「ははっ……」
これが……神罰ってやつかな……。
…………
ごく普通の一般的な家庭で、父と母がいて、私がいた。
父の会社が倒産するまでは。
再就職に難航。日雇いで茫然自失としたまま帰って来ては酒を飲んだくれていた。唯一の救いは、そんな状態でも家族に手をあげることをしなかったことだろう。
それでも破綻は訪れ、ついに父が過労で倒れ、そのまま死んだ。
母はそのままたくさんの仕事を続け、私は人としての道から逸れだした。
悪い友達と付き合うようになり、いろいろなことを知った。
売春とか市販薬のODとか。
特にODははちゃめちゃに気持ちよくなれた。嫌なことを全て忘れることができたから。おかげで舌は真っ青。怒られるから家にも帰らなくなった。
そしたら見事売人の仲間入りを果たした。最初は市販の風邪薬に始まり、処方薬を経て。
最終的に麻薬に行きついた。
……
いくらこれでしか食っていけないとはいえ、やっぱ麻薬の密売はダメだったかなぁ……。
なにあの化け物。MS?でかすぎでしょ……。
腰抜けちゃったし誰もいないし……。
「うっ……おぇっ……!」
こんな時に……切れたか……。
「はぁ……はぁ……ふーっ……ふーっ……」
はぁぁぁぁぁぁ…………。キくぅ…………。
あーあ。これで死ぬんだろうなぁ……。
「…………」
あのうさん臭い軍人さんのお誘い、断らなきゃよかったぁ。
あー良い感じにふわふわしてきたぁ…………。
「おい君!大丈夫か!?」
「…………」
何でか知らんが生きてる。
あんな化け物の足元にいたのに。
虚ろな瞳が得て、ぼんやりとした意識が処理した情報を覚えてるのは、羽の生えた青と白のMSが飛び回っていたことだけ。
怪我らしい怪我はない。
手元のクスリはあれが最後のだったから怪しまれこそすれど、「悪いクスリをキメてた哀れな少女」という感じで速攻病院送りになった。
「……ははっ」
あの街には私よりも良い人たちがたくさんいた。
私よりも幸せになるべき人がたくさんいた。
私よりも生きるべき人がたくさんいた。
そんな人たちを差し置いて、私は生きた。
物心ついた時にはクスリから離れられなくて、人を騙してクスリを売って、その金でまたクスリを買うという最悪のループをしていた私が。
いや、私だけが。
しかしどうしよう。
シンプルに金がない。
ヤク中の治療はあの出来事の公的な保険の対象外。
「地球連合軍で、新しい価値のある人生を歩んでみないか?」
病室で考えていたら、またあのうさん臭い軍人だ。
でもこの話を受けないと私は本当に野垂れ死ぬことになる。
私は彼の手を取った。
「目標捕捉。掃射」
私の仕事は簡単だった。
狙って、トリガーを引くだけ。
少し周りの把握とか武器選びが大変だけど、まぁ■■■を売ってた時よりは楽。
「…………」
上からは「完全体で残った数少ない機体だから大切にしろ」とは言われてるけど、機体なんて壊してナンボ。
全部の武装を一気に撃つのは気持ちがいい。
ゲイツやディン、ジンが塵のように消し飛んでいく。
何か巻き込んだような気がするけど、気にしなくていいよね。
『コンパスだ!』
第二の敵がやってきた。
私の仕事を邪魔する奴ら。
ふと、カメラの捉えた映像に「青と白の、羽の生えたMS」が映りこんだ。
手が止まる。
耳が遠くなる。
「あっ……がっ……!」
頭が痛い。
動かさなきゃ。
でも、私を助けたあのMSを撃つの……?
手は動かなかった。
いきなり、強い衝撃と共に仰向けになったような感覚が襲う。
「ぐっ……あっ……!」
何とか動いた右手がトリガーを引く。
何も起きなかった。
気づいたらモニターは暗転して私の姿を映し、箱の中の照明も消えていた。
レバーを動かしても、ボタンを押しても、何をしても反応がない。
「あ……れ……」
なんなら自分の足も動かない。その辺りから熱いものが流れ続けてる感覚もある。
「あぁ……ここまでかなぁ……」
当たり前かもしれない。■■■で他人の人生を壊して、今度はこのMSで他人の人生を壊したんだ……。
「…………」
頭がぼんやりしてきた。思考がまとまらない。
目の前がだんだん暗くなる。
ふわふわした感覚が強くなる。
死ぬって■■■と同じ感覚なんだな…………。
「…………」
……なんで。
なんで……生きて……。
「……あら、お目覚めかしら」
「死んだ……はずじゃ……」
「そりゃあ、間一髪で担ぎ込まれた時は驚いたわよ~。輸血パックの在庫が無くなるかと思ったわ」
「シン君があなたを届けてくれたのよ。「先生!この子を助けてください!」って、普段なら絶対出さないような情けない声出しながらね」
「ここは……」
「コンパスの母艦、ミレニアムの医務室よ」
なんてこと……。敵に捕まった挙句、治療まで受けている。
「あなた、エクステンデットってことだけど、だいぶ落ち着いてるのね。聞いてた印象と全然違うわ。」
「……私は他の人たちと違ってだいぶ後から処置を受けたのでその辺比較的軽いのと、クスリ慣れしてたからだと思います。」
口が言の葉を勝手に紡ぐ。
女医との会話は数十分に及んだ。
「記憶の混濁も見られない……本当にエクステンデットなのか疑わしいわね……」
「……でもそろそろダメかもですね。クスリ、もう全然打ててないので」
「そんなこと、思っても言わないの。悪い患者ね全く……」
そういうと、女医は立ち去った。
まぁ事実だから仕方ない。
「……あぁっ……がっ……」
ついに来てしまった。
禁断症状。
「はいはい落ち着いて~!平気だからね~!」
「ごめ……なさい……」
「何謝ることがあるの~!今入れてるやつ!追加で10ずつ入れて!」
「いき……て……ごめ……なさ……」
「あなたが生きることで救われた人もいるのよ~!まずい……昇圧剤!ちまちま入れたんじゃ間に合わないからがっつり行くよ~!」
めのまがしろくなてきた。
「ごめ……なさ………」
あたまほわほわする。
「心マ……ほらいそ……」
せんせのこえがとおい。
「まず……でき……は……るの!」
「……がふっ」
あぁ……ようやく……しねる…………。