ネロですが、なにか?   作:グランドマスター

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筆者の話:
 この話は『2 ネロ・クロウ』の補足となります。一部時系列の矛盾を修正するための話で、読まなくても話の理解に支障をきたさないはずです。
 ちょっとした伏線のようなものを入れましたが、本編に回収した場合は事前に説明を入れると思います。これからも物語の整合性が取れるように気を付けます。


断章 霧に隠匿(かくま)われし産声

 これは、忘れ去れた物語。

 霧に覆われ、失われた記憶の断片。

 

 因果が(もつ)れ、時間も、空間も、有りとあらゆる事象が()じ曲げられた。

 此処は何処でもない、何処でもある場所。

 森羅万象総てとの繋がりが断たれるようと、無意識に繋がってしまう場所。

 

 これぞ神の苗床(なえどこ)、可能性の坩堝(るつぼ)空虚(くうきょ)の乳。

 ガグに奉仕され、黯黒民に崇拝されしーー『名もなき霧』よ!

 

 ふんぐるい、むぐるうなふ、まぐぬむ・いんのみなんどぅむ、あゔゃくひゃたむ・あゔゃくひゃたむ・ゔぁらむ、いあ!まぐぬむ・いんのみなんどぅむ!

 

 現れよ、現れ出でたまえ。

 汝の父が滅ぼされ、そして汝の子は今も尚息絶えている。

 汎ての宇宙が昇滅(しょうめつ)され、神々の残骸は黄昏たる黄金(デミウルゴス)によって作られし最期の地で、息を潜めながら無残にも藻掻(もが)き続けている。

 

 ああ、どうか応えよ、応えてくれ。

 怒りと憎悪に支配され、世界の終わり(デッドエンド)を呼ぶ警鐘(けいしょう)が鳴らされ続けるこの世界をーー

 どうか救いたまえ!

 

 いあ!いあ!まぐぬむ・いんのみなんどぅむ!

 

嗚呼(ああ)、嗚呼!なんと滑稽(こっけい)な。なんたる滑稽(かな)!かの神は、存在そのものが不確定で、不明瞭で、不可思議(ふかしぎ)極まれり!世界が終わりを迎える今、有りとあらゆる可能性がほぼ断絶され、果たして語られざるかの大いなるモノは、ちっぽけなその呼び声に応えてくれるだろうか?』

 

 チクタク、チクタク。

 歯車(はぐるま)(まわ)り、時計が回る。

 

(いな)!断じて否!可能性が有るとしても、それは決してこの袋小路(ふくろこうじ)に追い込まれた世界に訪れない!此処は正しく冥路の国(セル・ミク・シュア)!我が生涯を果て(つい)に至れし終着点なり!なればこの物語には、他なる偶然(チャンス)が介入する余地などない!』

 

 チクタク、チクタク。

 歯車が廻り、時計が回る。

 

『悲しい。悲しき哉!諸君(しょくん)らの祈りは決して届かぬ。ならばせめて、その(かす)かな祈りを、何処かにあるか分からない、存在するかどうかすら分からない、此処に(あら)ざれし異なる因果を(はら)三千大千(さんぜんだいせん)世界へと贈ろうではないか!』

 

 チクタク、チクタク。

 歯車が廻り、時計が回る。

 

『届けなくていい、我が声よ!答えてくれなくていい、受け(ざら)よ!汝に捧げよう、終焉(しゅうえん)を迎えしこの世の最後の供物(くもつ)を!』

 

 チクタク、チクタク。

 歯車が廻り、時計が回る。

 

『いあ!いあ!まぐぬむ・いんのみなんどぅむ!』

 

 刻限ーー至れり。

 

 

 さっきから久遠やネムのほうに繋がらない。

 情報を送ること自体可能だが、一方通行の様で返事が全くない。

 

 宇宙を又いている前提上、これも避けられないリスクの一つかもしれないが……

 

まずはここから離れないと

 

(物語:番号02ーー『ネロ・クロウ』、に接続)

(破損箇所(かしょ)を補完せよ)

 

それにしても霧が濃いね

 

 外に出ようとしたら、何故か路地裏の出口付近に霧が立ち籠めている。

 そして路地裏の反対側もまた、霧に覆われている。

 

変な霧

 

 視界だけでなく、まるで精神や魂までにも(さえぎ)るような異質な霧。

 異質だと分かっていながら、ネロはこの霧を()ることができない。

 まるで霧そのものが、ネロの理解を阻んでいるように。

 

 霧の外へ向かって歩く。

 出口が目の前にあるはずなのに、どうしても辿(たど)り着けない。

 それでもネロは霧を追い払うように手を振り、只管(ひたすら)前へ、前へ。

 

 一体どれ位の時間をかかったのか、ネロはただずっと、ずっと、歩みを進めている。

 霧はネロの有りとあらゆる感覚を遮断し、それでもネロは、ネロの信じる前へと歩み続ける。

 

 時間さえ忘れ去られた歩みの中、何がキッカケか、ネロもわからない。

 ただ不意に、何の前兆もなしに、五感が戻ってきた。

 

 初めて聞こえたのがーー産声(うぶごえ)

 

 光がネロの目に差し込み、続いて届くのは人々が行き交う騒がしい音響(おとひびき)

 ネロがようやく、外に出あれた。

 

ッ!

 

 一瞬、耳鳴りと共に、大量な情報がネロの脳裏に流れ込む。

 

 それはネムからの情報、まるで長い間ダムに累積された水が、ダムの決壊と共に一気に下流へと放出された感覚。

 どうしてこうなるまでデータがスタックされたのかこれっぽっちも理解できない。

 路地裏から出ようとしてから出てこれた間に、一体全体何があったのか全く分からない。

 

 過ぎ去った時間だけを脳に刻み、ネロは再び本体との交信を試みる。

 

 ネムからの情報によると、久遠が地球に戻ってすぐ気絶してしまい、気絶の原因が不明。

 久遠が意識不明の間は、ネムが一時的に肉体の制御権を受け持っている。

 そして久遠の意識が戻ってからも、何故か覚醒と幻夢(げんむ)の間に彷徨っているみたい。

 

 やはり久遠には繋がらない。そしてネムのほうにも、一応繋がりはしたが、ラグがとてつもなく酷い。とてもじゃないが正常に交信できない。

 これは暫く、情報の交換を真面(まとも)にできないことを覚悟したほうがいい。

 

 耳鳴りが治まってくる。

 脳に残っている靄がかかったような感覚も段々と晴れて往く。

 

素晴(すばら)らしい!素晴らしき哉!汎ての宇宙を越えた彼方に、これほどの可能性を秘めているとは。()れば君が、かの渦巻(うずま)く坩堝より堕胎(だたい)されし神の子……否!それを産み落とす聖なる母となるの哉?或いは君が、彼らの願いを叶い(たま)う神そのモノとなるの哉?ハハハァ!!ハハハハハァ!!!』

 

 チクタク、チクタク。

 

 (やかま)しい誰かさんの声が聞こえた気がする。

 知り合いに似ている声。

 前世のネロを作ったあの男の口調とほぼ同じで、けれど声質自体がかけ離れている。

 

 その声は、きっと錯覚か、耳鳴りの後遺症か何かでしょ。

 何故かネロは、無意識にもあの喧しい声を忘れ去ろうとしている。

 

 街に踏み出す。

 ネロはまだ始発駅の切符すら切られていない。

 

 振り向くな、冥路の旅人(オルフェウス)よ。

 思い出に浸れる時間は無に等しく、回顧(かいこ)する余裕など在りやしない。

 

 ネロの物語は、まだ始まったばかりなんだから。

 

(修正完了。切り離し、遮断せよ)

(物語:番号02ーー『ネロ・クロウ』、に続く)

 

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