Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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気付けの一発

「見つけたぞぉ!! アーチャァァァァァ!!」

 

 極光の火花を散らす刃の向こう側で、セイバーの顔面が照らされる───それは正に修羅が宿ったかの如く、激しい憎悪を滲ませた鬼気迫る形相であった。

 

「ッ! セイバー! 貴方が何故此処に!!」

「ウルセェ!! テメェはゼッテェに殺す!!」

 

 アーチャーの咄嗟の問いかけにも応じず、前蹴りの返答が帰って来る。それは瀬戸際で釣り合っていた両者の均衡を大きく崩した。

 

「フッ!!」

 

 前蹴りに押されて仰け反った隙を、アーチャーは浮遊するかのような跳躍で埋める。

 

「逃げんじゃねぇぞ!!」

 

 だが、セイバーはそれを許さない。跳躍によって大きく離れた間合いを、背中から噴き出す赤雷が爆発したような突進で一気に潰しに掛かると、その勢いに乗じて右拳を振りかざした。

 

「ウッ……!!」

 

 人の形をしながらもライフル弾の速度と威力で打ち放たれた拳は、咄嗟に構えた長弓のガードをすり抜け、その美丈夫顔に突き刺さる。そして衝撃に抗う間もなく、その身体ごと大きく宙を舞い上がった。

 

「ッゥ……!!」

 

 しかし、地面に転がるような無様な真似は見せない。脚元から音を立てて吹き上げた蒼炎が勢いを殺し、宙を舞い上がる身体を回転交じりの姿勢制御で抑え込む。

 

 そして地に足を付けず、吹き上げる蒼炎で半ば浮遊状態のまま立ち直ると、アーチャーは口元から流れる一筋の血を、白手袋越しの親指で拭い取った。

 

「……どうやら、本気でお相手せねばならないようですね」

 

 ───その眼は、先程までのような紳士的に輝く瞳をしていない。冷徹なまでに血の通わない暗い光が宿っている。

 

「あぁその通りだ!! 本気で殺しに来いよアーチャァァァ!!」

 

 その眼を見て、セイバーは慄く処か寧ろ高揚に身体を奮い立たせている。まるで、それを待ち侘びたかのように荒げる語調が更に強まり、全身に帯電していた赤雷の奔流が、より一層強く光を濃くする。

 

 ───見るまでも無く、既にそれは始まっていた。

 

 始まったのは、聖杯によって呼び出された過去の英霊同士による殺し合い。常人には決して手の届く事のない、次元の違う至上の争いが巻き起ころうとしていた。

 

 

 

 

 

「待てよ、アーチャー」

 

 

 

 

 

 だが、榊がそれを許さない。

 

 

 

「下がってください。幾ら貴方のサーヴァントでも」

「大丈夫だアーチャー。テメェの出る幕じゃねぇ」

 

 折角のアーチャーの警告をも無視して、榊は二人が作り出した領域へと、ゆっくりとした歩みで踏み込んでいく。

 

 その歩みに対して、最も近い位置に居るセイバーが気付く事は無かった───それだけ目の前に居るアーチャー()が、どうしようもなく憎くてしょうがないのか、もしくは有象無象の雑魚には、それすらも必要ないのか。

 

 ───だったら丁度良い。これからやろうとしている事を考えれば、いっそ都合が良すぎるぐらいだ。

 

 そのまま何の気負いもする事無く、遂にはセイバーの背後にまで辿り着いてしまった。

 

「おい、セイバー」

「あぁ!?」

 

 背後にセイバーの肩をトントンと叩く。その激しい憎悪で歪んだ鬼気迫る形相が此方に向く───傍から見れば、それは睨み付けられるだけでも震え上がるに違いない。

 

 だが、榊は全く何も思わない。それよりも今なお腹の中で煮えくり返る衝動が、この全身に覚える感覚全てを塗り潰している。

 

 そもそも、そもそもだ───セイバーがアーチャーに対してブチ切れているように、榊もまたセイバーにブチ切れている。

 

 それはセイバーからすれば、知った事でも無いのかも知れない。今何が起きているのかも分からず、此処へ来ていると言うのであれば、正にその通りだろう。

 

 だが、そんな事は榊にはどうでも良い。

 

 戦うと決めた以上、そろそろ良い加減に、この関係も終わりにしないといけない───ただ状況に身を流されるままでは、何も護れはしない事を、榊は既に思い知っている。

 

「歯ぁ食い縛れ」

 

 だからこそ、一切の加減をしない右拳で、それが分からないセイバー(馬鹿)の顔面を思いっきりブン殴った。


「カッ……!!」

 

 憎き敵しか捕らえていなかったセイバーの視界がグラリと眩む。不意打ちで突き刺さった拳が、己の頬へ深く沈み込む。

 

 人理を超えた英霊であるセイバーからすれば、それは蚊に刺されたようなか弱い一撃───されど、今の殺気だった精神と肉体は、敵対行動に対して、裏拳と言う形で無意識に返してしまった。

 

「ゴバッ!!」

 

 拳を振るった相手が、薙ぎ払われた羽毛のように吹き飛ばされる。そして、閉まり切った店のシャッターをクシャクシャになる程の勢いで、背中からマトモに叩きつけられていった。

 

「ゲホッ! ガボッ!!」

「誰だ。邪魔すんじゃねぇ」

 

 吹き飛ばされた衝撃で息も出来ず藻掻き苦しむ敵を睨み付ける。だがその眼で正体を認識した時、憤怒で満ち満ちていた筈のセイバーは、ふと我に返ってしまう程の衝撃を覚えた。

 

「ガッ……ガァァ……テ、メェ……加減、しやがれ……!!」

 

 それは己のマスター、榊 浩一だった。

 

「マス、ター、か? どうして、此処に」

「んなの、テメェに、関係、ねぇだろうが」

 

 榊は痛みで覚束ないだろう足取りで立ち上がろうとするが、途中で膝がガクリと折れてしまう。だが、それでも凹んだシャッターの僅かな筋目に指を食い込ませて、その姿勢のまま踏ん張っている。

 

 しかし、その弱弱しい姿とは裏腹に、セイバーを捉える眼は死んでいない。

 

「テメェこそ、どうして、此処に居やがる」

 

 その眼は、セイバーがこの世に召喚された時のように、ただ現状を呆然と見つめる傍観者のそれではない。さも、己こそがこの場の支配者だと言わんばかりに、明確な自我を持っている。

 

「……コイツを、殺す為だ」

 

 その眼を見てしまえば、途端に過熱し切っていた頭が、冷や水を被ったかようにツンと醒めていく。怒りに身を任せるのではなく、節理を以て応えるべきだと、僅かばかりの理性がそう言っている。

 

「どういう理由で、コイツと居るのかは知らねぇが、マスターは引っ込んでろ」

 

 ───さりとて、セイバーから憎悪が消える訳ではない。

 

「オレはコイツを消す。消さなきゃならねぇ。じゃねぇと、オレがオレで無くなる」

 

 殺さなければ───いや、冷静になった今、殺すという表現は相応しくない。

 

 セイバーはこの世からアーチャーと言う存在を消さなければならない。一度、王の騎士としての己を侮辱したからには、死を以て償う他ないのだから。

 

 それだけは例え、マスターである榊の意思だろうと、決して変わる事は無い。

 

「あぁ───そう、かよ」

 

 それを聞き届ける否、榊は覚束ない足取りながらに、フラフラとセイバーに向かって歩き出すと。

 

「ウラァ!!」

「ッ!!」

 

 一切の躊躇いなく、そのドタマでセイバーの額へ頭突きを叩き込んだ。

 

「マスター、どういうつもりだ」

 

 今度は不意打ちではなく、堂々と真正面から。セイバーは微塵も痛みを感じない一撃に、何ら動じる事も無い。突然の榊の奇行にかくも冷静に問いを返す。

 

「オメェがアーチャーを恨む理由なんざ知らねぇ。んなのはクソ程興味もねぇっての」

 

 割れた額から伸びる血で、その眼を真っ赤に染めながらも、榊は依然として突き合わせた頭を下げようとしない。

 

 そして、二言。極めてシンプルに応える。

 

「黙って俺の言う事聞け。クソガキ(テメェ)の我儘に付き合う暇なんてねぇんだよ」

 

 それは今のセイバーが最も嫌う言葉───己よりも弱い存在からの指図だった。

 

「いつからオレに指図出来る程偉くなったんだテメェはぁぁぁ!!」

 

 最早、それは猛獣すらも逃げ出しかねない程の耳を劈く激しい咆哮。地上の重圧にも耐えうる地下通路が、まるでセイバーの憤怒を体現するかの如く震え上がる。

 

「───知るかよ」

 

 しかし、榊は動じる素振りすら見せない。

 

「テメェのチッセェプライドを満たすのに付き合ってられっか」

 

 一身に燃え盛るような憎悪の憤怒を受けているにも関わらず、鎧に跡が残りそうな程に強く肩を掴まれる。

 

 その時、深呼吸交じりの囁き声が、セイバーの耳にスルリと流れ込んだ。

 

「良く聞け。直葉が攫われた。今も此処のどっかに居る」

「ッ!?」

 

 マスターの妹が、この化け物蔓延る迷宮に居る───その事実を知った時、怒りで我を忘れていた筈の意識が一気に地へと足を付けた。

 

 どうしてマスターの妹が此処に、そもそもこの迷宮は何だ、何故マスターが此処に居る───それまで、怒りに囚われ見失っていた数々の疑問が、セイバーの頭の中でドッと押し寄せて来る。

 

「その上でもう一度聞くぞ。どうして此処に居やがる?」

「……」

 

 応えられる、筈が無い。荒れ狂うまでに、この身を動かしていた怒りや憎悪も、既に胸の内からは消え失せてしまっている。

 

 何も知らなかった先程までとは違い、セイバーは理解してしまった。今、此処に置いて誰よりも場違いなのは、己の復讐にのみ囚われていた自身であると。

 

「テメェ、いつか言ってたよな? 自分は騎士だってよ」

 

 その事実を咀嚼するには、セイバーは余りにも遅すぎた。故に言葉を失い、漫然と目を見開くばかりであった。

 

 だが、榊はそれを許さないとばかりに、血で濡れた額をもう一度突合わせる。そして吠えるように今一度、問いかける。

 

「だったら救ってみせろよ……!! こんなクソッたれな迷宮のどっかに居る直葉をよぉ!!」

 

 セイバーは、ただ己尾を侮辱した敵を殺すだけの獣か。

 

「それともテメェはチッセェプライドを護る為に騎士になったのか!!」

 

 それとも、マスターの大事な妹を護る為に戦う騎士であるのか。

 

「……」

 

 獣か、騎士か───そんなのは、決まっている。たかが自分のプライドだけで戦っているのであれば、とっくの昔に獣と成り果てている。

 

 だが、そうはならなかった。セイバーの行く末には、常に王と言う遥か遠くにありながらも燦然と輝く、たった一つの道標が存在していた。

 

 故に、セイバーは王の騎士として、その道標から外れるような真似はしない。一度は見失ったからこそ、今度こそ決して目を逸らしはしない。

 

 

 

 

 憤怒と憎悪によって曇ってしまっていたが、不本意ながら、この馬鹿のお陰で眼が覚めた。

 

 

 

 

「応えろよセイ」

「ウルセェ」

「ガッ!!」

 

 眼が覚めてしまえば、目の前で騒ぐ馬鹿の説教もうっとおしい。その喧しい口を頭が吹っ飛ぶ程度の裏拳一発で黙らせる。

 

「……これでチャラにしてやる」

「そうかよ……安いもんだぜ」

 

 口の端から零れる血雫を拭い取り、殴られたというのに殊勝にも笑って見せる始末。それを見ていると、多少イラつきはするが、気を張っていた肩からスッと力が抜け落ちる。

 

「───アーチャー、オレはまだ諦めた訳じゃねぇ」

 

 だがセイバーは、今一度自身の身体に気張る程の力を籠め、この状況を傍で黙って静観していたアーチャーへ向き直る。

 

 ───姿を見るだけでも、荒れ狂う程の憤怒と憎悪がまた込み上げてくる。

 

 殺意と事実は未だに消えない。騎士としての己に恥辱を与えた、この英雄の存在を忘れたくとも忘れる筈が無い。

 

「テメェは、いつか殺す」

「えぇお好きに。ですが、それは今ではありません」

 

 ただ、今はその時ではない。

 

 機が来れば、いずれ決着は付ける───いや、付けざるを得ないのだから。

 

「行くぞ、マスター」

 

 アーチャーを一瞥すると、セイバーは先んじて歩き出す。

 

 その姿には最早、獣の影は見えやしない。


「素晴らしい度胸です。あの狂犬を相手に、こうも真っ向から対峙するとは」

 

 割れた額から溢れる血を、脱いだジャージで拭っていると、アーチャーから賞賛と一緒に、何処から持ってきたのか包帯を手渡された。

 

「別に、そんな大層なモンじゃねぇよ」

 

 それを素直に受け取ると、包帯で額をグルグル巻きにして止血する。そして、また榊はもう一度立ち上がる。

 

「ただ、アイツが命賭けて戦ってんなら、俺も同じ所に立たねぇとって思っただけだ」




結局、拳が全てを解決するんや……不良漫画とかでもそうでしょ?


それとですが、来週は更新をお休みさせていただきます。
コミケの編集作業をやらねば……

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

作品の高評価や感想は何時でも待っています!!

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