Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
遡って、数時間前───榊は或る夢を見ていた。
───そこは何処かの山道。林を切り取って開拓された、自然の中で作られた抜け道。さも誰にも見つからないようにと作られた秘密の場所だった。
そして、今は四方八方にぶち撒けられた血と、積み重なった騎士達の死体で溢れる、杜撰な殺人現場となっている。
「き、貴様!?」
唯一の生き残りである、転んだ馬車籠に隠れていた老人が、額に汗を滲ませながら目を白黒させる。それに対して獣の騎士は、その大層豪華な身なりを見て、納得したように顎を擦った。
「オメェが大将か? 良かったぜ、引っ込んでいてくれてよ。お陰で、間違えて殺さなくて済んだわ」
──―やっぱり、あのクソ魔術師の言う通りだな。記憶の中で、あの厭味ったらしいニヒルな優面が浮かぶ。だが、頭を振って想像を掻き消すと、情けなく腰を抜かしている老人の前で、その面を確認す為に膝を曲げる。
「さぁて、俺達に付いて来てもらおうか、裸んぼの王様よぉ」
屈んで見えた老人の顔をジックリと観察すると、獣の騎士は途端にしたり顔になり、その首根っこを乱暴に掴んで引き摺る。
──―コイツには生きてもらわなければ困る。なにせ、それは獣の騎士が、彼の王の騎士として返り咲くには、これ以上の恰好が付く功績がない。
「は、離せ! この騎士の成り損ないが! 殺す事しか知らぬケダモノ風情が!!」
「獣? そいつは良いな」
騎士達から流れた血で出来た巨大な水溜まりの中で、構わず老人を地面に引き摺って行く。そして、ギャアギャアとしゃがれ声で浴びせられる罵倒に、獣の騎士は何やら思いついたように、ふと足を止めて笑い出した。
「──の騎士なんてよりよっぽど良い。気に入ったぜ」
獣、か──―予言だか何だかでスッカリ広まっちまった名前より、コッチの方が性に合っている。
他の騎士共のように清廉潔白、博愛の徒なんかに成れる筈も無いし、考えるだけでも反吐が出る。
───だが獣であれば、どうだ? 畜生に道理を説く馬鹿は居ないだろう。
獣に求められるのは、敵を屠る為の牙と野生───誰よりもその資格を持った獣の騎士としては、この身を表す打ってつけの言葉だ。
「さぁて……行こうか」
ピッタリな名前を閃いた獣の騎士は、また老人を引き摺りながら、歩き出して行く。散々聞こえていた罵声も、上機嫌になった今ではスッカリ耳に入らなくなった。
「今日は俺の───獣の騎士の誕生日だ」
これより先、『────』は獣の騎士と名乗る。その行く末は、地と鉄で塗れた獣道だと知って尚、その歩みを止める事は無かった。
一体、この夢は何だっていうんだ───不思議な夢の終わりを見た直後、目を覚ました榊はゆっくりと瞼を開く。
「……あぁ? 寝ちまってたのか」
セイバーと別れたあの後、昼寝をしようとベッドに寝転がってから、いつの間にか眠ってしまったらしい───テレビ台の上に飾るデジタル時計に視線を落とすと、『14:45』と、既に3時間後の時間が表示されている。
「結構寝たな……疲れてんのか、俺」
そう考えると、最近は巨大な怪物に襲われたり、頭のイカれた男女コンビに拉致られたりと、ロクでもない事ばかりが、榊の頭からポンポンと浮かんで来る。
そろそろ次は、闇落ちした親友剣士の襲撃イベントとか、発生しても可笑しくないかもしれないと思いつつ、榊はベッドの上から退くと、部屋の真ん中に立つ。
「──―誰か居ねぇのか?」
ふと、誰も居ない部屋の中で、榊は呼びかける───だが、自分以外は誰も住んでいないマンションの一室は、久し振りの閑静を取り戻している。
──―騒がしいと思ったら、コレかよ。今、此処には我が物顔で居据わるセイバーも、ハイテンションで絡んでくる直葉も居ない。騒がしい2人のせいで、一人暮らしで慣れた筈の孤独が蘇ってしまったようだ。
「セイバー……アイツ、帰って来るのか」
セイバーが読み捨てた漫画を床の上から手に取り、それを元の位置へと本棚に戻す───その時、ふと思い出す眠る前の出来事。
あんな姿は見た事は無かった───押し倒されたあの時、いつもは騒がしく獰猛なセイバーの顔が、まるで感情を失ったように見えた。
それだけ本気だったに違いない。セイバーの過去も、最後にはどのような最後を迎えたのかは知らないが、それはきっと今の榊と同じように、何かを貫こうとした末にだったのだろう。
だから、その先を知っていて、榊を止めようとするセイバーこそ、榊に残された唯一の救いになったのかも知れない。
「───でも、コレだけは譲れねぇんだ」
しかし、榊はその手を振り払った。そうしなければ、きっと自分の手で大事な物を護る事が出来ないと分かっていた。
もしかすると、セイバーはもう帰って来ないかも知れない───だが、それでも、榊はこの覚悟を無駄にするつもりはない。
「……ん?」
そこで榊は、帰ってこないという言葉に、ふと気が付いた。
「そうだ……直葉」
近場のコンビニまで徒歩5分、直葉が幾ら寄り道をしていようと、三時間も掛かる筈はないだろう。一度帰って来たのかと思い、軽く見渡してもその痕跡は見当たらない。
「もしかしてアイツ……何かに巻き込まれてるのか?」
その可能性が否定できない事を榊は昔から知っている。余計なトラブルに首を突っ込む直葉の事だ、また何かに巻き込まれていても可笑しくはない。
それに、だ───今や神宿市全体が、聖杯戦争という殺し合いの戦場になっている。此処には過去から蘇った英霊共や、
そして榊もまた、その聖杯戦争の渦中にいる。ならば、妹である直葉に危険が及ばない理由にはならない。事実、既に一度そうなっている。
「探しに行かねぇと……!!」
そう思うと、途端に心臓の奥底が、不穏な気配に騒めき始める。遂には居ても立ってもいられなくなって、クローゼットの中から急いで着替えを取り出す。
早く直葉を見つけないと───焦った手つきでクローゼットの中から手探りで服を探す。その反動で、ズボンのポケットから落ちた一枚の符が。榊を前に浮き上がった。
「あ?」
眼前でヒラヒラと浮かび上がる符に、間抜けな声を上げてしまう。だが、
それはつい三時間前の別れ際に、京子から手渡された符───確か、これと同じ符を直葉が渡していた筈だ。
符は元の持ち主の性格をトレースしたように、呆然とする榊を無視して、漂いながらも部屋の外へと向かっていく。ヒラヒラと空を浮く姿は、まるで誘っているかのようだ。
「付いて来いってか? ……へっ、あの巫女。腹黒いだけじゃねぇんだな」
眠る前の記憶を呼び起こし、京子の言葉を思い出す。
確かあの時、京子は符の事を『お礼』と言っていた。だとしたら、この状況こそがきっと、その『お礼』という奴なのだろう。
魔術を知らない榊にとって、その符どういう理屈で、何を示しているのかはサッパリ分からない────だが、それが直葉の元へ導いてくれるという核心だけは、何故か胸の中にあった。
──―だったら、行くしかない。着替え終わったその後に、榊はキュッと拳を握る。
この符が導く先に何があるのか、どんな愛艇が居るのか───例え、セイバーが居なかろうと、それは大した事はない。
何故ならば、榊が既に覚悟を決めている。兄として、妹に何かあれば、命を懸けて守り抜く、それだけの為に命を賭けれる。
「───行くか」
そして、符に導かれるままに、榊は部屋を飛び出した。
榊が見た物は一体誰の夢なのか──気が付いた人は、そっと心の奥にしまっていてください。
因みに、あの符の効果は『共鳴』です。片方の持ち主に危険があった場合、もう片方の符がその持ち主の所へと導く優れものです。
『追伸』
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