Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
教会に参りて数日の後、巫女は部屋に篭っていた。
狭くはない。おおよそ9畳にも及ぶ木造の部屋で不自由はない。
暗さはない。四方に配置された燭台に刺さる蝋燭が、怪しく揺らめきながらも部屋を照らしている。
音はない。巫女はただ床に座すのみで一切の動きはなく、部屋の内外問わず物音はしない。
静寂──其れこそが、今の空間を表すに相応しい言葉であった。
「……『勝利する』でしてか……」
数刻前に自分が発した言葉を、巫女が呟くように反芻すると、今一度自分の成り立ちを、薄明かりの中で思い返す。
『
それはあくまで表向きという条件が付くが。
裏は、影は違う。
古来から鎖国時代に突如現れた大型黒船の襲来や、織田信長が鉄砲を持って最強の武田騎馬隊をうち破った事しかり、古来から日本には外来に対する全く免疫が全くないに等しかった。
それは魔術に置いても同様、幅広く汎用性に優れた西洋魔術に比べ、代々極一部の血筋にしか使えない日本魔術は余りにも稚拙であった。
──このままでは日本が西洋に侵略される。
そう危惧した日本魔術師は同じ志を持った同族を集め、束ね、殲滅し、いつしか巨大な宗教団体を隠れ蓑に、対西洋魔術師専用魔術師集団へと変貌していた。
それが『日平和教』の起源。
日本の魔術を守る為の筈が、時を経て日本以外の魔術を殲滅する事へ差し代わった武装集団だ。
──その日平和教には、様々な戒律はあるが、中でも創設当時から代々受け継がれる言い伝えが一つある。
『日平和教には必ず、その時代を象徴し、信者を導く巫女が誕生する』
その起源が何であるのか、真偽の程はどうでも良かった。巨大組織の中で権力を握りたい一部の人間には都合の良い事実であれば、それは立派なお題目となる。
故に日平和教には必ず、その代を背負う巫女が生まれる。
大人の血と欲の上に立つ、造り物の巫女が。
(いえ……私は勝利するのでして。それが当然でしてよ)
しかし、今代の巫女────新水 京子は違う。
新水には、お飾りだった歴代の巫女と比べて、知恵もカリスマも、そして魔術の才能も飛び抜けている。
無論、それだけで策謀溢れる教団内で巫女になれる訳ではない。しかし、親水はその才能に合わせて、それこそ、有り余る才能と無数の隠し事の積み重ねで、遂に頂点まで上り詰めてきた。
だから京子は勝利する。いや、それしか勝利しか望まれていない。
上に立つ者として、また、才ある魔術師として、常に前に立ち、自分を巫女に押し上げた物達のため、日ノ本に数多居る信者、また日本を守る為に殉死した信者達のため、常に象徴として生き続けなければならない。
巫女とはただのお飾りではない。日の本に君臨する神の化身であると証明する。
そうした覚悟が、京子の中で、あの確固たる宣言へと繋がったのだろう。
『此度、私は聖杯戦争に参加する事を申し上げるのでして。そして宣言致しましょう。日平和教の悲願は叶うと』
先程、各地から集った幹部達3千余人を前にして、親水はそう口にした。あの時の大広間が割れてしまうような歓声や、一様に喜びと希望に満ちた顔は、今でも親水の眼に焼き付いている。
──悲願とはつまり西洋魔術の殲滅、ひいては日本に失われた神秘を取り戻す事。つまりは国その物の歴史を、世界唯一の魔術国家としてやり直す事だ。
それは決して叶う事ない理想と半端諦めて日平和教を去った人間、それでも諦め切れず夢を見たまま命を終えた信者も居たに違いない。しかし、その全ての人間は今日、巫女の宣言一つで報われたことだろう。
もし、彼らの願いが叶えば、願いが叶った、その後は……。
(いえ、そのような事は勝った後に考えるのでして)
そこまで考えて、瞬きをして気を取り直す。どうやら、永らく考えすぎていたようだ。蝋燭の灯りは既に消え入りそうなほど小さくなっている。
座っている畳から立ち上がり、三歩ほど前に歩き、そしてまた座る。
そこにあるのは、和風の部屋に似つかわしくない、巨大な正方形の和紙に描かれた六芒星の魔法陣。
この魔法陣の意味は、召喚。
聖杯戦争において、この儀式は必須だ。
聖杯戦争とは、何も魔術師同士が戦う訳ではない。こうして呼び出したサーヴァントを最後の一人になるまで戦わせる事を意味する。
そして、呼び出されるサーヴァントは、ただの使い魔ではない。
それは過去の偉人、もしくは物語の中で活躍する英雄、もしくは邪智暴虐の怪物。即ち、英霊と呼ばれる人理に刻まれし者達だ。
巨大な邪竜をたった一人で討伐した英雄、何十万もの軍勢を率いていた征服王、ブリテンの王に仕えた最優の騎士。
そうした数々の伝説を打ち立てた者が現世に現れ、使役し、戦わせる。それが聖杯戦争という儀式の本質だ。
しかし、英霊を召喚出来るのは、聖杯から魔力供給の恩恵に預かれる者は、その手の甲に刻まれた参加者の証、英霊を3度まで従わせることができる『令呪』を持つ者のみ。
「──素に銀と鉄」
巫女は吹くように口ずさむ。自身の魔力を魔法陣へ流し
「礎に石と契約の大公、降り立つ風には壁を四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、繰り返すつどに五度、ただ満たされる刻を破却する」
そして破裂したような風が部屋の中に舞い踊り、一息に蝋燭の火が掻き消える。そして暗闇の中で巫女の顔が苦痛に歪んだ。
まるで第三者が自分の臓器を面白おかしく弄くり回しているような不快感が巫女を襲う。だが、それでも巫女は止めない。
「──告げる。汝の身は我が下に、我が命運は汝の剣に、聖杯の寄るべに従い、この意この理に従うならば応えよ、誓いを此処に、我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」
苦痛の度合いが増していく──今度は臓器だけではなく人体の構造丸ごと弄られているような感覚だ、だがそれでも決して止まらない。
例え血反吐が出ようが、代償として四肢が捥げようが、親水は構わない。
全ては、日平和教の為に。
──魔法陣が赤色に、奇跡に満ちる。灯り失った部屋の中で、まるで英霊を呼び出す目印かのように光の柱が天井を突き抜ける。
あと少し──あと少しで儀式は達成する。親水はまるでトドメを刺すように、最後の詠唱を力強く叫んだ。
「──汝三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ!」
告げると同時に光の柱が一層強く輝き、遂には部屋全体を埋め尽くした。
溢れる光に目を閉じていた親水は、ゆっくりと瞼を開く。既に魔法陣から溢れる光は収まり、部屋にはまた暗闇が戻っていた。
しかし、その魔法陣の中央には、確かにいる。
こうして、英霊は呼ぶ声に応え、世界を超え、時を超え、地上に顕現した。
万民に夢想された架空が肉を持ち、かつて人でありながら人を超えた力を持った英霊が降り立つ。
その英霊が魔法陣が描れた和紙の上に膝をつき、自身のマスターへ頭を垂れていた。
外観は無窮の鍛錬により鍛えられた肉体の青年。赤く特徴的な甲冑と鎧兜を身に纏い、自身の象徴でもある柄の長い十文字槍を背負っている。
「貴方が、私のサーヴァントでしてね」
親水は問う。流石の親水でさえも、初めて眼にする英霊に、そうであるかと確かめるように。
──かくして、巫女は足を踏み入れた。
7騎のサーヴァントと、7人のマスターが殺し合う聖杯戦争へ。
そして、仕える英霊は誓いを立てる──その火蓋を切る言葉を持って。
「召喚の招きに従い参上した。サーヴァント『ランサー』。我が槍、我が勝利は主君の為!!」
という訳で、今回から各マスターのプロローグか初登場の前後で挟まります。
その第一弾は、日平和教の巫女『親水 京子』と、そのサーヴァントである『ランサー』です。
そこはかとなく、うっかり属性の誰かさんに似ているような……
『追伸』
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