狂信者+ダンジョン=農家栽培 作:ストマフィリア
あなたは早朝早くにオラリオの都市を囲う市壁の北西部へ
先日の出会い頭の追いかけっこから突撃ごっつんこ、トラブル的なアイズとベルの顔合わせから数日が経ち、相も変わらず平穏な日々が続いていた。
あれからあなたのモーニングルーティーンが変化する……ようなことも無く。
しかし当のアイズとベルはと言えば、初めてお顔を合わせた時に何か約束事のようなものを交わしたらしく、お互いに特訓の日々に勤しんでいるのだという。
その間、あなたとベルとの鍛錬は一時休暇ということになっていた。
そして数日が過ぎた今日、どうなっているのか気になったあなたはその様子を覗きに市壁へ足を運んでいるわけである。
昇る朝日に瞳を焼かれる今日この頃。
オラリオの全体が見渡せる防壁の上、そんな場所であなたは今にも昇らんとする眩しい日差しに目をくらませていた。
自然が生んだスポットライトの下でなぜか川の字で寝転がる、少年と少女の姿を眺めながら。
「…………」
「…………あの、誤解なんです。
あなたの来訪に気が付いたベルがビクゥッ!!と兎のように飛び跳ね起きつつ顔を青くして弁解をしようとしてくる。
はて、何が誤解なのだろう。
数日前、ベルはわざわざあなたの鍛錬を一時休止してアイズとの特訓に注力したいと言っていたはず。
それが、どうして、早朝の朝日の下で、お互い仲良く寝転がる光景に繋がるのか。
是非とも弁明して欲しいものだ。できればあなたが納得できる理由で。簡潔に。
「えっとぉ……それはぁ……」
納得できればよし。納得できなければサボりの発覚として2日に1食ハーブ生活を3食に増やす。
「げぇ!? それは鬼畜の所業ぉっ!?」
「……ハーブ?」
あなたの一言に目を白黒させるベルと、きょとん顔のアイズ。
あの
しかしサボり分の取返しにしては妥当なモノだろう。
もちろん異論反論口答えの全てを認めない。
5秒あげよう、言い訳開始。
「え、ちょ、ちょっと待ってください
3秒。
言い訳がないならこのままハーブを口内に詰め込ませてもらうが。
「えっっと、そう! これ、ダンジョンで休憩するための特訓なんですっっ!!」
あなたの早期判決に焦りまくるベルがそう述べた。
ほう。
確かにネフィア内――もといダンジョン内での休息は大事だ。随分昔の話ではあるが、あなたですらダンジョンで
今となってはあなたの所有する武器である★《ラッキーダガー》をその辺にいる住民やモンスターに刺し続けるだけでスタミナを吸い取るがゆえに困らなくなったものの、初心の精神は大切だ。
「……えっと、私がベルに休もうって提案したんだけど……だめ、でした?」
必死の極致に至るベルの言葉に間を挟んでアイズが首を傾けあなたにそう語る。
別にダメという訳ではない。
ちゃんと特訓という名目があればあなたに言うことなど何もないのだ。
それに先ほども語った通り、休息は長期的な探索において重要な課題の一つに成りうる。先輩の冒険者であるアイズがその点をベルに教え込んでいたのならば、良い着眼点だと関心の意を示すばかりである。
「ありがとう、ございます?」
あなたの素直な称賛にまたも首を傾げ感謝を告げるアイズ。
そしてその隣、ベルは冤罪が晴れたとばかりに胸をなでおろしていた。地獄のハーブ3食の刑が免れた本気の安堵だろう。
しかし、3食が消えただけで
ベルには後で本日分のストマフィリアを渡すとして、あなたはここに来た理由を語った。
「どんな特訓をしているか気になった、ですか? えーと、基本的には
「う……」
どうやらアイズは教え下手……あなたからしてみれば教え上手らしく、体で直接教え込むタイプの様だ。あなたと大体同じである。
しかし違いがあるとすれば、あなたはベルをボコすのに罪悪感が無いが、アイズには多少なりともその類があるという所だろうか。滲み出る冷や汗がその証拠だろう。誰かのお叱りに怯えているようにも見える。
「罪悪感が無い方が問題な気がするんですけど……」
「ベル、かわいそう……」
「アイズさんも少し加減を覚えてくれると助かります……。いや特訓だから仕方ないんですけど……」
げんなりするベルにあなたは背を叩いて気張れと声をかけた。
強くなりたいと豪語する少年相手に躊躇する精神などあなたは持ち合わせてはないし要らないと考えている。もちろん罪悪感もだ。
アイズにはこれからも厳しく当たってくれるとありがたいものである。
「手心ってどこにあるか分かります……?」
「えっと……そこに無かったら、ないかも?」
「どこかから自然に生えてこないかなぁ……」
ひそひそと小声でアイズと話しながらどこか遠い場所を眺めてそうなベルなど、あなたは知らず顔だ。罪悪感の一片すら持っていない。
「……あ、そういえば
しかし流石はあなたの手が加えた
今日はそれぞれ単独行動の日なのである。
「一人で……? お仕事ですか?」
素直な疑問に首を縦に振るあなた。
前日の話になるが、ラーニェがあなたの仕事を1日だけ引き受けたいという打診を受けたのだ。
急にどうしたかと理由を聞いてみれば、開口一番『いつまでもお前の助けありきでここで過ごすわけにもいかないだろ』という至極真っ当かつ真面目な彼女らしい台詞だったもので。
会話を要約すれば、ラーニェ一人でも仕事をこなせる様に頑張ってみたいということであった。
もちろん前向きな彼女の意思に断る理由も無く。
二つ返事で了承し、今日の農家の仕事をラーニェに任せたあなたは一人暇人と化していたのだ。
ここに顔を出しに来たのも、暇つぶしの一環としてである。
今頃、路上商売でもしている事だろうかと朝日照らされる街並みを眺めつつあなたはベルに問いの答えを返す。
「じゃあ、この後の予定とかも無いってことですよね」
「お仕事ない、暇な人?」
*グザッ*っと若干天然感のあるアイズの悪意なき罵倒を受けながら再び首を縦に振る。
遊びついでにダンジョンでも行こうかと思っていたが、別に急ぐことでもない。
そう答えれば、ベルはいつものように好奇心に身を任せて言った。
「なら、お時間が良ければですけど。魔法を使ったときの戦い方について教えてもらえませんか?」
……いつもの鍛錬ということだろうか。
数分前にアイズと打ち合った後だろうに元気なものである。まあなんにせよ向上心があることは良い事だが。
あなたが別にいいと軽く返答すれば、「ありがとうございます!」と丁寧な言葉が返ってきた。
本当にあなたの弟子にしてはちゃんとしたものだ。もしあなたのペットが彼を見たら卒倒するだろう。おそらく信じられないというような表情で。
「アイズさんとは武器の打ち合いを今日まで結構やってきたつもりなんですけど、魔法を使った戦いってやったことが無いんですよね。だから、コツとか知って置いた方がいい事とかあるかなって」
「……ベル、魔法発現してるんだ?」
「え、ああはい。て言ってもつい最近になって発現したから僕も勝手がよく分からなくて」
なるほど、つまりは魔法戦のノウハウが欲しいとそう言うことだろうか。
己の未熟を失笑気味に笑ったベルに対して、アイズは表情こそ乏しいものの驚愕を隠しきれていない。
実際、ベルは冒険者になって1ヶ月と少しの期間で魔法を習得した身。イルヴァでならまだしもこの世界の基準としては異例の部類に入るはずだ。
「すごいね、ベル」
「えっ、いや別に凄いとかそういうのじゃっ、僕まだ使いこなせてもいないし……って
しかし、あなたにとってベルが魔法を習得した期間がどうという話などどうでもいい。
称賛の言葉をくれるアイズに困惑していたベルを余所に、あなたは唐突に四次元ポケットから★《ラッキーダガー》を取り出して構えた。
さらに困惑を深めるベルにあなたは言う。
「打ってこいって……今ここで? 準備とか」
要らないだろう。
話よりも実践。そこにいるアイズもやっていたことだ。さっさとこい。
そんなクイッと差し指を引き入れるあなたの仕草をみたベルは、またもげんなりとした表情で独り言ちた。
「こ、言葉が足りない……いつものことだけど」
「……私も?」
「いえ、別にアイズさんがどうとかは……無いことは無いんですが」
突如*ガーン*と衝撃を受けたような音が幻聴としてあなたに聞こえた。
おかしい、電波が届いた気配は一切なかったのだが。どこから聞こえたのだろう。
「じゃあえーっと……行きます!」
不思議な出来事にあなたが気を向けてる最中に疾走を始めるベル。
開幕、ベルはあなたに対して間合いを詰める。
距離は二足とベルとあなたが手に取る獲物にしては足りない距離。あなたと接敵するにはもう一歩ほしいところ。
もし、
しかし、その思考とは裏腹に。
「え……?」
ベルは、距離を詰めるのをやめてあなたの真横へ跳躍。
視線を動かすその先にいるのは、アイズ・ヴァレンシュタインその人。
見晴らしのいい壁上において、ちょうど人が一人
そこにベルの姿が一瞬の間覆い隠される。
――次の行動が、多少読みづらくなる。
……なるほど、無鉄砲に特攻するのはやめてみた。そういう意図だろう。
次に垣間放たれるのは魔法か、獲物か、それともまた別の何かか。
小賢しいとは思うが、これもベルの考え付いた
アイズとの特訓の成果がしっかり実りつつあると考えていいだろうと、あなたは直前までベルの行動を安直に予測していた自分自身に少しばかり叱咤しながら、ベルに賞賛の意を示した。
そうして行動は成される。
直後、アイズから見て右の方向から飛び出したベルが右腕を構え飛び出した。
「ファイア――!」
今だ、好機とばかりに飛び出したベル。
必中とはいかないまでも効果的な一撃を期待するだろう魔法を放つ彼を前に、あなたは
「ボル、ト――!?」
刹那、右手を構えるベルの前に現れるあなたの姿。
一足どころではない程の超近距離。構えた砲塔に今にも胴体がぶつかるという急な事実に、ベルは見るからに困惑を表に出した。
残念だが、この程度の思考の駆け引き、あなたのフィジカルで埋めることができるのである。
そして、再び消えるあなたの姿。
行先は下。ベルの真下、童顔の見える直下の方向へあなたはしゃがんだのだ。
詠唱を終えたものの目標を見失い、空を駆ける赤き紫電。
次に困惑するベルを襲ったのは――。
「グバゴバ――ッ!?」
無防備な顎元に突き立てられる無慈悲の衝撃。あなたは広げた手のひらを押し上げるようにものすごい勢いでぶつけて見せた。
真上に吹っ飛んだベルはそのまま落下し冷たい石畳へと激突。
もちろん、速度そのままに掌底をぶつけたのだ。冒険者と言えど顎を抑え痛みに悶えるのは当然の光景。だが舌を噛んでいないのは幸運だろう。まああの勢いで噛んだら舌が千切れそうではあるが。
瀕死のプチみたいに転がるベルに、しゃがんで心配の意を見せるアイズ。
「ベル、大丈夫?」
「ッッ……あ、ありがとうございますアイズさん。僕は大丈夫……じゃないんですけど平気です。いつもので慣れてるので……」
「なら、いいんだけど。えっと膝枕、する……?」
「……労わってくれる人がいるって、すごい安心するなぁ。ああいや、
起き上がりに失礼なことを言うベルなのでもう一撃与えようかと考えたが、まあ時間の無駄のでやめておくとしよう。
あなたは過度な仕置きは好まない性格だ。
「え?」
心底不思議そうな表情を浮かべるベルに腹が立ったのであなたはデコピンを一発ぶち込むことにした。
バフ込みのデコピンにベルは再び転がる羽目になった。
さて、ベルがあなたに問うた魔法戦のノウハウについて語る前に、まずは賞賛の一言をベルにかけた。
一連の駆け引き、今までのベルにはなかった戦闘のスキルが向上している点についてだ。
「あ、はい。アイズさんに言われたんです。僕には技と駆け引きが足りないって。でもとっさに思い付いたものだし、
「ん、私もびっくりした。でも通じなかったから悪いわけじゃ、なかったよ」
そう、アイズの言う通り駆け引きを覚えた事実。それが重要だ。
今まではただ直感に身を任せ、身を捨て投げるような行動が多かったが、この数日に至る鍛錬でベルはそれをやめることを意識した。何事も考えることを放棄した地点で敗北が決まるのだから。
よく頑張っていると、あなたはわしゃわしゃとベルの白髪を撫でる。
「く、くすぐったいですよ
頭を撫でられることを拒絶しないのはベルの愛いところだと思いながら、あなたはその点について語り始める。
まず、前提として魔法を使う戦いになる際に気を付けなければいけない事、それは対象へ命中させることであること。そしてそれを可能にするには冷静さが必要であること。簡潔な2点をベルに教える。
「冷静さ、ですか?」
直前の駆け引きまでは良かった。魔法を放つタイミングを計り、相手の思考を乱す行動の一連の流れは素晴らしいの一言ではあった。
しかし、最後の最後あなたが眼前に迫った際、ベルは冷静を失い困惑に思考を奪われた。
あれが無ければ、足元へ回ったあなたへ瞬時に照準を合わせなおす事ができたかもしれない。
「……魔法を使った戦いに限らない」
「アイズさん?」
「戦いの最中には、突拍子のない行動をするモンスターも出てくるから。それに困惑するのはしょうがないけど……冷静さは、すぐ取り戻さなきゃいけないよ」
じゃないと負けちゃうから。とアイズの台詞。
まあ簡潔ながらも代役して語ってくれた通りである。あなたは提言を奪われたことに少し肩をすくめながらベルの頭をポンと叩き、精進するようにと締めくくった。
『ありがとうございます。暇とはいえ時間をもらっちゃって』
『今度、私も手合わせ、お願いします』
と、別れ際の会話を交わしそんなこんなで早朝の鍛錬がお開きになって早数分。
この後は暇つぶしにダンジョンへ、そう決めていたあなただったが何となくオラリオの街中を歩いていたあなたの視界の端に、あなたのよく知る荷台が確認できた。
というか、アレはあなたの荷台だ。
となれば、それを使っている人物は大体想像が付くわけで。
ラーニェの仕事が始まって3時間、一時経過観察と言う体で《隠密》のスキルをフルで活用して接近する。
さて、彼女の仕事ぶりはどうだかなと、興味津々にこそっと覗き見するあなたが見た最初の光景は――
「お、おい!髪を引っ張るな、荷台に乗るな、私の背中に抱き着くなぁっ!」
「へっへーん! やなこったー!!」
「いつものお兄ちゃんもっとあそんでくれるんだからさー、おねえちゃんもあそぼうよー」
「い、いや私は仕事をしにだな!」
「あそぶのも仕事のうちー!」
「どういう理屈だそれは!?」
……周囲の子供に寄って集られてわちゃわちゃ四苦八苦しているラーニェの姿である。
さては路上販売の仕事の最中にわんぱく小僧どもの相手でもする羽目になったのだろう。あなたもよくああやって戯れられることがあるが、ノースティリスで妹猫と戯れ続けたあなたはああいう手合いの子供の扱いに慣れている。主にかくれんぼに関してだが。
遠目で眺めている子供の親は呆れたように額に手を当てていた。
なんなら若干、ていうか結構額に青筋浮かべてキレかけ寸前みたいな感じだ。この後の厄介小僧たちの未来やいかに。
で、そんなラーニェは子供たちの相手に四苦八苦しつつどうすればいいのかと困った様子。
彼女の性格上、世話焼きのイメージが無い点を考えると当然な結果に見えるが。
というか彼女は何故か弄られキャラというのが身に沁みついてる節がある。生まれつきだろうか?
「ちょっと男子ー、やらしい事するのはだめだからー」
「しねえよー! ていうかこの黒いふとももってどうなってんのー?もしかしてタイツってやつー?」
「ひゅぃ!? さっ触るなぁ!それは地肌だ!」
「はいアウトー、お母さーんおねがーい」
「え、ちょ、いだだだだっ!!? ぐりぐりはいやだー!」
……まあ、今日1日あなたの仕事を引き受けたいと言ったのは彼女本人だ。
商品の乗った荷台の様子を見るにあまり商売が上手くいっているとは思えないが、彼女の安全面に関しては制裁を与える保護者もいる。顎に指を当て10秒ほど考えたあなたは、ペットを見守る気分で放任主義をすることに決めた。
さしずめ、はじめての農家仕事といったところか。
帰ったら感想を聞いてみようと、今日の夜が楽しみになるあなたであった。
――そうして、あなたはそのままダンジョンへ向かおうと《帰還》の魔法を詠唱した。
行き先はあなたが到達した最深奥、深層50層。
暇潰しにダンジョンへ遊びに行こうと言ったが、別に一番上から下まで潜るとは言っていない。
今日は趣向を凝らしてみようかと考えたあなたは、いっそ逆走してみるかと思いついていたのだった。