・・・
私はあの時、最後の最後まで無力だった。
相手にもしてもらえなかった。
あの時の、あの子の顔が、頭から離れない。
悔しかった。
友人は無理もないと慰めてくれたけど、やっぱり悔しい。
だからこう、その。
あの子が無力な存在になったとき、ほんの少しだけ気持ちがスッとしたんだ。
私の腕の中でほとんど何も感じないくらい力無くもがく感覚。
それに小動物のような愛くるしささえ覚えた。
我ながら、器が小さい。でもこれも私。認めるしかない。
こんな私を、友人は認めてくれてるんだ。私も私を認めないと。
結局のところ私たちの失敗を、失態を、あの子が帳消しにしてしまって。
あの子自身もなんだかんだ無事? だった。
それが私の心を軽くしてくれてるんだろうな。
なんだか思ったより精神的に余裕がある。
もう戦わなくていいし、戦わなくても誰も奪われない。
平和だ。こんな日が来るなんて。
魔力も無くなるという話だけど私たちはまだ魔法が使える。
といっても以前ほどの力はなくて。だんだん力が失われていってるのがわかる。
この力が全て無くなったとき。
私たちは、魔法少女から、本当の普通の少女になるんだ。
魔力を持たないものは魔力関係の記憶を保持できない。
だから魔力が無くなったとき今の記憶がどうなるのか。
少しだけ不安だけど、それもきっと問題ない。
辻褄合わせは起こるだろうけど私たちが離れ離れになることは、ないと思う。
離れる理由がないのだから私たちはずっと友人だ。
この感情だけは絶対に変わらない。
私たちは、大事な友人同士のまま、普通の女の子同士になるんだ。
……最近思うのだけど。
私たちってずっと友人どまりなんだろうか。
もっと先に行くのも、有りなんじゃないだろうか……。嫌がられるかな……。
わからない……今のスキンシップだって受け入れられているとは思うけど。
踏み出すのは、やっぱり怖い。もし、もし、私の思い違いだったら。
万が一、友人が離れて他人になってしまう。
そんなことを考えると血の気が引きそうになる。
でも、友人が友人じゃなくて、その、そういうもっと深い関係になったのなら。
どうしよう。どういうこと、するんだろう。何が、起こるのかな……。
いや、まさか、あんなこととか、こんな、あ、でもいきなりそんな。
「……えへへ」
「灯ちゃん?」
……おっと、危ない。
電話中で対面してないとはいえ、やばい顔してたかも。
うーん、なんだろう。やっぱり私おかしいのかな。
こんなの普通じゃないと思うんだけど。
友人と話してると、気持ちがポカポカする。身体が、熱を持つ。
友人を、そう、友人なのだと思っていないと。
道を踏み外しそうになる、よくわからない感覚。
でも、この心地よさをもっと感じられるなら。
私は普通じゃなくてもいいのかもしれない。
願わくば、友人も、普通じゃなかったら、いいなぁ……。
「……あ、そうだ灯ちゃん」
「なぁに?」
「えー、その」
「?」
「私たち、あのあと解散してさ、私が野良猫少女を家まで送ることになったじゃない?」
「うん」
私は用事もあり家に帰らなければならなかったから、あとは友人に任せて別れた。
流石に、ただの友人の関係では四六時中一緒にいることは叶わない。
もしそれを可能とするなら、もっと深い関係にならなければならない。
そしたら同じ家から出かけて、同じ家に帰って、そして、そうして、
……って、違う違う。
平和ボケしすぎで頭おかしくなってる。脱線するな私。
「……それがどうしたの?」
「……えっと、色々あって、私の家に連れ込みました」
「?」
……?
……。
……。
「は?」
「え、あ、いや、ね」
「どういうこと?」
「あー、うん。えっと、この子、帰る家とか言いつつほぼ野宿のホームレスだったんだよね」
「それで?」
「いやなんとなく察してはいたけど、思ったより酷い環境だったからさ」
「……うん」
「でさ……、この子をちゃんと認識できるのって今のところ私だけじゃない?」
「……」
「じゃあお世話するなら、私しかいないなって、思って、さ……」
「……」
……なんだろう、この気持ち。
熱が引いて頭が冷たくスッとしていく感じ。
「強引に連れ帰ったら連れ帰ったで、代償の影響もあるんだろうけど思ってた以上に何もできない子で……」
「……」
「お風呂に入りたいってこぼしてたからお風呂貸したんだけど、でも一人じゃ入れない様子だったから一緒に入って」
「え?」
「あっ……」
「大丈夫、続けて」
「……なんか恥ずかしがってすごく嫌がったから、無理やり捕まえて洗ってやっていやなんかほんとまるで猫みたいだよね、うん!」
「……」
「えっと、服も自力じゃ着れないみたいだったから、これも嫌がったけど着せてあげて……」
「ぅ……ん、それから?」
「なんか、下着も持ってなかったから私の下着を貸してあげて、つけてあげて……」
「っ……つづけて」
「……でもトイレ行くたびにパンツ脱がなきゃだから、そのたびに穿かせてあげてたんだけど」
「……」
「でも無理やり穿かせるたびになんか毎回涙目になってるのが可哀想になったから、いっそ脱いでてもいいよ、って」
「……」
「……そういうわけで、ノーパン少女が、いま私のベッドでゴロゴロしてます」
なんなのだ、これは。どうすればいいんだ、私は。
落ち着け私。うん、大丈夫。大丈夫。
「他には?」
「たぶんないです……」
「……」
「……」
「萌ちゃん」
「はい」
「ちょっと待っててね。いますぐそっち行くから」
「あっはい」
電話を切る。
うーん、なんだろうね。すごく透き通った気持ち。こんなの初めて。
わかるよ。うん、わかる。友人は優しいからね。
あの子もまあそうなる理由も、わかる。うん、おーけー。私は冷静。
私だってあの子には感謝してるんだ。だから、まぁ。
感謝は、すごくしてるんだよ?
でもさぁ。ねぇ。
私をあんな気持ちにさせといて、今はこんな気持ちにさせるだなんて。
いやぁ友人の家に行くのは初めてじゃないけど、なんか楽しみだなぁ。
……まってろよ泥棒猫。
・・・
最近、私には変わった友達ができた。
といっても、目に見えないし、声も聞こえない。
何言ってるんだって言われそうだけど、でも確かにいる。
まあ要するに、幽霊だよね。
うーん、幽霊って本当にいたんだなぁ……。
私は霊感がないんだけど、霊感少女のもにかちゃんに紹介してもらった。
最高に、不思議で貴重で楽しい経験してるって思うね!
「いやぁ、もにかちゃんってすごいよねぇ」
「またあだ名変わってるけど、いや誰だよ、もにかって。もはや別人だろ」
「?」
元の名前に近いから我ながらわかりやすい方だと思うんだけど。わかりにくいかな。
今日はそんなもにかちゃんと、ありすちゃんと。
幽霊な、ゆっぴーと遊ぶ予定だ。ここにせかちゅーも加わるから、けっこう大所帯だね。
せかちゅーはちょっとだけ家が離れてるから、いまは恭くんと迎えに行くところ。
私たちより年下の、いい子で可愛いお姫様で、大切なお友達。
最近元気なかったけど、友達が増えてからすごく楽しそうでほんとよかった。
そうそう、幽霊なお友達にはまだ名前を教えてもらえてないんだよね。
とりあえず幽霊だからゆっぴーって呼ぶことにして、いつか教えてもらったらまた考えるつもりだけども。
でも本人はこの呼び方をとっても気に入っているみたい。私も結構しっくりきてる。
だから教えてもらえるまでは、しばらくゆっぴーのままでいいかもなー。
なんか最初そうやって呼んだ時、
もにかちゃんはオロオロ戸惑ってたけど、うーん、一体どんな反応だったんだろ。
私も見てみたかったなぁ。
あと、実のところゆっぴー本当は幽霊じゃないらしくて。
いつかそのうち現実に現れて私たちとおんなじように過ごせるようになるらしい。
幽霊じゃないならゆっぴーって一体なんなんだろう。不思議だな。
でもまあ、そしたらもっと色々なことが一緒にできるね。
うん、すんごく楽しみ!
「いやぁ、楽しみだよねっ!」
「まぁな」
「リアクションが、うっすーい!!」
「いって、叩くんじゃねぇよ」
パシンっと恭くんの背中を叩く。
平和だなぁ。なんかこう、平和が一番とはよくいうけど。
こんな平和な日常を過ごせていることを、
当たり前のことが、本当は当たり前じゃない、みたいな。意味わかんないけど。
なんだろね、私も恭くんみたいに中二病? にかかっちゃったのかな?
何かもわからないままずっと見つからなかった探し物も、いつの間にか気にならなくなったし。
自分のことながらよくわかんないなぁ。まあいっか。
「あ、恭おにいさん。鈴華さん」
おぉ、せかちゅー玄関で待っててくれてた。ほんといい子だね。
とてとてと駆け寄ってくるお姫様に、思いっきりぎゅっとハグしてあげる。
「うぐ」
「おい鈴華、埋もれてるぞ」
「ん? あ、ごめんごめん」
解放してあげたら、ちょっぴり眉を釣り上げたせかちゅーに胸を軽くはたかれた。
可愛い。もっかいハグしようと両手を広げたら恭くんの後ろに隠れちゃった。可愛い。
「アホなことしてないで早く駅前に行くぞ」
「えー、まだ早くない? せかちゅーでもっと遊びたい」
「早くねえよ。お前の時間感覚が遅すぎるんだよ」
「私で遊ばないでください……」
今から向かって、着いたら大体10分前くらいかな。
あと2、3セットくらい戯れられただろうけど、しょうがないか。
「うーん。名残惜しいけど、行こっかー」
「いや名残惜しいとかまだ遊ぶ本番前だぞ。雪花いじるのはまたの機会にしろよ」
「またの機会でもいじらないでください……」
とかいいつつ、私たちが歩き出したら苦笑しながらおずおず近寄ってくる。
なんだこの可愛い生き物は……おそろしい子……。
あ、離れてかないで。ごめん、ごめんて。
駅前には最近できた友達が二人いて。あと見えないけどもう一人いるはず。
「やっほー」
「やっほー」
もにかちゃんがノリ良くやまびこを返してくれた。この子もいい子だ。
となりのありすちゃんもふんわりと笑っている。
うーん、せかちゅーもそうだけど、やっぱお姫様みたいな美少女は目の保養になるねぇ。
「ん……? なんか疲れてるのか?」
「あー……恭さんも察しがいいね。でも大丈夫、うん」
「私たち今度お泊まり会するんだ。それでちょっとお話が長くなっちゃったんだよー」
「言っても言わなくても地獄なのはわかってたけど、苦しい戦いだった……」
「萌ちゃん?」
「なんでもないです」
私にはよくわからなかったけど、何かあったらしい。
でもそんな、喧嘩とかではなさそう。相変わらず仲が良さそうだし。
すごく距離が近くて、わかり合ってるこの感じ。すごくいいなーって思う。
私って割と人見知りしちゃうから、
せかちゅーとはこう、私が一方的に愛でるみたいな感覚だし。ういやつよのぅ。
今もゆっぴーがどこにいるのか探してキョロキョロしてて、いやぁ、かわいい!
こんな子をさ、いじめてた子がいただなんて信じらんないよねほんと。
なにはともあれ今はなんともないみたいだから、ほんと良かった。
そして、新しいお友達のもにかちゃんとありすちゃんとはまだ付き合いが浅い。
年下だから結構楽に打ち解けることができたけど、ありすちゃんとはまだ距離を感じる。
もにかちゃんともそんな深い関係かって言われると、まだまだだね。
二人とも早くもっと仲良くなりたいな。
「じゃあ行くか」
「幽霊さんは……?」
「いるだろ、あの辺に」
「うわぁ、すご。ピンポイント。二代目『察知』名乗っていいですよ」
「なんだそれ。あの辺チラチラ視線投げかけてたから、そうかなって思っただけだぞ」
「幽霊さん……!」
とりあえずゆっぴーいる場所がわかったので、確保! よし、ほんとにいた!
胸の中で小さくもごもごする感覚に、なんだかちょっとした安心感を感じる。
まるで、前にもこうしたことがあったかのような、デジャブ。
ゆっぴーと友達になってから、こんなことがたくさんあるんだ。
なんだか泣きたくなりそうな、懐かしさ。
もしかしたらだけどさ。
私が探してたのは、ゆっぴーだったのかも。
なんてね。
「あー、埋まってるんので少し緩めてあげたほうが……」
「あ、ごめんごめん」
ハグを緩めた瞬間、逃げられた感覚があってちょっと残念に思いつつ。
去り際に胸をパシパシ叩かれた感じがして、なんだかせかちゅーに似てるなって思ったり。
もにかちゃんの目線を見てると、せかちゅーの隣に行ったみたいだね。
ニッコニコで、パントマイムしてるみたいにゆっぴーと触れ合ってる。かわいい。
微笑ましそうな目をしてるもにかちゃんの様子を見てると。
私も早く生で見れるようになりたいなーって思う。
きっと、すごく、すごく、いい光景なんだろうな。
「ほら、アホなことしてないでみんな行くぞ」
・・・
俺たちの日常には非日常が混じって、でも平和なまま賑やかになった。
……ちょっと中二病みたいな表現になったか?
でも幽霊と友達になるだなんて、なかなか無い非日常だろ?
普通だったらそんなオカルト的存在を信じたりはしないだろうけれど。
何故だか俺たちはその存在をあっさり信じることができた。実際何かいるし。
直接話したりはできないけど、軽く触れ合うことはできるし、通訳がいれば意思疎通もできる。
だからまあ目に見えないだけで、コミュニケーションには思ったほど不自由しない。
目に見えない。声も聞こえない。
なのでこいつがどんなやつか、正直はっきりとはしてない。
ほんのわずかな感触と、その言葉と、その通訳をしてくれてる萌香の反応でしかわからない。
ただ、俺の第一印象として。
こいつは、遠慮しがちな寂しがり屋。
そんな女の子なんだと、なんとなく感じた。
自分はここにいるべきじゃないかもって思ってるのか、すぐにどこかに行こうとする。
萌香がそれを察しては、すぐに捕まえてこの場に留める、といったことを繰り返している。
全力で逃げたりはしてないようで、留まりたい気持ちと板挟みになってる、そんな感じだろうか。
この子らの関係性はよくわからんけど、まあ悪い関係ではないことは確かなんだろうな。
ともかく俺たちはまだ、こいつの居場所になれていないようで。
いつかなれたらいいと思いながらこいつを振り回している。
のだけど。
「ゆっぴーゆっぴー」
「幽霊さん幽霊さん」
ちょっと流石に構いすぎじゃないかお前ら……。犬猫じゃないんだぞ……。
いや本人が構わないならいいんだけどさ……。
萌香の様子をチラ見すると、問題なさそうに見てるから多分嫌がってはいないんだろう。
なんだかこいつも器用なやつだよな。となりの灯を構いながら、ちゃんと周りも見てる。
子供っぽく振る舞ってるけど結構大人な奴だ。年下だけど、かなりしっかりしてる。
……というかどうでもいいけど、最近のこいつら距離近すぎなんじゃないか?
さっきまで指を絡めて手を繋いでいたと思ったら、今は腕を組んで密着してる。
灯がやたらと積極的で、萌香も何だかんだそれを受け入れているんだけど。
見てると、なんだかあんまり見てちゃいけないみたいな気持ちになって少し恥ずかしいんだが……。
「仲良きことは美しきかなっていうけど、どうなんだこれ……」
「仲良しさんなのはいいことではないです? やっぱ好きなんですねぇ」
いつの間にか隣に来た雪花が、変な口調で呟いてくる。
俺もまぁ、そういうのは嫌いじゃないし、というか割と好きだったりする。
ただなんていうかこう、そういう問題じゃなく。
……こうして見てるとなんだか、こいつらから若干ながら壁を感じるんだよな。
本当の友達じゃなく、あくまで仲介役に徹して観客になってるというか。
もしかしてだけどこの二人、自分たちのこと邪魔者だって思ってたりしないか?
俺たちと友達になりたい幽霊のために、いまは一緒にいるだけで。
多分嫌われてるってわけじゃないだろうけど、俺たちと必要以上に仲良くならないようにしてる。
幽霊がいつか幽霊じゃなくなったら、代わりにそっと消えてしまいそうな、そんな雰囲気がある。
たぶんきっと、当たらずとも遠からずなんだろう。
……まあ、無理だろうけどな。鈴華がそんなの許さないだろうから。
鈴華は、本当は望んでないのに離れていこうとする友人を追い詰めるの、得意だし。
……ん?
そんなこと、
まあいいか。
俺もそういうとこあるし、せっかく友達になったならちゃんと仲良くなりたい。
だから遊ぶ機会があるときはこいつらを積極的に巻き込むようにしてる。
……まあ数少ない男友達からは、またハーレムが増えたとか言われたが。
ちげぇよ俺たちそういう関係じゃねぇからって言っても全く信じてもらえない。なんでだ……。
「どうでもいいけど、女友達ばかりできるな俺」
「まあ恭お兄さんお顔も悪くないと思いますし、女の子に優しいですからね」
「俺たちってやっぱハーレムに見えるのか……? 雪花はどう思う?」
「冗談はよしてください」
強烈に拒否られた。目線が冷たすぎて、つらいんですが……。
なんだこいつ、みたいな目をしたまま再び幽霊のところに行った雪花を尻目に、萌香にちょいと手招き。
グループから少し離れつつ呼んだので内緒話がしたいと察してくれたのか、こそこそと近寄ってくる。
灯はこちらに軽く手を振って幽霊たちの方へ向かった。
「どしたの?」
「ちょいと確認なんだが、まだダメそうか?」
「……ん? ……ああ、名前の件。もうちょっとかな。ごめんね、私から教えるのはちょっと違うと思うし」
「ああ、いいんだ。待つよ」
「いやぁ、あの子、ほんとヘタレのクソボケだからねぇ」
「口が悪いな……」
「まあ、あの子とはいま一緒に暮らしてるからね。色んな意味で……うん、色々思うところはあるかな」
「ふーん。まあ別に幽霊だろうがなんだろうが、俺たちは受け入れるのにな。どこにもいかねぇってのに」
「……」
「……なんだ?」
「そういうとこかなぁ」
意味がわからん。
「……あの子は、ね。信じきれないんだよ。自分の未来が」
「……?」
萌香が遠い目になって、幽霊と戯れる二人を見る。
俺も一緒になってそれを見る。
「わからないものは全部わるいものとなって降りかかる。今はそうじゃなくても、いつかそうなると心のどこかで思ってる」
「……」
「未来が視えなくなった。だから、何も信じられない。期待したいのに、期待することが怖くて仕方ない。望めばまた失ってしまうかもしれないから」
「……」
「バカだよ。優しいおバカ。みんなの未来を作っておきながら、自分に未来があるなんてやっぱりおかしいって、いまだに思ってる」
……。
……なるほど、な。
「私は、あの子に思い知らせてやりたいんだ。未来はあるって。君が望む限り、諦めない限り、いくらでも未来は作れるんだって」
「……」
「君の未来は、君の手の中にあるんだって、ちゃんとわからせてやりたい」
ずっと感じてたけど。
なんとなくは違和感の正体が、わかった気がする。
「だから俺たちが友達として、あいつの失くした未来を一緒にたくさん作ってほしいってことか」
「そうだね」
……うーん。なんか、気にくわない。
無性にむしゃくしゃしてきたぞ。
「……あのさ、それってお前らが一緒でも作れるんじゃないのか?」
「う……ん?」
「お前、自分たちより俺たちの方が友達に相応しいとか考えてるだろ、多分」
俺の直感は、おそらく正しい。
こいつは自分たちがいない方がいい形になるんじゃないかって感じ始めてる。
そんな、どうでもいいことをうっすらと考えてる気がする。
「一緒だろ。俺たちも、お前たちも」
「……ううん、それは違うよ。あの子にとっては、私たちなんかより、恭さんたちの方がずっと大事」
「そうじゃねぇってバカ」
「いや……バカって、私は真剣に」
いーや、お前はバカだ。
誰かのために、自分の気持ちを全部無視しようとしてる。
まるで、
くだらないことで悩んでるんじゃねぇよ。
「お前も、
虚をつかれたような顔をする。なんでそんな顔してんだ。
未来は、望めば作れるんだろ?
じゃあお前も、望めよ。
「あいつに嫌われてるってわけじゃないんだろ?」
「……たぶん」
「なら、俺たちと一緒にいるのは嫌か?」
「そんなことはない……けど」
「じゃあいいじゃねぇか」
こいつもいつも強引で自分勝手なくせに、変なところで遠慮する優しいバカだ。
だからとことん振り回してやる。覚悟しとけ。
お前は知らないだろうけど、
「一緒に、あいつの未来を作ってやろうぜ」
・・・
おじさんだよ!
なんか色々あって萌香ちゃんの家に居候してたよ!
あと名前も『察知』ちゃんって呼んでたら名前で呼べって怒られたから名前で呼んでるよ!
いずれ魔法が消えたら意味わかんなくなるからね。
決して圧に負けたわけじゃないぞ!
いやぁ、でもあれだよね。
今のおじさん、自力でやれることがあんまり無いから色々この子にお世話になっちゃってたけど。
なんかこう、身も心もニートと化し始めてるというか……ダメ人間になってる気がする。
なんだろうなぁ。せっかくの綺麗なエンディングを、台無しにしちゃってないかなぁ。
晩節を汚しまくってる気がしてならないんだよね。おじさん汚れちゃった……。
変なイベントもいっぱいあって、おじさんの尊厳ももうボロボロだよ。
尊厳? なにそれそんなのあったっけ、みたいな様相を呈してるよ。かなしいなぁ(諸行無常)
そもそも女子中学生と一緒に暮らすのってやっぱやばいでしょ……。
おじさんってば、おじさんなんだよ?
中身男だって言ってるのに何この子。こわい。
お風呂で上手く身体洗えなくてまごまごしてたら突撃してくるし。
服着れなくてまごまごしてたら着せ替え人形にしてくるし。
床で寝ようとしてたらベッドに引きずり込んでくるし。
ご飯食べるのに手間取ってたらあーんしてくるし。
なんなのだこれは、どうすればいいのだ!
今のおじさんはクソザコだから問答無用で抵抗不可能なんだが! 誰か助けてくれ!
……。
でも、まあ……。嫌かって言われたら、そんな嫌ではないんだけど……。
申し訳ないというか、恥ずかしいというか、でもなんか変な快感みたいな、
可愛い女の子にお風呂で身体中をまさぐられたりとか、
手ずからパンツを穿かせてもらってたときなんか、火照って、こう……、
パンツに関しては最終的にめんどくなったのかノーパン放置されるようになったけど、
それはそれで、ノーパンでスカートだと、ふとした拍子に見られちゃうかもって思ったり……、
……い、や、いやいや! ダメだダメだ!
色んな意味でダメな人間になりかけてる! 正気に戻れ! 扉閉まれ!!
このままじゃおじさん、春によく出るタイプのおじさんになっちゃうよ……。
私はノーマル。そう、ノーマルなんだ。だれがなんと言おうとノーマルなんだ。
一般性癖の擬人化みたいな存在。それがこの私、おじさんなのだから。
幽霊みたいだけどノーマルタイプでもあるんだ。ゴーストノーマルの複合タイプ。あれ、普通に強くない?
なんか全体的にわけが分からなくなってきたけど気にしてはいけない。ノーマルってなんだよ(哲学)
というかね、そうだよ。
そもそもおじさんが女子中学生の家に居座っていること自体がおかしいんだ。
だからおかしなことになる。おじさんそのものがおかしいわけではないはずだ。
そういうわけで。おじさん。
家出してました。
いやそもそもおじさんの家じゃないんだけど。
おじさんはこの、自堕落な楽園から脱獄するタイミングをずっと計ってて、ついにやったのだ。
自由だー! (拳突き上げ)
まあ、過去形なんですけどね。
半日も持たなかったんだよ。だれか笑ってくれ。
「シテ……コロシテ……」
「なんかころしてって言ってるけど、灯ちゃんどうする?」
「死刑」
「ゆるして」
羽交い締めにされてたらいきなり殺されそうになった件。
ていうかこの子の目、なんかたまにマジなんだよ! 実際コワイ!
最近すこぶるおじさんへの当たりがきつい気がするし!
おじさんが何をしたっていうんだ! 何もしてないだろ! いい加減にしろ!
「ホントにこの野良猫は……決意を新たにした途端にこれだもんな……」
「正直すまんかった」
「……なんだろう。今ならこの子、ひっぱたいても許される気がする」
「死刑」
「だめだよ死刑は。百合ちゃんには全力で生き恥を晒してもらわないと」
「じゃあ、恥ずかし刑に処そう」
「それはあり」
ねぇねぇ。おじさん、君らよりめっちゃ年上なんだが?
ちょっと扱いが雑過ぎない? おじさん泣くよ?
最近歳のせいか涙腺が緩くなってるから秒で泣けるよ?
「うーん……センサーならほんの少しわかるようになってきたけど相変わらず見えないなぁ」
「ん、でも着実に認識阻害が薄れてきてるかな」
「ペース遅すぎじゃない?」
「私の勘だと1、2年くらいかな。ま、気長にやろうよ」
あ、そうなんだ。思ってたより早いな……もうちょっと心の準備が欲しいんだけど。
ぶっちゃけ今の状況って、ちゃんと認識されてないから耐えられてるっていうのが少しあって。
素の状態だと色んな意味でやっていけるのかちょっと自信がないというかなんというか。
やれるのか、おい! って言われたら咄嗟にモイスチャーミルク配合って言っちゃいそう。
意味が分からない? 大丈夫、おじさんもよく分かってない。
「とりあえずお兄さんたちのところに連行しよっか」
「いいね、恭さんにナデナデの刑を執行してもらおう」
「ヤメロォ!」
「ん? 嫌なの?」
「え、あ、いやじゃ……ないけど……」
「……この表情で男だっていうのはちょっと無理があるでしょ」
・・・
──ごめんね。
いきなりで申し訳ないけど、私はずっと君に謝りたかったんだ。
私の代わりに、世界の犠牲になったって聞いてから。ずっと。
だから君が協会に来るって聞いたとき、居ても立っても居られなくなっちゃった。
あの子たちやあやめちゃんたちに少し無理言って、君と一対一にしてもらっちゃった。
私も君のことは見えないし、声も聞けない。
だからこれは私の一方的な謝罪。懺悔なんだ。
……ごめん。少しの間だけ、付き合ってね。
私はさ、みんなが幸せになればって思ってずっと頑張ってきたんだ。
辛いこともいっぱいあったし、泥水も何度だって啜った。
私は、誰よりも力があった。
だから頑張れば頑張るほど、結果もついてきた。
自分の思い通りに進んでると、手ごたえを感じた。
勘違いしてたんだ。女神様だなんて言われるようになって。
私は単なる、神様気取りの子供でしかなかった。
全部が上手くいっているように見えてたけど。
見えてないところで、隠されたところで、私のミスは積み重なってた。
もっと上手くやれたのに。
そんなこと、私には過去を変える力なんかないから、あとから言っても意味ないのだけど。
結局のところ、私は失敗した。
最高のハッピーエンドを作るつもりだったのに、バッドエンドになっちゃった。
それどころかたぶん、
魔力を持たないものは魔力関係の記憶を保持できない。
これはずっと言われてる私たちの常識だけど。
死んだはずの魔法少女はどうなるのか。
あの人は、ほとんど何も覚えてなかったよ。思いと、罪の意識だけを残して。
私は私のことに関してはずっと前から許してるから別にいい。
いや、そもそも他のもみんなが覚えてないから、文字通り無かったことになってるのだけど。
それはつまり、そういうことなんじゃないかな。
最低だよ。ほんとこの世界って、救いがないよね。
でもね。そんな世界を、君は完膚なきまでに救ったんだ。本当にすごい。
私にできなかったハッピーエンドを見事に作ったんだ。
みんなが幸せになる、問答無用のハッピーエンド。
だから、君も幸せにならなきゃ、そんなの嘘だよ。
君にだって幸せになる権利はある。
いや、幸せになる権利が無い人なんて、この世界に存在しないんだ。
君が自分のことを認められないってのは、なんとなくわかる。
だけど、君が作ったエンディングは、信じていい。信じなきゃいけない。
それさえ忘れなければ、私たちが幸せになったように、君もきっと幸せになれる。
ごめんね。そして、ありがとう。
みんなの未来を作ってくれて、ありがとう。
生きててくれて、本当にありがとう。
最後の最後に、もう一回だけ、神様気取りをさせてね。
私は幸せな『未来』に蘇った、『幸運』のつばめ。
幸せを運ぶ、勝利の女神。
勝利したあなたの未来の行く末に、どうか幸多からんことを。
・・・
こんな未来、あってもいいのかなぁ。
いまだに迷う。『私』みたいな異物がこの中にいてもいいのか。
「ゆっぴー!」
彼女があの頃みたいに呼び掛けてくることも。
「幽霊さん幽霊さん、おねえちゃんって呼んでもいいですか?」
妹があの頃みたいに慕ってきてくれることも。
「何してんだ、ほら行くぞ」
少年が、あの頃みたいに待っていてくれることも。
全部、全部、叶うはずがなかった未来。
『私』のポッケにはちょっと大きすぎる未来。
だけど確かに目の前にある。どこにも消えたりしない、ありきたりな幸せ。
何の変哲もない、未来が、続いている。
「……行こっか、百合ちゃん」
みんなが、『未来』の手を引いて、歩いていく。
きっと、そんな日常がずっと続くのだろう。信じてもいいのかな。
信じるのはまだ怖いけど。少しずつ、進んでいこう。
『私』も未来に向かって歩くんだ。
私はここにいる。エンディングが終わっても、変わらずここに。
待たせてごめんね、いま行くよ!
・・・
エンディング後に、平和になった世界を何をするともなく歩き回れる。
みたいなゲームってあったりするじゃないですか。
そんなの蛇足じゃんって意見もあるんでしょうけど、ああいうの、大好きなんです。
やまもおちもない、ただの日常をダラダラ過ごす、
そんなそれだけなお話がたまにはあってもいいんじゃないかと思うんですよね。
というわけで、今回で書きたいことも大体書き終わったので番外編もこれにて終了です。
今後の更新の予定は今のところありません。
これまでお付き合いくださり、誠にありがとうございました。
最後の後書きの後書きもユーザーページの活動報告にて更新しております。
あと、このお話を書いてる最中急に性癖ゲージが溜まり早漏ぶっぱしてしまいましたので、
(別作品です。ギャグ要素がほぼ無い激重暗黒世界なので、ちょっとばかり閲覧注意)
もしよろしければユーザーページからそちらのお話もご覧になってください。
それではまた!