泉新一のいる実力至上主義の教室 作:salong
今日はDクラスにとって運命の日であるためか特に時間の流れが早い気がする。いつものように授業を受け、休み時間や昼休みに審議のことについて堀北たちや一之瀬、泉と話していたらもう放課後だ。
楽しい時間はあっという間に過ぎると言うがそれと同じ感覚なのだろう。こっちは全く楽しくなんかないのに。まぁ、そんなことを言っても仕方がない。今はこれから始まろうとしている審議に意識を向けることだ。
やがて審議が行われる生徒会室に着き、茶柱先生が扉をノックして中に足を踏み入れる。その時、堀北は一瞬たじろいだがすぐに後を追う。中にはすでにCクラスの生徒3人と男性教師が着席していた。茶柱先生の説明でその男性教師がCクラスの坂上先生だと言うことが分かる。そして部屋の奥には、生徒会長である堀北の兄もいた。その後、堀北は兄に視線を向けていたが、相手にされていないことが分かり、そのまま席に座った。
「ではこれより、先日に起こった暴力事件について、生徒会及び事件関係者、担任の先生を交え審議を執り行いたいと思います。進行は、生徒会書記、橘が務めます」
生徒会書記である橘の発言によりついに審議が始まった。
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暴力事件の審議が終わるまでの間、俺は外で部活の様子を見ていた。ここからだと少し遠いかもしれないが、俺は普通の人間とは比べ物にならない程目がいいので、生徒一人一人の顔がはっきりと見える。
(みんな頑張ってるなぁ……)
部活をしている生徒を見ているとみんないきいきとしているのが分かる。目標に向かって努力して、仲間と一緒に頑張り、チームワークを高め合う。どれも人生において経験しておかなければならないものだ。
「あれ、泉君?こんなところで何してるの?」
目線を動かすと一之瀬と男子生徒がいた。
「一之瀬か。審議の結果が気になってな。終わるまでの間が暇だからこうして部活の様子を見てたんだ」
「そうなんだ。私たちも審議の結果が気になって待ってたところなの。あ、そういえば泉君は知らなかったよね。紹介するよ。彼はうちのクラスの神崎君」
神崎って確かあの貼り紙に書いてあったな。
「神崎隆二だ、よろしく」
「俺は泉新一、よろしくな」
お互い軽く自己紹介をして握手を交わす。神崎は物腰は固めであるが真面目そうな生徒のようだ。
「ねぇ、そういえばAクラスって葛城君と坂柳さんで派閥が分かれてるんでしょ?泉君はどっち側なの?」
「一応俺は坂柳の方だよ。でもほぼ形だけのような感じかな」
「そうなんだ。じゃあ泉君は葛城君と坂柳さんならどっちがリーダーに相応しいと思うの?」
「俺としてはどっちもリーダーになってほしいって言うか、そもそも派閥なんか作らずに協力し合ってほしいんだよ。あの二人が手を組めばAクラスはもっと強くなれると思うんだ」
「確かにそうだね。保守派の葛城君と革新派の坂柳さん、二人が組めばAクラスに付けいる隙がなくなりそう」
でもあの二人が協力し合う姿が思い浮かばないな。葛城ならまだあり得るかもしれないが、坂柳はそう簡単に協力するとは思えない。それにあの二人だけでなく、葛城の側近の戸塚辺りが納得しない気がする。でも葛城の言うことには従うだろうからあまり気にする必要はないか。
キンッ
すると少し遠くからボールを打った打球音が聞こえた。打球音が聞こえた方を向くと野球部の生徒たちがこちらを向いているのが見えた。まさかと思い、上を見るとボールが直前まで迫っていた。このままだと一之瀬にボールが当たってしまう。
「危ない!!」
「きゃ!」
俺はそう言って一之瀬の前に行くと飛んできたボールをそのまま左手で掴んだ。
「い、泉!大丈夫か!今素手でキャッチしただろ!?」
「ああ、大丈夫だよ。何ともないさ。それより一之瀬は大丈夫か?」
「う、うん…」
神崎にそう答え、一之瀬が無事だと分かると俺は右手で野球部の方へ投げ返す。投げたボールはピッチャーのミットへと綺麗に吸い込まれていく。
「こ、この距離からノーバンか…凄い肩してるな。しかもコントロールも正確だ。泉は野球をやっていたのか?」
「いや、何もやってなかったよ」
「そうなのか。あんなことが出来るからてっきり経験者だと思ったぞ」
「泉君、助けてくれてありがとう!でも本当に手は大丈夫なの!?ちょっと見せてよ!」
一之瀬は俺の左手を掴み、まじまじと見ている。別にそこまで心配する必要ないのに。
「ほ、本当に大丈夫だよ…怪我なんかしてないだろ?」
「言ってることは本当のようだね。だけどいくら何でも素手でキャッチするのはだめだよ」
「はは…今度は気をつけるよ」
しばらく話を続けた俺たちは玄関付近へ向かった。そこで少しばかり待っていると綾小路たちが話をしながらこちらへ近づいてくる。
「やっほ。随分遅かったね」
「待っててくれたのか。それに泉も」
「ああ、結果が気になるからな」
「どうなったかなって思って」
「一之瀬、ちょっと待ってくれ」
綾小路はそう言うと佐倉の方に顔を向ける。
「悪いな佐倉。続き聞かせてくれ」
「う、ううん。何でもないの。ただ、私、頑張ってみるね。勇気出して」
佐倉は綾小路に早口で答え、軽く頭を下げて帰っていく。綾小路が呼び止めるが、立ち止まることはなく駆け足で玄関を出て行ってしまった。そしてその後に審議がどうなったのかを綾小路の口から聞かされる。
結論から言うともう一度審議を行うことになったらしい。佐倉の証言や証拠があり、Cクラス側も認めざるを得なかったようだ。しかし、どちらが先に仕掛けたのかが分からなかったため、須藤に2週間の停学、Cクラスの生徒たちに1週間の停学の案が出たらしいが、堀北がこれを却下。その結果、明日の4時に再審をすることになったそうだ。また、それを聞いた一之瀬たちはもう一度情報を集め直すと申し出た。これは俺も少しは何かやらないとな。
「俺も力になれるか分からないがやれることはやってみるよ」
「いいのか、泉。それに一之瀬たちも」
「ああ、俺はまだ何も役に立つことが出来てないからな」
「乗り掛かった船だしね。それに言ったでしょ。嘘は許せないって」
「申し出はありがたいけれど、それは必要ないわ」
まだ帰っていなかったのか横から堀北が話に加わってきた。堀北は話し合いの場では無罪は勝ち取れないと言い、仮にCクラスやAクラスから新たな目撃者が現れたとしても、無理と語る。しかし、唯一の解決策のために代わりに用意してもらいたいものがあるらしい。
だが、その用意してもらいたいものの名前を聞いた一之瀬の表情が少し硬い表情になっていった。これには一之瀬もすぐには承諾出来ないだろう。そして一之瀬がなぜそれが必要なのかを問いただし、堀北は全てを打ち明けた。聞いた限りでは相当なリスクを抱える作戦だ。一之瀬は堀北に敬意を示し、少し呆れながら最終的には全て聞いた上で堀北に力を貸すことを約束した。
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翌日の放課後。俺たちは櫛田を装ってここへ来るようあいつらにメールを送った。女子の中でも人気が高い櫛田からのお誘いのメールとあれば断ることはほぼ皆無だろう。時間帯的にもそろそろ来るはずだが……
そこで俺はあいつらがちゃんと来ているのか確かめるために周りの物音に心を集中させた。するとまだ少し離れてはいるが、3人分の声や足音が聞こえてくる。
「今3人共こっちに来ているぞ」
「どうして分かるんだ?まだ誰も来ていないし、話し声や足音も聞こえないが」
「あー、ちょっと耳が良くてな。はは…」
綾小路の反応は当然のことだ。人間の聴覚ではここからだと聞こえることはない。これもミギーと混じったことで体に起きた変化の一つだ。そして数分後、暑いと言いながらもどこか嬉しそうな顔をした3人がやって来た。そのタイミングで俺の隣にいた綾小路が3人の方へ出ていく。
「……どういうことだ。なんでお前がここにいる」
「櫛田はここに来ないぞ。アレは嘘だ。俺が彼女に頼んで無理やりメールさせた」
「何の真似だ?」
「こうでもしないとお前らは無視するだろ?話し合いがしたかったんだよ」
「いいか?俺たちは須藤に呼び出されて殴られた。それが真実だ。それ相応の報いを受けろ」
やっぱり話し合いに応じるつもりはないか。こいつらからすると意味がないもんな。だけどこっちは大人しく引き下がるわけにはいかないんだ。
「ったく、とんだ無駄足だったぜ。お前らDクラスはもう終わりなんだよ。とっとと諦めろ。おい行くぞ」
「ちょっと待てよ」
「なっ……!てっ、てめえは!」
俺がここにいるとは思いもしなかったのだろう。石崎はあの時のこともあってか少し動揺している。
「石崎…!誰だよこいつ……!」
「お前らが仕組んだことは分かってるんだ。今回の件の首謀者はあいつだろ?それに当たり前のように被害者ぶってるが、俺に殴りかかってきたことは忘れてないよな」
そう言いながら俺は石崎たちの方へ近づいていく。
「て、てめえには関係ねえだろ!何度も言うが俺たちは被害者だ!それに殴りかかってきただぁ?そんなこと知らねえよ!」
「しらばっくれるつもりか…まぁいいや。だけどここから離れたらお前らは一生後悔することになるぞ」
「何だと…!」
「あれを見ろよ」
俺の視線の先には監視カメラがあった。
「か、監視…カメラ……」
「この特別棟には理科室があって激物とされる薬品が沢山置かれているわ。カメラがあって当然でしょ」
石崎たちの背後から堀北が現れる。
「でもなんでわざわざ俺たちにそんなことを知らせる必要があるんだ?映像があれば何もしなくてもいいだろ?」
「そもそもこの事件が起きた瞬間からCとDが痛みを負うことが確定しているんだ。無実だとしても須藤はお前たちを殴った。この事実は消えない」
「それならお前らもカメラの映像は困るんじゃねえのか?」
「確かにどのみち須藤は処罰されるだろうが、お前らは退学だろうな。何せ悪質な嘘で学校中を巻き込んだから」
綾小路の言葉を聞いて冷や汗を流す石崎たち。
「ま、まじかよ……退学なんて嫌だぜ……!」
「石崎!嘘だったって言いに行こうぜ!」
「ちょっと黙ってろ!」
「そこでだ。CクラスとDクラスを救える方法がある」
「何だよその方法って……!」
「意見そのものをなくしてしまえばいいのよ。簡単なことじゃない。訴え自体を取り下げれば今回の事件は存在しなくなるわ」
「……っ!ちょっと待て…!少し電話させ––––」
俺は石崎が行動に移る前に携帯を取り上げた。
「そんなことする必要はないだろ?いちいちあいつの指示に従わないと何も出来ないのか?」
「こっ、この野郎!返しやがれぇ!!」
石崎は怒りが爆発したのか顔をめがけて拳を振るってくるが、俺はそれを右手で掴む。
「やるのか?今ここで……?」
「うっ……!」
新一はこの時、殺気に近いものを出していた。人間と寄生生物の中間に位置する彼から発せられるものは人間からすると恐怖の対象になるであろう。それを真正面から受けた石崎の顔は恐怖に染まっていた。
「わ、分かった…取り下げる…!取り下げればいいんだろ……!だ、だからもう勘弁してくれ…!」
「何をそんなに怯えてるのかしら。それじゃあ決まりね。今から生徒会室に行くわよ」
「あ…ああ……!分かった…!お、おい行くぞお前ら…!」
「お、おう……」
石崎大地の頭の中ではもう事件の結果のことはどうでもよくなっていた。無断で訴えを取り下げば自身のクラスの王にどんな目にあわされるのかを分かっていたが今はそれよりも目の前にいる新一から早く逃げ出したいと言う思いでいっぱいだった。自身の……人間としての生存本能が強く働いているからこその反応である。
「ありがとな一之瀬。昨日借りたポイントは必ず返すから待っててくれ」
俺は堀北たちと別れた後、ベンチに座り込む一之瀬のところへ来ていた。
「うん、分かった。いやー、それにしても参ったなぁ。Dクラスに君みたいな子がいるなんて。まさか、カメラを用意して石崎君たちを騙すとは。恐れいったよ」
「この策を思いついたのは堀北だ。俺はただ指示通りに動いただけだ」
「ふーん、まぁいっか」
だが、俺は一つ気になることがあった。
(さっきの石崎の青ざめた顔……一体どうしたんだ……?冷や汗が異常だったが……)
先程の石崎の様子を見て疑問に思っていた。退学と言う言葉を聞いた時も少し焦っていたが、それとは比較にならない程の怯え方。まるで天敵に見つかった時の小動物みたいに。そしてこの時、俺はある人物のことを思い浮かべていた。あの場にいた人物の一人で俺たちに協力してくれた他クラスの生徒のことを。
(まさか……泉が………?)
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「俺の許可なく、訴えを取り下げた奴は誰だ」
雨が降る中、傘を差し立っている4人の内1人の男子生徒が正座している3人の男子生徒にそう尋ねる。
「……さ、3人で……」
「アルベルト」
「
自身の側近である山田アルベルトに命令を下し、3人のうちの一人である石崎を痛めつけるのはCクラスの王、龍園翔。
「これぐらいの痛みは当然だよな。お前らをはめた奴の名前を教えろ」
コツコツと杖を鳴らし、細い脚で前に進む少女を筆頭に3人の男女が傘を差して歩いている。その4人の前方には先程のCクラスの生徒たちの姿があった。
「坂柳か」
「あなたは確か…Cクラスの…」
「入学早々女王様気取りか。いい気なもんだな」
「ふふ…そんなつもりはありませんよ」
「Dクラスは俺が潰す。次はB、最後にAクラス、お前を潰す」
「あなたに出来るでしょうか」
「王は一人で充分だ」
「そうですね。おや…?」
二人が話していたその時、後ろからもう一人近づいてくるものがいた。
「泉君ではありませんか。今お帰りですか?」
「そうだ。先生にちょっと呼び出されてたからな」
新一は気怠そうにしながらそう答える。
「誰かと思えばお前か泉。相変わらず余裕そうな面しやがって」
「ああ……またあんたか……」
「この方とはお知り合いなのですか?」
「ちょっとな。おい、今回の件、お前らが仕組んだことなんだろ。なんであんなことやったんだ?」
「ククク……決まってんだろ。底辺が脱落した時の学校の反応が見てぇからさ」
不敵な笑みを浮かべながら近づく龍園。
「そんなどうでもいいことのためにやったのか。
くだらないな」
「抜かせ。いいか、Aクラスでは最初にてめえを潰す。どんな手を使ってでもな。その面を恐怖に染めてやるぜ」
「懲りない奴だな。この前ので少しは大人しくなったと––––」
そう言おうとした瞬間、拳が飛んでくる。とりあえず顔を左に動かして避けると今度は鋭い蹴りが放たれる。新一は上半身を少し後ろに引いてそれを避ける。
「おい、ここはまだ学校の中だぞ。こんなことするのはまずいだろ」
「ふん、どうせ避けるとわかってたからな。何せてめえにはまだ一発も入れられてねえんだからな。だが、覚悟しておけ。お前は俺にひざまづくことになるからよ」
そう言って他のメンバーを引き連れ、その場を後にする龍園。
「彼とは何かあったのですか?」
「別にそんな大したことじゃないさ」
「私にはそうは見えなかったけど」
「そうだぜ、泉。さっきの奴ってCクラスのリーダーの龍園じゃねえか。あいつにあんなこと言われるなんて一体何しでかしたんだよ?」
坂柳の側近である神室と橋本が新一の言葉に反応する。
「だから本当に……」
「後でじっくりお話しする必要がありますね。いいですね泉君?」
「はぁ……」
その後、新一は今までのことを洗いざらい話すことになってしまった。
「ねえ、本当にさっきの泉って奴があんたたちを退けたの?そうは見えなかったけど」
龍園の斜め後方を歩く青髪のショートカットの女子生徒、
「お前はあの時いなかったから分からねえだろうが、あいつは俺が今まで見た奴の中で一番強え。それだけは分かる」
「あんたがそんなに言う程なの。何者なのよあいつ。てか、石崎あんたさっきからどうしたの?」
「な…なんでもねえよ…気にすんな……」
「何なのよもう」
「とにかく、俺は必ずあいつを負かしてやる。必ずな。その時が楽しみだぜ。ククク……」
龍園翔は自身が何度敗北しようとも最終的に勝つことさえ出来ればいいと考える男である。例えどんな手を使ってでも。しかし、龍園の考えは誤算であった。なぜなら泉新一と言う人物がどれだけ普通とかけ離れていると言うことを知らないのだから。そして新一もまだこの時は知らなかった。後にこの敷地内で奴と遭遇することになることを。
佐倉のストーカーの件はカットしています。
それと次回からはほぼオリジナルになります。早く終わらせて特別試験までいきたい٩( 'ω' )و