Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争   作:ビンカーフランス

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2人の守る理由

「スグハッ!!」

「きゃ!?」

 

 大斧が直葉へ振り下ろされる瞬間──パディは体ごと重心を放り出して、直葉を押し倒した。

 

「グゥ!?」

 

 無理な姿勢で飛び出したせいで、パディは受け身を取れず、足首に走った鈍い痛みに顔を歪める。それでも覆い被さるように直葉へ抱きついて、出来る限り姿勢を低くする。

 

 その瞬間、パディの直ぐ背後で、文字通りに地を裂く衝撃が炸裂した。

 

「うわぁ!?」

「スグハ!」

 

 刃先の風圧だけでも、身体が浮き上がる程の威力。弾ける床の瓦礫に紛れて、直葉とパディは纏めて吹き飛ばされてしまった。

 

「ウグッ!?」

 

 皮膚が瓦礫に切り裂かれ、真っ赤な血とヒリ付く痛みが灯る。ミキサーにでもかけられたように全身が痛み、視界がぐるりと回る。

 

「ッ……スグハッ!」

 

 そしてようやく吹き飛ぼされた身体が止まると、パディは直ぐに顔を上げる。

 

 ───少し探して、地面に転がったまま呆然と顔をが得る直葉を見つける。その表情は信じられない、信じたくないとばかりの感情で固まっていた。

 

 その気持ちは、パディも痛いほどわかる。あんなに優しくて、花が大好きなバーサーカーが、今目の前で自分達を殺そうとしている。そんな現実をパディだって認めたくはない。

 

 だが、それでもパディは立ち上がった。痛みで顔が歪んでも立ち上がり、転がるように走り出して、震えながらも直葉の手を強く掴んだ。

 

「スグハ! ニゲル!」

「でも……!」

「ハヤク!!」

 

 自分でも驚くほどの大声が勝手に喉から出た。しかし、それで直葉はハッとしたかのように我に返って、パディの手を取る。そうして二人は慌ててバーサーカーとは反対方向へと走り出し始めた。

 

「ヴァァァァァァァァァァ! ゴロズゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 一足遅れて、爆発したかのような咆哮が響き渡る。そして、次に背後から重い足取りが続く──その一歩一歩が地を揺らし、近づく度にパディの胸に冷たい恐怖が宿る。

 

「パディ……大丈夫?」

「ダイ、ジョウブ! デキル!」

 

 嘘だ、パディの足は既に限界に近かった。捻った足首が烈しく疼いて、一歩踏み出す度に何度も転びそうになる。

 

「ニゲ、ナキャ……ニゲナ、キャ……」

 

 それでも痛みを必死に堪えて走り出す。今逃げなければ、背後から迫るバーサーカーの餌食となる。

 

 だが───ふとパディの足がガクンと崩れた。捻った足首が限界を迎え、地面に膝をついて転ぶ──その瞬間、世界がスローモーションになったように感じた。

 

「───パディちゃん!」

 

 直葉の焦った声も何処か遠くに聞こえる。そうして他人事のような感覚のまま、パディは地面に膝を付いた。

 

「ニゲ、ナキャ……」

 

 バーサーカーは、死は待ってくれない。振り向けば、もうすぐそこまで来ている───だが足がピクリとも動かない。

 

 そして、パディは悟ってしまう。似たような経験は、インドのスラム街に居た頃に何度も経験して来た。だが、今回ばかりは逃れられないという事に。

 

 こういう時は決まって何を考えるのか───答えは無だ。ただ迫り来る死の予兆を前に、全身の感覚を怠惰に鈍らせ、何も気が付かないフリをして、そっと最後の時を待つ。

 

 それが自然、それが当たり前だと───今まではそう思っていた。

 

「イッテ……」

 

 だが、今は違った。動くはずの無い身体は、這いずってでも前に進もうとしている。感覚は鈍くなる処か、一瞬を逃さないとばかりに鋭く尖っている。

 

 どうして───どうして抗おうとしている。避けられないと分かっていながら、どうして必死になって生きようとしている。

 

 

 その理由は、今なら分かる。

 

 

「イッテ! スグハァ!」

 

 

 大事な友達の命を守る為、それだけだ。

 

 アーチャーに拾われるまでの自分には、価値なんてなかった。だけど、これまでの日々が───直葉と過ごした僅かな日々が、パディに意味(友達)を与えてくれた。

 

 与えてくれたからこそ、守りたい。守りたいからこそ、必死に生きようとしている。

 

 そんな単純な理由だからこそ───それしかないから、パディは迷わず友達の為に命を賭けられる。

 

「……」

 

 パディは一度、後ろを振り返ると、バーサーカーの姿がもう直ぐそこまで迫っていた。

 

 手に持った斧は、既にパディの身体を捉えており、後は振り下ろすだけでこの身体など簡単に裂けてしまうだろう。

 

『ごめんね、バーサーカー』

 

 パディに取って、バーサーカーも大事な友達に違いない。だからこそ、優しい友達に手を掛けさせる事に心が痛む。

 

 だけど、せめて自分一人だけであれば、最悪な結末は避けられる。それだけが唯一の救いだろうか。

 

「ジネェェェェェェェェェェェェッェェ!!」

 

 ようやく、斧が振り下ろされる。これで直葉が逃げる時間をどれだけ稼げるかは分からないが、少なくとも無意味なんかじゃない。

 

 死ぬ事が怖くないと言えば嘘になる。だけど、それで大事な友達が守れると言うのであれば、少しだけ笑う事が出来た。

 

 だから、悔いなんてない。これで良い───パディと言う少女の終わりは、コレで十分満足だ。

 

 

 

 

 

「ダメェェェェェェェェ!!」

 

 

 なのにどうして、助けに来てくれるの? 

 


 

 ───ずっと憧れていた。

 

 いつも、どんな時でも自分を助けてくれる、まるでスーパーヒーローのような兄の背中に。

 

 だけど、心の何処かで、憧れは出来ても成れはしないと思っていた。女だし、背も小さいチンチクリンだ。兄のように強くなれる筈が無いと、そう諦めていた。

 

 でも、違った。

 

 ここ数日で、直葉は兄の弱さを知った。兄がスーパーヒーローなんかじゃない、ただの人間だと分かっても、尚その背中に憧れ続けていた。

 

 ───思えば、兄は何時も必死だった。大事な物を守る為に、なりふり構わずひたすら走り続ける。そんなガムシャラな背中が誰よりも格好良く見えていたのだと気が付いた。

 

「私だって、兄ちゃんみたいに……!」

 

 だったら、なれる。自分も兄のように強くなれると知っている。

 

 例え力も無くて、頭も足りなくて、どれだけ矮小な存在だったとしても。

 

「兄ちゃんみたいに! 守るんだぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 大事な友達の為に、必死に足掻く覚悟さえあれば、きっと届く。

 

 走り出した勢いそのままに、膝をついたままのパディの前に飛び込む。そして、その小さな身体が、大斧の前に立ち塞がる。

 

「スグハ! アブナイ!!」

 

 パディの必死な叫びが背中を打つが、強く地面を踏みしめる。

 

 空気を裂いて迫り来る斧を前にして、直葉は目を逸らさない────怖くても大事な人の為に、立ち向かうと決めた覚悟は、決して嘘に等しない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、耳に響いたのは轟音だった。

 

「───エッ?」

 

 斧が直葉に触れるよりも早く、バーサーカーの横合いにあった壁が崩壊した。

 

 コンクリートの堅い壁が爆ぜ、瓦礫が飛び散る。粉塵が視界を白く覆い、地鳴りが大地を揺らす。

 

「ウグォォォォォォォォォ!!」

 

 崩れた瓦礫に呑まれて、バーサーカーが態勢を崩す。斧の軌道が逸れてしまい、直葉の真横を刃が空振った。

 

「───葉ァ!」

 

 崩壊してポッカリと空いた壁の向こう側から、瓦礫をよじ登る誰かの足音がする。

 

 その光景を前に、直葉は涙が零れてしまう。

 

 

 

 

 ───あぁ、やっぱり。

 

「直葉ァ! 居るかぁぁ!!」

 

 兄ちゃんは、私に取ってのスーパーヒーローだ。




ここ二カ月の間に色々とありまして、更新が途絶えて申し訳ございません……
これからはチョクチョクとですが、更新を続けていきたいと思います!!

『追伸』
X(旧Twitter)で投稿報告や、活動報告で裏話を投稿していますので、是非ともお暇な方は見に来てください。

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作品の高評価や感想は何時でも待っています!!

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