秘封倶楽部としての活動なのか。

それとも、2人の人としての活動なのか。

果たしてこれは…どちらなのだろう。




1 / 1
私たちの距離

 

「……」

  広げていた本を閉じ、ため息。今日はずっと、この繰り返しだ。内容が、まるで頭に入ってこない。

 原因は、明日のせい。ちらりと見たカレンダーには、でかでかと「プラネタリウム』の文字。私ではなく、前にこの部屋に来た相棒が書いて行ったものだ。

 

 私と相棒は、言わばカップル…になる、のだと思う。どちらからとなくそういう雰囲気になって、成立したはいいものの…さて、ここで壁がひとつ。

 私達はどちらも、恋愛経験に乏しすぎるのだ。いち大学のオカルトサークルである私達が、恋愛に精を出すタイプかと聞かれれば勿論ノー。

 なら、今まで通りの距離感で?それはそれで、ちょっと違う気がする。

 

 こんな時に頼れる人も居ない私は、カップルがどうあるべきかという正解が分からない。

 

 この調子で、明日出かけるとなると───無事に済むのだろうか?

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 翌日。

 くれぐれも遅刻しない様に、と念を押した側にも関わらず私は自分が遅刻しそうになっていた。

 理由は、この妙に疲れ切った目元を見て察して欲しい。案の定、一睡もできなかったのだ。それを誤魔化そうと軽く化粧じみた事をしていたら、あっという間に時間が過ぎていた。

 

 それでも何とか、待ち時間ジャスト。ほっと息をつく私の肩を、後ろからぽんと叩く人影。

 

「メリーがギリギリなんて、珍しいのね。それとも、実はいつもギリギリだったりする?」

「いいえ、そんな事無いわ。蓮子こそ、ちゃんと時間通りに来るなんてどういう風の吹き回しよ?」

 

  内心、どきりとした。釘を刺すのなんていつもの事で、遅れるのなんて当たり前だと思っていたからだ。その事を聞くと、

 

「私だって偶にはちゃんと時間通りに来るのよ?」

 

とドヤ顔をされた。次からは遅れたらケーキでも奢ってもらう事にしよう。

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 プラネタリウムと言っても、その種類は多岐に渡る。私達が訪れたのは、夜空を模した天井を寝転がって見上げるもの。解説や何かも付いている様だが、あまりお客の入りは良くなさそうだ。

 

「外じゃビルの明かりで、星なんて中々見えないからね。もうそのまま、人は星への興味を無くしたんじゃないかしら?」

 

 

 そうかもしれない。既に月への行き来すら見えているこの時代にとって、星を見るなら地球より宇宙の方がより近く、鮮明に見える。星を楽しむには、現代社会は明るすぎるのだ。

 

「こうした施設も、いずれ無くなっていくのかもしれないわね…私は少し寂しいけれど」

「メリーって、意外とロマンチスト?ベランダに立って星を見てたりするタイプとかかしら」

 

 こうした施設の価値としての話をしているのであって、私がロマンチストかと言われたら首を横に振るだろう。本物のロマンチストは、きっとこんな世の中でも本当に星が見える場所を探すのだ。

 

 ちらりと、隣に座る蓮子を見る。相棒の調子はいつも通りで、何も変わった点は見られない。それが安心する様で。それが、少しもやっとする。

 秘封倶楽部として、オカルト調査は幾らでもやった。そのつもりがないのにオカルトと遭遇する事態にも多くあった。今回の様な、純粋に活動に関係ない用事というのは、実は珍しい。

 加えて、今は前までと関係が違う。恋人として、言うなれば初めての…だというのに、呆れるくらいにいつも通りだ。

 

 意識してるのは、私だけなのか。それとも、蓮子にとってはどんな間柄であれ出かけるのはサークルの一環となっているのだろうか。

 …分からない。その横顔から、読み取ることは出来ない。

 

 

人には、星の気持ちは分からないのだから。

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 どさりと、蓮子が寝転がる。靴を脱いで入る広いシートの様な空間で、中には…誰も他に人が居ない。ここまで寂れているとは、正直思わなかった。

 

 暗転し、暗がりの中で天蓋に星が映し出される。解説とはあったが蓋を開ければなんのその、機械音声による無機質なものだ。

 隣で横になりながら、ぼうっと…星の事を考えていた。眩しすぎるくらいに光を放って、私では追いつけないもの。世界の進歩でどれだけ星が近くに来ようと、それを捕まえる事は出来ない。

 

 同じなのかも、しれない。私にとって、隣の相棒は眩しすぎる。眩し過ぎて、分からなくて届かなくて…見失ってしまいそうだ。

 蓮子の顔は、暗くてよく見えない。ただ自然体で、星を見ている事は分かった。相棒の星から時間と場所を知る眼も、この虚構の空では機能しない。私達は今、ただ2人の普通の人間でしかない。だから。

 

 

 だから、そっと手を伸ばした。今日が終われば、また蓮子は輝くだろう。私を導く星として。その前に。その星が、遠くに行ってしまう前にと、近づけていく。

 

 輝く星を見るのは、勿論好きだ。けど、見ているだけでは、どうにもならない。

 届かないと知ったとしても、星を捕まえようと手を伸ばす様に。私達が、ただの人である内に。

 

 

 そっと、手と手が触れた。びくりと、大きな震えが伝わってくる。驚いて逃げようとする手を、優しく捕まえる。

 微かな驚きがあった。蓮子ならこのくらい、何でもない事として受け止めると、思っていた。或いは、これも今だけだろうか?

 

 それなら、それで構わない。ゆっくりと、握った手に指を絡める。ひやりとしていて、暖かい。とくんと早鐘を打つ感覚が、手を通じて伝わってくる。

 隣の相棒の顔は、分からない。けれどこの熱で、感覚で───私は今、彼女の全てを知っている。そう、漠然と感じた。

 

 

 指を絡めたまま、くいとこちらに引き寄せる。驚く程あっけなく、距離が縮まる。普段とあまりに違う、素直で受け身な蓮子の所作に。自分の心臓も、早まるのが嫌というほど分かる。

 

 その鼓動に任せて、そっと、キスをした。

 

 震える手を強く握りながら、自分の本能に身を任せる。輝く星としても、1人の人としても───私だけが知る、私のものだと示したかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

「………」

「………」

 

 プラネタリウムを後にして。私達は、ひと言も離さずに帰路に着いていた。

 

 …いったい私は、何をしているのか。急にあんな事をして、本当に私がした事かと疑いたくなる。だが、夢だと言うにはあまりにリアルだ。紛れもなく、私がした事に他ならなかった。この後、私はどんな顔で蓮子を見ればいいというのか。

 

 後ろを歩きながら、ぐるぐると使い物にならない頭で考える。俯き、考え込む私の視界に。ふっと、蓮子の顔が飛び込んで来た。

 

「きゃっ…」

「どうしたの、メリーったら。何か気になる事でもあった?」

 

 

 いつもと同じ調子に、いつもと同じ声。いつも通りの蓮子が、私を見ていた。

 どう答えたものか、と考える間に蓮子は私の手を取った。そのまま、ぶんぶんと振りながら歩き出す。

 

「ほら、いつまでも下向いてないで!明日からまた、秘封倶楽部の活動再開よ!」

 

 

 ぎゅっと、握る力が強くなる。いつも触る手より、暖かく感じた。私も、軽く握り返して隣に並んで歩き出す。

 

「そうね。明日からは遅刻する度にケーキ1つおごりだから、そのつもりでね」

「うえっ、覚えてたわけ…⁉︎」

 

 

 ぎくりとする蓮子を見て、笑みが溢れた。いつも通りの蓮子。私を引っ張り、照らしてくれる光の方が、やはり蓮子には似合っている。

 けれど。ふとした時に。私が手を伸ばしてしまう様な、ありふれた普通の彼女も…どうしようもなく、愛おしい。

 

 

 人には、星の気持ちは分からない。そもそも、人は星を忘れかけているのかもしれない。

 けれど、私は。隣で輝く星を、ずっと忘れずにいるだろう。

 星の考えは、こうして近づけば…理解できるのだから。


  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。