Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
蹴り飛ばした男が、数バウンドの後に花畑の海へと沈んだのを見届けた時、背面で背繰り挙がっていた土の壁が、脈絡もなく崩壊し始めた。
完全に崩れた土壁の向こう側ーーー広がる黄色い花畑の中で、大の巨人に抱かれたままに手を振るのは。
「兄ちゃぁーん!!」
榊が一番に護りたかった妹だ。
「直葉ぁ!お前、無事かぁ!!」
掠り傷だらけの顔から血を拭うと、手を振り返して榊も応える。そして、その手の指でグッドポーズを取って余裕まで見せてみせる。
「アイツをぶっ飛ばしておいたぞ。俺の妹に手を出した罰だ」
「兄ちゃん!!」
バーサーカーの腕の中から、直葉がスッポリとすり抜ける。そのまま、花畑の中を全力疾走した後、榊の胸元へ何時ものようにダイブしてきた。
「うわっ、っと!」
「兄ちゃんチョーサイコー!!可愛い妹の為に平然と人を殴り飛ばすヤバさにシビレル憧れるぅ!!」
「ハッハッハッ!褒めても何も出ねぇぞ。いや待て、それ本当に褒めてんのか?一回俺の目を見て言ってみろ」
何か罵倒された気もするが、問い詰めようとしても、この笑顔を前にしては、榊は何か言える筈もない。大人しく諦めて、直葉が気の済むまで抱かれてやる。
そうして少しの間、為すがままに抱かれていると、ドスドスと大柄な足音と共に、少女の声が耳に入った。
「スグ、ハ」
直葉から目を離し、少しだけ前を向く。すると、バーサーカーが巨体に似合わない、やや小さめの歩幅で歩いて来ている。
「ぱでぃ、はい」
「アリ、ガトウ」
そして、浅黒い肌の少女が抱かれていたその腕の中から、優しく地面へと解放される。
「パディちゃん!大丈夫だった?」
「ウン、ダイ、ジョブ」
直葉がその少女を見るや否や、嬉し気にも声を弾ませる。どうやら直葉の友達らしい。
「その……パディ?だっけか」
「ッ……ハイ……」
榊が迷い気に言葉を揺らしながらも声を掛けると、パディの少し怯えていた瞳が更に曇る。更には、不安から胸元で固く握りしめる両掌は、微かな震えを見せる始末だ。
―――何かやってしまったんだろうか。今しがた人をぶん殴ったばかりだし、そりゃ怖がられるだろうなと思いつつ、その少女をボォっと見つめる。
その時、目に入った存在に、榊は一瞬だけ喉を締め付けられた。
「……スゥ」
少しだけ呼吸を整える。少しでも動揺してしまっていた事が、誰にもバレないように、何も無かったかのように堅くなる表情筋を緩め、真っ直ぐに少女と目を合わせると。
「ありがとうな。こんなアホな妹の友達になってくれて」
この軽いだけの頭を深々と下げた。
「エッ……?」
どうしてかと、パディの口から漏れ出るような驚きが零れる。だが、これは至極当たり前のことだ。
兄として、妹の友達を無下になど出来る筈も無い。堂々と当たり前の態度で接すれば良い。
例え、その手の甲に、
「コイツの兄貴として、俺はアンタを傷つけねぇ。それだけは約束する」
自分にも言い聞かせるように、一言も零す事無くハッキリと告げる。パディという少女が何者であろうと、妹の友達だと言うのであれば、決して傷つけるような真似はしない。
そうでなければ、意味が無い。直葉を護る為に、その周りに居る友達を傷つけていては、命を賭けてまでと決めた覚悟が嘘になってしまう。
「……アリ、ガトウ」
それが少しでも伝わってくれたのか、パディの身体から微かな震えが消えていく。榊はようやく心の底から安心できたような気がした。
「アッ!?兄ちゃん凄い怪我してるぅ!?」
しかし、安堵に身体を緩めたのもつかの間、今更ながらに直葉が、傷だらけになった榊の身体に気が付き、その途端に耳元にギャアギャアと騒ぎ始めた。
「ウルセェ!てか傷に触るんじゃねぇ!!イテェだろ!!」
「病院に行かなきゃ!!どっちに行けば良いの?身体?頭?とにかく両方とも行かなきゃ!!」
「頭は必要ねぇだろ!?頭はぁ!!」
直葉が慌てふためいて、ブンブンと肩を揺さぶって来る。心配しているのは分かるが、その度に傷口が開いて寧ろ悪化している気さえする。
「イテェから良い加減離れろっ!!フンッ!!」
「フギャ!?」
傷口を開かせる
すると、ようやっと離れた直葉は、何やら文句ありげに唇を噛んで、不満そうに睨んできた。
「兄ちゃんのイケずぅ!レディなんだからもうちょっと優しくしてよ!!」
「女扱いされたかったらタッパがデカくなってから言え、ほらさっさと帰るぞ」
「うん!!」
そんな不満げに曇っていた直葉の顔も、一度手を握ってやれば、何時も通りの馬鹿みたいな明るさを取り戻す。
「あっ、兄ちゃん!ちょっと待って!!」
だが、突然何かを思いついたように、握っていた掌は、直葉の方からパッと離されてしまう。そして、その手はもう一度榊を握るのではなく、今度はパディの掌を握った。
「パディちゃんも一緒に帰ろ?」
「エッ?」
そう言われるとは思ってもみなかったようで、パディが分かりやすく動揺に目を見開く。だが、直葉は全く気にした様子も無く、嬉々として、掴んだ手を引っ張ろうとしていた。
「大丈夫だって!ウチの兄ちゃんは優しいんだから!!」
「デモ……」
「ハイッ!兄ちゃんにパス!!」
それでも渋ろうとするパディに対し、直葉は引っ張っていた手を強引に、榊の掌へと握らせる。
「アノ……エトォ……」
突然に握らされた掌に、パディはワタワタと口をもたつかせている。友達の兄とは言え、いきなり見知らぬ人間と手を繋ごうとするのは気が引けるだろう。
だがまぁーーーこれが直葉なりの優しさだと言うのなら、乗ってやるしかない。榊は自分を掴む小さな手を、逆に握り返す。
「まぁ、そう言う事だ。大人しく此処は甘えとけ」
「……ウン」
初めは掌の中で逃げようとしていた小さな手が、やがて観念したかのように、力が抜ける。
「うんうん!やっぱり兄ちゃんは優しいなぁ。それじゃあ……」
それを満足げに頷きながら直葉は見届けると、今度はもう一人の友達の元へと走り出した。
「バーサーカーも一緒に帰ろぉ!!」
直葉がバーサーカーの手を腕一杯にしがみ付く。そして屈託のない煌めくような笑顔で誘う。
「ゔぁぁ……」
それに応えようとしたのだろうか、バーサーカーの太い腕が半ば持ち上げる。だが、一度だけ後ろを振り向いた後に、それは直ぐに下がってしまう。
「ぼぐはぁ、だいじょうぶ」
そして顔に浮かんだのは、おどろおどろしい巨体には似つかわしくない、和らげのある優しい微笑み。その笑顔の裏に何があるのか、榊は敢えて言葉にしない。
―――振り向いた方向には、先程自分が吹っ飛ばした男が倒れている花畑がある。聖杯戦争における、マスターとサーヴァントという関係がどういう物かは分からないが、バーサーカーに取っては、少なくとも見捨てられない存在なのだろう。
「行くぞ、直葉」
「えぇ、でもぉ!!」
「本人がそう言ってんだから、無理に連れて行こうとすんじゃねぇよ」
「うぅ……」
その意味を知らない直葉を、強引ながらにも榊は無理矢理に納得させる。すると、本人から断られた手前もあるのか、意外にも直ぐ引き下がった。
「そんじゃ、帰るぞ」
「じゃあねバーサーカー!!また会おうね!!」
「マタ、ネ。バーサーカー」
その間、両手に繋いだ直葉とパディが、後ろを振り返って何度も手を振るが、榊は一度たりとも後ろを振り向かない。
パディとは違い、バーサーカーは確実に敵に違いないーーーそれが本人の意思なのかは兎も角、マスターがあの男で、それに付き従うと言うのなら、どちらにしろ同じだろう。
「……バーサーカー」
しかし、トンネルを潜る直前に、榊は一度だけ振り返る。
―――互いの事を考えれば、此処で何もなかったと終わった方が良い。そうすれば、何時か戦わなければならい時に、変な情が湧かないで済む。だが、榊からしてみれば、そんなのはどうでも良い。
直葉の友達として、大事な妹を護ってくれた恩に比べれば、そんな些細な事はすっ飛んでしまう。
「またいつでも直葉に会いに来い。そん時は茶ぐらい出してやるからよ」
短い鼻息交じりにそう言ってやると、白い花畑の向こう側で、遠くに見えるバーサーカーの顔から、何処か諦め交じりだった柔和な笑みが綻んだような気がした。
この時、あの手を取っていたら、怪物の運命が変わっていたのかーーーそれが分かっていても、きっと逃れる事が出来ない現実がある事でしょう。
『追伸』
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