魔法学校を出発してからワルドはグリフォンを休みなく走らせていた。サイトとギーシュは途中で馬を交換せざる得なかったが為、所々で休憩していたが準備ができるとすぐに風の如く走らせた。
「ちょっとペースが早くない?」
抱かれる様な格好でワルドの前に跨がったルイズは砕けた口調で言った。ワルドに昔の口調に戻して欲しいと言われたからだ。
「サイトは大丈夫そうだけど、ギーシュがへばっているわ」
後ろを向くとサイトは軍用水筒で水を飲みながら手綱を握っており、ギーシュは馬にもたれ掛かる様に手綱にしがみついていた。サイトはともかくギーシュは馬よりも先にダウンしそうだった。
「ラ・ロシェールの港町までは止まらずに行きたいのだがね」
「無理よ、普通なら馬で二日の場所なのよ?」
「へばったなら、置いていけばいいさ」
「サイトならそれでいいかもしれないけどそういう訳にはいかないわ」
正直、サイトなら置いて行っても問題ないと思う。置いていかれても「オレが遅かったんだから仕方ない」で済むかもしれないしなんだかんだサイト1人でも盗賊が来ても返り討ちにしそうだし。
「どうしてだい?」
「どうしてって仲間じゃない。それに、使い魔を置いていくなんて、メイジのする事じゃないわ」
ルイズの言葉にワルドはくすりと笑うと。
「やけにあの二人の肩を持つね。どちらかが君の恋人かい?」
と、訊いた。
「こ、恋人なんかじゃないわ!」
ワルドの質問にルイズは顔を赤らめて首を振り否定した。
「そうか、それは良かったよ。婚約者に恋人がいるなんて知ったら、僕はショックで死んでしまうよ」
ワルドは笑いながら冗談を言った。
「お、親が決めた事じゃない」
「おや?僕の小さなルイズ!君は僕の事が嫌いになったのかい?」
「もう小さくないわ、失礼ね」
プイッと頬を膨らませながらそっぽ向いた。そんな可愛らしい仕草にワルドはまた笑った。
「僕にとっては未だに小さな女の子だよ」
ルイズは頬を膨らませて抗議しようとしたときだった。
「!?ヒッ!!」
「おっと、危ない!」
ルイズはグリフォンから落ちかけた。ワルドが体を支えてくれたから落ちることはなかったがそれでもかなり危なかった。
「大丈夫かい?ルイズ」
「大丈夫よ」
心臓がドクドクと鼓動が早くなった。これは落ちかけたからなったわけではない。あの時、なぜかワルドの顔が一瞬、夢で見た【ターミネーター】に見えたのだ。
「少し急ぎすぎたみたいだ。もう少し進んだら少し休憩を挟もう」
そう言ってルイズの肩を抱いた。
「もう半日以上も走りっぱなしだ。ワルド子爵も、君も、バケモノか?」
「大丈夫か?ギーシュ」
ぐったりしているギーシュを見てサイトは軍用水筒を取り出すと。
「ほら、飲め。少しは回復するぞ」
馬上からギーシュに渡した。ギーシュも慌てて受け取ると蓋を開けて水をガブガブと飲み始めた。
「サイト、ちょっと訊きたいんだが」
「なんだよ?」
蓋を閉めてサイトに水筒を返すとギーシュはサイトに問い掛けた。
「君はどうにもあのワルド子爵が現れてから顔が険しいんだが彼が気に入らないのかい?」
ギーシュの質問はただの世間話程度だった。少しでも疲れを誤魔化すための問い掛けだった。だから、面白い反応など気にしていなかったのだが
「かもな」
サイトのまさかの返答にギーシュは目を丸くそして面白いものを見つけたと言いたげ笑みを浮かた。
「まさか、彼に嫉妬しているのかい!?あの、サイトが嫉妬!?悪魔のような君がルイズに嫉妬!?ハハッ!!サイト!もっと聞かせてくれたまえ!!悪魔のような君にもちゃんと人間らしい所があるんだな!」
「別にそういうんじゃねーよ」
「照れるな照れるな。その感情は男や女以前に人間として当たり前なのだからさ」
「だから、そういうんじゃないって」
ギーシュはサイトの背中をバシバシと叩いて勝手に盛り上がるのだった。
「どういうことなんだ?」
無事、夜にラ・ロシェールの入り口にたどり着くとサイトは不思議そうな顔をした。
「どうしたのだいサイト?」
「いや、今からオレ達はアルビオンってとこに行くんだろ?なんでこんな峡谷の山道に来てんだよ?港町に行くんじゃねーのか?」
サイトはずっと疑問に感じていた。港町って言うくらいだから海に向かうと思っていたが最終的に到着したのは港とは完全に縁遠い山だったのだ。
サイトの話を聞きギーシュが呆れた顔をしていると
「サイト、君は本当にアルビオンを知らないようだね。仕方ない。この僕が説明してあげよう!」
そう言ってギーシュがサイトに説明をしようとすると。
ヒュンヒュン
サイト達の前に矢が刺さった。
「な、何だ!?」
「き、奇襲か!?」
次々と矢が放たれそれがサイトとギーシュの馬に当たると馬はヒヒーンと鳴きながら倒れた。
「う、馬が!」
「チッ!!」
馬から落ちたサイトはM16(アサルトライフル)を手に持ちそのまま銃口を向けた。
「下からじゃ死角になるか」
更に無数の矢が飛んでくるとサイトはデルフリンガーを抜いた。
「いよぉっ、相棒!寂しかったぜぇ!ずっと鞘に収まってたからなぁ!」
サイトはデルフリンガーを振りガンダールヴの力で次々と矢を斬り落とした。すると。
「大丈夫か!?」
ルイズと一緒にワルドが救援に来た。サイトは右手にデルフリンガー左手にM16(アサルトライフル)を持ち左手だけで銃口を向けていると矢が飛んでくることはなかった。
「夜盗か山賊の類か?」
ワルドがそう呟くと。
「もしかしたら、アルビオンの貴族の仕業・・・・」
「いや、貴族なら弓を使わないだろう」
ルイズはアルビオンの貴族派の襲撃と思ったがワルドは直ぐにその考えを否定した。
その時だった。力強く羽ばたく羽根音が聞こえた。崖の上から、男達の喚き声が上がると突然小さな竜巻が巻き起こり、男達を吹き飛ばした。
「あれは「風」の呪文!?」
竜巻に吹き飛ばされた男達は次々と転がり落ちてきた。ルイズ達は頭上を見上げると月をバックに見慣れた幻獣が姿を現しそれを見てルイズが声を上げた。
「シルフィード!」
なぜかシルフィードが現れたのだ。そしてシルフィードに乗っていたキュルケが飛び降りた。
「お待たせ」
キュルケを見てルイズは目を丸くするとグリフォンから飛び降り。
「お待たせじゃないわよ!なにしに来たのよ!?」
と、詰め寄った。
「いきなりご挨拶ね、ヴァリエール。助けに来てあげたんじゃない。朝方、窓からあんた達が馬に乗って出掛けたから急いでタバサを叩き起こしてきたのよ」
キュルケが指差す方向には、パジャマ姿でシルフィードに乗っているタバサがいた。
「あのねぇ、ツェルプストー・・・・・これはお忍びなのよ?」
「あら、そうなの?ならそう言いなさいよ。言わなきゃわからないじゃない。とにかく、感謝しなさいよね。あんた達に襲いかかった奴等を捕まえたんだから。けど、勘違いしないでよね、ヴァリエール。貴女を助けたわけじゃないの。ねぇ?」
キュルケは色っぽい仕草でワルドに近づいた。
「お髭が素敵ね。貴方、情熱はご存知?」
ワルドは優しくキュルケの肩に手を置くとそのまま自分から離した。
「あらん?」
「助けも、君の好意も嬉しいが、それ以上は近寄らないでくれたまえ。僕の婚約者に、いらん誤解を招きたくないのでね」
そう言って、ワルドはルイズに微笑みかけた。ルイズの頬が赤く染まる。
「なあに? あんたの婚約者だったの?」
キュルケがつまらなそうに言いサイトを見るとサイトは死んだ馬から自分の装備を取り出していた。
「本当はね、ダーリンが心配だったのよ?」
キュルケが後ろから抱きつくが無反応だった。サイトの様子がおかしいことに気づきどうしたのか尋ねようとした。そんな2人を見てルイズは顔を真っ赤にして怒ろうとしたがワルドに優しく止められた。すると、尋問を終えたギーシュがワルドに近付き報告を始めた。
「どうやら、物取りが目当ての夜盗の様です」
「ならば、捨て置いても問題ないな」
ワルドは颯爽とグリフォンに跨がり、ルイズを抱き上げた。
「今夜はラ・ロシェールの宿に止まり、朝一番の便でアルビオンに向かおう」
そう言ってルイズ達はラ・ロジェールに入った。
(夜盗の襲撃・・・・・・ワルド・・・・・・偶然なのか?)