来るような怖い怪物のようにも思えてしまう。

 

 だがその様相とは裏腹に暴れる素振りも無く、人影は岩のようにゴツゴツした太い指先で、なるべく傷つけないように花を摘まもうとしている。しかし、力加減が上手く出来ないらしく、触れた先からクシャリと茎が折れてしまっている。

 

「うぅ……あぁ」

 

 呂律が上手く回っていない、稚拙な溜息がブワリと周囲の花たちをさざめかせる。それでもめげずに、その人影はまた花を摘もうと太い指で挟み、また茎を折ってしまう。それを何度も繰り返しているらしく、その周りには、折れた花の残骸が大量に散らばっている。

 

「……」

 

 それを見ていると何故だか、パディは喉を詰らせて、言葉を失ってしまう───それは余りにも哀しい光景で、大男が居るという恐怖よりも先に、憐憫の感情が思い浮かんで島う。

 

 きっと誰かの為に花を摘もうとしている事は、その祈りにも似た懸命な表情で分かる。だが、その細やかな願いを裏切るように、摘もうとしては折ってしまう姿は、見ているだけでも心が締め付けられてしまう。

 

「ねぇ」

 

 後ろからトントンと肩を叩かれる。振り返ると直葉が何やら言いたげに、丸い瞳でパディと同じ景色を見ていた。

 

 ──―スグハが何を言いたいのか、分かっている。パディもまた同じ気持ちなのだから。

 

 直葉に出会えた事で、パディは幸せの意味に触れる事が出来た。そして、今は夢にまで見たこの景色へと辿り着く事が出来た。

 

 もし、あの時に出会えなければ今頃、パディは独りで豪邸の中から、青い空を眺めているばかりだった───それを変えてくれたのは紛れも無く直葉のお陰だ。

 

「……スグハ」

 

 その気持ちは敢えてパディは口にしない。それを本人に言えば、大したことじゃないと、きっと否定すると思ったからだ。

 

 だけど、それは違う───自分じゃどうにも出来なくて、でも誰かに助けて欲しい人間に取って、笑顔で差し伸べてくれる手が、どれ程に嬉しくて、涙が出そうになるのか直葉はきっと知らない。

 

 だから、今度はパディがやってみせる。大事な友達が自分にやって見せたように、誰かに手を差し伸べるそれが、どれだけ孤独な人を救ってくれるのか、それを一緒に確かめに行く。

 

「パディちゃん、行こう」

「ウン」

 

 2人揃って黄色い花畑の海に飛び込み、茎や根を踏まないようにゆっくりと泳ぐ。少し背の高い茎や葉に身体を覆われても、離れないように互いに手を繋ぎながら、真っ直ぐ前に進む。

 

 ───そして、ようやく花畑の海を乗り越えると、パディと直葉は、その不器用で大きな人影の背中に辿り着いた。

 

「ねぇ」

「ゔぅ?」

 

 直葉が恐る恐るといったように声を掛ける。すると、人影がのっそりと振り向いて、二、三度辺りを見渡した後、ようやくその巨体に似合わない童顔を、真下に居る2人へと見下ろした。

 

 自分よりも圧倒的に大きい人間が見下ろしている───だがパディも直葉も、躊躇わないし、恐れない。

 

 例え怪物のような姿をしていても、二人は見ていた。花を傷つけないように摘もうとしている優しさへ触れようと、ピンと真っ直ぐに手を伸ばす。

 

「ハジメ、マシテ……ワタシ、パディ」

「アタシは直葉! 一緒にお花摘もうよ!!」

 

 ───その時、少女達の掌が、呆然とする怪物の掌に触れた。

 


 ───バーサーカーは突然現れた少女2人に、ただ困惑していた。

 

 バーサーカーは自分の姿が、人からどのように映るのか弁えている───巨大で、おどろおどろしい、人外染みた怪物だ。

 

 だというのに、どうして二人の少女は怯えていないのだろうか、それどころか……。

 

「はい!!」

 

 直葉と言う少女から差し出された黄色い花を、バーサーカーは受け取っても良いのかと、手を引っ込めてしまう。

 

 先程からずっと───特に、直葉という少女はこの調子だ。怪物であるバーサーカーを前にしても、恐れるどころか寧ろ自分から触れようとしてくる。

 

 どうしてこの少女達は自分に構ってくるのか。いや、そもそもどうして自分なんかの為に、花を渡してくれるのだろうか。

 

「……い、ぃのぉ?」

 

 思わず、バーサーカーはその少女に尋ねてしまう───人とは懸け離れた自分が、誰かから花を受け取る資格など有るのかと、そう考えてしまう。

 

「良いんだって!!」

 

 だがそれでも直葉は、2mも越す巨体に手が届かなくとも、精一杯に背伸びをして、バーサーカーにその黄色い花を渡そうとする。

 

「ワタシモ、ドゾ」

 

 パディと名乗る少女も、同じように持っていた黄色い花を、バーサーカーに差し出す。しかも今度は渡そうとするのではなく、この掌に触れて、折ってしまわない握り方を教えてくれる。

 

 自分より遥かに小さい掌から仄かな熱を感じる──―駄目だ、関わってはいけない。怪物として、この世ならざる肉体と罪を得てしまったバーサーカーは、この純粋な少女と関わる資格など無い。

 

 だが何故か、一度握ってしまった黄色い花を手放す事が出来ない。

 

 ───その時、ふわりと草木と花の香りが、バーサーカーの頭から匂った。

 

「はいコレ! お近づきの印にね!!」

「? なに、ごれ?」

 

 その匂いの正体を探ろうと、バーサーカーはゴツゴツとした掌で、自分の頭へと探るように触れる。すると、指に引っ掛かったのは、茎同士を編んで作った花の冠だ。

 

「さっき作ってみたんだけど、どう? イケてるでしょ!」

 

 太陽よりも輝き、花よりも美しい、満面の笑顔が直葉に咲き乱れる。それが自分に向けられていると気が付いた瞬間、バーサーカーが纏っていた怪物としての業は剥がれ落ちてしまった。

 

 ──―もう、耐えきれない。バーサーカーは己が居るべき場所(故郷)とは違う、陽の当たる世界に触れ、自然の匂いや景色を見て感じてしまった。そこに誰かに優しくされる幸せを得てしまい、もうバーサーカーは抑えきれなかった。

 

 バーサーカーは怪物───悪で有るとそう決められている。そう決められていたからこそ、生前は殉じてみせた。しかし、その内側に被っていた鉄仮面越しには、未だ微かに幼い記憶が残っている。

 

 かつて、己も運命を知らず、二人と同じように無垢だったその心が、今更になって叫びを上げてようとしている。その衝動がどうしようもなく忌まわしく、むずがゆくて───でも、心地よかった。

 

「さっ! そんじゃ一杯に花を摘んじゃお!! 急がないと日が暮れちゃうよ!!」

「ワタシ、テツダウ。マカセテ!!」

 

 右掌を直葉が、左掌をパディが握ってくれる。そこから伝わるのは錆びた鉄斧の冷たさでは無く、生身だからこそ伝わる人としての温かさ。

 

 今まで感じた事の無いその温かさに───バーサーカーは己を忘れてしまった。

 

「ゔ、ん!!」

 

 怪物である自分が、少女達と交わる筈が無い。だが、それでもこの花畑に身をゆだねてしまった。

 




出会ってしまった少女と怪物───コレが少女達に取って良き出会いである事を祈ります。

『追伸』
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