Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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魔術師から見た一般人の姿

コスフィンは怒りに狂っていた頭から、熱が冷めていくのを覚えた。

 

今、殺そうとしている相手は、愚かにも魔術師である自分を舐め腐った、何処にでもいる有象無象の一般人。コスフィンが事前に調べた限りでは、その通りの筈だった。

 

―――だが、どうしてだ。どうして己が押されている。

 

「―――行くぞ」

 

一般人()が、魔術で打ち出した炎と氷の弾幕に向かって、馬鹿正直にも真正面から迎え撃つ。

 

―――ザー家に属する魔術師は皆、<四元素魔術>の使い手である。魔術における基礎属性の『火』、『水』、『風』、『土』を現象として扱う事を追い求めた、極めて単純な魔術だ。

 

屑鉄から黄金を生み出す錬金術のような華やかさも、常識外の存在を観測する去就魔術のような目新しさも無い。

 

だが、それ故に純粋な基礎を極めた魔術は、例え使い手が凡庸でも強固な術式となる。

 

故に、ザー家の長男であるコスフィンが生み出す火の魔術(炎球)は、鉄ですら容易く融かす熱を持っている。

 

故に、ザー家の家督に相応しいコスフィンが打ち出す水の魔術(氷柱)は、弾丸よりも遥かに鋭利に貫く。

 

故に、それらを無尽蔵に打ち出す事が出来るコスフィンは、たかが魔術も覚えていない一般人を、為すがままに蹂躙できる筈だった。

 

 

 

だが、目の前の一般人は、それら一切を否定した。

 

 

 

「当たらねぇ」

 

火の魔術(炎球)は、その身に当たらなければ、どれだけの熱を持っていても融かしはしない。

 

「当たらねぇよ!」

 

水の魔術(氷柱)は、振るう杭に砕かれるのなら、鋭利に尖っていようとも刺さりはしない。

 

「こんなモン当たるかよぉ!!」

 

そして、それらを無尽蔵に撃ち出そうとも、榊が止まらなければ、その意味を為さない。

 

「ヒッ……!!」

 

勝手に喉から、悲鳴にも近い引き攣った声が出てしまう。

 

無論、コスフィンの魔術が、榊に全く効かない訳では無い。躱し切れていない炎球は、その肌を掠めて焦がし、砕き損ねた氷柱は確実に肉体を抉っている。

 

 

それでも、榊の脚は留まらない。

 

 

今もなお晒される無数の魔術に、どれだけ焼かれ、抉られようとも、一切の衰えも見せない速度。傷つき血を流しても余裕だと言うように笑い続ける表情。

 

魔術師の界隈に長く浸れば、自ずとイかれた人間を見る羽目になる。中には人としての倫理を踏み越えるような所業を見聞きする事も珍しくも無い。

 

だが、それでも魔術師には恐れる事はある。

 

それは未知への恐怖。森羅万象の叡智(根源)を追い求める魔術師に取って、自らが知らぬ真実は、何よりも恐れるべきものだ。

 

そして今、目の前にあるのは、コスフィンーーーいや、魔術師全てに取って、誰にも理解できない事象。

 

ロクな武器、力も持たぬタダの人間如きが、魔術師を追い詰めているという現実。

 

それはコスフィンに未知の恐怖を味合わせるのには、充分過ぎる程だった。

 

「グルナァァ!!」

 

迫り来る恐怖に負け、自分の周囲一帯に張り巡らせていた風の魔術(突風の障壁)を、榊一人に目掛けて全力で押し込む。

 

―――嵐にも負けず劣らぬ風の魔術(突風の障壁)であれば、先程と同様に、どれだけ迫られようとも跳ね飛ばせる。コスフィンは頭の片隅で、今度こそ確たる自信を持っていた。

 

「邪魔だな」

 

だがそれすらも、榊は否定する。走り出したまま、持っていた木の杭を逆手に持ち変えると、背面限界まで腕を引き絞り、そして一気に投げ飛ばす。

 

―――魔術で生み出した突風の障壁は、確かに堅牢だ。どれだけ肉体を極めようと、荒れ狂う竜巻を押し返す超人など居ないように、その姿形が無いからこそ、単純な力だけでは踏み入る事すら出来ない。

 

だが、斬り裂く事なら出来る。真正面から極一点に集中するのであれば、それが例え木の杭であったとしても、風の魔術(突風の障壁)を突き破り、コスフィンの元にまで届いた。

 

「ブァ!!」

 

それは間違いなく、幸運と呼ぶ他なかった。

 

榊が投げるモーションを見せた瞬間、風の魔術(突風の障壁)を展開しているにも関わらず、身体が竦んでしまっていた。だがそのお陰で、障壁を突き破って迫り来る木の杭を、頭一つ分でコスフィンは避ける事が出来た。

 

しかし、それは同時に、展開していた風の魔術(突風の障壁)を解除する事になる。無意識下で保っていた術式が恐怖に掻き乱され、自分を護っていた障壁は、瞬く間に空へと霧散してしまう。

 

「―――ちぃ」

 

頭を支配する感情が憤怒から恐怖にすり替わっていくーーー最早、直ぐそこまで近づいて来ている榊から、今の自分を護る魔術は無い。

 

たかが魔術を知らないクソガキ1人を相手に、火の魔術(炎球)水の魔術(氷柱)風の魔術(突風の障壁)も、その全てを破られてしまう。

 

―――何故だ、何故こうも通じない!私は魔術師だ!!距離が詰まる度に遅くなっていく世界の中、その時になって、目の前にまで迫る存在を、只の一般人としてではなく、自分にまで至る刃だと認識した。

 

そこでコスフィンはようやく思い知る。己が犯した大きな間違いに。

 

「ちぃ、ちぃ!ちぃ!!」

 

その眼の奥に、何かが居る。

 

それはハッキリとは見えず、曖昧に揺れ動く影のような存在だ。

 

だが、それを見た時に、僅かに残っていた理性の欠片が、悲鳴を上げる。

 

 

『―――見たな?』

 

影が、己を捉える。

 

 

アレは、この世で最も相手にしてはならない存在だと。バーサーカーと同じ、人の世に産まれてはならない禁忌。

 

それがしかと、コスフィンを捉えた。

 

 

 

瞬時、恐怖が憤怒を覆い尽くした。

 

 

 

「ぢがづなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 

 

 

そして無我夢中に放ったのは、四大元素の最後の土属性の魔術。根付く花諸共に、足元の黒土が遮るように盛り上がり、寸前にまで近づいていた怪物()を分断する。

 

魔力で表面を上書きした土の魔術(土壁)は、鉄にも劣らぬ堅さを秘める。その魔術を最も得意としているコスフィンで有れば、凡そ人の身では破ることの出来ない絶対硬度となるだろう。

 

―――だが、コスフィンは、護る為に展開した土の魔術(土壁)を目前に、ただ絶望していた。

 

 

「だからどうした」

 

 

聞こえる声に導かれて頭上を見上げる。そこには自分よりも高く立ち塞がる土の魔術(土壁)。そして、その頂点には、ニヤケ面を崩さない奴が居た。

 

「テメェの魔術で、俺が止まると思ってんのか?」

 

―――咄嗟に編み出したとは言え、土の魔術(土壁)は、その展開速度、そして術式効果は、今まで何度も繰り返した中で、渾身の出来に違いない。

 

だが怪物()は、それすらも乗り越えてしまう。突然目の前に現れたにも関わらず、止まる処か、寧ろ走り出した勢いをそのままに、己よりも遥かに高い障壁を昇り切っていた。

 

「こんなんじゃ俺は止まらねぇ、止まる筈がねぇ」

 

トンッと軽く、榊が土の魔術(土壁)の縁から足を離す。そして、頭上から迫り来ている、振り上げられた木刀を、コスフィンはただ見つめる他無かった。

 

―――最早、この男の前では火も水も風も土の魔術も、そもそもあらゆる常識すらも通用しない。

 

どれだけ足掻こうとも、人の身では辿り着けない領域外の怪物に、最初から勝てる筈も無い。

 

獣の騎士()を、舐めんじゃねぇぞ」

 

それを頭蓋に叩きつけられた木刀の一撃で、脳髄の底までコスフィンは思い知らされた。


その一撃は、男の意識を根本から刈り取る程の威力だったらしい。

 

「ッカ……」

 

足元の土に半ば減り込んだ男の瞳が白色に剝く。そしてピクリとも身体が動かなくなった。

 

―――もしかしてやっちまったか?不健康に禿げた男の髪を頭皮ごと掴み上げてみれば、僅かに呼吸の吐息が感じられる。どうやら単に失神しただけのようだ。

 

だったら、問題ない。榊はそのだらしない失神面に、一切の容赦なく拳を突っ込んだ。

 

「ブベッ!!」

「おいテメェ」

「ヒィィィィ!?」

 

その一撃で、白目を剥いていた眼が黒い光を取り戻す。すると、陥没した鼻からドバドバと血を垂れ流しながら、榊の顔を見るなり、半狂乱に悲鳴を叫び始めた。

 

「や!やめろぉ!!わ、私はザー家の長男で魔術師のぉ!!」

「黙れや」

 

その身体は眼に見えて分かるくらいに震えていて、股間は醜い程にビショビショに濡れている。それでも講釈に垂れようとする男に、榊は自分の瞳を近づけて、黙らせる。

 

「今度俺の大事なモンに手を出してみろ。そん時はコレぐらいじゃ済まさねぇ。文字通りテメェの芯まで粉々に砕いてやる」

 

―――この瞳の先には、間違いなく獣の騎士(アイツ)が居る。それが例え、怪物の威を借る物だとしても充分過ぎる物だったらしい。男の口が途端に塞がり、人形のように何度もカクカクと上下に動く。

 

その様を了承の合図だと受け取ると、榊は掴み上げていた髪から手を離し、むくりと立ち上がる。

 

「そうかそうか、分かったってんなら、それで良い」

 

―――分かったのなら、榊としては、別にどうだって良い。此処まで圧倒的な差を見せつけてやれば、普通ならば二度と敵対しようとも思わないだろう。

 

「つぅ事だ。それじゃあ」

 

―――だから、此処からは一不良上がり()としての番。大事な物()に手を出そうとしたクソ野郎の顔面に、爪先を合わせて、右脚を大きく振りかぶる。

 

「へあっ?」

「もう一度、ぶっ飛んどけ」

 

そして、間抜け面を全力で蹴り飛ばした瞬間、男はいっそ面白いくらいにぶっ飛んだ。

 




結果:一般人、というより榊の方がヤバかった。

榊さんってこんな強かったっけ?自分で書いていて信じられないです。

『追伸』
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