Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
その炎の弾を避ける事が出来たのは最早、直感としか言いようが無かった。
「っ!?」
耳障りに響く怒声に混じって、首筋に騒めく悪寒が過る。反射的に首筋を右に振ってしまうと、バーナーで炙られたような熱量が、右頬を瞬間的に通り過ぎた。
遅れて、背後から爆発したような着弾音と熱量が押し寄せ、身体を焼き付けるような風の波が身体を打ち付けて来る。
「マジかよっ……どういうカラクリしてんだッ!!」
皮膚を焦がす熱を感じていた筈の感覚が冷えていく。もしアレがマトモに当たっていれば、頭が丸ごと松明みたいに燃えていたかと思うと、いよいよ氷漬けにされたかのように、身体が震えてしまう。
──―コレが魔術。ライターや火炎放射器のような道具も、格闘技や漫画のような分かりやすい予備動作も無く、魔力という未知の原理で行使される技。それを実感するのは、榊はこれが初めてだった。
「ヤベェ……」
思わず脚が竦み上がりそうになってしまう。武器も何もない身一つで未知の存在に立ち向かうと考えれば、情けなくも怖くてしょうがない。
「……スゥゥ……」
だがそういう時程、榊は深呼吸をして、思考に過ぎる不純物を切り離す。そして恐怖で縛られそうになる頭をどうにか動かしていく。
──―あの獣程では無いが、それなりに場数は踏んでいる。ヤンチャしていた頃に培った喧嘩の論理回路を思い返すと、まるで昔に戻ったかのように、身体から昂るような熱が沸き上がった。
「おいおい、マッチの火でも飛ばしたのか? 魔術師様なら、もっとスゲェモン出してみろや。ドサンピンがよぉ」
そうなると、最初に取るべき行動は余裕綽々を気取った挑発。顔を露骨にニヤつかせて、右手をいつでも来いと、舐めた手つきで動かす、至極舐め腐ったアピールだ。
──―魔術という色眼鏡さえ外してしまえば、要は只の飛び道具。そんなのは、無我夢中で自転車やマンホールを投げ付けて来る力自慢の馬鹿と変わらない。
そういうご自慢の何かを持っている奴はちょっと挑発してやれば、ホイホイと乗ってくれる。
「舐めるなぁぁぁぁぁぁぁ!!」
そして案の定、更に我を忘れて怒り狂う怒声を上げる男。その手には先程よりも大きく燃え盛る炎が形成されつつあった。
「今だっ!!」
その瞬間を榊は待っていた──ー避けようと距離を取る事はなく、寧ろ男に向かって地面を蹴り上げる。背高い花畑を割って、全速力で走り出す。
「そのガオをモヤジてやるワァァァァ!!」
一発目の小粒の物とは違い、業火とも呼べる激しい炎弾が、その両手から突き出す勢いのままに、対抗する榊の顔面へと猛進する。
「だろうな!!」
──―怒りに狂った奴程、分かりやすい攻略法は無い。そういう奴に限って、馬鹿の一つ覚えて、同じ技を連発する。
「オラァァァ!!」
故に、人を焼き殺すには充分過ぎる熱量を直肌で感じ取ろうとも、榊の速度は一向に劣らない。残った僅かな怯みも、気合で捻りだした叫びで掻き消した。
そして、鼻先が微かに触れようとした直前に、炎が榊の姿を見失う。だが、それを打ち放った男は見失っていない。
「なァ!?」
触れようとした寸前の土壇場で、榊は花畑の根を刈り取る勢いで滑り込み、撃ち放たれた豪火を、紙一重頭上で通り抜けていく。
傍から見れば、クソ度胸を超えて、狂気の荒業。しかし、迫る業火を物ともせずに見事やり遂げた榊は、男の懐まで確かに潜り込んでいた。
「貰ったぁ!!」
滑り込んだ勢いを殺さず利用して、地を這う脚を高く蹴り上げる。その軌道は、完全に男の顎に狙いを付けており、反応すらも出来ない完璧なタイミングだった。
「あだるがぁぁぁぁ!!」
しかし、直前になって、男を中心にして吹き荒れる突風が、周囲に咲く花を諸共に榊の身体を弾け飛ばした。
「うぉっ!?」
ハリケーンが如き荒風に吹かれ、マトモに抗える筈も無く、足元が宙に浮く程に突き飛ばされると、数mはあったであろう、隣の花畑の黒土へ強かに打ち付けられる。
「イッ……ガッ!!」
背中を満遍なくハンマーで叩きつけられたような強い衝撃に、臓器が一瞬だけ機能を止める。そして、悶え打つ間も無く、榊の眼には青い夏の空から、場違いにも降り注ぐ氷柱が映っていた。
「っ!?
首を振って落ちる氷柱を避けると、隣に咲き誇る青い花を貫通して、堅い黒土に深々と突き刺さる。だが、氷柱は一つでは無い。また空を見上げれば、今度は数本の氷柱が弓形の軌道を描いて、榊の元へと殺到していた。
「当たってたまるかぁぁぁ!!」
土と葉茎に塗れながらも横へ横へと身体を激しく回転させると、その跡を追うように、次々と氷柱が突き抜けていく。そして最後の一本が股下スレスレで掠めた所で、ようやく榊は踏み躙られた花畑から立ち上がった。
「何故当たらん!! 何故当たらんぅ!! 死ね!! 死ねぇ!! 死ねぇぇ!!」
風に飛ばさせる前に元居た花畑の方を見れば、男が地団駄を踏む……というよりは頭を振り乱して、イカれたように暴れ狂っている。だが寧ろ、此方の方が地団駄を踏みたい気分だ。
「ゲホッゲホッ!! ……どうすっかなぁ」
呼吸がまだ戻らない中、榊はどうにかまた別の手段を探そうとする。
──―遠距離からの一度当たれば即終わりの炎弾に氷柱、それを潜り抜けてもフルオートで荒風に遮られてしまう。圧倒的射程距離の差と絶対障壁は、喧嘩慣れした不良独りでは、乗り越える事など出来ない。
だが諦めるつもりだけは毛頭無い。
「兄ちゃん頑張れぇぇぇ!!」
背中の向こう側から、バーサーカーの広い懐に収まる直葉が、小さな口を必死に押し広げて叫んでいる。
たかが声援一つで、圧倒的不利な状況を覆せはしないのは分かっている。それでも何故自分が戦い命を張るのか、その理由を改めて思い知らせるくらいには役に立つ。
「今更待ったは掛けられねぇよな、俺」
──―もう二度と失わない為。この手で壊した物が取り戻せなくても、今ある大事な存在を護る為に戦う。
ならば、退路などある筈も無い。もう一度あのドン底で蹲るくらいなら、それこそ自分で首を掻き切る。そう覚悟を決めたからこそ、榊は土塗れになった身体を起こして立ち上がる。
「よっ……フンッ!!」
とは言え、
剣というには些か異なるが、代わりの長物としては上等な類だろう。杭部分を軽く持ち直すと、榊は棒立ちのままに瞼を閉じる。
──―悔しいが、今のままの俺じゃあ
だが──ー獣の騎士ならば。
「アイツなら──ー」
あの自分と同じ姿をした怪物で有れば、これくらいの雑魚など、鼻歌交じりに軽く一蹴してみせるだろう。
「思い出せ……」
──―ならば、思い出せ。そして、成ってみせろ。
「おい、そこの頭イカれた魔術師」
──―そうだ、アイツが現れる時は、いつもこうだ。人を心底舐めたような態度で、敵なんて誰も居ないかのように、ヘラヘラと笑っていやがる。それが何故なのか、今ならばハッキリと分かる。
「俺から眼ぇ離すなんて、随分と舐め腐ってんじゃねぇか? あぁ」
「クソガキィィ!!」
狂った殺意に濁り汚れた瞳が二度、榊を明確に捉える。だが、獣の騎士を前にした時と比べれば、まるでそよ風のような心地だ。
──―そりゃそうだ。どんなに一丁前の殺意を向けられようとも、
「テメェの事なんざ何も知らねぇがな、俺の大事なモンに手を出すって言うなら」
榊自身は、その絶対的な自信を裏付ける天賦の才も獣性も持ち合わせていない。何処まで行っても、只の喧嘩慣れした不良上がりだ。
しかし、これだけは言える。
この魂だけは──ー何もかもが壊れようとも、真の意味で折れる事が無かった、この不屈の精神だけは、あの獣の騎士にも劣らない。それだけがあれば、榊は眼前に映る敵に対して、持ち構えた杭の切っ先を、迷わずに突き付ける事が出来る。
「コイツでその腐った頭をカチ割ってやるよ! テメェ如きに俺を殺せると思うな!! このドサンピンの雑魚がよぉ!!」
「死ねぇぇぇぇぇぇ!!」
男の右掌からは炎球が、左掌からは氷柱が、さながら打ちっぱなしの機関銃の如く撃ち出され、熱凍入り混じった波濤が、視界一杯に押し詰めるように迫り来る。
実際、喧嘩慣れしていない魔術師と喧嘩慣れしている一般人って、どっちが強いんですかね……?
Fate/strange Fakeを最後まで読めばわかりますかね?
『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。
https://x.com/8f8qdLIQID34426
作品の高評価や感想は何時でも待っています!!
それとですが、夏コミ申請しました。
内容としては本作の纏め本を刷るする予定です。
初サークル参加(ソロ)で夏コミに申請するとか、私は馬鹿なのか……?
Fate/Red Knights について、聞きたい裏話はありますか?
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話の裏設定・心情
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ストーリー展開の創作事情
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