Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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大きな覚悟

 外に飛び出した符は、そのまま空まで舞い上った。そのまま風に吹かれでもするように、榊を何処かへと導びいていく。

 

 一体、どこへ向かっているんだ? 街角を走り抜ける最中で、そう疑問が浮かぶ。だが、人気の無い林の入り口まで来た時、榊は目的地がようやく分かった。

 

「どうして、花畑に何か来てんだよ……!!」

 

 小学生の遠足以来の記憶を思い出しつつ、更に林の奥へと進む符を見失わないよう、ロクに舗装されていない土道をひた走る。

 

 ───時に剥き出しの木の根に転び欠け、急な坂道に息を切らしつつも、遂には入り口となる洞窟の前にまで辿り着いた。

 

 その瞬間、役目を終えたかのように、符が一人でに燃え始める。最後には灰となって宙に散った。

 

「此処か……」

 

 洞窟の向こう側からは、妹の声が反響して聴こえる。間違いない、直葉は此処を超えた花畑の方に居る。

 

 それを確信した瞬間、榊は迷いなく洞窟の奥底へと足を踏み入れた。

 

 そして、洞窟を抜けた先で、榊が目にしたのは。

 

「ヴゥゥゥ……!!」

 

 忘れる筈も無い、路地裏で出会った牛の頭をした怪物───だが、様子が可笑しい。何やら必死に抗おうと苦しそうに呻いているようだ。

 

「バーサーカー! 大丈夫!?」

「ヘンジ、シテ!!!」

 

 その怪物へ必死に呼びかける直葉と、直葉の友達らしき初めて見る少女。

 

「バーサーカーよ!!」

 

 そして、ただらなぬ様子で怒声を放つ中年の男。その血走った眼は、明らかに常軌を逸している。

 

 何が起きているのか、全く見当も付かない───だが、その瞬間にやるべき事は決まった。相手が誰で、どういう状況なのか、そんな事は関係無い。

 

 ただ妹を泣かせるクソ野郎を、全力でぶん殴るだけだ。

 

「なぁアンタ」


 

「ゴボァ!?」

 

 中年男の無意識下からぶん殴った拳は、いっそ面白いくらいに、その顔面を完膚なきまでに減り込む。そして男は花畑の絨毯の中を激しく転げ回って行った。

 

「イッ! 皮剥けたか?」

 

 久し振りの人を殴った感触でヒリ付く手の甲を、ブルブルと振り払うと、榊は直葉の居る真横へと顔を向ける。

 

「直葉、大丈夫かぁ! つか、何に巻き込まれてるんだ!?」

「兄ちゃん!!」

「おわっ!?」

 

 説教をする暇もなく、直葉が花畑を掻き分けていくと、そのあまま抱きついて来た。余りの勢いに転んでしまいそうになるが、寸での所で何とか受け止めてみせる。

 

「ごわがっだよぉぉぉ!! なんがあの人がガァァって叫んでゴォォって炎出して!! それでそれで!!」

「はいはい、分かったから」

 

 擬音だらけの言葉では何が起きたのか分からないが、それでも直葉が片意地張って必死だった事は伝わる。

 

 ──―ったく、コイツは本当に何時もそうだ。何時も何かをやらかしては、誰かの為にトンデモナイ事をしでかしてみせる。

 

 だが、そんな妹のしりぬぐいをするのも、兄の役目。これぐらいの事はやってみせないと、榊の覚悟が廃ってしまう。

 

「……で」

 

 木に群がる昆虫のようにしがみ付く直葉を他所に、榊は向こう側へと視線を向ける。

 

 そこには直葉と同じ齢ぐらいの浅黒い肌をした少女───震える小さな身体で榊を見つめ、誰かも分からない榊に呆然と立ち尽くしている。

 

 だがそれよりも榊が目に付いたのは、ようやく何かの呪縛か解けたのか、膝を付くいて項垂れる怪物。

 

「そこの英霊」

 

 ──―この怪物が、何者なのかは知っている。自らが知らない獣の騎士の記憶だろうか、まるで天啓のように、その正体を榊に教え込む。

 

 つまりは、セイバーと同じ人外なる存在、バーサーカー(英霊)。聖杯戦争に呼び出した、紛れも無い怪物だ。

 

「なぁ、アンタ」

 

 そう認識すると、脳髄から突き刺すような危険信号が溢れ出してくる。身体と頭が、今すぐ逃げろと、本能的に動き出しそうになってしまうくらいだ。

 

 ──―そう、バーサーカーは敵だ。聖杯戦争に参加した誰かが、願いを叶える為に呼び出した常識外の兵器。だからこそ、マトモに相手をするべきではない。

 

 だが、それらの一切を奥歯の底で強く噛み潰し、喧しい警鐘を聞き流す中で、榊は震える唇で一つの確認をする。

 

「敵か。それとも味方か」

 

 その問い掛けに、バーサーカーは直ぐに応えようとはしなかった。一度口を噤んで、モゴモゴと言葉を練り込むと、ようやく意を決したように応える。

 

「すぐはも、ぱてぃも、ともだち」

 

 敵でも味方でもなく、友達と応えたバーサーカー。まさか第三の答えを返して来るとは夢にも思わなかった。お陰で、こらえ切れずに、ちょっとした笑いが込み上げる。

 

「そうか」

 

 だが榊からしてみれば、それだけ聞けたのならば上等だ。バーサーカーをキツク捉えていた視線を逸らす。

 

「直葉、ちょっと離れとけ」

「ちょ! 兄ちゃん!?」

 

 しがみ付く直葉を無理矢理引き剥がすと、バーサーカーの待つ方へ押し出す。そして自身は、その背中を躊躇いも無く晒してみせた。

 

「俺の妹は任せたぞ」

 

 ──―敵であるバーサーカーに大事な妹を任せるなんて、どれだけ馬鹿な事をしているのか、百も承知だ。

 

 だが、友達だと言った時に強く輝かせた瞳や、直葉が必死に呼びかけていたあの高恵子、例え愚かであっても榊は信じたい。

 

「……ゔん」

 

 バーサーカーが少し頼りない返事をすると、直葉ともう一人の少女を、榊なんかよりも遥かに太い両腕で抱え込んだ。

 

「ごめんぅ、いだく、なぃ?」

「大丈夫だよ! 寧ろ凄く安心する!」

「ウン、ワタシ、モ」

 

 その鋼のような巨体が二人の身体をスッポリと収める。これなら流れ弾に巻き込まれる事はないだろう。そうして、榊はようやく眼前へと意識を集中させる。

 

「ぎぃざまぁ!! ゼィバーのマズダァかぁぁぁ!!」

 

 ───花畑の海から浮かび上がるのは、怒り狂う醜い男の姿。

 

 鼻骨は歪んだ金具のようにへしゃげ、何本か抜け落ちた歯茎からは涎のようにダラダラと血が流れ落ちている。拳で潰された顔面はみるも無惨に血と変容で飾られていて、いよいよその醜悪さが際立っていた。

 

 だが、その目に宿る憎悪は未だ変わらない。地獄の底からでも響きそうな怨嗟を叫び、瞳孔が開き切った目で、榊を憎々しげに睨み付ける。

 

「うわっ! ゾンビかよお前は! 顔面グチャグチャの癖によ!!」

 

 だがそんな物は、喧嘩場での啖呵やメンチの切り合いも何度も経験している。吠えるだけの殺意なら、腹を括ってしまえば、簡単に受け止められる。

 

 その態度が余計に男の憎悪を掻き立てたらしい。ただでさえ醜く歪んだ顔を、憤怒で原型を留めない程に崩壊させる。

 

「許ざんぞぉ!! ぎざまごどぎが私をバカにしやがっでぇぇ! ぎざまが私よりも上な筈が無い!! 私はザー家の長男で聖杯に選ばれた魔術師で!! バーサーカーの!!」

「……つぅかさ。アンタ俺に相当恨みあるらしいけどよ」

 

 ツラツラと垂れ流す怨嗟と自己語りをツマラナイので即座にぶった斬り、折角なので疑問に思っていた事を聞いてみる。

 

「アンタに俺なんかしたか? 何だか知らねぇけど、八つ当たりで人の妹襲ってんじゃねぇぞ。この変質者(ロリコン)

 

 ───榊は忘れていた。一度だけ京子の書類の中で、写真越しに見ているにも関わらず、その顔を出来の悪い頭から、トンと忘れてしまっていた。

 

 それは無理も無い。今まで顔も合わせた事も無く、初めて出会った時は使い魔越しのダミ声のみで、獣の騎士でさえも、余りの矮小さに忘却していた存在。つまりは赤の他人のような男だ。

 

 だが中年男──―コスフィンからしてみれば、散々にプライドを踏み潰したにも拘らず、そして今しがた自分を歯牙にも掛けない存在と嘲笑った敵だ、

 

 その瞬間、榊は人の理性が弾け飛んだ音を、初めて聞いた気がする。そして次の瞬間には、この世の物とは思えない、怨嗟の絶叫が花畑の海を揺らした。

 

「魔術も知らぬグソガキガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 掌に急激に灯った炎が、榊に向かって豪速で弾け飛ぶ。




遂に榊本人の戦闘が始まりました。お相手は魔術師であるコスフィンです。

魔術側のチュートリアルとしては、上々の相手でしょうか?次回から本格的に始まりますので、お楽しみに。

『追伸』
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