5月23日にジャン+で公開された百四十九話の一部ネタバレを含みます。未読の方はご注意を
「まず、バーベキューの時にずっと言いたかったんだけど」
「待ってってば、教えて欲しいって言ってないから」
「かなちゃんは、お肉の焼き方がヘタだよね。芸能界長いのに教わらなかった?
あ、かなちゃんはずっとお姫様扱いだったからトングとか手にする機会なかったのか」
「勝手に納得して、なんで私責められてるの!?」
悲しいかな、有馬かなの主張は無視された。
撮影終了の打ち上げもかねて行われた海でのバカンス。
そこで実施されたバーベキュー。
普段であれば、火の前に陣取り、トングを手放さずに差配するあかねだったが、その日はアクアとの会話を優先させて、コンロから離れていた。
だからといって焼肉奉行、バーべーキュー奉行、鍋奉行。
数々の食事会で下っ端としてもてなしてきたあかねは、チェックを怠ることはない。
しっかりと見るべきものはチェックしており、その場では空気を読んで指摘しなかったものの、鬱憤が溜まっていたのだった。
「かなちゃんはね、大雑把過ぎるの。お肉は1枚1枚どのタイミングで載せたのか覚えておかないと、一度に載せちゃったらひっくり返している間に火の通り方がずれちゃうでしょ」
「続くの!?」
「焼け具合がバラバラの中から、いい感じに焼けたお肉だけを選べばいっか、みたいなのは好きな人の前じゃ許されないから」
「分かったから、その目やめて」
目が据わったまま、あかねが有馬かなに迫る。
「大丈夫大丈夫、私の言う通りにやれば絶対に美味しく焼けるから」
「ガン詰めじゃん」
「アクアくんってちょっとおっさん臭いところあるから」
「おっさんくさいって、アクアのこと好きなんだよね」
「大量のお肉をガーって焼いて渡すみたいなのはダメ。それで喜ぶのは若い子だけだよ」
「十分若いでしょうが」
「用意するなら少量でもいいから、質のいいお肉。それを焼きすぎないように注意しながら、表面を7、裏面を3くらいの割合で焼けば、アクアくんは喜んでくれる。焼けたと思った時点で焼き過ぎ。焼けてるのかなって不安になるくらいの火の通し方がベスト」
「それが分かれば苦労しないのよ」
「実戦で学んでいくしかないよ。かなちゃん、さっそく、やってみよっか」
「私の家、調理器具なんかないわよ」
「諦めるの?」
「え?」
「大人のフリして自分の願いを諦めすぎ、いつもいつもさ」
あかねが感情をぶつけてくる。
「今のかなちゃんは、焼肉を上手く焼く勇気がないから逃げてるようにしか見えないよ、いくじなし」
「絶対、そんな話じゃないと思う。私の願いってなに」
「焼きもちをやかずに、お肉を上手く焼く」
「それ全然上手くないわよ」
「とにかくやるわよ」
有馬家のテーブルに初めてホットプレートが設置された。
「ってどっから出した!?」
「はい、トング」
「うう……なんで私は休日にこんなことを」
結局は、断りきれずにあかねの指導の元、有馬かなはお肉を焼き始める。
1時間後。
「美味しいわ」
「でしょ。しっかり意識して焼けばお肉は応えてくれるんだから」
「ありがとう。だからもう帰って。あとは私、一人でできるから」
「待って」
「何よ」
「ここからが応用編」
あかねは、タンの上にネギが所狭しと乗っけられたそれをホットプレートの脇に置いた。
「ネギタン塩!?」
「これは表面を7、裏面を3で焼くなんてできない。たまに小皿にネギを取り分けて、両面焼いてからネギを載せ直す、私料理出来るでしょ、みたいにアピールする子がいるけど」
「うう……昔、そんなことしてたかも」
「それはネギタンへの冒涜」
「そこまで言うの!?」
「ネギタンの焼き方、それはね──」
なんだかんだで、しっかりとアクア好みの肉の焼き方をレクチャーされる有馬かなだった。