Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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狂乱の始まり

 呼吸が、息が、心拍が荒くなる。爆発寸前の鼓動が、耳の無いあの怪物に聞こえてしまわないかと思うと、僅かに開いた視界がグニャリと歪んで、手足が神経を切られたかのように感覚を失っていく。

 

 身を寄せる曲がり角の向こうを覗けば、そこにはあるべき肉体を失っても尚、1人でに骨を奇妙に鳴らして彷徨う骸。その指に掛けられているのは、先程まで自分達に狙いを定めていた弓と矢。

 

「……!!」

 

 ───もし、あの窪んだ視界に入ってしまえば最後、自分達には命が無い。地下通りに反響する骨の軋みと地を擦る矢の音が、直葉に自分の胸を矢で貫かれる幻を鮮明に魅せる。

 

「……だい、じょうぶ。私は、大丈夫……」

 

 身体が恐怖に震えようとも、その精神だけは折れまいと、直葉は何度も口の中で念ずる。だが、それでも震えが収まらない。

 

 だが。

 

「スグハ。オチ、ツク」

 

 握られた手から伝わる、隣に居るパディの熱が直葉の震えを止めた。

 

 そうして、どれくらい経っただろうか。ジッと息を押し殺して耐えていると、不意に聞こえる音が自分の鼓動だけになった。

 

 ───もう一度曲がり角の先を覗くと、そこには既に骸骨の姿は見えなかった。それを確認すると、直葉はようやく生きた実感が戻って来たように、大きく息を吐き出した。

 

「ハァ……ハァ。も、もう。大丈夫だよ。パディちゃん」

「アリガトウ、スグハ……」

「ううん……アタシの方こそありがとうだよ……」

 

 パディが礼を言うが、寧ろこちらの方が礼を言いたいくらいだ。パディが手を握ってくれていなければ───いや、そもそもパディが居てくれなければ、この何処とも行方の知れない迷宮を前に、心が折れていたに違いない。

 

 そう思うと、本当にパディが居てくれて良かった───今更ながらに、そう強く実感しながらも空を見上げていると、ふと直葉の目に異様な物が入った。

 

「へっ?」

 

 何故今まで気が付かなかったのか───いや、地を這う迷宮の怪物を前に、天井を見上げる余裕など無かっただろう。だからこそ、そこに描かれた絵巻物のような壁画に気が付く事が出来なかった。

 

「パディちゃん、アレ……」

「スゴイ、キレイ……」

 

 思わず指差してそれを伝えようとするが、既にパディは直葉と同じように天井を見上げて、まるで魅了されたかのように呆然と見入っていた。

 

「……うん」

 

 それを肯定するように直葉も再度天井を見上げる、等間隔に埋め込まれたフロアライトの逆光を手で遮り、薄目で眺めてみれば、その抽象的な壁画の意味がクッキリと浮かび上がる。

 

 先ず最初は、牛の頭をした赤ん坊が母親らしき女性に抱かれている絵だろうか───人間離れした奇妙さを持った赤ん坊に対し、まるで聖母のように地合いと優しさに満ちた柔らかい笑みを、抱きかかえる女性は傾けている。

 

 次は、老人が大工に何かを命令して作らせている絵───その老人は荘厳な着振る舞いや頭に乗せた冠から、王様だと直ぐに分かった。そして命令されている大工らしき男は、何やら祠のような洞穴を作っている様子だった。

 

 その後は、牛の頭をした少年が大きな箱のような何かに閉じ込められる絵。こちらは先程までの壁絵とは違い、孤独を表すかのような薄暗い色合いで描かれており、その姿を見ているだけで、その少年の幼い孤独がヒシヒシと伝わってくるようだ。

 

 そして最後は───その少年が男に剣を突き立てられる絵。体が大きくなった牛の頭の少年は、赤い涙を流しながら、英雄のように立派な姿をした男に、剣で貫かれている絵だ。

 

「……」

 

 そうして4枚の壁画で構成された壁画が、天井一面に続いているのを見届けると、直葉は鬱々し気に下を向く───読了感、と言うべきなのか、その後にやって来たのは、まるで描かれていた牛頭の少年が感じたような孤独だった。

 

 きっと、少年もこの迷宮に取り残された自分達のように───いや、それ以上に孤独と絶望があったに違いない。

 

 日の光すらも届かない薄暗い地下で、誰にも縋る事も手を差し伸べられる事も無く、独りで生きていく。そんな絶望を考えてしまうと絵物語の中だけの筈なのに、直葉はどうしてもその牛頭の少年に報われて欲しいと、願ってしまう他無かった。

 

「そう、なの、かな……?」

 

 ───本当に、この絵は壁画の中だけなのか。まるで自分の考えを裏切るかのように、直葉は勝手に口から言葉が出てしまった。もしかしたら、自分はその孤独を持った人間を知っているような気がしてならない。

 

 だとすれば、この物語はもしかしたら───。

 

「スグ、ハ!!」

 

 しかし、それを考え付く暇も無く、焦ったように強く引き付けるパディの手に、現実へと引き戻される。その理由がどうしてかは、直葉は直ぐに理解した。

 

 通路の後ろ側、先程まで自分達が通って来た通路の向こう側から、ヒタヒタと素足で硬い床を歩くような人間染みた足音が聞こえる。

 

 そして、その足音が、歩調が分かるくらい鮮明に聞こえる程、既に近づいている事もまた、理解してしまった。

 

「早く逃げなきゃ……!!」

 

 急いでパディを引き連れ、通路の先へと逃げ込もうとするが、もう遅い。素手に足音の正体は、直葉からでも目に見えてしまっているぐらいにまで迫っていた。

 

 ───だが、その姿を見た時に直葉が感じたのは、怪物に対する恐怖や絶望ではなく。

 

 ただどうして此処に居るという戸惑いだった。

 

「バーサーカー!?」

 

 奇妙な牛の鉄仮面を被っていても、その大きな体や立ち姿を見間違う筈も無い。それは先程まで花畑で一緒に居たバーサーカーだった。

 

「え? え? どうして?」

 

 どうして此処に居るのか、そもそもどうやって迷宮に入って来たのか、何故素顔ではなく鉄仮面を被っているのか。無数の疑問がまるで階段のように積みあがっていく。

 

 ───しかし、そんな詰みあがった思考も一瞬で崩れ去る。限界まで張り詰めていた直葉の心の糸は、理屈や理論を超えて、突然現れた頼もしい存在を存在を前にして、かくも簡単に緩んでしまった。

 

「やったよパディちゃん!! バーサーカーが居たよ!! バーサーカーが居れば百人力だよ!!」

 

 こんな迷宮の中でとても頼りになるバーサーカーの存在にいっそ安堵を覚えていた。いっそ盲目的になって、バーサーカーに抱き着こうと走り出すくらいだった。

 

「……ダメ」

 

 だが、パディの顔は何故か曇っていた。それは明らかに、この迷宮に蔓延る怪物達を見るように────それ以上に、恐怖に顔を歪ませている。

 

 ───どうして、そんな顔をしているのか、直葉には分からないに違いない。自分を蔑む大人達から身を守る為に研ぎ澄まされた生存本能など、パディにしか持ち合わせていないのだから。

 

 そして、その生存本能が、あらゆる経験、怪物の中で、最も死の危険を鳴らしている事も、露知る筈も無い。

 

「スグハ!! アブナイ!!」

 

 走り出そうとしたその脚を、パディの切羽詰まった叫びに呼び止められてしまう。そして、直葉はその意味が分からず、首を傾げてしまう。

 

 ───その一瞬こそ、直葉の生死の境目となった。

 

「───エッ?」

 

 走っていた直葉の行き先には、堅い床を容易く両断する大斧の一撃が振り下ろされていた。

 

 その一撃を震えるのは、この場に1人しか居ない。

 

「ヴゥゥ……ヴァァァァァァァァァァァァァァ!!」

 

 振り下ろした大斧を2対携え、バーサーカーが荒れ狂う獣が如く吠える。大気を振るわし、空間全てを揺さぶるそれは───考えるまでも無く、敵を前にして威嚇する咆哮だった。

 

「バー、サー、カー?」

 

 さも爆発したような咆哮を前にし、斧を振るわれても尚、直葉は信じられずに問い掛ける。

 

「ゴロォ!! ズゥ!! ゴロズゥゥゴロズゥゥゥゥ!!」

 

 だが問い掛けても、鉄仮面越しに覗く紅に澱んだ目は、答えてくれなかった。




予告なしのお休みをしてしまい申し訳ございません!!

理由としては仕事上の理由で7月中は相当メンタルが終わっておりました……まだ完全復活ではないので、これからもちょくちょくお休みさせていただく事は有るかもしれませんが、それでもこの作品は続けていきたいと思います!!


『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

https://x.com/8f8qdLIQID34426

作品の高評価や感想は何時でも待っています!!

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