殺風景な待合室には静かな熱気が残されていた。

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1.秘湯

 

 

 これは違う?俺が知ってる世界じゃない。

 

文字通り見えてるもんが違う。こんなにも世界が違うのかよっ!

 

血の味がする唾を吐きながら必死に食らいついていく。

いや、彼奴は俺を敵とすらみちゃいない。遊ばれている。玩具。

全身の血が煮えて頭が沸騰する。

俺は弱い!!弱かった!

こんなにも、こんなにも!

砕けたくない!こんな場所で終えたくない!

その景色を目に焼き付けてやるまでッ!

 

愉悦に浸る彼奴の口が裂けた。

 

 

「君、合格♡」

 

 耳元に残ったその言葉が脳に染み込む間、俺は何かを見た。

 

 

 ゆ、げ……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 生かされた。

何もかも世界が違かった。ベッドから降り、身体を軽く動かす。最後に見えた湯気。まるで意思を持って動き彼奴の体を包み込んでいるかのように思われた。己の勘はアレを追えと騒ぐ。しかし、先ほどまで命の取り合いをし、あまつさえ見逃された身。直接尋ねることは憚られる。故に彼奴が残した痕跡を辿る。決して少なくない額を注ぎ込むことになるだろうが確かな実りを得られると感じる。

 

 

 彼奴が試合の中で使った技。

大きく分ければ七種類になる。

 

一つ、湯気を纏う。

二つ、湯気を大きくする。

三つ、湯気をしまう。

四つ、湯気をカードに纏わせる。

五つ、湯気を一部に集中させる。

六つ、湯気の移動。

七つ、湯気を見えにくくする。

 

 

 彼奴は一つ目を常時行いながらその他の行動を行っていた。また湯気を纏った攻撃に対し、六つで同じ大きさの湯気で相殺していた。攻防に用いる技術なのであろうことは想像に容易い。七つはあくまでも彼奴の行動から読み取った推測に過ぎないが、七つに対し、両目に五つをすることで対応していた、とすれば彼奴の行動にも説明がいこう。

 

 

 

 

 湯気を視界に収めることはできるが彼奴のように扱うことはできない。まるで巾着を紐で締めながら中のものを押し出そうとしているような矛盾を感じるのだ。同じ方法を試しても良い返事は得られず。押して駄目ならば引け。ちょうちょ結びは簡単に解ける。大事にしたいのならキツく固結びで丁度良いだろう。

 

 

 風呂の中でどこまでも温かさに包まれている。

湯気に包まれた感覚を言葉として表わすのならそう表現しただろう。軽く手を握りしめる。全身から汗のように滲み出た湯気は徐々に混ざりあい一つの水球となった。永遠に湧き出るかのように思われた湯気は身体の内側から仄かに感じ始めた喪失感からそれが有限なものであり、己にとって必要不可欠なものであることを知った。ふと思い返せば彼奴の湯気は乱れのない澄んだ泉のように思われた。しかし己の水球は水風船のように撓み、乱れている。はたと気付きを得る。彼奴の流麗さはこの為に磨かれた術なのであろうと。

 

 波とは至極複雑なように思えるがもとを辿ればそれも小さな波同士の衝突と合成によって起きたものだ。必然それらは法則に習っており、湯気の乱れも同じ大きさの相反する波を充ててやれば互いの勢いで波は殺され沈黙するだろう。しかしそうは言ったものの思考するのと行動するのでは勝手が違う。四苦八苦の調整に次ぐ再調整を幾度か繰り返しやっとのことで暴れ狂うホースの口を掴むに至った。

 

 風呂の中はどこまでも温かさに満ちている。

 

 

 


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