Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
花畑に沈んでいたマスターの意識が、気管に溜まる血液による窒息で覚醒したのは、咲き乱れる花の色さえ見分けが付かない程、日が落ちかけている夕暮れの事だった。
「バァッ!! オボッ!! ゴボッ!!」
鼻と喉に溜まっていた血栓を嗚咽と堰で吐き出し、溺れかけた寸前から息を取り戻したように呻き悶える。
そしてようやく気管に溜まっていた血を全て吐き出し、窒息する苦しみから逃れられた時、傍で待ち侘びていたバーサーカーは、ようやく蹲っていた態勢から動き出した。
「ますだぁ、だい、じょうぶ?」
ゼェゼェとまだ戻り切っていない呼吸を繰り返すマスターの様子に、バーサーカーは自分の大きい掌を差し出す。
「気安く触るなバーサーカーァ!!」
バーサーカーが差し出したその掌は、拒絶する様にはたき落とされる。そして、潰れてひしゃげた鼻で荒い呼吸を始めると、コスフィンは途端に金切り声を上げ始めた。
「あのガキに私は負けたのかぁ……何故だ、何故だ何故ダァ何故ダァ何故だ何故だァァ何故だァァァァァ!!」
まるで壊れた玩具のようだった。ひたすら問いを繰り返し、掻き毟った頭皮から滲む血で染まった爪で、ひたすらに柔らかい黒土を引っ搔き回す。その動作を延々と繰り返し続ける様は、
「私より努力もしていない癖に!! 私よりも魔術を知らない癖に!! 私よりも優れて良い筈がない!! 私こそが報われるべきなのだぁ!! 私こそが! 私こそがザー家の当主になるべき器だと言うのにぃ!!」
「ゔぁ……」
荒れ狂うマスターの様子に、バーサーカーはどのように声を掛ければ良いのか分からない。
そうしている間にもマスターは狂い、暴れ、叫び、そして最後には何故かピタリと静まった。
「そうだ……」
それはまるで、何か一つの答えに辿り着いたかのように突然で、見開かれたガラス玉の如き瞳が、バーサーカーを捉えて離さない。
「私には、バーサーカーが居るではないか」
そして一言、マスターは、狂い回った末に導き出した真理を口にした。
「なぁ、バーサーカーよ。お前は私のサーヴァントだ。私の願いを叶える為にある。今度こそ私の命令は裏切らないであろう?」
まるで神像を崇める狂信者のようだった。バーサーカーの元へ這いずり寄ると、叩き落とした筈の巨大な掌を握り、露骨に身を預けるように縋り付く。
そして、今までのような狂える程の怒りではなく、それが一切丸ごと裏返ったような無機質な声で、バーサーカーに命令を下した。
「殺せ」
そこには今までのようなプライドを汚した怒りや、傲慢に歪んだ自尊心など混じっていない。ただただ、純粋な殺意のみが前面に押し出されていた。
「あの男も、クソガキ共も、その周りも全てだ。殺して殺して、殺し尽くせ」
──―自尊心もプライドも努力も歴史も才能も、聖杯戦争すらもどうだって良い。今のコスフィンはその全てをかなぐり捨てでも、己に土を付けた全存在を
だからこそ、コスフィンはバーサーカーに縋り付く。己が呼び出した最悪の怪物であれば、必ず目障りな存在全てを、血祭りに上げる事が出来る筈だと、真っ黒に汚れ切った願望を託す。
「ご、めん、なざぁい……」
──―だが、バーサーカーは、その願望を拒絶する。
「すぐはぁ、ぱでぃ、ともだち……ますたぁ、とおなじ、くらい、だいじぃ、だがらぁ」
──―マスターは大事な存在なのには変わりない。怪物である自分を頼ってくれただけじゃなく、本当の名前まで読んでくれた、掛け替えない人だ。
だが、それは直葉とパディも同じだった。人から外れた怪物である自分を、友達だと認めて手を握ってくれた人。
そんな友達を、バーサーカーは殺す事など出来ない。それは怪物としてではなく、2人の少女が取り戻してくれた、人としての心がそう訴えかけていた。
「そうか……」
すると、マスターは縋っていた手を離して、頷いたように顔を伏せる。その様子に、納得してくれたのかと、バーサーカーはトンと胸の内が軽くなった。
──―やっぱり、分かってくれた。これでまた、2人に会える。色々と迷惑を掛けてしまった分、今度は自分からどうすれば良いのかと、心が弾むような音さえも聞こえていた。
「お前も、私を馬鹿にするのか」
その右手に刻まれていた令呪が光り輝いていたとは気付かずに。
「令呪を持って命ずる。殺せ、あの男も、あの男の妹も、その周りも全てだ」
令呪が三画、妖しい閃きを上げて、消えていく。
「ます、だぁ……?」
その閃きをバーサーカーは最初、理解が出来なかった。しかし、自身の身体を形成する魔力を通じて、強制力が脳裏を支配し始めた時になって、ようやくその意味を思い知らされた。
「貴様だけは……裏切らないと思っていた。貴様だけは私に忠実で、私を受け入れてくれると思っていた」
バーサーカーは知らない───コスフィンと言う魔術師が、どれほど信頼を置いていたのかを。
バーサーカーは常に従順であった。自分を馬鹿にしてきた有象無象とは違い、馬鹿にも拒絶もせず、常にコスフィンの言葉に従って来た。
だからこそ、コスフィンは誰よりもバーサーカーを信頼していた。例え、それがどうしようもない程に歪な形だとしても、心の底では掛け替えのない存在となっていた。
「だが貴様は……貴様は私を拒絶した!! 二度もだ! 二度も私を拒絶した!拒絶したぁ!!」
しかし、バーサーカーは一度ならず二度までも、コスフィンを拒絶した。
己を才能が無いと馬鹿にし、家督から廃絶した馬鹿どものように、自分を覚えていないと視界にすら映さなかった榊のように。
その瞬間、歪な信頼は激しい憎悪と狂気へと裏返った。マイナスに振り切れた黒い感情は、コスフィンの狂った精神を、もう戻れない所まで燃え上がらせてしまった。
「貴様も私を馬鹿にして廃絶するのだろう!バァァァァァサァァァカァァァァ!!」
コスフィンの底無しに湧き出る憎悪と狂気は、二画の令呪によって流し込まれる圧倒的な魔力を通じ、バーサーカーの人間としての理性を、黒い汚泥の中に溺れさせていく。
「ゔぁ……ァァォァォァァァァ!!」
──―塗り替わる、上書きされていく。陽の当たる世界を夢見た憧憬から、あの地下奥深くに閉ざされた迷宮へと変わっていく。
嫌だ。アソコは、バーサーカーを怪物として産み落とした場所。あの迷宮に居る限りは、バーサーカーは人ではなく怪物と成り果てる。
「あァ! ウぁ!! あァァァァあぁ!!!」
ドス黒い殺戮衝動に魂が蝕まれ、砂漠の中で喉が渇くように赤い血を、あるいは底なしの飢餓のように、血と肉を求めて止まなくなる。無機質な鉄の牛仮面はまるで怪物本来の意思が侵食するように、バーサーカーの顔へと纏わりついていく。
「あ、ァァ……!!」
いやだ、あったかい、たいよう、みれたのに、すぐはと、ぱでぃと、ともだち、なれた、のに。また、あおう、て、いって、ぐれだのにいま。
だすげて、ダスケテ、ゴロゼ、コロセ、殺せ、殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ。
ぼくは、かいぶづに、なりだぐ、なぃ。
「まず、ダァ……」
バーサーカーの意識が怪物として飲まれ行く中、最後に『──────』として助けを呼んだのは、マスターだった。
この世に生まれ落ちた怪物が、
「『
そして真の怪物が、誕生の唸りを上げた。
怪物の目を覚ますのは、真っ黒に染まった人の悪意である。
バーサーカー、『──―──―』が目覚める。
『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。
https://x.com/8f8qdLIQID34426
作品の高評価や感想は何時でも待っています!!
それと、ゴールデンウイークの為、来週の投稿はお休みさせていただきます。
帰省して羽を休めてきます。
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