セラヴィーが魔法薬を作るのをどろしーに手伝ってもらう話。

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必要な工程

「ソレ取ってもらえますか」

 指差された瓶を手に取ってセラヴィーに渡す。ガラスボウルに入れると緑色と紫の薬液が混ざり合ってピンク色に変わった。それを横目で見ながら小さなすり鉢で薬草をすり潰す。

「しっかし、面倒くさいわねコレ」

「どろしーちゃんが手伝ってくれて助かりました」

 セラヴィーが受けた依頼が手間がかかるというので手伝いを頼まれた。もちろん報酬の一部をもらう、という約束で。

「ほら、これを入れるんでしょう」

「そうでした」

 調合する魔法薬は使用する薬草も工程も多いし微妙な温度管理が必要な薬も使う。確かに一人で作るのには骨が折れそう。というか二人でもすでにギリギリの状態だった。

「そっちが冷めたらコレに混ぜてください」

「はいはい」

「月影草を煮たのはどこに置きましたっけ」

「目の前のそれじゃない?」

「どろしーちゃん、すり鉢ください」

「ほら」

 振り向くと目の前に顔があった。近い。

 こいつ、意外とまつ毛が長いわね。

「?」

 唇に柔らかいものが触れる。

 ……え?

「ほらどろしーちゃん、火が強いですよ」

「わわっ」

 沸き立ちそうになっていた鍋の火を小さくする。

「沸騰させたらやり直しですからね」

「わ、わかってるわよ!」

 その後も気が抜けない作業が続き、完成する頃には二人とも疲れ切っていた。

「ありがとうございます。本当に助かりました」

「報酬はキッチリ払ってもらうからね」

「期待しててください」

 

 家に戻ってからも何もする気が起きなくて、ソファーに身体を預け宙を見つめていた。

 ……あれって、キス?された??

 ほんの一瞬だったけど、セラヴィーの顔が近づいてきて唇に触れた。

 えっ、なんで?なんのために私にキスなんてするっていうの??

 でもその後もいつも通りだったし、気のせいだったりしない?

 ──そう気のせいよ。あまり気にしないことにしよう。

 

 次の日もその次の日もセラヴィーは全く変わらない態度だったし、もう忘れることにした。

 

 

「どろしーちゃん、この前の報酬です」

 お金が入った封筒を渡される。

 この前の……。

 光景が一瞬よみがえりそうになったけど、記憶の奥に押し込める。

「こんなにもらっちゃっていいの?」

「もちろんです。どろしーちゃんにも頑張ってもらいましたから」

 封筒の中には結構な金額が入っていた。手伝いで一部をもらっただけなのに、ちょっと高めの依頼ぐらい入っている。

「ずいぶん吹っかけたんじゃないの」

 はははっ、と笑うが否定はしない。どんだけもらったのやら。

「また同じ薬の依頼を受けたんですが、手伝ってもらえないでしょうか」

「え」

 押し込めた記憶がもう一度よみがえる。

「……なにか問題でも?」

「う、ううんっ! 別に!」

 そうよアレはなんかの間違いよ。

 再び記憶の底に押し込めることにした。

 

 

「どろしーちゃん、コレ!」

「はいっ」

「ソレ混ぜてください!」

「ほいっ!」

 2回目で手順もある程度わかっているので、この前より少しだけスムーズに進む。

「その瓶を取ってください」

「ほら」

 小瓶を渡そうとしてセラヴィーの手が重なる。

「……セラヴィー?」

 ぎゅっと手が握られ、見上げると真っすぐ顔が近づいてくる。

「んっ」

 唇が触れる。

「…………」

 小瓶が手からこぼれ落ちた。

 気のせいなんかじゃない。セラヴィーの口は確実に私の唇を塞いでいた。

「っ、ちょっとセラ……」

 身体を離してもぶつけるようにしてまた口を塞がれる。

「ん、イヤ……っ」

 身体を退いたら机に当たってガシャンっと鳴った。

「待っ……んん」

 倒れたビーカーが床に落ちて割れる。

 ああ、作るのに1時間もかかったのに……

 頭の奥でどこか冷静に考えながら、セラヴィーにキスされ続ける。

「ん……ぁ……ッ……」

 貪るように唇を吸われる。

「やっ……」

 逃れても

「んんっ……、ん……」

 逃れても

「どろしーちゃん……」

 再び唇は塞がれる。

「……沸騰、してる、わ……」

 意識の外で煮立っている音が聞こえる。

 今までの作業が台無しになってしまう。

「作り直せばいいです」

 希少な薬草だから、買うと高いのに……

「んっ……んん……」

 もう何も考えられなくなっていく。

 鍋が煮立つ音とキスの音だけがしている。

 

(待ってリーヤ!)

(チャチャさーん……)

 かすかに子供たちの声がする。

「しまった、お菓子を用意してません!」

 身体を離すとセラヴィーは慌ててキッチンへ走る。

「クッキーがありました! 僕はこっちを片づけますからクッキーを持って行ってください!」

 クッキーを受け取って部屋を出る。

「夜に続きをお願いします!」

 セラヴィーの声を背中に聞きながらにゃんこハウスに急いだ。

 

「どろしーちゃんただいまー」

「ただいまなのだ!」

「ただいま、お師匠様」

「おかえりなさい」

 なんとか間に合って子供たちを迎える。

「セラヴィー先生は?」

「家で作業してるわ。手が離せないみたい」

 呼吸を整えながら返事をする。大丈夫、自然に出来ているはず。

「?」

 犬が不思議そうに鼻をヒクヒクさせる。

「な、なに?」

「どろしーから、なんかヘンなニオイがするのだ」

「ま、魔法薬を作ってたのよ! 薬草とかいろいろ使ってたから」

 匂いだけでは何をしていたかわからないだろうけど、妙に焦ってしまう。

「ほら、手を洗ってらっしゃい。クッキーがあるわよ」

「やったー!」

「わーいクッキー!」

 ぱたぱたと手を洗いにいく子供たちを見てホッとする。

 

 紅茶を淹れてクッキーを食べているとセラヴィーもやってきた。

「セラヴィーもどろしーと同じニオイがするのだ」

「調合の手伝いをしてもらってましたからね」

「お二人で? めずらしいですね」

「ちょっと手間がかかる仕事でしたから。どろしーちゃんに手伝ってもらえて助かります」

 ニコッと笑いかけられて心臓が跳ねる。子供たちに隠しごとをしているようで少し後ろめたい。

「なにを作ってるんですか」

「飲むだけですぐに痩せられる薬です」

「どろしーちゃんにも必要かもね」

「うるさい!」

 エリザベスを使って余計なことを言うのでつい大きな声が出てしまった。

 ちょっと欲しいと思ったけど、劇的に痩せるから身体の負担が大きいらしい。それに材料費だけでとても手が出せる物ではなかった。

「先生、大変なら私も手伝おうか」

「ダメです!」「ダメよ!」

 言葉が重なってしまった。セラヴィーはコホン、とセキをする。

「慎重で細かな作業が必要ですし劇薬も使ってますから、今回は気持ちだけもらっておきます」

「私だってお手伝いできるのにー」

「もう少し安全な作業の時にお願いしますね」

「……はーい」

 納得がいかなそうに返事する。

 危ない危ない。チャー子が手伝ったらどんなトンでもないことになるか。……別にセラヴィーと二人きりになりたいワケではない。決して。

 

 

 子供たちも眠った時間、ひとり自分の家でうろうろ歩き回っていた。

『続きをお願いします』

 続きって……もちろん魔法薬のことよね。

 中断した理由を思い出して顔が熱くなる。

 夕食の時もセラヴィーは余計なことを言ったりして、まったくいつも通りだった。まるでキスなんて夢だったように。

 頭がポーっとしてあまり記憶がない。初めて見たようなセラヴィーの表情と唇の感触だけが残っている。口が触れたらキスだと思っていたのに、あんなに何度も何度も。吸い付かれたり軽く歯を立てられたり……

 ブンブンと頭を振る。

 作業は途中だったし、私が行かなければ完成は難しいだろう。それに、行かなかったら変に意識していると思われてしまう。

 

 恐る恐るセラヴィーの家のドアをノックする。

「待ってましたよ」

 いつもと変わらない笑顔で迎えられた。昼間のことなんてなかったように。

「ここまでは出来ていましたから、こっちをお願いします。ここは作り直しですね。こっちは予備がありましたから大丈夫です」

 作業工程のリストを見ながらテキパキと指示される。

「……どうかしましたか?」

「う、ううん。なんでも!」

 見直した工程は順調に進む。

「そのビーカー取ってください」

「……はい」

 手渡さずセラヴィー近くの机の上に置く。

「……ありがとうございます」

 クスリ、と小さく笑われた。

「な、なによ!」

「いえ、別に」

 意味ありげに言うと作業を再開する。

 中断する何か、もなく魔法薬はあっさりと完成した。もちろん時間がかかる作業もあって、出来たのは真夜中近くなってからだったけど。

「お疲れさまでした」

「お疲れさま」

 コキコキ、と首を鳴らして身体をほぐす。ずっと作業台に向かっていたから凝り固まってしまった。

「お茶でも淹れますか」

「もう遅いし帰るわ」

「そうですか」

 寂しそうに見えるのは気のせいだということにしておこう。

 玄関先まで見送られる。

「おやすみなさい、どろしーちゃん」

「おやすみなさい」

「ああそうだ」

 思い出したように一歩身を乗り出すと、チュッと軽くキスされた。

「……また、次もお願いしますね」

 ニコッと笑って扉を閉められる。

「…………」

 ドアを見つめて私はただ立ちつくすしかなかった。




キスの日に間に合わせてみました
距離感が微妙なやつ、と思ったけど結局グイグイくる感じに。

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