狂犬が拾った雷狼竜、元人につき   作:ジンオウガを飼いたい

60 / 60
午前中、日間ランキングで19位に入ってました……!

一時的とはいえ止まっていた今作でこんな高いところに食い込めるとは思っていませんでした!本当にありがとうございます!

高評価やコメントも待っています!返信は遅くなりますが全部見てはニヤニヤしています!


貴女誰!?

「お、今日も来たんですか。何となく来る気がしてましたよ」

 

 リヤカーを改造して作られた屋台を1人で切り盛りしている老犬の店主が、暖簾を捲って顔を見せた人物へ声を掛ける。

 

 数日前、この女性は別の女性と連れ立ってこの屋台を訪れて真剣に話し込み、それ以来すっかり常連となっていた。

 とても未成年とは思えない大人びた容姿と、そこに僅かながらのアクセントとなる迷いを感じさせる雰囲気が店主の印象に強く残っていた。

 

「えぇ。もうすっかり、この店のおでんの虜よ。ミレニアム校内での商売を認めても良い、と個人的には考える程にね」

 

「……?」

 

 優しい声色と表情でそう答えた常連客と化しているリオの横では車椅子に腰かけた少女、明星ヒマリがぽかんとした表情をしている。

 

 長い付き合いの中でも見たことの無い彼女の表情、それも憤怒や激情の類ではなく穏やかな表情はかなりの衝撃だった。

 

 メドューサと目が合ったかのように固まっているヒマリの姿にリオは不思議そうな顔をして、首を傾げた。

 

「ヒマリ? どうしたの?」

 

「貴女誰!?」

 

 心配して声を掛けたのに、それに対する返答は天才云々かんぬん美少女ハッカーを名乗るヒマリらしからぬ怒声じみた問い掛けだった。

 

 完全に油断していたところにそんな声が飛んできたものだから、リオは耳を押さえて顔を顰めた。

 

「そもそもおかしいのですよ! 貴女からいきなり『夜ご飯を奢るわ』なんてモモトークが来た私の心境、考えましたか!?」

 

「……? やった、タダ飯が食べられる、では無いの?」

 

「違います! 貴女は私をなんだと思っているんですか!?」

 

「天才云々かんぬん根掘り葉掘りかくかくしかじか四角いキューブ美少女ハッカー」

「色々ちがぁぁぁう!」

 

 柄にもない大声を乱発し過ぎたヒマリは肩を上下に揺らす荒い呼吸をし、それをリオは「なんなのこの子」と言いたげな視線で見つめていた。

 

「あのぉ……お連れさんは」

 

 私はコントでも見せつけられているんですかぃ?

 

 店主はそう言葉にしていないが、目線はそんな疑問をリオに投げ掛けていた。

 

「ごめんなさいね、この子少し変なの。私の連れで友達よ」

 

「そうでしたか。では、少々お待ちを…」

 

 コンビの相方を自慢させられているのではなくお客さんとなれば、店主の動きは手早かった。

 

 座席の座面をパカッと持ち上げると裏側に取り付けてある留め具を外し、内側へと折り畳む。

 座面の土台はリヤカーの持ち手側が、リヤカー後方側の座面の土台の中にスライドしてしまい込める仕組みになっている。

 

 これで車椅子を使用しているヒマリでも、リオと横並びで食事が楽しめるようになった。

 

「変なのは貴女です……キャラクター忘れました?」

 

「忘れたのではなくキャラ変よ。色々と思う所があってね。心機一転、というヤツよ」

 

 いきなり飯を奢ると言い出したのもそうだし、店主に向けた表情もそう。

 ボケに寄っている物言いやヒマリを()()と言ってのける等、今までのリオとは異なる事だらけである。

 

 隣のリオは本人ではなく、ヒマリを騙す為に作り上げたホログラムやリオの皮を被った別人なのではないかと疑うのも当然だった。

 

 これ以上のツッコミは余計にヒマリの知らないリオを掘り起こしてしまうように思え、恐ろしくなり出来なかった。

 

「ハァ……それで、私を食事に誘った理由はなんですか? 色恋沙汰のお悩み相談、ではありませんよね?」

 

「色恋沙汰では無いわね。でも、特定の個人に関して悩んでいるという点で見れば、あながち間違いでもないわ」

 

 ジト目で質問するヒマリに流し目で答えたリオが、店主によって麦茶を注がれた徳利を受け取る。

 

 お前酒飲むのか、未成年飲酒はマズイだろ

 

 キャラを忘れたツッコミが喉から出かかったが、いくらキャラクターがブレにブレまくっているバグリオでもそこまでバグらないだろうとヒマリは自分を落ち着かせる。

 

 言い回しは相変わらずリオらしからぬものではあるが、呼び出された理由が大方予想通りなのもヒマリを落ち着かせるのに一役買っていた。

 

「例の彼女、についてね」

 

 例の彼女 ミレニアムサイエンススクールに所属していることに()()()()()()()()()()()人物 天童アリス

 

 彼女の性能や危険性を探り、今後の扱いについて結論を出す為にリオとヒマリは一時的に休戦していた。

 

 どうにか隠し隠し動いてセミナーの目を掻い潜る可愛らしい健闘を見せるゲーム開発部だが、ミレニアムの長とヴェリタスの長に目は誤魔化せなかった。

 再び廃墟区画に向かったことも、そこで何を手に入れたのかも、その手に入れたものを正常に扱う為に別のものを欲することも、全て見抜かれている。

 

「えぇ……さ、まずは先に大根を食べなさい。冷めても美味しいけれど、私のオススメは熱いうちに食べる方ね」

 

「……本当に、貴女誰?」

 

 初めてくるお店ということもありリードしてくれるのはヒマリとしても助かるが、そのリードしてくれている相手がリオというのが困惑を招く。

 

 戸惑いつつも割り箸を2つに割け、言われた通りにまずは大根へ手を付けた。

 十字の切り込みを入れて4分割にし、そのうちの1つを挟む。

 

 口元で息を吹き掛けて軽く冷まし、口へと入れる。

 

 たしかに熱い。冷まし足りなかったか、口腔内が熱さによって軽い痛みを生じさせる。

 

「はふっ、あっ、はふっ」

 

 手で口を隠しながら外気を取り込み、大根を冷やしながら舌で口蓋に押し当てて崩した。

 

 染みている出汁がじわりと溶け出し、崩れた大根が本来持つ甘みと混ざり合いながらゆっくりと飲み込まれる。

 

 その様を肴に、リオはどこか嬉しそうに頬を緩ませながら麦茶を注いだお猪口を傾けていた。

 

「ふぅ………美味しいですね」

 

「でしょう? 私の友達も行きつけなの」

 

 リオの口から飛び出した友達という言葉に、ヒマリは顔をまたしても顰める。

 

 嫉妬ではない。リオの口からは到底飛び出し得ない言葉であり、自分の耳と目を疑っていた。

 

「……私は、このまま計画を続ける。でも、以前立ち上げた計画をそのまま遂行するのではないわ。手を加えるつもりなの」

 

 ゲーム開発部はアリスに関連するもの G.Bibleを手に入れた。

 

 しかしそれを用いるのにはファイルのパスワードが判明しなければならない。

 そこで苦戦しているのはヴェリタスの部長であるヒマリには筒抜けであり、彼女によってリオへリークされている。

 

「どこに手を加えるのですか? ぶつける相手を変更する、とか?」

 

 ゲーム開発部には時間が残されていない。アリスを部員として迎え入れたことで部活として成立するだけの人数は揃えたが、それでもまだ部活存続は叶わない。

 

 それはヴェリタスも承知しているところであり手っ取り早くセキュリティを突破してファイルを開く為に、以前セミナーが押収した『鏡』を狙う。

 

 その情報をヒマリがセミナー構成員であるユウカに敢えて伝えることで、彼女からミレニアムが誇る戦闘組織 C&Cに対処を依頼するよう仕向ける。

 

 そしてアリスとC&Cを衝突させ、危険性を推し量るというのが2人の立案した計画である。

 

 そこに手を加えるとなれば、ヒマリが思い浮かぶのは危険性を推し量る為の当て馬になるC&Cを別の組織に変更するくらいだった。

 

「いいえ、計画そのものは変えない。変えるのはその後よ」

 

「……言っている意味が分かりませんね。あ、こんにゃくとちくわぶもお願いします」

 

 やけに引っ張る物言いをしながらはんぺんを味わうリオに早く話せと言いたげな視線を突き刺しつつ、ヒマリも皿に盛り付けてもらったこんにゃくを一口齧った。

 

「ユウカの性格上C&Cに依頼してはい終わり、とは行かないわ。衝突する現場にも首を挟むでしょうし、きっとゲーム開発部にとってキツい言葉を投げかけるわ」

 

「……あなた、ほんと、だれ?」

 

 言語を覚えたてのコンピュータが出力した電子音声のようなカタコトの指摘を、リオは流して話を続ける。

 

「それにC&Cの部長であるネルも、仮に出し抜かれたとなれば絶対にリベンジに向かうわ。そうなれば今後の学校生活を送る中、ゲーム開発部の面々には嫌な思いをさせられた相手に怯えたり不快感を抱きながら生活することを強いてしまうことになる」

 

「ちょっと待って、本当に待って、貴女何言っているのか分かっていますか?」

 

 さすがにもう無視させてはいられない。

 ヒマリに腕を掴まれたリオも、彼女の方へ意識を向けた。

 

「つまり、何ですか? 貴女は今回の計画の後、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ってことですか?」

 

 信じられないことだ。

 あの感情や機微を切り捨てて物事を考え、進めようとしていた徹底的合理主義者のリオが、他人の今後を心配している。

 

 自分の口で言葉にして放つと、従来のリオらしからぬ人情を感じさせる思惑に割り箸を落としそうになるほどの衝撃を受けてしまった。

 

 車椅子を用いず普通に座っていたらあまりの衝撃にひっくり返っていただろう。

 

「端的に言えばそうね。やっぱり、ヒマリは話が早くて助かるわ。流石は私の友達ね」

 

「やめ、やめてください! 貴女本当にどうしたんですか!? 脳みそにキノコでも生えて胞子で人格書き換えられましたか!?」

 

 リオは既にその自分らしからぬ思考に納得しているのか、ヒマリに言葉にして伝えられても慌てたり困惑する様子はない。

 手馴れた手付きで徳利の中にある麦茶をお猪口に注ぎ、飲んでいる。

 

 聞き慣れない友達発言は気持ち悪さすら感じさせる衝撃があり、ヒマリは盛り付けてもらったこんにゃくを食べ進める気力が削がれてしまった。

 

 辛辣なツッコミを放ってしまったが、リオはそれも気にしていない。

 思い付いた当初はリオ自身も困惑したのだ。今までの自分らしくない人間味のある思考に、他でもないリオ自身が一番困惑した。

 

「友達にね、私は優しいと言われたのよ。計画の後のケアを考えたのも彼女にそう言われてからだから……まぁ、私は優しいのかもしれないわね?」

 

「な、なんともあやふやな物言いをぉ……」

 

 私は優しいのかもしれないわね?なんて言われてどう返せば良いのかヒマリは全知と呼ばれるに足る最高の頭脳をフル稼働させた挙句、何とも歯切れの悪い言葉しか捻り出せなかった。

 

 捻りの聞いた皮肉の一つも浮かばないほどに強烈な衝撃を与えてきた相手にせめてもの抵抗で視線を向けたヒマリだが、そこで初めて気付いたことがある。

 

「貴女…何かこう、シャキッとしましたね」

 

 今度はヒマリの口から釈然としない不明瞭な言葉が飛び出す。

 

 別にリオはだらしのない肉付きをしているのでもなければ、姿勢が特段悪いわけでもない。

 

 しかし今のリオは姿勢が良いというか、それこそヒマリが口にしたシャキッとしたという言葉が適切とも思える芯の通った様子とでも呼ぶべき、気迫にも似たものが備わっていた。

 

「多分、新たに出来た友達のお陰ね。彼女に少し揉んでもらうことになったから、そのせいよ」

 

「……成程、彼女ですね」

 

 気迫にも似た雰囲気を纏わせられて、リオに友達と言わせるほどに親しい存在ともなれば想像は付いた。

 

 ヴァルキューレ警察学校 公安局長 尾刃カンナだ。

 

 彼女も羨ましくなる素晴らしいプロポーションをしていながら、危険な現場や荒事に立ち会うこともある立場もあって肉体を鍛えている。

 

 そしてカンナは公安局の装備品を新調する為にミレニアムサイエンススクールへ接触しており、リオとも面識がある。

 親しい間柄になったのであれば自然と会話も増える。公安局仕込みの鍛錬を体験させてもらっていても、今のリオならばおかしくないと思えた。

 

「今回の計画には彼女の他にもう1人、計2人の協力者を新たに加えたいの。良いかしら」

 

「…………はぁあぁぁぁぁあぁ………もう、どうぞ勝手になさってください」

 

 自分の中で構築されている調月リオの人物像が足元から崩れ落ちるというか、内部に仕掛けられた爆弾によって木っ端微塵に吹き飛ばされたというか、兎に角それくらいの衝撃を受けたせいでヒマリは思考が停止していた。

 

 冷めてしまう前にこんにゃくを食べ終え、肉厚なちくわぶの歯応えを堪能する。

 

「…………ん? 2()()?」

 

 もちもちとした食感を楽しんだ事で少し冷静さが戻ったヒマリが、話の流れよりも計画に加わる協力者が1人多い事に気付いた。

 

 話の流れで言えば尾刃カンナが加わるのだろう。なら、2人ではなく1人だ。尾刃さんとカンナさんで2人なんてことは無い。

 

 言い間違えたのか?

 頭の上にも?を浮かべているヒマリの前で、リオが自身の携帯を操作する。電話をかけているようだ。

 

「私よ。えぇ、許可は得たわ。来てちょうだい」

 

 このまま協力者と顔合わせをするつもりか。

 

 一応食事中なのだからいきなり物事を進めないで欲しいヒマリの肉体が、小さな振動を感じ取る。

 

 地震かと思ったが、それにしては規則的な感覚で揺れが起こっている。水が注がれているコップの水面を見ても規則的な揺れなのは間違いではない。

 

「今回の計画、建造物への被害は仕方ないと割り切るというのも変えるつもりはないわ。最初のうちにかなりの被害が出るのは試算していたわよね?」

 

「…………リオ、貴女、まさか!?」

 

 もう1人の協力者が誰なのか、今の発言でヒマリは察することが出来た。

 

 お前正気か!?

 

 彼女にまで頼んだらどれだけ被害出ると思ってるんだ!?

 

 ミレニアムサイエンススクールに凄まじい被害が及ぶ可能性を考慮しているとは到底思えない人選に唖然とさせられたヒマリに、リオはニコッと優しい笑みを見せた。

 

「大切な我が校の生徒達が今後も怖い思い、嫌な思いをしながら過ごすことがないようにする。そう伝えたら快く引き受けてくれたわ」

 

「私が聞きたいのはそういうセリフでは!」

 

 ヒマリの絶叫は聞こえなかった。

 

『ウオオオオオオオオォォォォォォォォォォンッ!!』

 

 第2の協力者 ジンの放った雄叫びによって掻き消されてしまったから。

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