ある意味R-18。
成人していない学生諸君は読んじゃだめです。
この小説は、フィクションです。
実在の人物、団体とは何の関係もございません。
人生は、逃亡の連続だ。
辛いことから逃げて、苦しいことから逃げて、向き合うことから逃げて、逃げて、逃げて、逃げ続けて。
そうして、当たり前の幸福とやらに辿り着く。
家庭を持って、守るべきものができて、そうして初めて、逃げることをやめる。
あぁ、素晴らしいハッピーエンド。
じゃあ、それまでは?
逃げて、逃げて、逃げ続けたことは、苦しみながら、逃げ続けたことは?
ハッピーエンドに辿り着く為に、どうしても、必要なことだったっていうのか?苦しみも、悲しみも。最後が幸せなら、仕方ないことなのか。
分からない。だってまだ、ハッピーエンドが見えていない。その、輪郭すら。
生まれた時から、俺の前には姉がいた。
俺より凄くて、俺より賢くて、俺より強い。そんな、姉が。
きっと、小学生の頃には、絶望していた。分かりきってた。諦め切ってた。
届くはずがない。勝てるはずがない。追いつける、はずがない。挑戦する前から、とっくのとうに、諦めてた。
だから、逃げた。
鍛えること、学ぶこと、強くなること。それら全てから。
姉は、全力でバスケをしていた。その時俺は、何となくサッカーをしていた。
姉は、全力でバスケを続けた。その時俺は、何となく剣道を始めた。
姉は、真面目に勉強していた。その時俺は、何となく本を読んでいた。
姉は、県内最高峰の進学校へ入学した。そして俺は、県内でそこそこの進学校へ入学した。
姉を超えたい。そう思ったことはある。
そうして、超えるために、姉より良い高校に行こうとして、途中で諦めた。無理だって、そう思った。
だから、逃げた。怖かったんだ。俺じゃあ何したってあの人には勝てないって、そういう結果が出るのが。
だから、ランクを落とした。そして、自分なりの全力で挑んだ。高校には受かったけど、心の中は、喜びよりも敗北感で溢れていた。
俺は逃げた。向き合うことから。落ちるって思ってても、勝てないって思ってても、それでも、きっと挑むべきだった。だって、安全地帯は作れてた。落ちたとしても、一定のランクの私立校には受かっていた。
挑んで、届かなくて、それならそれで切り替えて、そこから挑み直す。そういう選択肢だってあった。でも、逃げた。
自分の中でギリギリ納得できるランクの高校に進学して、逃げた自分を正当化した。
仕方、なかったんだって。
だって、本しか読んでこなかったから。たった一年頑張ったところで、行けるはずがないって。そう思って、そうして、そうして、高校では、部活に逃げた。
弓道は、良い。何せ、的は逃げない。難しい戦略も、戦術も、先天的な腕力も、脚力も、何もいらない。
ただただ弓を引いて、矢を放つだけ。
引いて、狙いを定めて、放つ。ただ、それだけ。だから、打ち込んでいた。
最初は、きっと逃避だった。
無理して身の丈に合わない高校に進学したから、勉強についていけなくて。そんな時に、部活は丁度いい言い訳だった。部活に打ち込んでいるから。そんな言い訳で、ついていけない自分を正当化した。
あぁ、でも。
いつの間にか、言い訳は本気になっていた。
顧問が変わって、全力で、全国目指さないかって話になって、俺は、真っ先に飛び込んだ。
皆を巻き込んだ。同期も、後輩たちも。きっと、全員で行けたら、すごく綺麗な景色が見えると思ったから。でも、皆は違った。
面と向かって、お前一人でやってろって言われたこともある。全員で行くなんて無理だって、言われたこともある。それでも、打ち込み続けていたら、いつの間にか、皆も全力になっていた。
だけど、部員が大勢やめた。ついていけないって、そう言っていた。だんだんと、罪悪感を抱き始めた。それでも打ち込み続けた。
何度も何度も怒鳴られた。何度も何度も泣いた。打ちのめされて、悔しくって、悲しくって。それでも、本気で、挑んでいた。
結果は、出始めた。
市大会、県大会、関東大会。
順調に順調に、皆は結果を残して、全国へ進んで。
俺は、取り残された。
怪我とか、スランプとか、そんなんじゃない。至極単純明快で、納得するしかなくて、認めるしかない。
原因は、俺の実力不足だった。
俺は、ただのマッチだった。皆という、よく燃える薪に火をつけて。皆は頂点まで届くぐらいの炎になって。そして俺は、ほんの小さな火を灯しただけで、消えた。
夏休みのあの日、一足早い引退を迎えた俺は、皆が頂点に行くのを尻目に、受験勉強に励んでいた。
結局俺は、現実から逃げて、逃げた先で、現実に追いつかれて、叩き潰された。
挑んだ結果、完全に敗北した。言い訳のしようもないぐらいに、完璧に。
その時、完全に心が折れたんだと思う。
大学受験は、頑張っているポーズをしていただけだった。もしかしたら、弓道もそうだったのかもしれない。そんなことを思ってしまうぐらいには、心が完全に折れていた。
だから、一度親父に怒られた。本気でやってないって言われた。
そうだなって思った。ただ、それだけだった。
結局、そこそこの大学に進んで、バイトして、遊んで、色んなことから逃げていた。
そうして逃げ続けた先で、光を見た。
光は、銀幕の向こうにいた。光は、作り物だった。
光の名は、ナリタトップロードといった。
逃げちまえって、そう思った。諦めろって、そう言いそうになった。届くはずがない、頂点なんて、行けるはずがない。
覇王みたいに、頂点に君臨するなんて無理だって。
一番星みたいに、光輝くのは無理だって。
でも、でも、ナリタトップロードは、挑み続けた。届かなくて悲しくて。負けて悔しくて。不安になって、自信をなくして、それでも。それでも、ナリタトップロードは、前に進み続けた。挑み続けた。諦めなかった。
そうして最後に、頂点に辿り着いてみせた。
眩しかった。カッコよかった。美しかった。
もう一度、挑んでみようと、そう思えた。
リスクなんて知ったことか。
負けた先なんて知ったことか。
届かなくたって、無駄になったって、何も成し遂げられなくたって、そんなの全部、知ったことか‼︎
もう逃げない。例え進んだ先にあるのが、どうしようもないバッドエンドだったとしても‼︎
それでも、俺は挑む!俺は、挑戦する‼︎
あの光に背を押されて、俺は進む。
勝ってみせる。夢の舞台で。
5月26日15時40分。
東京レース場。芝2400M。
いざ、日本ダービーへ。
はいそこ、ギャンブルに逃げてるとか言わない。