Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
大通りから南に歩いて10分。人気が無い街外れの田舎道の途中に、寂れた教会がそびえ立っていた。
その寂れた教会は外観の割に、掃除が良く行き届いる。行儀良く整列する長椅子や聖母を形取るステンドグラスには埃一つなく、定期的に誰かが掃除しているようだ。
掃除しているのは多分、ここに連れて来た神父に違いない。座っている長椅子の縁をなぞり、榊は一番奥の壇上で笑みを崩さない神父に見つめていた。
「それでは、そろそろ始めましょうか」
神父がそう宣言すると、壇上から腰を折り曲げて頭を榊に向けて恭しげに下げる。
「先ず、私の名前はアクレス=フォンネルス。この教会でしがない神父をしています」
「何が『しがない神父』だ。ただの神父がオレ達の戦いに割り込んでいける筈ねぇだろ」
そして、出鼻から噛み付いていくのは、榊を押し除けて長椅子を我が物顔で占有するセイバー。戦いを中断されたことを、まだ根に持っているらしく、臨戦態勢を示すように被っている兜から、不機嫌な声が漏れ出ている。
「そこの神父が人間離れしているのは事実でしてか、あくまで管理者の立場でして。特に関与する話ではないのでしてよ」
「だそうだ、セイバーよ。親方様の言う通りだ」
続いて付け加えるように補足するのは、中央の赤い絨毯を挟んで、反対側の長椅子に座っている巫女。更にその隣の席では、あの赤甲冑の男が胡座を掻いている。
「それより、早く話を進めるのでして。あまりに女性を待たせると言うのは殿方失格でしてよ」
控えめに座する姿勢を崩さず、巫女は切り揃えている長髪を指先で弄ぶ。
「それはいけませんね。では、聞く準備はできましたか?」
「……」
話を振られた榊は、直ぐには答えずに視線を足下へ落として、自分の爪先を見つめる。
──自ら踏み込んだとはいえ、それを知る事によって何かが変わってしまう事が怖い。だが、それでも何も知らないよりはマシに決めている。
だからこそ榊は返事はせずに頷きだけで返す。それを肯定と捉えてアクレスは口を開いた。
「では、先ずはそうですね……世界の裏側に存在する『魔術』というのを説明しましょうか」
「魔術……?」
どんな摩訶不思議な言葉が出るのかと身構えていた榊の耳に、ゲームや漫画で慣れ親しんだ単語が吹き込まれた。
──何が出るかと思えば、魔術? 何時から世界はファンタジーになったんだ? 余りにも非現実な回答に呆ける間もなく、アクレスはそのまま説明を続ける。
「えぇ、魔術とは何かを犠牲にして何かを生み出す、言わば等価交換のようなものです。そうですね……親水 京子さん。手本をお願い致します」
「何故私が行う必要があるのでして?」
「えぇ、何せ私は魔術が使えませんので」
「……貸一つでしてよ」
憎々しげに恨み節を吐き出した後、巫女服の少女──京子が長袖を捲って細腕を晒す。そして人差し指を突き出すと、その指の先端から、何の予兆もなく小さい火が灯った。
「火!? 手品か……!?」
一瞬だけ、よく出来た手品かと思ったが、マジマジと見つめて、その火元が本当に指先からだと分かると、榊は自分の目を疑わざるを得なかった。
「タネがあると言う点では、似たような物ですね」
そんな驚いて目を丸くする榊を他所に、アクレスはさも平然と言ってのけると、自分の心臓に手を置いて、逆の腕まで軌道を指先で描く。
「一見して何もない所から創り出していますが、実は生命力を魔力というエネルギーに変え、それを代償にあらゆる事象を発動しています。それが魔術という物です」
──魔力さえあれば何でも出来る。暗にそう言っているように思えた。だが実際に、人が蟲の集合体になったり、空中浮遊するという有り得ない光景を、既に見ている。それらがアクレスの言う魔術であれば、全て説明が付く。
だとすれば、魔術さえあれば──。
「先に言っておくのでしてか、今の魔術では精々『いつか科学で再現できる』程度のことしかできないのでして。貴方が思い描く『不可能を可能にする』というのは魔法の領域。それは最早別の領域でしたよ」
「ッ……だよな……」
そんな都合の良い物があるはずも無い。呆れたように吐き捨てる京子の呟きで、榊は僅かに脳裏で浮かんだ甘い夢から覚めてしまう。確かに、何でもできるというのであれば、榊の知る世界はもっと進歩していただろう。
「とはいえ、魔術さえあれば大概の事は出来てしまいます。しかし、その事象の影響が大きい程、それ相応の下準備──儀式が必要になりますけどね」
「儀式……」
「はい、それが今この地で行われ、そして貴方が巻き込まれている。即ち願いを叶える為の儀式『聖杯戦争』です」
不穏な言葉の羅列が、榊の心臓を打つ──『聖杯戦争』、それがどんな儀式なのかは判らないが、その言葉を聞いただけで、榊の背筋に冷たい水が流れるような感覚が過った。
「原理は簡単です。7人の魔術師が使い魔を召喚し、そして残った最後の1人の元に聖杯が現れ、願いを叶える仕組みです」
「聖杯……それって、そんなに貴重なモンなのか?」
「当たり前でしてよ」
京子が当然とばかりに溜息を吐き、鋭い目線で榊を遠目から睨みつける。
「聖杯は万能の器。願いさえすれば、全てを瞬く間に叶えてしまう『魔法』のような物でしてよ。それも本物であれば、でしてけどね」
「何でも……叶うって」
何でも叶う。それが余りにも現実味がなさすぎて、言葉だけが浮ついてしまう。だが現実味がなかろうと、縋らなければ叶えられない願いがあるのは理解は出来る。
きっと、あの巫女服姿の少女にも、そんな願いがあるのだと考えれば、襲って来た敵だとしても、榊は何故か憎めなくなってしまう。
そんな安い同情に気が付いたのか、京子は振り払うように視線を外れ、真正面へとそっぽを向く。
「言っておきますが、私以外にも聖杯を欲する魔術師などゴマンといるでしてよ。魔術師というのは願いを叶える為になるのでしてから」
「えぇ、そしてその中から選ばれた印として、令呪』が刻まれている訳ですが。ほら、貴方の右手にもあるでしょう?」
「右手……って何だこれ! タトゥー!?」
アクレスに言われて、榊は右手を確認すると、手の甲に何かのレリーフのような赤い紋様が、いつの間にか浮き彫りに刻まれている。
「ペイントとかじゃ……ないよな?」
試しに指で強く擦ってみる。しかし色褪せずに下地の皮膚が赤くなるばかり。ペイントとかではなく、本当に刻まれているらしい。それを確認すると、いよいよ現実味の無かった今までの説明が、途端に切迫するように感じる。
「それが令呪です。使い魔を召喚する権利を与えられ、召喚した使い魔に対し、三度まで命令を従わせる命綱のようなものでもありますね」
「使い魔? 動物とか精霊とか、そう言うのか?」
「一般的には貴方のイメージと変わりはありませんが、こと聖杯戦争で呼び出すのは、ただの使い魔ではありません」
一呼吸を挟み込み、アクレスは溜めがちに口を開く。
「──呼び出すのは、英霊です」
「えい、れい?」
「神話の英雄、歴史の偉人、あるいは稀代の悪党──いずれにしろ、人類の歴史に名を刻んだ者の事です」
「……ハッ?」
漠然とした言葉に、最初は理解が出来なかった。だが、頭の中で噛み砕いてしまえば、その常識外の意味に、思わず長椅子を大きく蹴り鳴らしてしまった。
「冗談……な訳ねぇよな……」
──此処まで説明をしておいて、嘘を吐くとは思えない。しかし、榊はどうしても疑ってしまう。空想や過去の人間が現代に蘇る。そんなSF小説のような現実が起こっているなんて、マトモであれば信じられる筈が無い。
だが現実がマトモでないことも、そして今の自分の周りがマトモじゃないことも、榊は知っている。それが現実だと言われると、受け入れてしまう程、一夜にしてこれまでの榊の常識の概念は壊れていた。
「えぇ勿論」
アクレスは神父服の裾に手を入れ、碌に背表紙も描かれていない古ぼけた聖書を取り出すと、迷わずに何処かのページを開く。そして、合間に挟まっていた7枚のカードを取り出し、それをトランプの手札のように、それぞれの絵柄を見せつけた。
「そして召喚された英霊──またの名をサーヴァントは、彼らの生前の逸話から7つのクラスに分類されます」
カードに描かれているのは、それぞれ剣士、弓手、槍使い、暗殺者、魔術師、騎手、狂戦士の姿。
「例えば、親水 京子さんの召喚した英霊──後に江戸幕府を開いた徳川家康を最も追い詰めた戦国の勇士、『真田幸村』は、かつて槍の名手であった事から、『ランサー』に」
「如何にも」
その内の一枚、アクレスは槍使いの絵が描かれているカードを水平に投げ飛ばすと、ランサーはそれを見ることなく、二本の指で挟み掴んだ。
「この真田幸村。此度の戦では、ランサーとして親方様に仕える為に馳せ参じた」
ランサ──真田幸村が違うこと無く、断じる言葉で自身を肯定する。
「本当に、真田幸村……なんだな」
──正直、京子の隣で胡坐を掻き、親方と仰ぐ鎧姿の男が、かの戦国時代で名を馳せた真田幸村とは、完全には信じ切れてはいない。だが、そうでないと説明が付かない男の武勇や覇気を、榊は間近で見ている。
ぶっ飛んではいるが、その説明通りなのであれば、筋が通ってしまう──そうやって、ようやく事実を受け入れようとしているタイミングを見計らったかのように、アクレスはもう一枚のカードを水平に投げ飛ばす。
「えぇ。そして、剣士(セイバー)として選ばれた貴方の英霊も同格に近い存在でしょうか」
「オレを語るな。三下が」
再び投げられた剣士の絵柄のカードに、榊は自然と目で追ってしまう。だがそれは、セイバーの手刀で縦に引き裂かれた。
「そこら辺の有象無象と一緒にするな。オレは最強の騎士だぞ。ランサー如きと比べるんじゃねぇ」
「……」
素顔を遮る兜越しに、セイバーの不機嫌な気配を漂わせる横顔を見据える。すると、スリット越しに目線が合い、『何見てんだ? ぶっ殺すぞ』とでも言いたげに。その瞳が険しく細まる。
「何見てんだ? ぶっ殺すぞ」
というか実際に言ってやがるし。
「い、いや、お前の正体が何なのかなぁって思ってな。ほら、セイバーってクラス? なんだろ」
誤魔化すように早口になって弁解してしまうが、その疑問は嘘ではない。恐らく日本人なら誰もが知る真田幸村が居るのであれば、同じ英霊のセイバーも、自分でも知っているような英雄や偉人なのかと気になってはいた。
「だからお前の名前を……」
「教えるわけねぇだろ馬鹿、お前なんかに教えたら魔術師に思考読み取られんのがオチだからな」
だが、セイバーは考えるまでもないばかりに榊の疑問を切り捨てる。
「いや、まぁ。そうだろうけどよぉ」
口から歯切れの悪い言葉が自然と零れ出してしまい、内から湧き出る形容しがたい気まずさに、つい痛んだ茶髪を指先で弄ってしまう。
──確かにセイバーの言う通り、榊に取って未知の魔術で頭の中を見られようものなら、直ぐにバレるだろう。だが、名前ぐらいならそこまで重要じゃないのでは? とも榊は考えてしまう自分が居た。
「真名とは、その英霊の生涯を表す物。そう易々と曝け出す物では無いのでして」
そんな甘い考えを見通しているであろう京子は、億劫気味に重い息を吐き出してから口を挟みこむ。
「サーヴァントとなった英霊は生前の特徴、弱点までもが引き継がれてしまうのでしてよ。例えば、ある英霊が毒殺されたのであれば、毒が弱点になるのでして。故に、聖杯戦争では真名を隠すのが定石なのでして」
その割には、そっちの英霊は真田幸村って言ってたけどな。という言葉を喉奥にさえ押し込んでしまえば、京子が言っている事は理に適っていた。
「セイバー、やっぱ今言ったの忘れてくれ」
「気にすんな、マスターが弱ぇのは分かってっからよ」
馬鹿にされている気はしなくもないが、知らなかったとは言え、弱点を突かれる危険を晒そうとした自分が悪いと、榊はちょっとしたムカつきを吸う息で押し込める。そして、何とか胃の奥底に押し込めて息を吐きだした時、合わせてアクレスの持つ聖書がパタリと音を立てて閉じた。
「とまぁ、此処までの説明で、今現在の状況を理解してもらえたでしょうか?」
アクレスが隣のセイバーに向けていたその目線を榊に傾ける。だが、直ぐには答えず、一度頭の中に散らばった情報を搔き集めたくて、視界を手で覆い隠す。
視界が真っ暗闇になると、頭の中の情報のピースが一つずつ組みあがっていくのを感じる──要するに、自分は魔術師達が行う空前絶後の殺し合いに巻き込まれたという訳だ。
しかもそれは単に巻き込まれたという訳じゃなく、榊はその渦中の参加者として巻き込まれている。だとすれば、榊にはどうしても理解できない点が一つあった。
「あぁ……だけど一つ分からないことがある」
「何でしょうか?」
「どうして俺がそんな大それたモンに巻き込まれたかって事だよ」
詰まる所、それこそが榊が最も知りたかった事だった。
榊は魔術師でもなければ、魔術という概念も今日知ったばかりの一般人。だとすれば、こんな魔術師同士が争う儀式に巻き込まれる理由がない。
きっとそこには何か理由がある筈、そうでなければ、余りにも理不尽過ぎる。
ジッとアクレスを睨み付け、呼吸をするのも忘れて答えを待つ。そして、その口がゆっくりと開く瞬間に、全神経が聴覚へと集中する。
「それは判りません」
聞こえてきた現実は、榊の想像通りに理不尽だった。
今回は魔術と聖杯戦争についての説明回です。一応、自分なりに調べたつもりなのですが、解釈違いや矛盾があった場合は、申し訳ございません。
しかし流石何年も続いているFateシリーズ様ですね……結構念入りに調べたのですが、中々設定が難しい!!
しかし、それでも説明回を挟まねば、一般市民の榊さんが話に付いていけない!!
『追伸』
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