Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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怪物を辞めた日

 常人外れの膂力を持て余しているバーサーカーに取って、触れた傍から潰れてしまう花を摘み取る行為は、正に針に糸を通すが如く繊細な作業だった。

 

「ゔぅ……」

 

 無駄に広い足幅では入るだけで花を踏み潰してしまい、触れようすれば、直ぐに折ってしまう。己のせいで散っていく花を見て、バーサーカーは何度も諦めようかとも思ってしまう。

 

 だが、その度に直葉とパディが自分の手を握って、花が折れない力加減を教えてくれた。そして数十分もしない内には、ようやく花を一本、折らずに摘み取れるようになるまで成長していた。

 

 そこからはトントン拍子に上手く行った。時間をかけて丁寧に、偶に失敗はするけども、少しずつ、本当に少しずつ色とりどりの花を摘んでいく。

 

 そして、昇っていた日がやや落ちかけ、燦々と輝いていた日が少し傾き始めた頃には。

 

「ごんな、いっばい……」

 

 バーサーカーの広い両腕の中には、摘み取った花の束で、胸一杯の小さな園が出来上がっていた。

 

「コレだけあれば充分でしょ!! 良かったね!!」

「スゴイ、イッパイ!! ハナバタケ、ミタイ!!」

 

 満開の花ビラの向こう側には、何階失敗しても花の摘み方を教えてくれた2人の嬉しそうな笑顔が覗く。それを見るとバーサーカーは自然と顔が緩んでしまう。

 

 ──―もし、この二人が居なかったら、こんなに沢山は摘めなかった。いや、そもそも一本も摘めなくて、無残に折れた花の山だけが残っていたに違いない。

 

 だから、この両手一杯の花束は、只の花束ではない。名も知らないのに、怪物である自分に優しくしてくれた、大事な二人からの初めてのプレゼントだ。

 

「ふだり、ともぉ、ありがとぉ」

 

 血も通わない心臓に仄かな温かさが過り、自然と感謝の言葉が零れ落ちてしまう。まるで自分が二人と同じ無邪気な子供に戻ったみたいに、凝り固まっていた筈の表情が解きほぐされるようだ。

 

 だが、ふと灯ったその温もりや解れた表情も、この先を想えば直ぐに消えてしまう。

 

「これで、マスター、喜んで、くれる、がな?」

 

 埋める花束の中で、目を伏せてバーサーカーは考えてしまう。

 

 バーサーカーは言うまでも無く怪物だ。それは過去の悪行が証明している──―故に、誰かを恐怖に落とし込む事はあれど、誰かを喜ばせる経験など一度としてない。

 

 そんな怪物からのプレゼントを、果たしてマスターは喜んでくれるのだろうか。そう疑問に思えば思う程に、己が犯した過去の悪行が足を引っ張り、この無駄に大きい巨体がドンドンと縮こまってしまう。

 

 ──ーすると、直葉とパティが、バーサーカーと同じように花束へ顔を埋める。そして身体を目一杯に広げて、二人がかりで、ぐるりとバーサーカーの巨体を抱きしめた。

 

「大丈夫だって、だって一杯頑張っだから、喜んでもらえるよ!!」

「ウン。キット、ダイジョブ!」

 

 色とりどりに摘んだ花の向こうから、2人の純粋に澄んだ眼差しが差し込む。それが余りにも眩しすぎて、バーサーカーは耐え切れずに目を逸らしてしまう。

 

 2人は大丈夫だと言ってくれる。それが嘘じゃないと思いたいし、信じたいとバーサーカーは思っている──ーだが、それでも。

 

「でもぉ……おれ、かい、ぶつ」

 

 バーサーカーは、怪物だ。

 

 今までに何人もの人間を奪い、殺し、死ぬその時までそうやって生きて来た──ーそして、その大半は、丁度二人のような無邪気で、幼い子供達だった。

 

「みんな、にぃ、きらわれる、かい、ぶつ、だからぁ」

 

 そもそも、本来ならバーサーカーは二人に出会うべきじゃなかった。情にほだされてしまったとしても、冷たく突き放すべきだったのだ。

 

 誰からも嫌われる怪物が、一度でも誰かと繋がる幸せを覚えてしまったが最後、待っているのは己が過去に犯した罪だ。

 

 バーサーカーが犯した罪は決して許される物では無い。心を得たからこそ、怪物に成り果ててしまった己の過去が、死ねと刃を突き立てて来る。

 

「怪物なんかじゃないよ」

 

 でも──ーバーサーカーの過去を何も知らない筈の直葉は、直ぐに否定してくれた。

 

「じゃあ……なにぃ?」

 

 しかし、だとすればバーサーカーは何だ? 怪物で無ければ何になるという。

 

 心を知ってしまったからには怪物()にもなれない。かと言って己が犯した罪故に英雄()にもなれない。だとすれば、バーサーカーの手には一体何が残るというのか。

 

 その答えを、目の前の少女は知っていた。

 

「友達だよ」

「とも、だちぃ?」

 

 ──―ともだち。知らないと言う事では無い。ただ架空の存在のように、その概念は知っていても、ハッキリと理解する事が出来ないだけだ。

 

 何故ならば、それこそがバーサーカーから最も遠い存在だからだ。誰かに寄り添われる事も、寄り添う事も無かったからこそ、最も程遠い物であった。

 

「トモダチ、ダヨ」

 

 それなのに、どうしてもう一人の少女──ーパディも、友達だと言ってくれる。

 

 バーサーカーの人生には、何処までも孤独が立ち込めている。薄暗く果てしない世界には、誰もが持っているような人として大事な何かは無く、醜い憎悪と怪物としての畏怖のみが渦巻いていた。

 

 それが当たり前──ー初めて子供の命を奪った時、それこそが己に課せられた定めだと、バーサーカーは悟っていた。いや、悟ったフリをしなければ、心が壊れてしまっていた。

 

 誰かと手を繋ごうとしても、この手は誰かの骨を壊してしまう。誰かと話そうとしても、帰って来るのは恐怖から来る罵りと命乞い。

 

 だからこそ、怪物()として鉄の仮面を被り、孤独に生きる事で、あの薄暗い世界で一人生きていく事が出来た。

 

 それなのに、どうして今更──ー怪物になった後になって今更。

 

「ワタシト、スグハ、イッショ。ヒトリ、ジャナイ」

 

 友達だと、独りじゃないよと、2人は語りかけてくれるのか。

 

 2人に抱きしめられる腕の中で、バーサーカーはその疑問の答えを見出すのに、そう時間は要らなかった。

 

 ──ー確かに、その生涯は薄暗い闇に包まれていた。光も差さない地下の奥底で、寄り添う者は己が殺した骸だけの日々こそが普通だった。

 

 だが、今はどうだろうか。

 

 此処はもう自分の居た世界じゃない──ー降り注ぐ太陽の日差しは明るく、鮮やかな色彩が爛漫んに咲き乱れている。そして、誰からも愛されることが無かった自分、友達だと抱きしめてくれる少女が2人も居る。

 

 確かにバーサーカーが怪物である事も、それに相応しい所業をしてきた事は決して変わらない。それは人理によって記録された不変の事実だ。

 

 しかし、今は違う。二人の少女がそう教えてくれた。

 

 今のバーサーカーは怪物でも何でもない。

 

「あり、がとぉ!」

 

 二人の友達だ。

 

 バーサーカーは今一度、自分の腕に抱えたままの花束をギュッと抱きしめる──ー怪物で亡くなった今の自分には、もう躊躇は無い。

 

 本当は未だ怖い所もある。人に何かを渡すのは初めてだし、そういう時に相手がどういう反応をするのかも分からない。それでも、2人から受け取ったこの優しさを、今度は自分の大事な人に伝えたい。

 

 それに、だ。

 

 遠い昔に捨て去った『──────』の名前を呼んでくれたマスターだったら、この気持ちを受け取ってくれるに違いない。バーサーカーはそう信じている。

 

 

 

 ──ーバーサーカーがそう望んだからだろうか。はたまた、それは必然だったのだろうか。

 

 

 

 その無垢な願いは、バーサーカーの思わぬ形で叶えられた。

 

 

 

 

「探したぞ……バァァサァァカァァァァァァァ!!」

 

 

 

 平穏溢れる夕暮れの花畑に、怨嗟の慟哭が立ち込める。




遅れてしまい申し訳ありません!!単純に筆が乗りませんでした……

それはさりとて、相変わらず子供組(?)はいつ見ても癒されますね……コレがずっと続けばいいのに。

『追伸』
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