冷砂の王国 ―グランダムの愚王IF―   作:ヒアデス

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第7話 魔導師レクシアと使い魔ニコラ

 国境の街からやや南西にある遺跡群。

 そこに露出の高い衣装を着た黒髪黒衣の魔導師と、彼女とは逆に白いローブを纏った短い緑髪の少女がいた。街にいた時とは違い、少女も今は白い肌を晒しスカーフを取った頭には犬のような耳が生えている。

 

 

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「さて、問題は“例のもの”がここにあるかだが。ニコラ、それらしい匂いはないか?」

 

「くんくん……うーん、それっぽい匂いは――って、見たことも嗅いだこともない石ころの匂いなんかわかるかい!!」

 

 鼻をすんすんさせながら半周したところでニコラは主に突っ込みを入れる。それを見て彼女の主――レクシア・テスタロッサは肩をすくめた。もっとも、狼の《使い魔》とはいえ宝石状の、ましてや一度も手にしたことがない“遺失物(ロストロギア)”の匂いなんか辿れるはずもないのは尺も承知だが。

 

「サニーから聞いた伝承通りなら、“あれ”の近くで下手に魔力を使う真似はしたくないんだがな……んっ?」

 

 頭を掻いてぼやきながらあたりを窺ったところで砂埃が舞っているのが見えた。

 砂嵐……にしては規模が小さい。まさか――。

 

 もしやとレクシアとニコラが目をすがめたところで、遺跡を囲む砂丘をくぐってラクダに乗った数十人ほどの男が向かってくるのが見えた。ほとんどの者が寒さ避けに厚手のトーブを着込み、頭にターバンを巻いている。

 彼らはレクシアとニコラを囲みながらラクダを止め、二十人ほどが反りの入った剣やずっしりした頭部を付けた槌矛(メイス)を手に地面に降り、レクシアたちににじり寄った。

 

「何の用だ? 私たちは探し物で忙しいんだが」

 

 問いかけるレクシアを見て男たちは下品な笑みを漏らし、口々に言葉を放った。

 

「お前ら、もしかして遺跡のお宝ってやつを探しに来たのか?」

 

「見ての通りここは廃墟だ。こんなところには何もないぜ」

 

「最近、砂賊たちがこのあたりをうろついててよ。奴らに捕まったら散々嬲りものにされた上に奴隷として売られちまう。悪いことは言わねえ。早いうちに街に戻った方がいい。俺たちが連れてってやるよ」

 

 周りの者たちより半回り年長の髭面の男はそう言ってレクシアに片手を伸ばす。その目と笑みには獲物を前にした獰猛さとこの国では見ない妖艶な雰囲気の美女を好きにできるかもしれない期待が宿っていた。

 レクシアはそれを察し、男の手を払おうとするように手を振りながら言った。

 

「遠慮する。もうあの街に戻るつもりはないし、他の街への移動も自分たちで何とかする。それに――私にはお前たちがその砂賊たちに見えるのだが」

 

 目を吊り上げて訊ねるレクシアに、男たちは隠す様子もなく「ぐひひ」と笑いを漏らし得物を持ち上げる。せっかくの獲物を傷つけるつもりはないが、気の強そうな女と子供を脅しつけるには十分だろう。

 だが、砂賊たちの思惑とは逆にレクシアはあきれように指輪を嵌めた腕を掲げ、ニコラも目を鋭くして前屈みになる。

 だが――

 

 

――待て!!

 

「――!?」

「……えっ?」

 

 突然響いた声にレクシアとニコラは思わず目を見張りながらそちらに顔を向け、賊たちも「なんだぁ?」と吐き捨てながら引きつった顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 適当なところでラクダを乗り捨て、遺跡まで飛んできた俺たちが見たのは昨日ぶつかった黒衣の女魔導師と緑髪の少女と彼らを囲む大勢の賊たちだった。

 声を上げたのが功を奏して皆こちらに気づき、怪訝そうなあるいは不機嫌そうな顔と視線を向けてくる。一方、ミリアムを抱えるシャマルとジュセクを抱えるザフィーラはいざという時二人を逃がしてもらえるように後ろに飛んでもらっているが。

 

「なんだあいつらは? 撃ち落とすか?」

「待て! “商品”と“奉仕役”を増やせるかもしれん。俺が命令するまで撃つな」

 

 俺たちに向けて右手をかざそうとした手下を片手で制し、頭目らしき男と十人ほどの手下が俺たちの方に近付く。俺たちは彼らから数十歩離れたところに降り立った。

 

「こんな大勢で女人(にょにん)を取り囲んで何をしているんだ? 大した用がないなら早く解放してやれ。彼女は俺たちが街まで送り返す」

 

「俺たちが送り返すだぁ? んなこと言ってどっかの物陰に連れ込んでエロいことするつもりじゃねえのか?」

 

「それだけ女がいりゃ十分だろう。むしろ俺たちにも分けてくれよ。お前らにはガキ二人残せば十分だろう」

 

 ヴィータとミリアムを見ながら言った一言に、他の賊たちもがっはっはっと笑い声を飛ばす。それを聞いて二人はむっと目を吊り上げた。

 それを制するように俺は口を開いた。

 

「大勢で取り囲んでいるお前らよりはましだと思うぞ。なんなら俺たちのどちらについていくか件の女人に訊いてみるか?」

 

 女に訊ねると賊たちの何人かも彼女に顔を向ける。彼女ははっと笑い飛ばすような声を漏らしながら口を開いた。

 

「さっき言った通り、あの街に戻る気はないし私たち二人だけで十分だが――どちらと行くかと聞かれたらそこの坊やたちの方がまだマシだ(守護獣と思しき男や“あの二人”は興味がなくもないしな)。そういうわけで君たちの出る幕はない。邪魔だからさっさと去るといい。こんな“廃墟”には何もないのだろう?」

 

「このアマ……」

 

 賊の一人が青筋を立て曲剣を持ち上げる。それを見て俺たちもすかさず装飾状の“魔具”を取り出し得物と甲冑を装着した。

 

 

『Raketenform』

「行くぞアイゼン――であああっ!!」

 

 ヴィータが槌《アイゼングラーフ》を振るった瞬間、槌が弾を吐き出しながら形を変え炎を吹き出す。ヴィータはその反動を利用して賊たちに飛び込み、一人の頭をガツンと叩きつける。

 「このガキっ」と声を荒げる賊たちの中でヴィータは巨大化させた槌を振るい、十人以上を吹き飛ばした。

 ……あのヴィータさん、開始早々飛ばし過ぎじゃないですかね? 当分彼女の体型には触れない方がよさそうだ。

 

『Schlangeform』

「はあああっ!」

 

 シグナムは連結状に伸びた刃を振るってヴィータ同様十人近くの賊を斬り捨て、女魔導師の元へ駆けつけ「大丈夫か?」と声をかけ、女も戸惑いを隠せず「ああ」と頷く。

 

「くそ、女だからって甘くするな! 腕一本落としちま――ぐあっ!」

 

 言いかけた男と周りの四・五人は胴を斬られ、そのまま地面に倒れ伏す。それを見て「こいつ、いつの間に」と零す賊たちの中で、俺は剣を構え――

 

「フライング・シュヴィンデン――」

 

 技能を発動しながら愛剣《ティルフィング》を振るった瞬間、さらに七人の賊が斬り上げられたのち地面に落ちた。

 

「こいつら――ならば!」

 

 賊の一人が空中を飛んだままのザフィーラとシャマルに向けて右手の中指に填められている指輪をかざし――。

 

العبودية الجوية(大気の縛り)

 

 男が呪文らしき言語で叫ぶと、指輪に嵌められている赤い宝石が光る。

 その瞬間――

 

「――なにっ!?」

「ええっ――!?」

 

 ザフィーラとシャマルはそれぞれ抱えていた見えない何かに押されたようにそれぞれ抱えていたミリアムとジュセクを巻き込んで落下し、大きな砂埃を上げながら地面に落ちる。

 そこに向けて頭目らしき男がメイスを振り下ろし「かかれ!」と命じ、四人が落ちた方に向かって手下たちがラクダを走らせる。

 俺たちは舌打ちしながら彼女たちを助けに行こうと駆けだすが――

 

「メル・ラ・ピュセル――aufstellen(アウフシュテレン)。やあああああっ!!」

 

 

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 掛け声が放たれた直後、五・六人の賊が真上に()()()()

 彼らとともに巻き上がった砂埃の中心には、銀色の鎧に身を包み、細剣(レイピア)型の魔具を振るう我が妹――ミリアムの姿があった。

 敵ばかりか守護騎士や女魔導師たちもあんぐり口を開ける中、ミリアムは稲妻を纏った細剣をくるくる回しながら得意げな笑みを浮かべた。

 

「《技能》を使ったとはいえ、故郷(グランダム)の兵隊さんたちより歯ごたえがないわね。おじさまたち、少々お怠けすぎではないかしら?」

 

 ミリアムの固有技能……《Magnetische Manipulation(磁気操作)》。

 金属の中にある磁気や磁力を操ることで、武器を持つ敵に向かって自らを撃ちだしたり敵の武器を()()()()()撃ち上げることも可能になるという。

 プリムス家の技能とダールグリュン家の技能が組み合わさってできたとんでもない技らしく、鍛え方と扱い方次第じゃ母上(ゼノヴィア)さえ太刀打ちできなくなるかもしれない、とあの人本人が言ってたんだよなぁ。

 

「舐めんなガキがぁっ!」

 

 ミリアムの近くに落ちた賊が体勢を立て直し、彼女に斬りかかる。が、その前にザフィーラが立ちはだかって籠手で剣を受け止めた。さらに――

 

「はああああっ!」

「ぐああああっ!」

 

 腰だめに構えた白色の魔力光を帯びた拳を腹にぶち込まれ、賊は後ろの仲間を巻き込んで吹き飛ぶ。

 ザフィーラはミリアムに背を向けたまま言った。

 

「姫、あまり無茶はなさらないでください。実戦は初めてなんですから」

 

「初めてだから戦うんじゃない。わたしが役に立つところををお兄さまに見てもらうんだから! っていうか、シャマルとジュセクを守ってなくていいの?」

 

 その一言にザフィーラはまさかと振り返る。気が付けば賊の一部はすでにミリアムから戦えなさそうなシャマルとジュセクに向かい始めていた。

 

「しまった――シャマル、ジュセクを連れて《旅の鏡》で遺跡の外へ!」

 

「ええ! ジュセクちゃん、私の傍に――はあああっ!」

 

 シャマルは指輪型魔具《クラールヴィント》の力で呼び起こした竜巻で迫りくる賊を散らしながらジュセクに呼び掛ける。だが、シャマルとザフィーラを敵を倒している間に彼女らをかいくくぐった数人の一団がジュセクに襲い掛かる――が。

 

「フェリドゥカーン――يثبت(ヤスィミト)!」

 

 

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 懐から出した赤い石を握りながらジュセクが叫んだ瞬間、彼女の持つ石が赤い柄を持つ槍となり彼女を襲いかからんとしていた賊に叩きつけられ、喰らった相手は強風に吹き飛ばされたようにはるか遠くの地面に叩きつけられた。

 魔法陣も詠唱もない……“雷”の変換資質を持つミリアム同様、“風”の変換資質によるものか?

 

「奴隷ごときが生意気な――者ども、囲め囲め!!」

 

 しかし、俺や守護騎士ほどの力はなく、数人吹き飛ばしながらもそれ以上の数を残す敵に囲まれ追い詰められていく。

 そこに――

 

「はああああっ!」

「ぐあああっ!!」

 

 ジュセクにかかろうとしていた賊たちが緑色の旋風に吹き飛ばされ、方々に蹴散らされる。旋風はジュセクの隣で止まり、その姿を現した。

 

「大丈夫かい?」

 

「え、ええ……」

 

 賊を散らしながら自身の傍まで駆け付け、()()で声をかけてきた“緑色の狼”にジュセクは戸惑ったまま返事を返す。

 

「戦えるうえに人と話せる狼だと……まさか」

 

 彼女同様戸惑いを隠せず唖然と呟く俺の横で賊の悲鳴が上がるとともに、いつの間にか傍まで来ていた黒衣の女魔導師が言った。

 

「何を驚いている。お前さんもあれに似たのを連れているだろう。あちらは体格上、人間形態でもそこそこの力が出せるようだがね」

 

「あちらはって、まさかあいつもザフィーラと同じ――っ!?」

 

 

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 思わず振り返った瞬間、俺は大きく目を見張る。

 俺の隣にいる彼女は今、レオタードに黒マントとタイツという露出の高い恰好になっていたからだ。そんな俺の視線を受けても彼女は恥ずかしがる様子など見せず、得意げに口を吊り上げる。

 

「こちらの方が早く動けるんでな。防御は落ちるがこいつら相手なら問題なかろう」

 

 いや、気にするとこはそこじゃない気が……。

 内心突っ込む俺を置いて彼女は雷撃を纏った杖を振り上げながら駆けだし、賊を一掃していく。

 そうして残ったのは髭面の頭目とすっかり戦意を失った手下数人のみとなった。

 

「くそっ、なんなんだこいつらは? お宝なんてありもしないもの探しに来た馬鹿どもを捕まえるだけのはずが――」

「おい!」

 

 泡を食いながらぶつぶつ呟く盗賊に、女魔導師は一歩踏み出し凄むような声をかける。

 

「逃げたいのなら好きにしていいが、その前に一つ聞かせてくれ。赤い菱形の宝石――《イデアシード》を知らないか? 昔、“クシャム”というベルカの術師がある世界から持ち出していったらしいんだが」

 

「――っ!?」

 

 魔導師の言葉を聞きジュセクが目を見張る。一方、頭目は女から逃れようとするように後ろに下がり、口をまごつかせながら吐き捨てた。

 

「いであ? くしゃむ? ――そんなもん知らね……い、いや、待てよ。前にそんなものを手に入れたことがあるような気が……」

「本当かっ?」

 

 頭目が漏らした言葉に女魔導師は頓狂な声を返す。……いや、こいつはまさか――。

 

「んな都合のいい話があるわけねえだろばかかぁぁ!!」

 

 頭目がメイスを振りながら叫んだ瞬間、足元の大地が崩れ落ちる。飛行魔法で逃れようとするも、別の術師によって飛ぶことは敵わなかった。

 

「主! 待て貴様!」

 

 頭上でシグナムが叫ぶが、大きく空いた大穴と飛行阻害の術によって動くことができずその場に棒立ちする。その隙に頭目とわずかな手下たちは逃げて行った。

 

 俺と女魔導師は躊躇なく飛び降りてきたザフィーラと緑の狼に助け出され、上まで戻る。

 

「主、申し訳ありません。取り逃がしてしまいました」

 

「いやいい。助けてくれてありがとう」

 

 謝るシグナムに俺は首を横に振ってザフィーラや他の仲間ともども礼を言う。その横で狼姿から戻った、犬耳の付いた緑髪の少女が相方に向かって荒げた声を飛ばしていた。

 

「おいレクシア、“大魔導師”ともあろうもんがあんな見え見えの罠にかかんなよ」

 

「すまんニコラ。罠だとは気づいていたが、どうせあのメイスで殴り掛かってくるだけだろうと思ってな。だが大魔導師はよせ。私などそこらの魔導師よりましなだけの半端ものにすぎん」

 

 犬耳の従者に、女魔導師は注意とも謙遜ともとれぬ返事を返しながらこちらを振り向く。

 そして従者も主に倣って俺たちに顔を向けた。

 

「さて、一応礼を言うべきかな。助けてもらって感謝する。私はレクシア・テスタロッサ。この国を旅してまわっているしがない旅行者だ。こっちはニコラ。見ての通り狼を素体にして作った《使い魔》だ」

 

「つかいま?」

 

 聞きなれない言葉にミリアムはこくりと首をかしげる。それにレクシアはザフィーラを顎で指し、

 

「そこの男と同じだ。動物を素に作った魔法生命……って言ったらわかる者もいるんじゃないかな?」

 

 その言葉にザフィーラ本人をはじめ、他の守護騎士もぎくりと身をこわばらせる。片や、ミリアムは話が読めず首を傾け、ジュセクは――

 

「それよりレクシア様、あなたは一体何を探しているんですか? “クシャム”様にかかわる物みたいですけど――」

 

 身を乗り出す勢いで尋ねる彼女に、レクシアは気を悪くした様子もなく首を縦に振り、

 

「ああ、《イデアシード》という菱形の赤い宝石でね。願いを叶える力を持つと言われている。そのクシャムという術者がこの世界に持ち帰って、今はこの国のどこかに眠っていると言われているんだが――」

 

 

 

う、うわあああああっ!!

 

 

 

 突然、つんざくほどの叫び声が響き、俺たちは話を止めてそちらを見る。あそこは頭目たちが逃げた先か。

 そう察した直後――地面がガタガタと大きく上下に揺れだした。

 

「きゃあっ!」

「姫、おつかまりください」

 

 転びそうになるミリアムをザフィーラが抱える。

 

「危ない!」

「きゃっ」

 

 ジュセクがよろめくのに気づき、彼女を抱き寄せる。

 シグナムもシャマルを抱え、レクシアもニコラを抱え上げた。

 

 

 そうしている間にもどんどん遺跡が崩れていき、その中から黄土色の巨大な人型の物体が現れた。

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