ゴジラVSクトゥルフ -The Call of Catastrophe-   作:江藤えそら

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Case G:大戸島に吼える終焉

 1

 

 俺は人類の罪がどうだとか、自然の怒りがどうだとか、仰々しい思想や立場を持つような人間じゃない。ただ平穏の中に少しの刺激を探していただけなんだ。

 俺が自分が変わりものであることをよく自覚している。だからこそこんなことになったんだろう。だが、今となっては俺は自分が変わりものだったことに感謝しているよ。俺が()()()()()()()()()()だったら、とてもじゃないがあんな絶望には耐えられなかった。あんな恐怖と苦痛を味わうくらいなら、人間であることを捨てた方がマシだ。この世界には、そう思わせるほどの絶望が眠っている。人間のたかだか一万年にも満たない歴史なんて、この宇宙にとっても、地球にとっても考慮に値しない程度の存在なんだ。

 分からないか? いや、すぐに分かることになるさ。全く悲しいことにな。

 

 

 2

 

 依諏間島の属島である大戸島(おおど-しま)唯一の駐在所に派遣されてからもうすぐ一年になろうかという頃の話だ。

 この島は何もない退屈な島だが、面倒な仕事もない。一日報告書類を作成するか散歩のような見回りをするだけの代わり映えのない日々が続く。これで給料が貰えるのなら悪くはない生活なのかもしれない。

 

 この大戸島を含む依諏間諸島は小笠原諸島からさらに南東に外れたところにある絶海の島々であり、硫黄島から東250kmの果て、伊豆・小笠原海溝を超えた先にある。こんな場所を日本と呼んでいいのかというくらいには本土から相当に離れた場所だ。俺も子供の頃に地理の授業で名前くらいは聞いたこともあったかもしれないが、それ以外一切この島のことを認識することもなく生きてきた。警察官になって10年も経たないうちにそんなところに飛ばされるというのだから人生とは分からないものだ。しかも、俺が飛ばされたのは依諏間本島ではなく属島の大戸島だというのだからさらに驚いた。大戸島は依諏間島北岸部から20km北方にある小さな属島だ。依諏間諸島の中で有人島はこのふたつだけであり、気候が良い時には海岸の丘から水平線上に浮かぶ依諏間島を見ることができる。

 辛うじてインフラやインターネットは通じているようだが、どう考えても左遷としか思えぬ転勤だ。だが、生涯独身で気ままに暮らしていたい俺のような人間にはおあつらえ向きとも言える場所ではあった。島民は予想通りの田舎者だらけだったが、態度の悪い不良も偏屈な老人もいない。流石に若者はほとんどいなかったが、気の良い連中ばかりだ。こうして俺は冒頭に述べたように、この島で案外悪くない生活を繰り広げていた。"駐在さん"の仕事をこなしつつ、休みの日には趣味の魚釣りを夜まで行った。

 

 この1年間、島に派遣された後の諸手続きや島民との交流の合間に俺はこの島についていろいろと調べてみた。どうもこの島は70年前に一度海底火山の噴火に襲われたらしい。依諏間島の住民は海から吹き出た火砕流と大津波に飲み込まれて全滅し、大戸島でも半数近い住民が死んだらしい。なんとも恐るべき話だが、地質調査の結果によるとその海底火山はその時の噴火をもって活動を終えたらしい。授業で教わってもおかしくなさそうな悲劇的な大災害だというのに今の今まで知らなかったというのは、こんな海の外れにある島の歴史が本土で軽視されていることの表れのようにも思えて少し複雑な気持ちになった。

 

 3

 

 この日、俺はいつも通り海に釣り糸を垂らして休日を過ごしていた。稀にいいサイズのメバルやスズキ、イワシなんかが取れればご馳走ものだが、この日はどうも調子が良くなかった。釣れるのは食べるには物足りない小魚ばかりで、全ておこぼれを預かりに来たウミネコたちに渡してしまった。俺自身の取り分が全くないまま日は沈みかけ、水面は夕焼けに照らされて赤く染まっていた。ため息をついてリールを回し、今日の釣りを終えようと思った矢先にそれは起きた。ビクンと釣り糸が揺れたかと思うと、一気に釣竿が折れそうなくらいの勢いで海面に向けてひん曲がったのだ。俺は驚きのあまり声も出せないまま一所懸命に竿を引っ張った。物凄い力だ。相当大物に違いない。こんなところにそんな大魚が? 疑問に思いつつも、またとないチャンスをものにしたい気持ちの方が疑問に勝っていた。海に引き落とされそうになったら竿を放り投げようと心に決めつつ俺は渾身の力で竿を捻り上げた。

 勢いあまって尻もちをついた時、俺は自らの目を疑った。俺が腰を掛けていたコンクリートのブロックの上に、水かきのついた暗緑色の腕が海面から伸びていたのだ。俺が悲鳴を上げると同時にその腕はがっしりとブロックを掴み、己の身体を海面からブロックの上に引き上げた。その頭はどこからどう見ても魚だった。人間より少し小さいくらいのサイズの魚が、しかし人間のような手足を備えた魚がそこにいたのだ。首の左右には鰓が口を広げ、背骨は魚の背びれのように隆起している。そしてその化け物はよろよろと這いずったかと思うと地面に顔をつけた。

 俺は声にならない叫び声をあげながらくるりとその場から逃げ出そうとしたが、足がもつれて転び、膝をブロックに強打した。激痛のあまり膝を抱え込み悶絶する。しかし、この未知の化け物に殺されてしまうという恐怖の方が膝の激痛などより優先されるべきものだった。俺が必死に化け物の方を振り向くと、化け物は相変わらずブロックに顔をこすりつけるように倒れ込みながら、ピクピクと体を痙攣させていた。そして、その口元に糸が渡されていることに気付いた。その糸の先を辿ると、俺の釣り竿に繋がっていた。

 

 その化け物の様子を見て直ちに差し迫った危険を及ぼしそうにないことを理解した俺は、膝の激痛に耐えつつ少し冷静になる時間を作ることができた。魚のような人間のような悍ましい化け物は、しかしその身の毛もよだつような姿とは裏腹に今まさに命の危機に瀕しているようにも見えた。そして、それが俺の釣り針を飲み込んだことが原因だと分かった。状況を飲み込めたおかげか少し息が整ってきた。そして俺は何を思ったのか、既存の如何なる図鑑にも載っていないその恐るべき生き物に手を伸ばした。自分でも何故そんなことをしたのか分からない。逃げるなり、助けを呼ぶなり、いくらでもするべきことはあったはずなのだが…。

 倒れ伏す化け物はぎろりと濁った眼をこちらに向けた。俺は戦慄しながらもその口内に目をやった。釣り針は口内のそう深くないところに突き刺さっていた。

「お前、じっとしてろよ」

 今にして思えば不思議なことだが、未知の生物への恐怖心に対し、自らの釣り針でそれを瀕死の状態に追いやってしまったことへの罪悪感が僅かに勝ったのだ。俺は軍手を両手にはめると、恐る恐るその生物の下顎を掴んで口を開かせた。とめどなく鮮血が溢れる口の中に手を突っ込み、震える手で突き刺さっている針をゆっくりと抜いた。いきなり噛みつかれる恐れもあったろうに躊躇いなくそんなことができたのは、その化け物の瞳にかすかに助けを求める子供のような弱々しさを感じ取れたからだった。案の定化け物は俺の手に噛み付くことはなく、苦心の末に針は抜けた。

「お前、大丈夫か?」

 化け物は俺の言葉には答えなかったが、代わりに口をパクパクと動かした。俺はすぐにそいつから距離を取った。恐怖や不安もあったが、同じくらい好奇心が俺の心を支配していた。やがて、化け物はよろよろと腕を動かしてブロックを這いずり、再び海へと身を投げた。俺は化け物が飛び込んだ後の水面を眺めた。化け物が飛び込んだ水面の動揺は、海からやってきた波に呑まれてすぐに分からなくなっていた。こうして、休日の夕方に突如現れた奇妙な化け物との邂逅はあっけなく幕を下ろした。

 

 4

 

 数日間思考を逡巡させた結果、俺はこの大事件を誰にも伝えなかった。写真も証拠品も何もなくこのような話をしたところで誰にも信じてもらえないことは明白だったからだ。ただ、胸の内に蠢くこの漠然とした感情を形にしないことも口惜しく感じられたので、俺は家に帰ってから手記にこの事件のあらましを記すこととした。あれは決して夢や妄想などではない。俺の身に現実に起きたことだ。

 それから数週間、俺は何事もなく”駐在さん”の仕事をこなしていた。至って平凡な日々であったが、その一方でこの日々がずっと続くとも思えなかった。俺は何か触れてはいけないものの片鱗に触れたのだと。そのツケがいつか俺の身に回ってくる時が来るだろうと。だが、だからと言って何か対策を講じたり、島から逃げたりすることもしなかった。元々俺は自分の人生にそこまで興味がない。気ままに生きて、少しばかり面白いものが見られれば満足だ。或いはその特殊な感性が、あの時化け物から逃げるではなく助けるという行動を選択させたのかもしれない。

 

 案の定というべきか、化け物との邂逅から一か月が経とうという頃、駐在所に一人の男が訪ねてきた。この小さな島の住民の顔はあらかた覚えているが、その誰ともおぼつかない顔だ。言っちゃ悪いが、ひどく悍ましい顔の男だった。頬骨が張り、目の位置は左右に開き、鮫肌で吹き出物にまみれ、目は膨らんでいて常にこちらを睨みつけているような感じがする。なんとなく、その顔はあの化け物を彷彿とさせた。この男の来訪があの化け物との邂逅に起因していることを、俺は直感で感じ取った。

「なにか用?」

「お礼を、申し上げたく」

 俺のぶっきらぼうな呼びかけに男は恭しく答えた。

「お礼?」

「死に瀕した我が同胞を助けて頂いたと伺いましてね」

 その言葉を聞いて、間違いなくあの化け物の仲間だと俺は理解した。

「助けたなんて褒められることじゃないよ、俺が仕掛けた釣り針に引っかかったんだから。悪いことをしたな」

 素直に俺は自分の所感を述べた。これから俺は何をされるのだろう、という不安はあったが、それ以上にこの男が何者で、何が目的なのかということへの好奇心が勝っていた。

「あの子はまだ子供でしてね。狩りをしている間に沿岸に迷い込んでしまったのですよ。あのようにして命を落とす子は多いのです。わざわざ針を外してくれる人間は極めて珍しいものでして。よくぞ助けてくださいました」

 男は不気味なしわがれた声でブツブツとそんなことを言った。彼はひと月前に出会った化け物に比べればいくらか人間と呼べる姿をしていたが、それでも彼が人間でないことはうっすら感じ取れた。

「そうかい。それで、お礼ってのはなんだ」

「海底の拾いものですが……」

 そう言って男は手を突き出した。鱗に覆われた血色の悪い腕には、黄金の装飾品がかけられていた。美術品に造詣のない俺でも、それが相当な値打ち品であることは分かった。俺にはそれが、悪魔が俺の欲望を試しているように思えた。

「生憎、俺は金品に興味はないんだ。持って帰ってくれ」

 これも本心と言えば本心だ。俺は大金なんて欲しいと思わない。この島で何となく、ほんの少しの刺激と退屈を享受して生きていければ満足なのだから。だが、こうしてこの男と悠長に会話している時点で俺の中では退屈よりも刺激を求める心の方が幾ばくか強いのかもしれないな。

「おや。あなたは我が祖先が交流した人間とは若干異なる感性をお持ちのようだ。…では、何が望みでしょうか」

「俺はこの島で平和に暮らしていければそれでいいよ。俺は駐在さんだからな」

 こう返せばどう答えるのか、俺は少し試してみることにした。

「あなたがこれを受け取れば言おうと思っていたのですが、丁度いい。その願いも叶えられるでしょう」

「今の暮らしで十分に叶ってると思うがね。もっと平和な暮らしがあるのかい」

「いずれ悪しき炎が島々を焼く」

 取り留めのない会話の中で唐突に、そして少しの怒気を孕んで吐き出されたその言葉が、俺と男の空気を張り詰めたものへと変えた。

 

「あなたはご存じないようだ。70年前、忌まわしき邪神があの島を焼き払ったことを」

「70年前ってのは、海底火山のことを言っているのか?」

 俺の言葉を受けて、男の眉間に寄っていた皺がさらに深くなった。70年前、と言われて俺の頭に連想されたのは70年前に依諏間諸島を襲ったという海底火山の噴火だ。

「あれは悪しき神の業火です! また奴はやってくる、忌々しくも呪わしき邪神! 平穏な暮らしを求めるのなら我々の同胞になるべきだ。邪神に抗しうるのは我らが大いなる神だけであります」

「同胞? 俺に魚になれって言いたいのか?」

 同胞になる、という言葉が引っ掛かった。なるほど、こいつらは俺を海に引きずり込もうとしているのか。あの化け物を見たことへの口封じか?

「はい。我らが父と母に誓いを。そして、我らの血と交わり、子を成すのです。そうすればあなたはイハ=ンスレイの子として生涯を全うできる」

「しないと言ったら?」

「私から言うことはありません。座して邪神に焼き尽くされるがよろしい」

 こいつらは70年前に海底火山が噴火したらしい事件について、何らかの宗教的な解釈を持っているらしい。しかし子供を作れというのは恐ろしい要求だ。あの魚人間との間にか? 流石にそんな悍ましいことはお断りだ。断ったら何かされるのかと思ったが、存外男は素っ気なくそう言っただけだった。

「そうかい。じゃあ悪いが引き取ってくれ。俺は駐在さんだ。ここを開けるわけにはいかない」

「心変わりしましたら、またあの海岸にお越しください。次の新月まで待ちますゆえ…」

 その言葉を残して男はそそくさと去った。危うく俺も化け物の一員にされるところだった。

 

 その日の帰宅後、俺は自分の身に起きた怪奇小説のような体験を手記に記した。ああ、写真でも撮っておけば良かったな。夜半に誰か尋ねてくるんじゃないかと思い眠れなかったが、誰かが夜半に訪れるようなことは起きなかった。

 

 5 

 

 あれから怪しい人物の来訪もなく、次の休日を迎えた。

 あの男が発した”神”という言葉が気になった俺は早朝、この島に唯一存在する神社に足を踏み入れた。神という言葉が引っ掛かったのはただの気まぐれではない。前に神主から聞いたのだ。この島で祀られている神は大地の怒りがどうとか、炎で焼き尽くすとか…。その情報がどうもあの不気味な男が言ったことと線で繋がってしまうのだ。まさか海底火山の噴火が神の仕業でした、などという迷信を真に受けたわけではない。だが、たまの休暇をこういったロマン探しに使ってみるのも悪くないだろうと思ったのだ。

 さてこの神社、パトロールで訪れることはあったが、いかんせん寂れきっていて神主も週に一度しか訪れないような神社だ。半分廃墟のような建屋を覗くが、神主の姿はなかった。この神社で祀っている神の姿でも分かれば、と思い尋ねたが無駄足のようだった。

 

 帰ろうかと足をくるりと後ろに向けようとした時、ふと、かなり前に神主から聞いた話を思い出した。この神社内にご神体はないが、干潮の折に神社の裏手にある陸繋島に渡ることができ、そこにご神体があると。あの時は年寄りの与太話とばかり思っていたが、今となっては鼻で笑うこともできない。ここまで来たのなら胸の内に引っかかる疑問は全て解消しておこう。

 俺は干潮帯を待って神社の裏手に出た。雑木林をしばらく超えると無人の殺伐とした浜辺が広がっており、その先に陸繋砂州が海面に向かって伸びていた。その先には大きな岩が海面からそびえたっていた。あれがご神体だというのか? 俺は拍子抜けしてため息をついた。一応、干潮時だったので細長い砂道を歩き、その岩に至近まで歩み寄ってみた。

 その岩は、ネッシーの頭のような、L字を逆さまにしたような不思議な形をしていた。この岩を頭とするなら、背中に相当する面には炎のような尖った形をした岩の板が並んでいた。まるで、これが本当に海に向かって睨みを利かせる巨大な怪物の頭部に見えてきた。不思議なことだ。遠目に見た時はただの風変りな形状の岩でしかなかったというのに。

 

 一瞬、俺の身に何が起きたのか分からなかった。強烈なめまいに襲われ、平衡感覚を失って砂道に倒れた。何が起きたのだ? 俺は必死に砂を両手でつかみ、顔を持ち上げた。再び俺の視界は”ご神体”を映し出した。そして、地面が激しく揺れ動く。砂道と海面が大きく盛り上がり、俺は一気に陸地の方へと吹き飛ばされた。地形が丸ごと変貌する天変地異の轟音の中では、俺の悲鳴など蚊の羽音にすら満たなかった。

 ”ご神体”の身体が海面を割ってゆっくりと地中から這い出てきた。ずんずんとその頭は高空に向かって上がっていき、あまりの高さで頭の先が霞むくらいまでの高さに持ち上がった。それは、山のように巨大な黒い怪物だった。まるで焼死体のケロイドのような黒くゴツゴツとした皮膚。頬まで裂けた口から飛び出した長大な牙。荒れ狂う炎のような背鰭は熱で青く輝き、血走った眼が眼前の全てに絶望的なまでの怒りを叩きつけている。これは一体なんだ? 俺の目の前にいるものはなんだ?

 山のような巨躯を備えた怪物は裂けた口を大きく開き、この世の全ての苦悶と絶望を凝縮したかのような咆哮を響き渡らせた。天が割れ、地が震え、時が静止する。俺ははっきりと確信した。あれは神だ。人類も、この世のどんな生き物も決して出会ってはいけない恐るべき神なのだ。

 

 まだ水平線上に登り始めたばかりの朝日が空を赤一色に染め上げている。さながら俺にはそれが赤々と核融合する太陽のように見えた。まるで俺の眼前に大宇宙が広がっているようだった。太陽が、宇宙が俺達を喰らいつくそうとしているのだ。そしてその宇宙に向かって巨神が突き進む。俺に背を向け、太陽に向けて歩む。

 俺達は大宇宙の真理を何も知らない。宇宙に孤独に放り投げられて、自分たちが何かも分からないうちに消えて無に還る。しかしこの巨神は違う。眼前に広がる赤が太陽であり宇宙であるならば、目の前に立つ巨神は地球、大地だ。あまりに広大で空虚な大宇宙にとって考慮にすら値しない小さな黒い影が、しかし自らを喰らいつくそうとする大宇宙に牙を剝いているのだ。宇宙からの侵略者に蹂躙された大地の怒りは現世と万物の理すらも超えようとしている。正気ではない。たかだかいち惑星の意思が宇宙に叛逆しようなどと!

 

 神が世界を見据え、再び口を開く。その奥から白い光が発せられる。その光は天を穿ち、太陽を貫く。俺の五体が閃光に焼かれる。ああ、ダメだ。熱い、熱い、熱い!

 

 

 6

 

 翌日、俺は島の診療所で目を覚ました。医者によると、俺は駐在所で倒れていたのだという。熱中症だろう、と。俺は浜辺になど行っていなかったのだろうか? 全ては熱にうなされた俺の妄想だったのか? いや、そんなはずはない。あの光景が、あの苦痛が、あの絶望が偽りであるはずがない。偽りであるはずがないのだ。

 この島には、この世界には、人類が決して出会ってはいけない、決して目覚めさせてはいけない”怒り”が眠っている。ああ、嫌だ。あんな炎に巻かれて死ぬなんて嫌だ。そうだ。()()()()()()()()()が海岸で待っている。伝えなくては。そして、守ってもらおう。今からでも遅くはない、あれから逃げなければ!

 

 ほら、海岸に立っているあの影は。そうだ、俺だ! 俺を迎え入れてくれ! 大いなる同志よ!

 

 




早くも書き溜め分を吐ききったので、次の更新はしばらく先になります。
頑張ります。
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