名前は、呼んでくれる人が大事なんだよ?
 プロデューサーくんは、知ってた?

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呼んで欲しい名前

 久しぶりに会った君は、もう私の知ってる弟くんではなくて、立派なプロデューサーだった。私より小さかった身長は頭一つ分くらい離れて、声も低くなって、顔立ちも……かっこよくなってた。

 

 

 君にスカウトされた時、内心諦めそうで諦めきれなかった夢が形になったような気がして嬉しかった。正直、「俺のお姉さんになってください」って言う発言は未だにびっくりが残ってるけど、あの言葉が私を変えたのは事実。きっと、あの言葉がなかったら試験でトップになることも、大勢の人の前でライブをすることも叶わなかっただろう。

 

 

 だから、だからこそ、私がプロデューサーくんに惹かれるのはわかっていたことだった。弟のように思っていた君。今でもたまに抜けている君。立派になった君。全部が愛しくて、恋しくて。少し、ズルをしたくなる。

 お姉ちゃんという役割を利用して、甘えてみたくなる。これは仕方ない、仕方ないことなんだ。だって、君が私を選んでくれたんだから。

 

 ◇

 

 レッスンが終わり、私がプロデューサー室に顔を出すと、君はノートPCや紙の資料とにらめっこしながら表情を歪ませていた。最近、外部のお仕事やミニライブなど経験を積むようなものが増えたからだろうか、プロデューサーくんはレッスンとの調整によく頭を悩ませている。

 

 

「お疲れさま、プロデューサーくん♪ レッスン、終わったよ」

 

「姫崎さん……お疲れ様です。申し訳ありません、レッスンに伺えず」

 

「私は平気だよ。それよりも、プロデューサーくんの方こそ大丈夫? 顔色、あんまりよくないよ?」

 

「大丈夫です。予定の調整が終われば、少し休憩を取ろうと思っていたので」

 

「それって、何時間後の話?」

 

「…………もう少ししたら、ですかね」

 

 

 昔からの癖だ。君は、事情を誤魔化す時に少し間が空く。それは多分、言い訳を考えてるのもあるんだろうけど、嘘があまり得意じゃないから。本心を隠すのと、嘘は勝手が違う。優しい嘘は嫌いじゃないけど、ここ最近は目に余る始末だ。

 

 

 適度に休憩はとっているだろうけど、前みたいに体を壊してしまったら元も子もない。私と君は、二人三脚なんだから。

 

 

「もう、そうやって誤魔化すのよくないよ? ココアでも入れるから、少し休もう?」

 

「……わかりました。ありがとうございます、お言葉に甘えますね」

 

「うん、そうしてくれると助かるな。じゃあ、ココア入れるからソファで待ってて♪」

 

 

 それとなく君をソファに誘導して、私はファイリングされた書類やら雑貨やらが雑多に入った戸棚から2つのカップを取り出す。初めて2人でお出かけした時に買ったお揃いのカップ。これがきっと、最初のわがまま。

 見る度ににやけてしまいそうになるのを我慢してたのも、懐かしい記憶だ。今では嬉しさこそあれど日常の中に溶け込んで、私たちの傍にある。

 

 

 慣れた手つきでカップにインスタントのココアを入れ、お湯を注げばあっという間に完成。お茶請け用に持ってきていたクッキーもお皿に出し、お盆に載せて君の元に運ぶ。自画自賛になってしまうが、我ながらいい出来だ。

 

「お待たせ、プロデューサーくん。クッキーもよかったら食べてね?」

 

「いつ見てもお店のものみたいですね、姫咲さんのお菓子は」

 

「どういたしまして。ほら、ココアも温かいうちに飲んじゃって」

 

「では、いただきます」

 

 

 ココア飲んで、クッキーを食べているときの君はいつもよりちょっとだけ昔の雰囲気があって、ほっとする。理解しているけど、理解しているはずなんだけど、隣を歩く今の君に在りし日の君を重ねてしまう。今まさに変わろうとして、変われなくて焦る私がそういう君の面影を探してしまう。

 

 

 そんな不安定なループから抜け出したくて、一歩踏み出すんだ。

 

 

「プロデューサーくん、あの、さ。1つだけ、お願いがあるの」

 

「なんでしょう? お姉ちゃん呼び以外なら、俺ができうる限り検討しますよ」

 

「えっと、あの、ね、名前で呼んで欲しいな、なんて」

 

「名前呼び、ですか。それは普段から?」

 

「ううん! その、この部屋で2人の時だけ、2人の時だけでいいから……ダメかな?」

 

 

 困ったような表情で首を傾げるポーズ。安直だけど王道で、中学時代にトレーナーから学んだ、自分の魅力を活かす甘え方。姉らしさはないけど、アイドルとして余すことなく私を利用する落とし方。

 プロデューサーくんは、唸るように表情をコロコロ変えて、そして最後に私の目を見つめる。もしかしたら、君は気付いてるかもしれない。けど……けど、私だって引きたくない。

 

 

「………………2人きりの時だけ、ですよ。()()()()

 

「──う、うん! ありがとう、プロデューサーくん♪」

 

 

 汗臭いかも、とかそんなの気にせず、私は君に抱きついた。普段のプロデューサーくんなら、渋い顔をして咎めたりするんだろうけど、今日だけはさっきのお願いのオマケだったのだろうか、見逃してくれた。

 

 

 でも、私は見逃してあげないよ。君の耳が赤くなってたのを、私は見逃さない。

 もっともっとアピールしたら、君はわかってくれるかな? 

 これが、ただの親愛じゃないって。

 これが、勘違いなんかじゃないって。

 

 

 ──やっぱり、もう弟だなんて思えないよプロデューサーくん。

 だって私はこんなにも……君が大好きなんだから。

 

 

 

 




 TRUEを見た衝動だけで書きました。
 後悔は、ないです。

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