Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「スッゴイでしょ! ウチの兄ちゃん!! なんせ喧嘩最強! 悪鬼羅刹! 妹命上等! の三代名詞で此処ら辺じゃユーメイジン? って奴だったんだよ!!」
「ケンカ……アッキ? ジョートー?」
「人の黒歴史を暴露してんじゃねぇ! 後、最後の奴は呼ばれてねぇから!! 多分! きっと、おそらく……」
まさか帰り道に過去のヤンチャ話を暴露されるとは思わず、昔の不良時代最盛期の記憶に、顔から火が出そうな程に熱くなってしまう。
───確かに色々とヤンチャし過ぎた自分のせいもあるが……流石に喧嘩最強!! とか四文字言葉で呼ばれるのは、当時の頃でも凄く恥ずかしい。
「スグハ、オニイサン、スゴク、イイヒト」
そうとは露知らず、パディが純真無垢な羨望の眼差しで榊を見上げている。言葉自体は良く伝わっていないだろうが、本当の意味で凄いと思ってくれているのだろう。
「そうでしょそうでしょ! 私を妹にするには勿体無い兄ちゃんだけど凄いでしょ!!」
「お前は関係ないだろ。ったく、どうしてこうウチの妹は……」
どうにかしてこの生意気で偉そうな妹(直葉)と、大人しくて可愛らしい少女(パディ)を取り替え出来ないかと本格的に考え始めた時、繋いでいた左手がふと物寂しくなった。
「オウジサマ……チカクニ」
左手で繋いでいたのは、パディの方だ。歩幅の小さい足取りが止まり、丸っこい瞳が右往左往して誰かを探すように泳ぐ。そして何かを捉えたように見上げた先は、夕方だと言うのにまだ明るい空だった。
釣られて、榊も何かあるのかと空を見上げる。そして、そこで見つけた思いがけない光景に、思わず目を奪われてしまった。
「───!!」
───男が空を渡り歩いている。それは翼を羽ばたかせるようにではなく、両足首から噴き出す蒼炎の熱上昇で、方に差し掛かったオレンジ色の上空を、本当に渡り歩いていた。
空を渡り歩く男の目線が、下から見上げている榊達を捉える。すると、徐々にその足元で燃え吹き上がっていた蒼炎の勢いが収まり、それに合わせて、遥か上空を保っていた高度も、次第に落ちていく。
「お待たせしました。大丈夫ですか、パディ」
そして、空から地へと足を付けると、男はパディに向かって、恭しくその頭を垂れた。
「お、王子様が空から飛んできたぁ!? どういう原理!? もしかして幽霊? それとも開眼したの!?」
直葉はその男に面識があるらしく、『王子様』と呼びながらも、特撮宜しくで空から降り立った事実に目を輝かせている。
「オウジ、サマ……」
だが、パディは対照的に沈んでいるようだった。今まで楽し気に控えめな笑顔を弾ませていたのに、その男を視た時からずっと、繋いでいる手から、小刻みな震えが止まらずにいる。
その怯えたような様子に、榊はパディを握る手を強めようとする──ーだが、直ぐに力を緩めた。
「行って来いよ」
「……ウン」
榊は繋いでいた左手を離すと、パディはまだ小刻みに震えながらも、自らの脚でその男の元へ向かう。
「にいちゃ」
「まぁ見てろって。大丈夫だから」
怯えを見せるパディに、直葉も堪らずに付いて行こうとするが、それを握った右掌で差し止める。
そして、その脚が止まると、より一層に小刻みだった震えが増す。だが、それでも覚悟を決めたように顔を上げ、真っ直ぐとした瞳で男の眼を見据えた。
『王子様。ごめんなさい……勝手に外に出ちゃって……』
日本語では無い言葉で、パディが振り絞るようなか細い声を出す。その意味を分からずとも、その申し訳なさそうに曇る顔と瞳で、何が言いたのかは理解できる。
その言葉を聞いて、男がどう思ったのかは分からない。だが、伏せるパディの頭頂部を少しの間、呆然としたように見つめると。
『良かった……怪我は無いようで何よりです』
心の底から安心したように、大きな息を胸の内から吐き出した。
『怒、らないの?』
『怒る必要は無いですから。言ったでしょう』
パディと男、その二人の会話は相も変わらず、何を言っているのか分からないが、それが温かなやり取りだという事は感じられる。
そして、男が柔和な笑みをして、パディの頭を撫でる。
『私に取って、貴方の幸せこそが、最も最優先だと』
それは音此処に出来る、最大限の慈しみを注ぐ行為だったに違いない。現に、撫でられたパディは、ハッとしたように目を見開いた後、そこから大粒の涙を滲ませた。
『おう、じ、さま……』
瞳を滲ませていた涙が、ついに零れ落ちる。だが、それは似合わないと言うように、男は身につけた白手袋の上からソッと掬い取る。それを見ているだけで、2人の間には確かな関係が結ばれているのが感じ取れた。
「よがっだぁぁー! 何がよぐわがらないげどよがっだぁー!!」
「何でお前まで泣いてんだよ……つか、言っただろ、大丈夫だって」
そんな関係性に当てられてか、感受性豊かな直葉は鼻水を垂らしながら号泣までしている。その横で、榊はこの光景を創り出した功労者の頭を撫でた。
───あの時、震えていたパディの姿には見覚えがある。それは何時かの雨が降る日に、家出した直葉を背負った時と同じだ。
母親に怒られるのが怖くて、それでも仲直りしたいけど、許されなかった時を思うと、一歩踏み出せないでいる。そんな臆病な震えが誰かに似ていたからこそ、榊は確信を持てた。
「こういうのは、テメェから踏み込めば、どうにかなるモンだよ」
そんな呟きを悪戯に吹き抜ける夏風に流していると、不意に涙を拭っていた男の顔が、榊の方へと向き直る。
「失礼、貴方のお名前は……」
「榊 浩介、榊で良い」
名前を尋ねられ、軽く自己紹介をすると、榊は浅い呼吸を一度挟む。
───さて、これでパディの件には片が付いた。次は此方の番だ。
「それと、コイツだ」
そして、最後に深い息を吐き捨てると、直葉を掴む手を離して、右の甲を男に抜けて掲げる。
そこに刻まれるのは三画を残す令呪、それが聖杯戦争のマスターである証だと、榊は京子から教わっている───それで、パディがマスターである事を見抜いていた。
「アンタは、何者だ」
そして、パディのサーヴァントこそ、この男に違いなかった。何の装備も無しに空を飛ぶなど、おおよそ人間が出来る筈が無い。出来るとすれば、それはセイバーと同じ
「……そうですか」
榊を見る男の眼が細まる。それはまるで見定めるかのように鋭く、自然と喉が干上がったように渇きを覚える。
───パディが心優しい少女だとしても、従える英霊がそうとは限らない。マスターの意向など関係なく、やりたいように動く奴が居る事は、セイバーで既に思い知っている。
だから、見定めなければならない。この男が敵なのか、そうでないのか。そして場合によっては、今此処で戦う決意をしなければならないのかどうか。
その答えを待ちかねていると、アーチャーは躊躇う素振りすら見せず、ハッキリと応えた。
「初めまして、セイバーのマスター。私はアーチャーと申します」
「ッ!!」
固唾を呑んでいた喉が、途端に息を詰まらせる──ー最初から、
マスターであるパディの手前だからか、それとも敵として認識すらもしていないのか──ーどちらにしろ、榊としては都合が良い。
「俺の妹に手を出すんじゃねぇぞ。分かってるよな」
「えぇ、貴方の妹君と私のマスターは友人のようですから。貴方から手を出さない限り、私からは何も致しません」
にべもなく警告を受け入れるアーチャーに対し、榊はやっと息を吐く事が出来た気がした。いずれ戦わざるを得ないその時に、直葉を巻き込む事が無いと分かっただけでも十分すぎる程だった。
「ねぇ兄ちゃん達ー! 何話してんのー? ハッ! もしかしてコレが今流行りのB」
「その先は言わせねぇよ! 何処で憶えて来たその言葉!?」
そんな深刻な心境も知らずに、場の雰囲気丸ごとぶち壊そうとする直葉の口を塞ぐ。その世界を小学生が知るには、まだ早すぎる。
「ムガガガァ! ムガァ!!」
「スグハ、ドウ、シタノ?」
「気にすんな。何時も通りアホな事を言おうとしただけだから」
手で塞いだ口の中で暴れる直葉を見て、ようやく泣き止んだらしいパディが、何が在ったのかとオロオロし始める。すると、榊とアーチャーの間に奔っていた緊張は、忽ちに解けてしまった。
───こうなってしまえば、もう片意地を張る必要も無い。突っ張っていた肩の力を抜くと、榊は脱力して息を吐き、アーチャーに向かって軽く頭を下げた。
「悪りぃな、脅すような真似をして。どうも、そういう手合い<サーヴァント>には良い思い出が無くてな」
「いいえ、普通はそう言う物ですよ。私が特別なだけです」
自分を特別だという辺り、このアーチャーと言う英霊は本当にそうなのだろう。事実、榊が今まで会った英霊達とは違い、清廉さと神々しさを混ぜ合わせたような威風が滲み出ている。
その威風に少しだけ目を取られていると、アーチャーはパディの手を握り、顔だけを傾けていた態勢から、今度はシッカリと此方へと向き直る。
「それでは、私達は失礼致します。また会う事が有りましたら、その時にはよろしくお願いします」
「待てよ」
そうして去って行こうとするアーチャーを、榊は直ぐに呼び止めた。
「何か御用ですか?」
「まぁなんだ……その……」
自分が呼び止めた癖にも関わらず、榊は歯切れ悪くも言葉が迷ってしまう。別に大した用事があって呼び止めた訳では無いからだ。
「ウチの妹が迷惑を掛けた礼だ。少し付き合えよ」
だが、たった一つだけ聞きたい事がある。なので、それだけの為に、榊は適当な理由をでっち上げた。
四字熟語だったら、大体不良の言葉になるのは何故なのか……誰かその理由を教えてください。
『追伸』
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