冷砂の王国 ―グランダムの愚王IF―   作:ヒアデス

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第12話 紫の歌姫と紅の舞い手

 

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『ユネメク女王陛下が観覧される中、遂に始まりました! トファシュ王国最大の祭典『舞踊会』!

 僭越ながら実況は(わたくし)、リオ・ウヅキが務めさせていただきます。故郷では『ウズリオ』って呼ばれてますのでそう呼んでください。

 それでは早速、最初の演者に登場していただきましょう! 最初に演目を披露するのはーー!』

 

 先史時代から伝わる“マイク”という拡声器を通して、ウズリオという司会の声が会場中に響く中、露出の高い恰好をした踊り子が舞台に上がり、褐色色の長い手足を晒し魅惑的な踊りを披露する。

 

 あれがトファシュに伝わる“ベリーダンス”か。

 

 そんな事を思いながら舞台上に目をやった瞬間、横から冷たい視線を感じた。ヴィータとシグナムだ。

 

「なんだよ?」

 

 声を低くして尋ねるとヴィータは肩を竦めながら首を振り、

 

「いやいや、主も男だってわかってっから。あたしらのことは気にせずじっくり鼻の下伸ばして観てなよ」

 

「ただし、目的はお忘れなきよう願います。失敗すれば当分女王に接触することはできなくなりますから」

 

 シグナムも冷たさを帯びた声で釘を刺してくる。こんな中じゃどうしても舞台に目がいくんだっての。

 

「じゃあ、私とジュセクちゃんは着替えに行ってきます。行きましょ」

 

「はい!」

 

 ジュセクは頷き、シャマルとともに更衣室まで向かいかける。が――

 

「待った! ザフィーラ、二人についていってやってくれ。更衣室までならいいだろう?」

 

 そう言うとザフィーラは意外そうに目を見張り、

 

「よろしいのですか? 私は姫君の護衛を――」

 

 ザフィーラが言いかけたところで俺は首を振る。

 

「あいつにはレクシアとニコラがいる。ミリアムを含め暴漢なんかにやられるタマでもないしな。しかも今は三人とも控室へ行ってる。俺に護衛は要らないし、ジュセクとシャマルを守っててやってくれ」

 

「……わかりました」

 

 一言返事を返すとザフィーラも二人とともに会場を出る。

 その間に最初の踊りが終わり、次の踊り子が打楽器を持った男とともに壇上に現れた。

 さすがにここまで経ってヴィータとシグナムも俺に白い目を向けてくることはなく、三人並んで踊りや歌を見聞きし、ジュセクの番を待つ。

 そうして何人もの踊り子と歌い手を見送ったところで――

 

 

『ありがとうございます! では続いて現れるのは、舞踊会のために遥々(はるばる)北の町からやってきた――《紫の歌姫》ミリーちゃんです!!』

 

 ミリー?

 その名を聞いて俺たちの頭上に『まさか』という言葉が浮かぶ。

 その直後、壇上にまばゆい(ライト)が差し込まれ――

 

 

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『はーい♪ ミリーで~~す♪♪』

 

 

「…………」

 

 壇上に現れた歌姫()()()を見て俺たちはあんぐり口を開ける。

 ミリーと名乗る歌姫は手持ち型のマイクを持ち上げ、満面の笑みを浮かべながらよく通る声を発した。

 

『こんにちわー! 《紫の歌姫》ミリーです。舞踊会の開催と女王さまがくると聞いて、お兄さまやお師匠さまたちと一緒にこの街まできました。今日は女王さまと皆さん、そして愛しのお兄さまにあたしの歌を聞かせてあげたいと思います。聞いてください、あたしのはじめての歌(デビューソング)――

 『妹の方がいいじゃない♪』

 

 甲高く曲名を告げた瞬間、どこからともなく軽快な曲が流れだす。

 そんな中ミリーはマイクを口元に近づけ、軽やかな声で歌い始めた。

 

『最近、おにいさまのまわりにはきれいな人がいっぱい♪ だけど、どんな女の人だって~、血のつながった妹にはかなわないんだから〜〜妹の方がいいじゃない♪♪』」

 

 ミリーが歌い出した瞬間、最初は怪訝な顔をしていた観客たちもその歌声と今までの歌や曲とは違う曲調に引き込まれ、声援を送りだす。

 そんな中……

 

「なんだ、あれ?」

 

 ヴィータは戸惑いと呆れが混じった呟きを漏らす。彼女が言わなければ俺もまったく同じ言葉を吐き出すところだった。

 ――何やってんだミリアムのやつ!?

 

「ミリーちゃんさま~~! こっち向いてーー♡♡」

「静かにしてください! こんなところで目立つわけにいきませんから!!」

「あの子がケントのいもうと?」

「うん……でも今は関わらないほうがよさそうだね」

 

 ……観客たちの中にトファシュにいるはずのない者たちが混じっているような気がする。が、おそらく幻聴と幻覚だろう。絶対そうだ……。

 

 しかしあんな衣装、トファシュはもちろん他のベルカの国にもない。ということは……。

 

「どうだケント、妹の晴れ姿とミッドで流行っている舞台(ステージ)衣装は?」

 

 いつのまに戻ってきたのか、レクシアは得意げな笑みを浮かべながら尋ねてくる。

 俺は半目で彼女を見、

 

「うちの妹を着せ替え人形にするのはやめてくれ。グランダムの王女があんな格好で人前に出ていると知ったら、父上と母上も卒倒するぞ」

 

 レクシアに家庭教師を頼んだのは失敗だったかもしれん。そう思う俺とは反対にレクシアは可笑しそうに笑い声をあげた。

 

「すまんすまん。しかし本人も楽しそうにしているし、この日のために勉強や私の(しご)きを乗り越えてきたんだ。両親の目や王女という肩書もないんだし、祭りに参加している時ぐらい大目に見てやれ」

 

「……」

 

 そう言われると反論できない。あれこれ厳しく指導され堅苦しそうに歌っていた本国の時より、今の方が生き生きしている。

 俺たちや喚声を上げる観客の前でミリアムは声と体を弾ませながら熱唱する。遥か上の観覧席に座る女王も幼い歌姫を見て、柔らかい微笑みを浮かべているように見えた。

 

 

 

 

 

 

 その頃、更衣室にて。

 舞台衣装に着替え終わったシャマルはジュセクの格好を見て、思わず呟いた。

 

「すごい恰好……本当にそんな格好で人前に出るの?」

 

 一方、彼女とは逆にジュセクは平気そうな様子で言葉を返す。

 

「普段は肌を隠した格好をしてますから。解放感があって気分がいいくらいです。シャマル様こそ大丈夫ですか?」

 

 そう尋ねられ、シャマルは顔を赤くする。

 シャマルもいつもと比べ剥き出しの肩や胸元など露出のある衣装を着ている。が、ジュセクに比べればましな方だった。

 控えめなジュセクが“こんな格好”をしてまで、舞台に上がりたがるのは――

 

「ジュセクちゃん、あの女王様ってもしかして――」

 

 訊ねかけるシャマルだったが、それを遮るようにジュセクが返事を被せた。

 

「行きましょうシャマル様! 遅れたら棄権にされちゃいます!」

 

 そう言ってジュセクはシャマルの手を引き、強引に舞台へ向かう。

 いつもと違う彼女に、シャマルは確信と“何か”が起こりそうな予感を覚えずにいられなかった。

 

 

 

 

 

『いつか絶対お兄さまをメロメロにしちゃうんだから~~♪♪』

 

 決意表明じみた最後のフレーズを叫んだ瞬間、観客はつんざくような歓声とともに――

 

テクラー(アンコール)! テックラー(アンコール)!!」

 

 多くの観客が手拍子を鳴らし、再唱を希望する。ミリアムも機嫌よく応じようとするが……。

 

『あーっと残念! テクラーを求められている所申し訳ありませんが、時間になりましたのでミリーちゃんの歌はここまでです。

 次は《紅の舞い手》ジュセクさんです! どうぞ〜!!』

 

 ウズリオが名を呼んだ直後、どこからともなく管楽器の音が響く。それとともに露出の高い衣装に身を包んだ女子(おなご)が舞台に躍り出てきた。

 

 

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 トファシュの衣装を着たシャマルが奏でる管の音色をバックに、ジュセクは真っ白な肌を惜しげもなく晒し、鮮やかな舞いを披露する。首に付いたままの奴隷用の首輪など、装飾品に紛れてまったく目立たなかった。いや、装飾品などなくても、あの踊りを見て首輪など気にする者などいまい。

 他の観衆も目を奪われ、ざわめきも立てず彼女の踊りに見入っていた。

 

「〜〜、ふふ」

 

 踊っている最中、彼女は俺の方を見、妖艶な笑みを浮かべる。

 それを見た瞬間、どきりと胸が高鳴った。

 こんな気持ち、今まで感じたこともない……。

 

 

 

 

 

 

「うそでしょ……」

 

 一方、女王ユネメクも自身に瓜二つな踊り子と彼女の舞を見て思わず立ち上がり、愕然と呟きを漏らした。

 

……ユネ様、どうしてこんなところに?

 

 

 

 

 自らの想いに気付きつつあるケント、主の姿を見て慄く女王()()()()()()()者、何も知らず彼女の踊りに目を奪われる観衆。様々な視線の中でジュセク、いや“本物のユネメク”は舞台の上で舞い続ける。

 先王の寵姫を務めた亡き母から習った“赤砂(せきさ)の演舞”を。




途中で現れた四人組はケントの幻覚です。本編には登場しません。
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