Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

77 / 89
二人と一人の分かれ道

蹴り飛ばした男が、数バウンドの後に花畑の海へと沈んだのを見届けた時、背面で背繰り挙がっていた土の壁が、脈絡もなく崩壊し始めた。

 

完全に崩れた土壁の向こう側ーーー広がる黄色い花畑の中で、大の巨人に抱かれたままに手を振るのは。

 

「兄ちゃぁーん!!」

 

榊が一番に護りたかった妹だ。

 

「直葉ぁ!お前、無事かぁ!!」

 

掠り傷だらけの顔から血を拭うと、手を振り返して榊も応える。そして、その手の指でグッドポーズを取って余裕まで見せてみせる。

 

「アイツをぶっ飛ばしておいたぞ。俺の妹に手を出した罰だ」

「兄ちゃん!!」

 

バーサーカーの腕の中から、直葉がスッポリとすり抜ける。そのまま、花畑の中を全力疾走した後、榊の胸元へ何時ものようにダイブしてきた。

 

「うわっ、っと!」

「兄ちゃんチョーサイコー!!可愛い妹の為に平然と人を殴り飛ばすヤバさにシビレル憧れるぅ!!」

「ハッハッハッ!褒めても何も出ねぇぞ。いや待て、それ本当に褒めてんのか?一回俺の目を見て言ってみろ」

 

何か罵倒された気もするが、問い詰めようとしても、この笑顔を前にしては、榊は何か言える筈もない。大人しく諦めて、直葉が気の済むまで抱かれてやる。

 

そうして少しの間、為すがままに抱かれていると、ドスドスと大柄な足音と共に、少女の声が耳に入った。

 

「スグ、ハ」

 

直葉から目を離し、少しだけ前を向く。すると、バーサーカーが巨体に似合わない、やや小さめの歩幅で歩いて来ている。

 

「ぱでぃ、はい」

「アリ、ガトウ」

 

そして、浅黒い肌の少女が抱かれていたその腕の中から、優しく地面へと解放される。

 

「パディちゃん!大丈夫だった?」

「ウン、ダイ、ジョブ」

 

直葉がその少女を見るや否や、嬉し気にも声を弾ませる。どうやら直葉の友達らしい。

 

「その……パディ?だっけか」

「ッ……ハイ……」

 

榊が迷い気に言葉を揺らしながらも声を掛けると、パディの少し怯えていた瞳が更に曇る。更には、不安から胸元で固く握りしめる両掌は、微かな震えを見せる始末だ。

 

―――何かやってしまったんだろうか。今しがた人をぶん殴ったばかりだし、そりゃ怖がられるだろうなと思いつつ、その少女をボォっと見つめる。

 

その時、目に入った存在に、榊は一瞬だけ喉を締め付けられた。

 

「……スゥ」

 

少しだけ呼吸を整える。少しでも動揺してしまっていた事が、誰にもバレないように、何も無かったかのように堅くなる表情筋を緩め、真っ直ぐに少女と目を合わせると。

 

「ありがとうな。こんなアホな妹の友達になってくれて」

 

この軽いだけの頭を深々と下げた。

 

「エッ……?」

 

どうしてかと、パディの口から漏れ出るような驚きが零れる。だが、これは至極当たり前のことだ。

 

兄として、妹の友達を無下になど出来る筈も無い。堂々と当たり前の態度で接すれば良い。

 

例え、その手の甲に、聖杯戦争への参加権(三画の令呪)が、刻まれていたとしても、その事には決して変わりない。

 

「コイツの兄貴として、俺はアンタを傷つけねぇ。それだけは約束する」

 

自分にも言い聞かせるように、一言も零す事無くハッキリと告げる。パディという少女が何者であろうと、妹の友達だと言うのであれば、決して傷つけるような真似はしない。

 

そうでなければ、意味が無い。直葉を護る為に、その周りに居る友達を傷つけていては、命を賭けてまでと決めた覚悟が嘘になってしまう。

 

「……アリ、ガトウ」

 

それが少しでも伝わってくれたのか、パディの身体から微かな震えが消えていく。榊はようやく心の底から安心できたような気がした。

 

「アッ!?兄ちゃん凄い怪我してるぅ!?」

 

しかし、安堵に身体を緩めたのもつかの間、今更ながらに直葉が、傷だらけになった榊の身体に気が付き、その途端に耳元にギャアギャアと騒ぎ始めた。

 

「ウルセェ!てか傷に触るんじゃねぇ!!イテェだろ!!」

「病院に行かなきゃ!!どっちに行けば良いの?身体?頭?とにかく両方とも行かなきゃ!!」

「頭は必要ねぇだろ!?頭はぁ!!」

 

直葉が慌てふためいて、ブンブンと肩を揺さぶって来る。心配しているのは分かるが、その度に傷口が開いて寧ろ悪化している気さえする。

 

「イテェから良い加減離れろっ!!フンッ!!」

「フギャ!?」

 

傷口を開かせる原因(直葉)を、榊は無理矢理自分の身体から引き剥がす。と言うか、そこまで酷い傷じゃない。現役((不良)時代に受けたリンチに比べれば、遥かにマシだろう。

 

すると、ようやっと離れた直葉は、何やら文句ありげに唇を噛んで、不満そうに睨んできた。

 

「兄ちゃんのイケずぅ!レディなんだからもうちょっと優しくしてよ!!」

「女扱いされたかったらタッパがデカくなってから言え、ほらさっさと帰るぞ」

「うん!!」

 

そんな不満げに曇っていた直葉の顔も、一度手を握ってやれば、何時も通りの馬鹿みたいな明るさを取り戻す。

 

「あっ、兄ちゃん!ちょっと待って!!」

 

だが、突然何かを思いついたように、握っていた掌は、直葉の方からパッと離されてしまう。そして、その手はもう一度榊を握るのではなく、今度はパディの掌を握った。

 

「パディちゃんも一緒に帰ろ?」

「エッ?」

 

そう言われるとは思ってもみなかったようで、パディが分かりやすく動揺に目を見開く。だが、直葉は全く気にした様子も無く、嬉々として、掴んだ手を引っ張ろうとしていた。

 

「大丈夫だって!ウチの兄ちゃんは優しいんだから!!」

「デモ……」

「ハイッ!兄ちゃんにパス!!」

 

それでも渋ろうとするパディに対し、直葉は引っ張っていた手を強引に、榊の掌へと握らせる。

 

「アノ……エトォ……」

 

突然に握らされた掌に、パディはワタワタと口をもたつかせている。友達の兄とは言え、いきなり見知らぬ人間と手を繋ごうとするのは気が引けるだろう。

 

だがまぁーーーこれが直葉なりの優しさだと言うのなら、乗ってやるしかない。榊は自分を掴む小さな手を、逆に握り返す。

 

「まぁ、そう言う事だ。大人しく此処は甘えとけ」

「……ウン」

 

初めは掌の中で逃げようとしていた小さな手が、やがて観念したかのように、力が抜ける。

 

「うんうん!やっぱり兄ちゃんは優しいなぁ。それじゃあ……」

 

それを満足げに頷きながら直葉は見届けると、今度はもう一人の友達の元へと走り出した。

 

「バーサーカーも一緒に帰ろぉ!!」

 

直葉がバーサーカーの手を腕一杯にしがみ付く。そして屈託のない煌めくような笑顔で誘う。

 

「ゔぁぁ……」

 

それに応えようとしたのだろうか、バーサーカーの太い腕が半ば持ち上げる。だが、一度だけ後ろを振り向いた後に、それは直ぐに下がってしまう。

 

「ぼぐはぁ、だいじょうぶ」

 

そして顔に浮かんだのは、おどろおどろしい巨体には似つかわしくない、和らげのある優しい微笑み。その笑顔の裏に何があるのか、榊は敢えて言葉にしない。

 

―――振り向いた方向には、先程自分が吹っ飛ばした男が倒れている花畑がある。聖杯戦争における、マスターとサーヴァントという関係がどういう物かは分からないが、バーサーカーに取っては、少なくとも見捨てられない存在なのだろう。

 

「行くぞ、直葉」

「えぇ、でもぉ!!」

「本人がそう言ってんだから、無理に連れて行こうとすんじゃねぇよ」

「うぅ……」

 

その意味を知らない直葉を、強引ながらにも榊は無理矢理に納得させる。すると、本人から断られた手前もあるのか、意外にも直ぐ引き下がった。

 

「そんじゃ、帰るぞ」

 

妹の友達(パディ)を握っていない逆の手で、直葉の手を握る。そして、バーサーカーから真反対に離れるように、潜って来たトンネルへと畦道を歩き出した。

 

「じゃあねバーサーカー!!また会おうね!!」

「マタ、ネ。バーサーカー」

 

その間、両手に繋いだ直葉とパディが、後ろを振り返って何度も手を振るが、榊は一度たりとも後ろを振り向かない。

 

パディとは違い、バーサーカーは確実に敵に違いないーーーそれが本人の意思なのかは兎も角、マスターがあの男で、それに付き従うと言うのなら、どちらにしろ同じだろう。

 

「……バーサーカー」

 

しかし、トンネルを潜る直前に、榊は一度だけ振り返る。

 

―――互いの事を考えれば、此処で何もなかったと終わった方が良い。そうすれば、何時か戦わなければならい時に、変な情が湧かないで済む。だが、榊からしてみれば、そんなのはどうでも良い。

 

直葉の友達として、大事な妹を護ってくれた恩に比べれば、そんな些細な事はすっ飛んでしまう。

 

「またいつでも直葉に会いに来い。そん時は茶ぐらい出してやるからよ」

 

短い鼻息交じりにそう言ってやると、白い花畑の向こう側で、遠くに見えるバーサーカーの顔から、何処か諦め交じりだった柔和な笑みが綻んだような気がした。




この時、あの手を取っていたら、怪物の運命が変わっていたのかーーーそれが分かっていても、きっと逃れる事が出来ない現実がある事でしょう。

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

作品の高評価や感想は何時でも待っています!!

Fate/Red Knights について、聞きたい裏話はありますか?

  • 各キャラの制作秘話・設定
  • 話の裏設定・心情
  • ストーリー展開の創作事情
  • その他
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。