Fate/Red Knights 真性第四次聖杯戦争 作:ビンカーフランス
「一応、幾つかの推測はありますよ。例えば、先祖の方が魔術師で一部の力を受け継いでいるなどですかね。まぁ、有り得ない事では無いでしょうから」
「そういう事を聞きてぇんじゃねぇ!! 何で俺が巻き込まれてんだって聞いてんだよ!!」
目の前が真っ赤に染まる程の怒りに我慢出来ず、榊が長椅子を蹴りつける勢いで立ち上がると、静寂が似合う教会内に激しい叫び声が反響する。
──つまり、運が無かったというのか。偶々何かの縁で参加者の資格があって、偶々選ばれたからだと。だったら、そんな偶然の巡り合わせのせいで、二度も命を狙われたとなれば、その理不尽な運命に、どうしようもない怒りが込み上げて来てしまう。
「んな事はどうだって良いだろ」
しかし、そのどうしようなく込み上げる怒りは、刃のように研ぎ澄まされたセイバーのドスが効いた一声で切り捨てられてしまう。
「どんな奴だろうが、オレがマスターの敵をぶっ殺す。それの何が不満だ」
「っ! ……!!」
先端が良く研ぎ澄まされた矢のように向けられたスリット越しの眼光に、心臓が血流の循環を止めたような錯覚が走り、それ以上の言葉は喉が詰まって出なくなる。
「で、どうしますか?」
そして、榊が言葉に詰まっている中、問いかけながらもアクレスが一段ずつ仕立ての良い革靴を鳴らすように段差を降りていく。
「どう……って」
「貴方は聖杯に選ばれた参加者ですよ」
「っ!!」
遂に段差を降り切ったアクレスが此方に近づき、肩に手を差し伸べる。それを振り払おうにも、頭が突き付けられた現実と理不尽を受け入れられず、身体が思うように動かない。
「最早、貴方は聖杯戦争に参加せざるを得ない……貴方が願わなくとも、貴方は願いを勝ち取る権利を、その為に戦う義務を与えられたのです」
現実に縛り付けられ、身動きの取れない榊に対し、アクレスはその耳元に顔を寄せてソッと問いかける。
「さぁ、貴方は聖杯に何を願います? 魔術師と英霊の屍の上で何を望みますか」
まるで定められていた運命が回り出したかのように、あるいは誰かが描いた物語の序章のように、それは静かに血と欲望の匂いが意識に漂った。
「俺は……」
──聖杯に何を望むのか。もしも、生き残った先に万能の願望器を手に入れたとして、何を願うのか。富、名声、あるいは望み通りの成功、人並みに願う事は多くあっても、榊を聖杯戦争に駆り立てる欲望は無い。
だが、たった一つ。欲望ではなくとも後悔はあった。それは忘れたくても忘れられない、記憶の奥底に眠らせていた筈の記憶だ。
もし、叶うのであれば、あの日、あの時をもう一度──
『ごめ、んね……』
──頭の中で、アイツの声が、聞こえる。
血塗れの手、冷たくなる温度、優しい笑み。
それと──。
「そんなモン! ある訳ねぇだろ!!」
鮮明に思い返し始めた記憶を、榊は途端に切羽詰まった怒声で掻き消す。そして肩に添えられていたアクレスの手を乱暴に振り払う。
「俺をそんなモンに巻き込むんじゃねぇ!! 俺に願いなんてねぇんだよ!!」
願望なんてモノはない。そう知らしめるように怒声を振りまき、荒い息で肩を震わせると、榊はアクレスを力任せに突き飛ばした。
「何処へ?」
「ウルセェ!! テメェらに関係ねぇだろ!!」
明暗する視界とふら付いてしまう足取りながらも、体が勝手に動いてしまう外への扉へと引っ張られる。まるで、目の前の現実から逃げ出すかのようにフラフラと誘い込まれてしまう。
──兎に角、この嫌な感覚を掻き消したい。ハンマーでぶっ叩かれたかのような痛みが主張する頭を駆けずり回っている。心臓も強壮剤を注射されたように出鱈目に鼓動する。
そして、内に潜む汚い部分が。お前のせいだと、お前に何かを願う資格など無いと、姦しいぐらいに吠え散らかし、牙を剥いて心を蝕む。
「そうだ……俺には関係ねぇ」
遂に扉の前に辿り着き、その古ぼけた木目調を掌で押し開いた時、榊は誰に言う訳でも無く、容量一杯の思考からはみだした言葉が喉から落ちる。
「俺は……もう、繰り返さねぇ」
完全に開かれた教会外の景色は、来る時と変わらずに芝生と背が低い木々だけが広がっていた。そこへ眼前の自然に誘われるかのように、足が行く当てもなく勝手に動き出す。
その姿は、まるで形の無い誰かを追い求めるかのようだった。
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榊が教会を飛び出して、数分経っただろうか。その間はまるで時が止まったかのように、何も変わらなかった。
だがセイバーも長椅子の席から立つと、時が動き出す。
「そんじゃ、オレも行くぜ」
榊とは違い、立ち上がったセイバーはゆっくりとだが確かな足取りで長椅子の間を渡り歩き、同じ木目調の扉に辿り着くと、鎧を纏った前蹴り一発で荒々しく開け開いた。
「お待ちください。一つ聞かせて頂きたい事があります」
再び現れた外の世界を背景にするセイバーに、アクレスが呼び止める代わりに一つの疑問を問い掛ける。
「貴方は、どうして召喚に応じたのですか?」
それは打算など無い純粋な質問だった。アクレスの見立て通りであれば、おそらくセイバーの真名は神話の主人公や伝承の英雄、あるいはそれに類する者に違いない。だからこそ、純粋に興味が湧く。
──どうしてそのような大英霊が、魔術も覚悟も持ち合わせない只の人間に付き従おうとするのか。そこにどのような信念があるのかと。
「テメェに教える筋合いはねぇ。ただ──」
セイバーは答えるつもりは毛頭無いと言ったように、アクレスから顔を背けて一瞥する。だが、言葉だけは確と残した。
「俺は騎士として、王に顔向けできねぇ真似はしない」
そこに如何様な覚悟が込められているのか。推し量る事が出来なくとも、言葉の一つ一つの端々から立ち上る底知れぬ圧に、アクレスは思わず身震いを覚えた。
「じゃあな、あばよ」
そして、セイバーはマスターと同じように開かれた教会の出口から、暗闇が落ちる外の景色へと姿を消していく。
後に残ったのはアクレスと京子、そしてランサーのみ。
「良いのでしてか?」
榊とセイバーが消えるのを見計らっていたのか、京子は袖で隠していたほくそ笑む口元を晒す。
「何がですか?」
「惚けても無駄でして。貴方、嘘をついていたのでしてよ」
「そのような事はしませんよ。少しばかり説明が足りなかったですが、真実しか話していません」
人が悪い、と言うには余りにも確信的すぎるだろう。アクレスは自身の細やかな嘘を、京子に返す微笑で覆い隠す。
──聖杯戦争に参加した魔術師が生き残る方法は3つある。
一つ、聖杯を勝ち取り、その願いをかなえるまで戦う。
二つ、サーヴァントを失い、聖杯戦争から逃げ出す。
そして三つ、聖杯戦争の管理者である
「意図して喋らないのは、嘘を付く事と同義でしてよ」
しかしアクレスはそれを、ワザと言わなかった。それどころか、まるで戦うしかないと誘導しようとさえしていた。
魔術も何も知らない男を誑かして何が目的なのか。それを探るべく京子は人好きのする胡散臭い笑みを浮かべるアクレスを観察する。
「所でなのですが」
その視線を察知したのか、アクレスはそれに応えるかのように、ある質問を京子に返した。
「チェス──いや、此処では将棋ですか。そのゲームの中で、貴方が最も使い勝手の良い駒とは何ですか?」
何故、それを今聞くのか。その意図は分からないが、それが答えに通じるというのなら、京子は敢えて答えて見せる。
「香車。でしてかね」
将棋の達人であれば、飛車角、もしくは歩と答えるだろう。だが京子からしてみれば、どちらも両極端が過ぎる。
「飛車角のように重要でも無ければ、歩のように使えない訳ではない」
将棋において、縦横無尽に盤面を動き回る飛車角は確かに強い。だが、それ故に無暗に使い捨てる事も出来ず、ここぞという時にこそ動かせない。かと言って、歩は使い捨てるのは容易いが、扱うには能力が足りなさすぎる。
「その点、香車は良いのでして。飛車角のように重要でも無ければ、歩のように使えぬ訳ではない」
飛車角のように万能でなくとも、何処までも真っ直ぐに動ける突進力はある。歩のように数は無くとも、使い捨てても痛くはない駒。そのような駒は世の為政者に取って言えば、正に戦場の対局を握るキーと言っても過言ではないだろう。
だが、最も京子が気に入っている点は。
「何より、一度進んでしまえば、もう戻って来ない生き様。これほど扱い勝手の良い駒は無いのでして」
一度動けば敵陣の奥深くにまで突き刺さり、最後まで後ろに戻る事の出来ない鉄砲玉。そんな
そこでふと、京子は思いついた──いや、思いつかされてしまった。
セイバーという戦力を持ちながらも、戦う意思を持たない中途半端な存在。アクレスによって退路を断たれ、前に進む他無いと定められた哀れな弱者。
それはまるで、最も都合の良い駒<香車>のようではないか。
「……成る程」
瞬きにも満たない間に京子が細い瞼を閉じる──そして、再び目を開けた時には、その意味を理解したように、端が歪んだ醜い笑いを晒した。
「成る程……確かにこれは魅力的でしてね」
「察していただけて何よりです」
アクレスも京子も、薄ら笑みを浮かべて睨み合う。互いの腹の底が黒く染まっている事を理解したからこそ、合致する打算的な思考に辟易する所か、蠱惑的な魅力を理解している。
唯の有象無象の一般人を操る事など、京子にとっては至極容易い。しかも、それに付き従うセイバーは聖杯戦争における強力な切り札となる。
それを利用しない手など、京子には考えられない。
「そうとなれぼ……ランサー、ついてくるのでして」
「ハッ!!」
椅子の軋む音すらも鳴らさずに京子が立ち上がると、袖を大きく一振りする。それを合図にして、ランサーも胡座を解く。
「それでも、ご機嫌ようでして」
「えぇ、また会いましょう」
不自然な程に作り慣れている笑みを最後に、京子は2度も振り返らなかった。
「親方様。どうぞこちらへ」
「あら、感謝するのでして」
入り口前を陣取っていたランサーに扉を押し開かせると、京子もまた榊達と同じく、暗闇が落ちる田舎道の向こう側へと歩いていく。
「──先ずは、品定めでしてね」
その行き先は勿論、
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そして、最後に残ったのは、アクレス唯一人。騒ぐ者も信者も居ない孤独な教会で、開け放たれたままの扉に向かい、人差し指と親指で十字を切る。
「それでは、貴方達の結末に幸あらん事を」
運命に巻き込まれた者達を見送るその目は、限りなく慈愛に満ちている。
果たして、彼──もとい彼らは、どのような道を辿るのであろうか。それは誰にも分からないだろう。
だが、その最後はきっと、素晴らしい結末に彩られている。それだけはアクレスの中で確信を持っていた。
それは、あのステンドガラス越しに映る星空のように、遥か遠くにありながら、尚も煌めく星のように。
無限の彼方の理想に手を伸ばし、そして最後にはきっとたどり着けるだろう。
その時、ステンドガラスに彩られた上空を見つめていたアクレスの元に、開けっ放しになっていた扉の先から、誰かが入って来る足音が聞こえる。
「おや、貴方が来るとは思いもしませんでした」
視線を下げて、その姿を見た時に、アクレスは少しの驚きと共に、若干の嬉しさが込み上げた。
今宵もまた一人、新たに星を掴む者が現れた。
「それで、私に何用でしょうか?」
その事を歓迎するかのように、アクレスは問いかける。
すると来訪者は、若いながらの白髪から、僅かに瞳を覗かせた。
「敵を、教えてもらうか」
昔の主人公に何があったのか、そして利益とは何なのか……それについては、今後の展開で分かっていくと思います。
伏線の張り巡らせ方って、こんな風であってるんですかね……?
『追伸』
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