砂賊を追い払って一息ついたのもつかの間、突然地面を割って出てきた黄土色の
そんな中、レクシアは瞠目しながらも冷静さを保ちながら怪物を眺め「もしや」と呟いた。
「あれは
「とにかく撃退するぞ。主、姫とレクシア殿も下がっていてください! ――レヴァンティン!!」
『Bogenform』
シグナムが構えた瞬間、
「
『
現れた矢を素早く弦につがえながら
が――
『ガアアアァァァッ!!』
ゴーレムが荒い唸り声のようなものを発した瞬間、ゴーレムの周りに赤い膜が現れる。それにぶつかった瞬間、矢を覆うように燃えていた炎は掻き消え、矢も勢いを失ったようにそのまま砂の中に落ちていった。
「なにやってんだシグナム。ならあたしが――アイゼン!」
『Gigantform』
発声とともに巨大化する
それを見て――
「まずい!ヴィータ、逃げろ!!」
俺が叫んだ直後、怪物の右手から白色の光線が放たれる。ヴィータは片手を伸ばして防御魔法を張ろうとするが出てこず、迫りくる光線を前に腕で顔を庇おうとしたが――
「ヴィータちゃん!」
シャマルは叫ぶと同時に自身の前に環上になったクラールヴィントを張り、その間にできた“緑色の穴”に両手を突き出す。それと同時にヴィータの傍に同じ穴が開き、そこから伸びた手がヴィータを拾い上げ、“こちらに引っ張り込んだ”。
シャマルが使う空間魔法《旅の鏡》だ。
レクシアは関心の色を含んだ目でそれを眺めながら怪物に目を戻し、両手で杖を構え紫色の魔力弾を数発撃ち放つ。
だが、彼女が放った弾もゴーレムに届く前に霧散した。
「対魔力の
杖を構えた状態のまま尋ねてくるレクシアに、俺はゴーレムを睨みながら言葉を返す。
「だが、奴を放置すれば通りがかった通行人や商人が犠牲になってしまうかもしれない。それに最悪、俺たちを追って街までやってくるかもしれん」
奴からリンカーコアか魔力も取れるかもしれんしな。
と付け足した内心の一言に気づかず、レクシアは頷く。
「確かにな。あれが相手では小さな町や村など容易く滅ぼされてしまうだろう。“私たちの探し物”があの中にあるかもしれんし、正直ここでなんとかしておきたい。――ケントといったな? ここは組まんか。奴を破壊したら私たちはあのゴーレムを動かしている“動力”を貰う。それ以外はお前たちの好きにしていい。“イデアシード”とゴーレム以外にも色々眠ってあるかもしれん」
いや、気づかれているみたいだな。下手すれば《闇の書》のこともすぐ知られてしまうかも。
だが駆け引きをしている余裕はないし、この手の取引は違えない性格とみた。
「わかった。動力だのイデアシードはそっちが回収していい。とにかくまずはあの
俺が訊ねた瞬間、シャマルは大きく首を振った。
「い、いえ、難しいと思います。魔力自体が掻き消されているみたいですから、あのゴーレムの傍に《旅の鏡》を出現させてもすぐに消えてしまうかと……」
「そうか……」
申し訳なさげに否定するシャマルの返事を聞いて、案を引っ込めながら次の作戦を考える。そこでミリアムとジュセクを守るように立つザフィーラに目が移った。
――身体能力が高いこいつならあのゴーレムにダメージが与えられるんじゃ……ミリアムとジュセクなら俺たちが守ってやればいいし、一か八かザフィーラを向かわせて――。
「ご主人様――あぶない!!」
ザフィーラを向かわせようと決めかけたところでジュセクの声が響き、ゴーレムの方を見る。
その直後、ゴーレムは片足を上げて足元を蹴り跳ばし、けたたましい量の砂をぶつけてきた。
それを見て、ジュセクは思わずといった風に片腕を伸ばしかけるが――
「主、レクシア殿、そこから動かれるな!」
ザフィーラが前まで出て、突き出した右手の先から俺たちを囲むように白い障壁を張り、大量の砂を弾き上げる。
その隙をつくようにゴーレムが右手を突き出し光線を放ってきたのを見て、俺たちは自ら、ザフィーラはミリアムとジュセクを抱えながら跳んだ。
――やはり駄目だ。この状況で防御係のザフィーラを向かわせるのは危険すぎる。なんとか俺たちでゴーレムを倒すしかない。
「シグナム、隙を見てさっきみたいに弓のような形にしたレヴァンティンで奴を撃っていってくれ! 攻撃していくうちにジャマーって奴も消えるかもしれない! 他の皆も遠距離から攻撃できるができれば頼む!」
「は、はい! レヴァンティン!」
『Ja!』
ゴーレムの攻撃が収まったのを見て、シグナムは弓上にしたレヴァンティンを構え何発も弓を撃ち続ける。しかしやはり、彼女が放った弓はゴーレムに近付いた瞬間、炎と勢いを失いそのまま落ちていく。
「ヤロウ――アイゼン!」
『
舌打ちとともにヴィータは指先に現れた球をグラーフアイゼンで叩き、打ち放つ。が、それらもゴーレムに届く前に失速し、砂地に落ち埋もれていった。
そんな中……。
「プラズマ――スマッシャー!!」
レクシアが構えた杖から放たれた紫色の光線はジャマーを突き破り、ゴーレムの胸を撃ち貫いた。
が、その胸に空けた穴は小さく、ゴーレムはこちらに体を向け直してきた。
レクシアはすかさず自身の使い魔に命じる。
「ニコラ、私たちの前を駆けまわって向こうの目と攻撃を引き付けてくれ!」
「おう!」
主に命じられた瞬間、ニコラは“緑色の狼”になってゴーレムの前まで駆け出し、奴の周りを疾駆する。
その合間にレクシアは杖を構えながら魔力を込め、砲撃を撃ち放った。だが……。
「ちっ、キリがないな。こっちにもなんとかシステムがあれば、もっと大きな威力の攻撃を撃てるんだが――」
「“カートリッジシステム”のことか? 確かにレクシアの砲撃魔法にカートリッジの力を載せればかなりのダメージを与えられると思うが……」
シャマルあたりに頼めば何とかできるかもしれないが、さすがにそんなもの組み込んでる余裕はない。そもそも部品だって予備の
「……いや、もう一つ手があるかもしれん」
「何?」
おもむろに付け足すと、レクシアはザフィーラの後ろに立つ妹――ミリアムの方を見る。
「――おい、まさか!」
怒りのこもった俺の訊き返しに、レクシアは首を縦に振り。
「あの子、見たところ雷魔法の使い手だな。それも変換資質持ちの。しかもそのうえ《固有技能》を持つというベルカの王族だろう。――私が集めた魔力にあの子の技能を上乗せすれば、あのゴーレムに大穴を空けられるかもしれん」
「……どうやるつもりだ? ミリアムの技能は付与型じゃないぞ」
ミリアムの技能《磁器操作》は、あの子自身が加えた攻撃に磁気の力を加えることで威力を数倍にする術だ。レクシアに力を与えて彼女の攻撃の威力を底上げすることはできない。
が――
「まさか……お前の魔力を集めた杖をミリアムに撃たせる気か?」
無意識に声を険しくしながらの問いかけに、レクシアは平然と頷きを返した。
「そうだ。多少小型化すれば妹殿でも持てるはずだ。当然威力は落ちるが、磁力が付けられると思えば十分補える。お釣りの方が多すぎるぐらいだ」
「いや、無茶だ。あいつはまだ自分の技能を完全に使いこなせてるわけじゃない。反動でよろけて外すだけならまだしも、どこかの街や旅人に向かって撃ってしまったらどうする?」
「狙うのは、私たちから見て空中にあるゴーレムの胸だ。外しても空の彼方に向かっていくだけだ。地上に関しても探索魔法をかけてある。今この近くを通りがかっている通行者はいないし、向こうの方に街や集落はない。万が一の時は私が命を差し出してでも責任を取る。ここは私と妹殿の才を信じてやってくれ」
……そこまで言うとは。よほど“イデアシード”とやらが欲しいみたいだな。しかし、万が一のことを考えるとやはりミリアムにそんな事をさせるわけには――。
「兄さま、わたしやるよ! 」
「――ミリアム、聞いていたのか!?」
いつの間にか傍まできていた妹に、驚きながら訊ねる。そんな俺とレクシアに
「わたしの技能であの岩石オバケをたおせるなら、やらない手はないじゃない! それにさっきまでのおばさまを見て、わたしも砲撃魔法っての撃ってみたくなったもの!」
「……お前って奴は」
「おば……」
恐れ知らずな妹の発言に、俺は内心で頭を抱えレクシアは顔をピクリとさせる。
そして俺はちらりと仲間たちとゴーレムの様子を見るが、ゴーレムは深手を負うどころか、こっちが与えたダメージを修復しつつ反撃を繰り出している。このままだと奴を倒す前に、こっちの魔力が尽きかねない。
「……一度だけだ。一度だけならミリアムの技能を使わせてもいい。ただし二度以上は許さないし、無理そうだと思ったらすぐにやめさせる……いいな?」
「ああ、異存はない」
「うんっ! 一発でやっつけてやるんだから!!」
レクシアとミリアムは揃って頷きと返事を返す。
二人に頷きを返した
『アルカス・クルタス・エイギアス――』
レクシアは聞いたこともない言葉による呪文を唱えながら、杖に魔力を集めていく。ミリアムは技能と砲撃に備えて意識を集中させる。
俺はそんな彼女たちを守るよう前に立ちながら、陽動と攻撃を続けている仲間たちへの指示を出していた。
「…………」
その後ろでただ一人、戦う術を持たない
◆
「ヴィータちゃん、シグナム、攻撃が来るわ! いったん下がって!!」
シャマルの指示が飛んできた瞬間、ヴィータとシグナムは攻撃の手を止めて下がり、ゴーレムが飛ばしてきた光線を避けながら射程範囲外まで下がる。
「くそ、撃っても撃っても直りやがる。これじゃあ何百回攻撃しても終わらねえ」
「レクシア殿の魔力が溜まるまでの辛抱だ。それまで我々が凌ぐぞ」
毒づくヴィータにザフィーラが激励の言葉をかける。
次の攻撃が成功すれば、ゴーレムとジャマーに大きなダメージを与えることができる。失敗すれば新しい手を考えればいいし、攻撃していくうちに向こうにも何か不具合が起きるかもしれない。
そう思いながら次の攻撃に移ろうとしたところで――
『バルエル・ザルエル・ブラウゼル――溜まった! ケント、騎士たちを下がらせろ!」
「――よし! ヴォルケンリッター、ニコラ、すぐそこを離れろ!! これから砲撃する!」
「みんな、殿下の言う通り、すぐ離れて!!」
俺とシャマルの言葉が届いたのか、レクシアたちの方に渦巻く魔力に危機感を覚えたのか、シグナムやザフィーラはもちろん、ヴィータも文句ひとつ零さずその場から離れる。
それを見ながら、レクシアはわずかに小さくした砲杖をミリアムに渡した。
「これをあいつに向けて撃つんだ。できるな?」
その言葉にミリアムは強い笑みと頷きを返す。
「うん! それぐらい楽勝よ! おばさま」
「おばさまはやめろ。私はまだ20だ。呼ばせ方も考えねばならんな……しっかり持てよ」
杖を渡された瞬間、ミリアムは「おっと」と零しながら足をふらつかせる。慌てて彼女を支えようとした俺をよそに、ミリアムはレクシアを真似るように両手で杖を持ち上げた。
「固有技能《磁気操作》――いくよ!」
技能を発動させた瞬間、ミリアムの右眼が金色に戻る。
金色の右眼と紫の左目を目いっぱいに開きながらゴーレムを見据え――
「受けなさい。今の私の
ミリアムが叫びながら杖を突き出した瞬間、紫色の稲妻を纏った金色の光線が放たれ、ゴーレムに向かっていく。
それを見たように、ゴーレムの前に赤い
が――
「――いかん、わずかに逸れた!」
レクシアが言った通り、光線はゴーレムの胸ではなく脇腹に当たる。
光線を撃った瞬間、反動に耐え切れずミリアムの足元がふらつき標準がズレてしまったのだ。
その隙を突くようにゴーレムはこちらを――ミリアムを向き、口元から白い光を吐き出した。
「やばい――ミリアム!」
俺はとっさに妹を庇うように彼女の前に立つ。
こうなったらせめて、俺の技能でミリアムだけでも――
「الرمال المتساقطة على الأرض تحمينا(大地を覆う砂達よ、私たちを守りなさい!)」
だが、そこでジュセクが俺たちの前に飛びだし、右手を突き出して、レクシアが呟いていた呪文とも全く異なる呪文(?)を唱える。
次の瞬間、俺たちの周りを覆う無数の砂が嵐のように舞い飛びゴーレムが吐き出した光を受け止めた。
その光景に、俺たち兄妹も守護騎士も、レクシアとニコラも大きく目を剥いて驚く。
そんな中、ジュセクが振り返り――。
「ご主人様、今です――!!」
「お、おう!」
彼女の一喝に応じ、俺は
あのダメージならジャマーにも影響が出て、
「喰らえ――フレースブレイカー!!」
俺は両手で剣を構え持ち、光を吐き終えたゴーレムに向けて、挑戦の言葉と紺色の砲撃を撃ち出す。
俺が放った砲撃はゴーレムの中心を貫き、その中にあった“赤色の物体”を弾き飛ばした。
すると……。
『グッ……オオオオォォォ……』
ゴーレムは断末魔のような声を漏らし、その場に倒れ、バラバラに砕け散っていく。
その残骸は瞬く間に形を変え、ぼろぼろに崩壊した建造物になっていった。
「……あの遺跡がゴーレムの正体だったのか?」
思わずつぶやく俺の横でレクシアは頷く。
「おそらくな。遺跡の防衛機能が働いたか、私たちから逃げようとした砂賊どもの願いにロストロギアが反応して、遺跡を
呟きを零しながらレクシアはゴーレムの中に入っていた“物体”が落ちた方へ歩いていく。
そしてニコラを呼び、素手で砂を掘りかえす彼女とともに自らも杖で砂を払い上げ、そこに埋まっていた“赤い菱形の宝石”を拾い上げた。
「《イデアシード》――間違いない。やはりここに眠っていたか」
「なんだよそれ。ただの石ころにしか見えねえけど、そんなもんのために命張ってたのか」
ヴィータの呆れ交じりの言葉にレクシアも苦笑を浮かべながら頷く。
「ああ。こう見えて危険でなおかつ貴重な
その申し出に俺はシグナムたちと目配せしてから……。
「助けられたのはこっちだし気にしなくてもいいと言いたいが、一緒に町まで行くのは賛成だ。砂賊がまだ近くに潜んでいるかもしれないし、連中も使っていたトファシュの魔法は俺たちが知ってるものとは全く違う。ここは一緒に言った方がいいだろう。お前たちもいいな?」
俺の言葉に守護騎士とミリアムも頷く。
かくして俺たちはミッドチルダから来た魔導師と使い魔とともに、南西の町に向かうことになった。
◇
「な……なんなんだあいつらは?」
ケントたち一行が去った後、岩場に隠れていた砂賊の頭目が体を引きずるようにして姿を現す。そしてあたりを見回し、連中はいないか確認してほっと息をついた。
もう連中に報復する気などない。魔法を無効化する巨大な怪物を破壊するような連中など二度と会いたくもないし、それに……。
「“色違いの目”と“砂を操る力”……あれは砂王様の一族だけが持っているはずの力……まさかあの奴隷……いや、
「……あの御方は、なんだ?」
「――!」
突然頭上から降ってきた声に反応し、頭目は顔をあげる。
そこには露出の高い衣を着た白色肌の女が立っていた。
南大陸の国々をルーツに持つトファシュでは、“預言者クシャム”の教えに従って、女は男の情欲を誘わないように顔と手以外の肌を隠す風習がある。
例外は国や民の“所有物”である奴隷のみだった。その証拠に女の首元には奴隷の証である『従属の首輪』がある。
しかし、“神”の依り代である血と同色の赤い衣は神職に就く者にしか着ることを許されていない。そんなものを着ている奴隷となると……。
「『
頭目は体を起こしながら、脅かすように声を張り上げる。
が……
「そうもいかない」
『神奴』たる女がそう告げながら頭目に向けて手を
(の、喉、身体が渇く……体中からどんどん水がなくなっているような……こ、これは……)
「お前は先ほど何を見た? 何者に会った? 答えなければ……」
女が尋ねている間も男から何かが絞り上げられ、体中が干上がっていく。
今まで感じたこともないほどの暑さと渇きに苦しみながら。
「わ……わかった。教える……教えるからみ、水をくれ……でないと…………」
「何を見た? 何者に会った? それを答えてからだ」
女は無情に問いを重ねる。男は地獄を思わせるほどの苦しみをこらえながらぽつぽつと、自分が見たものと遭遇した者たちの事を話していく。
そしてようやく……。
「やはり……『聖神官』様のお告げどおりか。もうよい。では水を飲ませてやろう……と思ったが、その成りでは不要だろう」
女は懐に入れかけた手を下ろしながら吐き捨て、足元に浮かべた魔法陣とともに姿を消す。
そして残されたのは、カラカラに干上がった男の形をした“干物”だけだった。