Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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魔物、エンカウント

 どれくらい歩いたのやら───恐らく、そう長くは経っていないだろう。精々10分ぐらいに違いない。

 

 だが、それだけの道中だったとしても、榊の精神は鑢に掛けられたように掛けられているかのように、みるみる擦り切れていた。それだけ、この地下通路(迷宮)は、恐ろしい場所であった。

 

 現に、榊は今───

 

 

 

 

『キシャァァァァァ!!』

 

 蟷螂の姿をした常識外れの化け物に、その鎌で首を切裂かれようとしていた。

 

「ウォ!!」

 

 振り回される鎌を前に、榊は店のシャッターをクッション代わりにして、真横へと飛び込む。

 

 薄い鉄の幕はぶつかった衝撃を殺さずに反発する───マトモにぶち当たった肩口から骨に響く痛みが奔るが、そんなのは頭上を通り過ぎる斬撃を前にして直ぐに忘れる。

 

 薄いとは言え、鉄は鉄。それなのに、まるで紙にカッターを当てたように綺麗な切り口──自分の首が飛ぶグロテクスな妄想が瞬時に過る。

 

「ダラァァァァァ!!」

 

 もう片方の鎌が振るわれるより先に、いっそ転げ回ってでも、怪物の傍から出来る限り距離を取る。その甲斐あってか、直後にズタズタに切り裂かれるシャッターと運命を共にせずに済んだ。

 

「何の冗談だっての! 突然変異かぁ!?」

『ギチギィ!!』

 

 窮地を寸前で潜り抜けた後、榊は荒い息を整えながら、冷静に自分を殺そうとする化け物の正体を探る。

 

 それは蟷螂に良く酷似している──だが、その体躯は天井の高い地下通路一杯を埋め尽くし、角ばった緑色の外皮は、まるで鋼鉄のような固い艶めきを見せている。何よりも、異様に肥大化した両手の大鎌は、明らかに生物の域を超えている。

 

 間違いなく、それは自然界で決して生まれる事の無い異形種───アーチャーの言葉の通りであれば、『神話時代に生まれた魔物の複製体』と呼ぶ奴だろう。

 

「だとしても、昆虫がデカくなるとか反則だろ!! バッタなら兎も角よぉ!!」

『ギチィ!!』

 

 そんな理不尽を叫ぶ暇も無く、再び獲物に狙いを定めた蟷螂の魔物が、背中の羽を擦り合わせる不快音を震わせ、圧倒的体躯に物を言わせて突進してくる。

 

「チィ!!」

 

 狭い地下通路を埋め尽くす巨体を前に、躱す術などある筈が無い。隙だらけの背中を晒して、決して追い付かれないよう、なにふり構わずに後ろを走り抜ける。

 

 だが、体躯の差もあれば、身体能力にも差があった。全速力だとしても、両鎌で地面を掘削する衝撃が、背筋を段々と強く撫でて来る───そんな中、目前の足元に僅かだが、他と違って色が薄いタイルが視界に入った。

 

「ッ! よっしゃ来いバケモン!!」

『ギギィ!』

 

 その色の違うタイルを飛び越えると、一転して身を翻して向き合う。それに釣られて蟷螂の怪物は、まんまと突進の勢いを強め───そして。

 

『ギィィィィィィィィィ!!』

 

 四つ足の一つが、色の薄いタイルを踏み抜いた瞬間、閉ざされていたシャッターを豪快にぶち抜いて、真横から飛び出した無数の鉄杭が、魔物の全身を容赦なく貫いた。

 

「よっしゃぁ! 作戦成功!!」

『ギィィ! ギィィ! ギィィィィ!!』

 

 偶然とはいえ、咄嗟の賭けに見事引っかかった蟷螂の魔物は、反対側の壁にまで突き刺さった無数の鉄杭に貼り付けにされて、身動きの一つも取れない。それでも、榊へ必死に鎌を伸ばそうとするが、やがて水晶玉のような赤い目から光が消えると、ついぞピクリとも動かなくなった。

 

「やったぞコンチクショウ……!!」

 

 興奮と恐怖で忘れた呼吸を取り戻そうと息を吐いた時、自分を支えていた何かが抜け落ちたように、勝手に身体が尻もちを突いてしまう。

 

「……ギリギリ、なんて言えねぇな」

 

 磔にされた宙ぶらりんの蟷螂を呆然と眺める───何処か一つでも食い違っていれば、磔にされていたのは自分だろう。いや、その前にズタズタに切り裂かれていたのかも知れない。

 

 いずれにしろ、そんな一発即死の事態が起きても、この場ではそれこそが当たり前。それを今一度実感すると、勝手に足が震えてしまう。

 

「クソッ……こんな所で止まれっか!!」

 

 それでも──膝を力一杯殴りつける。鈍痛が両脚の感覚が奪うが、すくみ上がって動けなくなるより幾分マシだろう。

 

「アーチャーを探しに行かねぇと……」

 

 麻痺した脚の感覚を取り戻すと、立ち上がって当てもなく歩き始める。

 

 突然この蟷螂の怪物に襲われてから、アーチャーとはぐれてしまっている。そう簡単にやられるタマじゃないと思うが、別れてしまった以上、合流するのが筋だろう。

 

「大丈夫ですか」

 

 ───すると歩き始めて間もなく、横道にある連絡通路に繋がる階段から、先程別れたアーチャーが向こうからやって来た。

 

「アーチャー、無事だったか」

「私もです。全て撃ち抜きました」

 

 さも当たり前のように言ってみせるが──はぐれる直前、一匹だけに追われていた自分とは違い、あの蟷螂の怪物をおびき寄せていたアーチャーの姿を覚えている。そして、傷一つなく此処に居るという事は、つまりそういう事なのだろう。

 

「……サーヴァントってのは、どいつも化け物染みてんのか」

「それはサーヴァントによるとしか言えませんね。中には戦闘に向かない英霊もいるでしょう」

 

 だとしても、たった一匹の魔物相手に偶然で勝てたのに対し、アーチャーは当たり前のように無傷で勝利──規格外の存在である英霊と比べるのは、間違っているとは分かっていても、お門違いの無力感が身体から力を奪っていく。

 

「それに、貴方だって十分強いのでは? 複製体とは言え、蟷螂の魔物(エンプーサ)を倒して見せたのですから」

「マグレだよ───それに、こんなのを倒そうが、何の意味もねぇ」

 

 榊達の目的は魔物討伐などではない。此処の何処かに居る直葉達を救い出し、こんなフザケタ迷宮に閉じ込めた英霊をぶっ飛ばす事。それ以外は全てどうだって良い。

 

 それに───たった一匹魔物を倒せたくらいでは、榊の求める強さには辿り着ける筈が無い。

 

「行くぞ。早く直葉達を見つけねぇと」

 

 アーチャーと再度合流すると、榊はまた当てもなく歩き始める───だが数十歩いた先で榊の足が急に止まってしまった。

 

「……チィ! またかよ!!」

 

 榊が見据える通路の奥側──基本的に照明が付きっぱなしの地下通路が、そこだけ何故か壊れたように暗闇に満ちている。

 

 だが完全には壊れていないようで、弱い光が不安定に点滅している───そして、その中で黒い人影のような何かが待ち構えていた。

 

 ───不味い。アレは、さっきの蟷螂モドキとは比べ物にならない、もっと危険で野蛮な何かだ。蟷螂の魔物に首を切られかけたあの時よりも、断然濃く匂う死の香りに、一瞬だけ息が止まる。

 

「気をつけて下さい!!」

 

 榊では手に余ると、アーチャーがすぐさま前に出る。蟷螂の魔物に襲われても歪まなかったその眉間に、危険を知らせるような険しい皺が刻まれた。

 

 英霊であるアーチャーが反応せざるを得ない程の怪物──それが現れた事を察知し、榊も自然と拳を握って待ち受けてしまう──果たして蟷螂の次は何が出てくるのか、蛇か獅子が出てくるのか、無意識に詰る呼吸に息苦しさを覚える。

 

 ──そうして、一体どれくらい待ち構えていたのだろうか。たった数秒の間でも、何時間にも感じる中で、冷や汗が頬を伝って顎先から垂れ下がる。

 

「来ますッ!!」

 

 だが、通路の奥からその怪物が飛び出して来たのは一瞬だった。アーチャーが警告すると同時に、音をも置き去りにする速度で、紅の残影が闇を切り裂き、一気にこちらへと距離を詰めて来た。

 

「っぁ!!」

 

 そして次に閃くのは、庇うアーチャーの長弓と怪物が振るう武器が散らす極大の火花。太陽にすら劣らない激しい光に、榊の視界は一瞬の内に純白に染められる──だがそのお陰で、目が光に慣れた後に、火花で照らされたその正体を、榊は視認する事が出来た。

 

 そして、その怪物の正体を目撃した時、榊は網膜が焼き切れるような火花に関わず、目を見開いてしまった。

 

 何故なら、その正体は。

 

「セイバー!?」

「見つけたぞぉ!! アーチャァァァァァ!!」




因みに、エンプーサ―って性別的には女性らしいです。という事は、この蟷螂は雌だったのか……雌要素、ドコ?


『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

作品の高評価や感想は何時でも待っています!!


それとですが……




夏コミ、受かりました。

コレって、マジですか?

Fate/Red Knights について、聞きたい裏話はありますか?

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  • 話の裏設定・心情
  • ストーリー展開の創作事情
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