Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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狂える王の騎士

 ───その時、地上では突如として起こった異変に、群衆は慌てふためいていた。

 

『おい、アレなんだよ? 映画の撮影か?』

『そんなの聞いてないんだけど? 入れないの?』

 

 屯う群衆の中で、誰かがそれに指を指す。

 

 それは現代からすれば、余りにも似つかわしくない───中世造りの鉄の扉が、地下ストリートの入り口を何人たりとも拒むように、固く閉ざしていた。

 

『別の入り口も塞がれてるらしいぜ?』

『えっマジ?』

『マジだって。ほら、SNSでバズってるし』

 

 そう言う誰かが見せるSNSのタイムラインには、此処とは別の地下ストリートの入り口が、同じ鉄の門で閉ざされた画像がアップロードされている。

 

 そして、そのタイムラインに流れる鉄の門の写真は一つではない───SNSで『#神宿地下ストリート』と調べれば、同じような写真が無数に表示されている。

 

 その事実を掛け合わせれば、自然と今何が起こっているのか、その全体像がハッキリと見えてくる。

 

 即ち、神宿市全体を繋ぐように張り巡らされた地下ストリートは、突如として現れた鉄の門によって、一つ残らず塞がれている───そんな異変が発生していた。

 

『ちょwwwマジで触れんのwwwマジで鉄じゃんコレ』

『つぅーかー、ちょー邪魔なんだけどぉ、中で友達と待ち合わせしてんのにぃ』

『地下に居る人は大丈夫なのかしら……』

 

 だが、そんな異変の全体像を把握する処か、真に受ける人間など、誰一人としていない。

 

 ある青年は鉄の扉の前でSNSに上げる写真を撮影し、ある少女は待ち合わせに遅れる事を気にする。また、ある主婦は地下に取り残されているであろう人の安否をボヤくだけだ。

 

 地下ストリートの入り口に集まる多くの人間は、その鉄の扉を前にして、十人十色に行動を見せる───だが、それを異変だと認める者だけは、誰一人として居なかった。

 

 そもそも、普通の人間は、突如発生した異変を認知する事が出来ない。そういう脳の作りになっていない者にとって、この事態は日常と地続きの事象としてしか認知出来ないからだ。

 

 ───だからこそ、その異常を非現実と認める事が出来る存在は、何かが壊れている。

 

「……」

 

 有象無象が屯う群衆を割るように、一人の少女が真っ直ぐに閉ざされた地下ストリートの入り口へ向かっている。

 

『ッテェ! おいテ、メェ……』

 

 その少女と肩がぶつかった輩が、条件反射で怒鳴り散らかそうと声を張り上げようとするが、直ぐにその顔を真っ青に染めて、開き欠けた口を閉じた。

 

「……」

 

 ───その少女は、異質だった。着こなすチューブトップや綺麗に染めた金髪を濡らす塩水をヒタヒタと滴らせながら、さも幽鬼のような生気の無い足取りでフラフラと歩き彷徨っている。

 

 それは水辺から這い上がった死人の如き様相───だが、その眼は死んではいない。それどころか、瞳の内側は轟轟と燃え上がる憎悪によって、黒煙のように深く染まっていた。

 

『何あの女の子……怖いんだけど……』

『この辺で雨降ってた? めっちゃ濡れてんだけど……』

 

 そんな異質に映える少女に触れよう者など居ない。ただ一目見た直後に、触れてはならない存在だと気が付き、自ずと避けるように道を譲る───それが重なり、群がる人混みの中で、少女の為だけの一本道が出来上がっていた。

 

「……」

 

 ───ようやく群衆の中を抜け、少女が地下ストリートの入り口───今は鉄の扉へと続く階段を一段、また一段と踏みしめるように降りていく。

 

 そして、ついに全ての階段を降り切った後、未だに少女の存在よりも鉄の扉の前で記念撮影に勤しむ青年に、一言だけ声を掛けた。

 

「おい、テメェ」

『うぇ? なにお姉さん? 今俺写真とって』

「邪魔だ」

 

 直後、振り向いた青年の持つスマホを巻き込んで、少女が放った前蹴りが鉄の扉に突き刺さる───そして、その後に爆発するような衝撃と轟音が響き渡った。

 

『───へっ?』

 

 先程まで手に持っていたスマホが消えた事に驚くよりも先に、鉄の扉に反射する蹴りの衝撃に意識を掻き消されてしまう───そして、青年は打ち鳴らされた轟音に吹き飛ばされるように、そのまま白目を向いて倒れてしまった。

 

『えっ何!? 今何が起きたの!?』

『どっかで爆発事故!? ヤバくなかった!?』

『気のせいか……今、あの少女が蹴った瞬間に起きたような……』

 

 その時、異質な少女を遠巻きに見守っていただけの群衆には、一体何が起きたのか理解する由も無い。

 

 ただ群衆の前には、固く閉ざされていた筈の鉄の扉が、開け放たれたという結果だけが取り残された。

 

『エッ、扉開いてるんだけど……』

『ウソォ、ホントじゃん……でも、何か違くね?』

『何……コレ……』

 

 その開け放たれた鉄の扉の先を目撃した人々は、皆揃って狼狽と動揺で、己の目を疑った。

 

 そこにあるのは、何時もの見慣れた地下ストリートなどではない───闇だ。一寸先の光景すらも遮る闇が内側に張り付いている。それは鉄の扉の雰囲気と相まって、まるで地獄へ続く片道通路のようだった。

 

 そんな鉄の扉の先に広がる闇を見て、底知れぬ未知の恐怖に、集まった群衆の足が無意識に一歩退く。その闇の誘惑から少しでも遠ざかろうと、まるで本能がそうさせるように、全員がその場から距離を取った。

 

 だが、少女は退かない。寧ろ、鉄の扉の闇に向けて、自らその脚を踏み入れてみせた。

 

『ちょ! アンタ!! 危ないって!!』

 

 それに気づいた群衆の一人が、善意から慌てて止めようと、既に片足を闇に突っ込んだ少女に向かって叫ぶ。しかし、少女の耳には届いていないようだった。

 

「───アーチャー」

 

 少女はただ、鉄の扉の闇に身体を鎮める中で、ただ呪言のように何度も誰かの名前を反芻している。

 

「アーチャー……!!」

 

 ───闇の向こうへと少女が飲み込まれた時、それを見計らっていたかのように、一人で鉄の扉が閉ざされていく。

 

 そして、その扉が完全に閉ざされた時、少女の行方を知る者は、この場に誰一人として存在しなかった。

 


 動き回る骸骨は拳で殴り壊し、襲い来る巨大な蟷螂は首を捥いで黙らせる。途中、獅子と山羊が混同したようなバカデカいキメラに出会ったが、それも胴体を剣で切り刻んで肉塊に返す。

 

 兎に角、目の前に現れた邪魔な敵は全て殺し尽くす───まるで子供の癇癪のような暴れ方で、セイバーは次々と現れる怪物を相手に、我武者羅に殺戮を続けていた。

 

『ピギュゥ!?』

 

 セイバーの振るう斬撃が、最後の一匹である化け物を屠る。そしてドサリと肉が落ちる音を最後に、セイバーの周囲から迫りくる怪物達の足音は消えてなくなっていた。

 

「フゥ……フゥ……!!」

 

 ───掃き溜めのように無数に散らばった屍達に囲まれる中で、セイバーはようやく荒い呼吸で息をする───すると、腹の底からマグマの吹き溜まりのように、熱を帯びて粘つく衝動が、喉を背繰り上げた。

 

「オレは……」

 

 その瞬間、体内を巡る毛細血管の一つに至るまで、沸騰したような熱が駆け巡り、どうしようもなく溢れ返る憤りで、感情の制御が追い付かなくなってしまう。

 

「オレはぁ……!!」

 

 ───何故こうも苛立っている、何故こうも憤っている、何故こうも奴を憎んでいる。

 

 そんな理由など一つしか無いというのに、セイバーは熱暴走寸前の思考で延々と自問自答を繰り返してしまう。

 

 ───そんなのは、自分がアーチャーに敗北したからだというのにだ。

 

「オレはぁ!! 未だ負けてねぇ!!」

 

 地団太のように打ち付けた地面が、コンクリート片をバラ撒いて巨大な破壊跡を作り出す。認めたくない事実を踏み潰すように、その上で何度も足裏を刷り込ませる。

 

 ───だが、幾ら言葉で否定しようと、頭の中で何度もそれを反復しようとも、セイバーは認めてしまっている。

 

『2度は言いません、此処までとしましょう。セイバー』

 

 矢が頬を掠めたあの時、一瞬ではあったが───セイバーは己の死を悟ってしまった。もしも、寸分違わずにこの頭を狙われていれば最後、何の反応も出来ぬままに撃ち抜かれてしまっていた事を、頭ではなく魂で感じてしまっていた。

 

 それだけなら未だ良い───元より仮初の命などに興味は無い、死んだらそれまでだと諦めが付く。それよりもセイバーに最も突き刺さったのは、見逃されたという事実だ。

 

「ふざけるな……ふざけるなよアーチャァァ!!」

 

 騎士であるにも関わらず、守るべき存在を持って尚、死ぬまで戦う事も出来なかった───その事実が頭に過った瞬間、セイバーの怒り任せに振るった横薙ぎの斬撃が、降りた鉄のシャッターを薄紙のように切り裂いた。

 

 そう、そうだ───何度も否定しようとも、どれだけ怒りを発散しようとも、情けなくも敵に見逃され、おいおいと生き残ってしまったセイバーに、負け犬という不名誉が呪いのように憑り付いて来る。

 

「オレは……騎士だ! 王の騎士だ!!」

 

 それは王の騎士として、決して許してはならない汚名───そして何よりも、セイバー自身が、その不名誉を許す事が出来ない。

 

 セイバーが騎士でなくなってしまえば、そこには何も残らない。ただ何も成せず、何も得ずに、醜く朽ちていくのを待つ人間モドキにしかならない。そんな存在に成り果てれば最後、セイバーは本当の意味で死を迎える。

 

 ならば、どうすれば良い───この纏わり付いた汚名を脱ぎ払う事が出来る。

 

 その方法は、一つだけだ。

 

「殺す!! ゼッテェアイツを完膚なきまでに殺す!!」

 

 アーチャーが放っていた灼熱よりも沸騰するように怒りを滾らせ、狂気をも超えた執念がセイバーの脳髄の底までをも殺意で縛り付ける。

 

 汚名を晴らす方法など、一つしか無い───もう一度アーチャーと戦い、この手で殺す事だ。

 

「殺さねぇとオレはオレじゃねぇ!! 蹂躙する! 嬲り殺す!! 完膚なきまでにオレが殺す!!」

 

 そして、ただ殺すだけではダメだ。嬲り嘲り犯し蹂躙し、そして最後にはあの男の心臓に剣を突き立てる。己の存在証明の為に、己の全てを曝け出してでも勝ち切って、初めてセイバーは己を取り戻す。

 

 己という存在意義の証明、自己としての確立───騎士と言う皮を被ったそれらへの執着が、セイバーを常軌を逸した狂気の沼に落としていく。

 

 だからこそ、その僅かな機微に、セイバーは気が付く事が出来た。

 

「っ!!」

 

 匂う───鼻腔からではなく、直感を通して脳に直接感じる僅かな争いの火種。強者が待ち受ける予兆とも呼ぶべき、全身を目覚めさせるような臭いだ。

 

 それは正しく、アーチャーと対峙した時に感じた同じ匂い───だとすれば。

 

「そこかぁ……!!」

 

 その匂いがする方向へと振り向き、最早隠そうともしない底無しの殺意で全身の筋肉を怒張させる。

 

 この身に滲み出る殺気のせいか、途端に点滅を繰り返す照明に遮られ、その姿形こそは見えないが───この暗闇の通路の先に、奴が居る。

 

 ならば、躊躇う事はしない。この全身に流れる殺意の衝動のままに、周囲に転がる死骸を吹き飛ばす程の踏み込みで、一気に暗闇の通路へと踏み込んだ。

 

「見つけたぞぉ!! アーチャァァァァァ!!」

 

 狙う己の存在を否定した敵の首一つ、それ以外の物など、セイバーの眼中にも無い。




バチギレモードのセイバーです。
一帯何日ぶりの出番何でしょうか……少なくとも一か月は空いている気がする。

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

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