Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「何処だよ、……此処は」
目に映るのは、先程の揺れの激しい地震が起こる前に居た、地下ストリートその物に違いない───だが、そこは明らかに別の場所でもあった。
あれほど様々な年代が行き交っていた人混みは見る影も無く、軒並みに列を成していた店も、その全てが分厚いシャッターで閉ざされている。
そして何よりも、漂う空気の質が違う。先が見えない程の広い一本道に居る筈なのに、まるで密室に閉じ込められたかのような圧迫感が、ずっと身体に纏わりついている。
明らかに異常かつ異変───良く見知っている筈の景色が、さもまるで見知らぬ異界のように、その場所に鎮座していた。
「そうだ! パディ! 直葉!!」
そこでふと、周囲を見渡して状況を確認したその時、榊は漸く気が付いた。先程まで一緒に居た筈のアーチャーも、パディも───そして、直葉も此処には居ない事に。
「おぉい! 近くに居んなら返事しろぉぉ!!」
幾らしかいの隅々まで目を凝らしても、直葉達どころか人影すらも全く見えない。全力で叫ぼうにも、帰って来るのは木霊する自分の声だけ。
「居ねぇ……何処に行ったんだよ……!!」
三人とも───と言うより、多くの人間が自分の直ぐ近くに居た筈なのに、今此処では忽然と姿を消している。
「夢でも見てんのか俺は……ッ!!」
いよいよ夢でも見ているのかと半信半疑になりかけていたその時、背後から何かを引きずる音が、コチラへゆっくりと近づいてくるのを捉えた。
誰か居るという安心感より、見知らぬ異界から誰かがやって来た恐怖に振り向く。
「アー……チャー、か」
「ようやく目を覚ましましたか」
その正体は何食わぬ顔をしたアーチャーが居た───だが、榊は自分以外の誰かを見つけた事よりも先に、アーチャーがその手に持っていた何かへの動揺が走った。
「そいつは、何だ」
「オルトロスです」
オルトロス───そう呼ぶ獣の頭をアーチャーが手放す。するとライオンなんかよりも遥かに筋肉質な巨体が、ドサリと何の抵抗も無く地面に転がった。
「オルトロス……?」
「ギリシャ神話の大英雄、ヘラクレスが成した十二の試練に登場する双頭の番犬です───最も、その複製体と言った方が正しいですが」
まるで見知った動物であるかのように説明するアーチャーに、榊は飲み込めずに喉を詰らせる。その獣は一目見るだけでも明らかに、生物としての域を大きく食み出していた。
あらゆる野生の動物よりも遥かに発達した筋肉質な巨体に、獲物の奥深くまで突き刺さるだろう鋭い牙───そして何より、左右に分かれた二つの頭。目の前に実態があるとしても、そんな生物が居るなど、確かに信じられない。
「他にもエンプーサやキメラ、スケルトンなども跋扈しているようですね。充分に気を付けてください」
そして、RPGゲームでしか聞いた事もない敵キャラの名前が続々と出て来た辺りで、榊は考えるのを辞める。この非常識な状況で、常識を尺度にしても何の役にも立たない。
代わりに榊でもわかる常識的な事実を問い掛けた。
「直葉は、どうした」
「……申し訳ございません」
目を逸らすように伏せたアーチャーの口から、それを聞いた時、榊は落胆や失望もしなかった。ただ、肩を落として、近くの壁に背中を預けると、重く溜息一つ零した。
「怒らないのですね」
「お互い様、だからな。俺も、パディを護れなかった」
きっとアーチャーも、自分を見つけた時も同じ気持ちだったに違いない。であれば、自分一人が項垂れている場合ではない。頭の縁から溢れようとする感情を噛み殺し、榊は冷静に頭を回す。
「教えろ───此処は何処だ」
そして頭に思い浮かんだのは、この場所が何処かだ。
「此処はさっきまで居た場所じゃねぇだろ。誰も居ないわ、怪物は出るわ……アレか? 鏡の世界か?」
まるで自分がそのゲームの主人公にでもなったかのような気分で、溜まらずに現実感が霞んでしまいそうになる頭を抑える。
すると、アーチャーは追い打ちをかけるように現実離れした事実を突き付けて来た。
「そうですね……恐らく、いや、間違いなくサーヴァントの宝具でしょう」
「宝具……って、何だ?」
又もや聞き慣れない単語に、榊は渋々聞いてみる。するとアーチャーは説明に困ったかのように口を曲げた。
「そうですね……宝具とは簡単に言うと、
「『伝説の再現』……随分、大層な事を言うな」
「その通りです。宝具とは我ら英霊に取って、最も最強の武器であり、技であり──ーそして象徴です」
仰々しく説明するアーチャーの言葉に嘘は感じられない。それが宝具という存在が、如何に英霊に取って重要であるのかを物語っているようだ。
「宝具には様々な種類があります。あらゆる魔剣や武具は勿論の事、無窮に磨かれた技の再現。果ては事象の操作など多岐に渡ります」
「おぉ……?」
だとすれば、セイバーが持っているあの白銀の剣や、やたらとゴツイ鎧も、その宝具の一つなのだろうか──ーそう頭を捻っていると、アーチャーはこの地下ストリート全体を示すように、通路を支える柱に触れた。
「そして、宝具の中には、自らに所縁のある場所を再現する物があると聞きます───恐らく、此処もその内の一つでしょう」
「……良く分からねぇけど、要は
「そのように解釈していただければ」
説明を受けてなお良く理解できずに、無理やり自分が知る解釈に落とし込んで飲み込む。
「……だったら、休んでる暇はねぇな」
───相変わらず、分からない事だらけだが、それでも一つだけ分かった事はあった。
此処がアーチャーの言う宝具の一種だと言うのなら、それは即ち、此処が敵が生み出した縄張りだという事。
そして、その縄張りに諮らずも自分やアーチャー……そして、直葉やパディが巻き込まれた訳だ。自分達だけが此処に放り込まれて、直ぐ傍に居た二人が巻き込まれない筈が無い。
「行くぞ、アーチャー。サッサと直葉達を見つける」
だったら、榊のやるべきことは決まっている。二人を───パディ達を見つけ出して、その元凶をぶっ飛ばす。その目的さえあれば、一歩踏み出すのには充分だ。
「気を付けてください」
そうやって、一歩踏み出し始めた榊に遅れながらも、アーチャーが忠告をする。
「此処は貴方が知るような現実では有りません。かつて神話に語り継がれたであろう、正真正銘の迷宮。数多の英雄達を屠った魔境───」
踏み出した榊の靴底が、カチリと何かを押したような感触と共に、床のタイルへ埋まった。すると、背後から耳を劈く風切り音が頬を掠める。
そして次の瞬間には、反応する事すらも出来なかった、振り子の要領で目前に差し迫る巨大な鉄球が、まるで風船のように一本の矢によって弾け飛んだ。
「迂闊に動けば、死にますよ」
───油断したつもりは無かった。だが、心の何処かではそうだったに違いない。何せ、此処は普段通い慣れていた地下ストリートに良く似ているのだから。
だが、それは良く似ているだけだ。一皮剝けば、そこは未だ現代では到達成し得ない人外魔境の迷宮。一歩先にでも踏み込めば、その瞬間に死が待ち構えていても可笑しくない危険地帯。
それを今更ながらに思い知って尚、榊は歩みを止めなかった。
「上等だ。行くぞ」
外見は普通の地下ストリートですが、化け物ウヨウヨ、トラップ満載の正真正銘の『迷宮』仕様になっています。
多分、不通に迷い込んだら1分で死にます。ヤベェですね。
『追伸』
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