めっっっっちゃ難産だった…!おまけにコロナになったり出張だったりでぼ虹の日にもまったく間に合わなかったし、ちくしょうめ!
今回の話はとあるアイマスのはるちはssの影響を受けていて、前々からこういう話を書きたいと思っていました。でもやっぱ難しい!かなり強引に話を進めてしまった。反省。
何とか5月には投稿出来たのは良かった。次は息抜きに短いのをポチポチ書きたいな。
ぼっちSide
「かくれんぼする人この指とーまれ!」
私なんかがあの指に止まっていいのかな。なんて考えたあの日からきっと私の長いひとりぼっちの日常が始まった。
もしもなんて意味の無い考えだけど、あの時あの指を掴めていたら私の人生はどうなっていたんだろう。もしも躊躇う私の手を向こうから掴んでくれる人がいたら、私は独りぼっちじゃなかったのかな……。
虹夏side
今日のSTARRYのバイトも終わり、私は帰る準備をしているぼっちちゃんを呼び止めた。
「ねえぼっちちゃん、今月の13日の月曜日はバイト休みだよね。放課後って予定空いてるかな?」
「あ、はははい! に、13日の月曜日ですよね! 予定空いてます、空けてます!」
お、おお。なんかものすごい食いついてきたな。
「あはは、そっかそっか空けてたんだね」
「は、はい! 空いてたんじゃなくて、空けてました!」
うーん、前々から思ってたけどぼっちちゃんのこの「空けてた」の拘り凄いな。よっぽど遊ぶ予定が無いから「空いてる」って思われるのが嫌なのかな? でもどちらにしても予定が空いてるなら何でもいいや。
「じゃあお互い学校が終わったら『あの公園』で待ち合わせね」
「は、はい。学校が終わったらすぐに向かいます」
「うん。後折角だからそのままウチにお泊りしてかない? 次の日学校にはそのまま向かったら良いし。駄目かな?」
「だ、駄目じゃないです。楽しみにしてます」
「私も。じゃあ気を付けて帰ってね。変な人についてったら駄目だよ?」
「はい、お疲れさまでした」
ギターを背負って丁寧にお辞儀をしてからSTARRYを出るぼっちちゃん。へへっ、楽しみだな。
「いいなぁ伊地知先輩。ひとりちゃんとのデート」
「いやデートって訳じゃ」
「デートでしょ。しかもお泊りだなんてナニするつもり?」
「変なこと言うな! なんもしねえよ!」
お姉ちゃんもいるし。いやいなくてもしないけど!
ぼっちちゃんが帰ると今の話を聞いていた喜多ちゃんとリョウに早速絡まれてしまった。
「まったくまったく」
「でも伊地知先輩、さっきひとりちゃんが『空けてた』って言ってたの本当ですよ」
「え?」
「昨日ひとりちゃんにその日遊びに誘ったんですけど断られたんです。あのひとりちゃんに断られるなんて思ってもみなかったんでまさか彼氏でも出来たのかと戦々恐々としてたんですけど……、ふふっ。そういうことだったんですね」
喜多ちゃんとリョウにニヤニヤとしながら見られる。くそぅ。
でも、そっか。じゃあ私がその日に遊びに誘うって分かってたのかな? それともぼっちちゃんから誘ってくれるつもりだったとか? どちらにしても来週の月曜はぼっちちゃんにとっても大切な日って思ってくれてたって事だよね。……嬉しいな。
「郁代見て。あれが恋する乙女の顔ってやつだよ」
「きゃー! 青春ですね!!」
「うるせえ! もう帰れ!!」
ワザとらしく口に手を当てながら囃し立てる二人を追い出す。あーもう、変な方向に揶揄われて顔が熱い。そんなんじゃないっての!
「虹夏」
「なにお姉ちゃん?」
「私その日はリナんちにでも泊めてもらうから。しっかりな」
「……」
「あ、不安なら指用のゴムとかもあるらしいからそういうのも買っといた方が」
「お姉ちゃん今日晩ごはん抜き!!」
どいつもこいつも!!
そしてこの後ぼっちちゃんが帰り道で信号を無視した車に轢かれた事を知ったのは、翌日ぼっちちゃんのお母さんから連絡を受けたお姉ちゃんに教えてもらった時だった。
ぼっちside
――暗い。ここは、どこだろう。私どうしたんだっけ? さっきまで私はどこかにいて、それから、それから……。駄目だ。思い出せない。
それにしても本当に暗いな。どうしてこんなにも暗いんだろう。それに何故か周りがうるさい気がするし、学校のチャイムが聞こえる気がする。どこなの? ここは……。
「暗い……」
「そりゃ腕を枕にして突っ伏してたら暗いのは当たり前だよひとりちゃん」
「ふぇ?」
「お、起きたな」
声を掛けられて顔を上げる。……ここは、小学校? 私が通ってた小学校だ。
「どうしたのボーっとして? 寝ぼけてるの?」
「……え、っと」
私に親し気に声を掛けてくるサイドポニーの女の子。えっと、この子は……。
「なにその知らない人を見るような顔? 幼稚園からの付き合いである私の顔を忘れたの?」
「え、あ、いやそんな事ないよ。えっと、もしかしてもう放課後?」
「そうだよー。ひとりちゃんずっと寝てるんだもん。運よく先生は気付かなかったけどね。でも居眠りなんて珍しいね。寝不足?」
「うぅん、ちゃんと寝たよ。昨日は練習してないし……」
「練習? 何かしてるの?」
「……何してるんだっけ?」
「え?」
あ、あれ? 普段毎日6時間くらい何かを練習してた様な気がしたんだけど、なんだっけ? 何か大事な、すごく大事な体の一部みたいに大切な事だったと思うんだけどな……。
「本当に大丈夫? 保健室行く?」
「だ、大丈夫だよ。まだ少し寝ぼけてたみたい」
「ふぅん? 体調崩してないならいいけど。明日は待ちに待った遠足だしさ」
「遠足……」
「そうだよ。ひとりちゃんのお母さんお料理上手だからお弁当のおかず交換するの楽しみだなー」
お弁当のおかずの交換……。
「……そうだね。すっごく楽しみだね」
「うん! 私のお母さんも張り切ってるからさ、明日は絶対一緒にお弁当食べようね!」
「うん、約束」
約束。……なんだろう。何かとても大切な約束を、とても大切な人とした気がする。でも思い出せない。きっとまだ寝ぼけてるんだ。それよりも明日の遠足だ。楽しみだな。
虹夏side
「し、失礼します」
「はい。……ああ、虹夏ちゃん。来てくれたのね」
大学の講義が終わった頃お姉ちゃんからぼっちちゃんの事故の話を聞いて、ぼっちちゃんが運ばれたという病院に行き、案内された病室に行くとそこには椅子に座っているぼっちちゃんのお母さんがいた。
「あ、あの、ぼっちちゃんは……」
「そこで、眠ってるわ」
ぼっちちゃんのお母さんに視線を向けた先。そこには綺麗な顔で規則正しく静かに寝息を立てるぼっちちゃんがいた。特に大きな怪我があるようには見えないし、どうやら本当にただ眠っているだけみたいだ。
「あ、ああ、良かった……。ぼっちちゃんが車に轢かれたって聞いて飛んできたんですけど、大きな怪我は無かったんですね」
「ええ。車の方も結構減速してたみたいで大した怪我はしてないの。擦り傷くらいで、傷跡も残ったりしないって」
そうなんだ、良かった。ぼっちちゃんが車に轢かれたって聞いた時には生きた心地がしなかったよ。ぼっちちゃんも女の子だし顔に傷とか残ったら流石に気にするだろうし、大したことが無くて本当に良かった。
リョウと喜多ちゃんにも連絡入れておかないとな。ぼっちちゃんが事故にあった事も伝えてないし。あ、そうだ。
「あの、ぼっちちゃんが起きるまでここに居てもいいですか?」
何とも無かったとはいえやっぱりちゃんと起きてるぼっちちゃんを見て安心したいもんね。見たところぐっすり寝てるみたいだけど、さっきまで起きてたのかな?
「……いつ起きるか分からないけれど大丈夫?」
「大丈夫ですよ。まだお昼ですから時間はありますし……」
「今日起きるのか、一ヶ月後に起きるのか、……一年後に起きるのか、いつ起きるか分からないけれど。大丈夫?」
「……え?」
いち、ねんご? え、なに? どういう、それ、え?
「……ひとりちゃんね、怪我は大したことないんだけど強く頭を打ったみたいで。昨日事故に合ってから一度も起きてないの」
「昨日から……」
昨日って、ぼっちちゃんがSTARRYの帰り道に下北沢で事故に合ったなら夜の9時頃からってことだよね。それからずっと……?
「レントゲンやCTスキャンなんかで検査したけど特に異常は見つからなくて。一見眠ってるだけだけど、いつ目を覚ますのか分からないって……。もしかしたらずっと、このままかもって……!」
そのまま声を抑えて涙を零すぼっちちゃんのお母さん。
は? なにそれ。だってぼっちちゃん私と出かけるって。結束バンドを今の四人で最高のバンドにするって。ずっとこのままかも、ってなに。目を覚ますのかどうかも分からないって、え? 約束は? ていうか考えない様にしてたけど、車に轢かれて目を覚まさないって、それ、お母さんと同じ。違う、違う。だってお母さんは死んだけどぼっちちゃんは目を覚まさないだけ、いや、それ死んでるのと何が違うの? 違う、全然違う。違わない。違う。違わない。違わない――。
「は」
っと、短い呼吸の後全身の力が全て抜け、私の身体は糸が切れた人形の様にその場に崩れ落ちた。
ぼっちside
「ぜひゅーっ、ぜひゅーっ……」
「ひとりちゃん頑張って! もう少しだから! 溶けないで!」
そ、そうは言われても。遠足は遠足でも鍛錬遠足だなんて、昨日居眠りしてたからちゃんと聞いてない……!
友達が原型が崩れそうになる私を後ろから押してくれる。うぅっ、自分だってしんどくない訳ないのに。やっぱり私はプランクトン……。
「ほら山頂見えてきたよ! 頑張って!」
「う、うん……!」
最後の力を振り絞って目的地である山頂の広場に辿り着く。つ、疲れたぁ……!
「後藤さんよく頑張ったわね! 偉いわ!」
「へ、へへ。これくらいチョチョイのチョ……ゲェホゲホ!!」
だ、駄目だ。先生に褒められたけど体力全部使い切っちゃってるや……。
「あはは。ほらひとりちゃん、シート敷いたから横になりなよ。落ち着いたら一緒にお弁当食べよう?」
「う、うん。でもお腹空いてるでしょ? 先に食べてても良いよ?」
「何言ってるの。昨日おかずの交換する約束したじゃん」
「あ、へへ。そうだったね」
じゃあ早く持ち直さないとな。友達が敷いてくれたシートに横になる私。……山の上だからか風が涼しいな。空気も美味しい気がする。
目を閉じて吹き抜けていく風に涼んでいると顔に優しくタオルを当てられる感触がした。
「ひとりちゃん凄く汗かいてるよ? 拭かないと風邪ひいちゃうよ」
「へへ。ありがとう」
ポンポンと、優しく汗を拭かれる私。夢心地だなぁ。
「……よし、これで良いかな。そろそろ起きれそう?」
「うん、もう大丈夫だよ。お弁当食べよう」
「そうだね。もうお腹ペコペコだよー」
「えへへ、ごめんね」
リュックの中からお弁当を取り出して蓋を開ける。ご飯に桜でんぶでハートと、海苔で『HITORI』って書いてあって可愛いな。
「わぁ、やっぱりひとりちゃんのお母さんのお弁当美味しそうだね! 卵焼きもハートの形で可愛い!」
「うん。えっと、どれ交換する?」
「じゃあたこさんウインナーあげるからトマト貰っていい?」
「トマトで良いの?」
「うん! 私トマト好きだから」
そう言って私の弁当箱にタコさんウインナーを入れてもらい、私はトマトを交換した。
……なんだろう。すごく何気ない、ただ友達とおかずを交換しただけなのに。何故か。
「ひとりちゃん。何かすごく嬉しそうだね」
「……うん。良く分かんないんだけど、ずっとしてみたかったことが出来た。そんな気がするんだ」
「ふーん?」
自分でも本当に分からないけど今すごく満たされてる気がする。一人でもいいから友達がいてくれる日常をずっと、ずっと求めていたような。
こんな日がいつまでも続けばいいな。
リョウside
ぼっちが事故にあった日から三日。
昨日最初に虹夏からぼっちが事故に合ったけど大したことは無かったってロインが来たけど、その後店長からぼっちが実は意識不明になってた上に虹夏が倒れたって聞いて私と郁代はすぐに病院に行った。
虹夏は母親の事がフラッシュバックして気絶しただけだったからすぐに目を覚ましたけど、ぼっちは話に聞いていた通り目を覚まさず、今日も来てみたけれどやはりまだ眠っていたままで、その傍らには本来であればまだ大学にいる時間の筈の虹夏がいた。
「……リョウ」
「もう来てたの。大学は?」
「休んだ。ぼっちちゃんがいつ起きるか分からないし」
「そう」
いつ起きるか分からないなら正直大学に行った方がいいとは思うけど、それは口に出さないでおいた。大学の単位とか心配する柄じゃないし、ぼっちが目を覚まさないかも、みたいな事言いたくない。
「……ぼっちの家族は?」
「お昼には来るんじゃないかな? とは言ってもお父さんは仕事だろうしお母さんしか来ないんじゃない?」
「ふーん。ぼっちの妹は?」
「ふたりちゃんにはまだ伝えてないって。……今はまだ言わないみたい」
「そっか」
「……」
「……」
虹夏との間に沈黙が流れる。虹夏との間で居心地の悪さを感じるなんて初めてだ。
「……虹夏は今日はいつまでいるの?」
「19時まで」
つまり面会時間いっぱいまでってことか。やれやれ。
扉から虹夏の方へ近づいて見てみると、虹夏はぼっちの手をしっかり握っていた。
「……たまにさ、ぼっちちゃんの手がピクって動いたりするの。その時に声掛けたらもしかしたら届くかもって思って、見逃さないように握ってるんだ」
「なるほどね。……夢でも見てるのかな?」
「多分そうなんじゃない? ぼっちちゃんって自分の世界に行くと中々帰ってこないし」
「ふっ、だとしたら過去最長のぼっちタイムだね」
「そんなことでレコード伸ばしてほしくないなぁ」
「確かに」
クスクスと虹夏と笑い合う。少しは気が紛れたかな?
「ねぇリョウ。ちょっとお手洗い行きたいからその間代わりにぼっちちゃんの手を握っててもらってもいいかな?」
「良いよ。本来なら私との握手は有料だけど今回は大目に見てあげよう」
「そりゃ太っ腹な事だね。じゃあお願い」
虹夏が病室を出ていって、ぼっちの手を代わりに握った。
「……ぼっちの手、めっちゃ熱くなってる」
どれだけ長い時間握ってたんだか。愛されてるな、ぼっちは。
早いとこ目を覚まして欲しいもんだ。ぼっちがいないとお金借りれないし、虹夏が大学行かないから学食のカレーが食べれないし、……ぼっちの作詞が見れないじゃん。
そんな事を考えているとぼっちの手が僅かに動いたのを感じた。何か、何か声を掛けないと。
「……ぼっち、起きて。ぼっちがいない結束バンドなんてつまんなさ過ぎるよ。面と向かって言えないけど、私だってぼっちのこと大切なんだよ。またぼっちって、呼びたいからさ……」
ぼっちの手が止まる。
少しは届いたかな? 届いてるといいな……。
ぼっちSide
「ひとりちゃん、どうして! どうしてあんな事を……!」
「だって、だって……」
「だってじゃないよ! あんな恐ろしい事をどうして……!」
「どうして昼食時間にごりごりのデスメタルを流すなんて恐ろしい事をしたの!!」
「か、カッコいいかなって……」
「ドン引きだよ!!」
う、うぅ……。どうして皆デスメタルのカッコよさが分からなかったんだろう。あれじゃ刺激が足りなかったのかな? 今度はもっとカッコいい奴を流してもらおう。
「もう。そんなんだから中学生になっても私以外友達いないんだよ?」
「ぐへぇっ!」
特に理由のある言葉の暴力が私を襲う……!
「勉強も必死に教えてようやく平均点だし、私がいなかったらどうなってたか考えるだけで恐ろしいよ」
「あ、へへ。その時はまたあの人にぼっちってあだ名付けて貰ってたかも……」
「……ぼっち? それにあの人って?」
「え? あ、あれ?」
誰、のことだっけ? それにぼっち、ぼっちって……。
「ちょっと待って。ひとりちゃんをぼっちなんて呼んでる人がいるの!? イジメじゃないのそれ!? 誰が言ったのそんな事!」
「わ、わわ。待って待って。気のせいだから」
「気のせいって……!」
「な、なんかぼっちってあだ名をつけてくれた人がいた気がしたんだ。それにちょっとアレなあだ名だけどすごく大切で、そう呼んでもらえるのがすごく嬉しい様な、そんな気がしただけから……」
「……夢の話?」
「夢……なのかな? 分かんない」
ぼっち……。そのあだ名を考えるたびに、不思議と胸が温かくなっていく。誰に、そう呼ばれたんだっけ……。
『……ぼっち、起きて。ぼっちがいない結束バンドなんてつまんなさ過ぎるよ。面と向かって言えないけど、私だってぼっちのこと大切なんだよ。またぼっちって、呼びたいからさ……』
「あ、あれ? 今の……」
「どうかしたの?」
「今何か聞こえたような……」
聞いたことがあるような声だった。私の誰もが引いちゃうような行動を個性だって笑って受け止めてくれる。そんな優しい人の声だったような……。
「周りには誰もいないけど?」
「……気のせい、かな?」
「ふーん? ま、イマジナリーフレンドも程々にね」
「ち、違うよ!」
喜多side
ひとりちゃんが意識を失って四日目。
学校が終わって私はそのまままっすぐひとりちゃんが入院している病室に足を運んだ。
「失礼します」
「あ、喜多ちゃん。来てくれたんだ」
ひとりちゃんの病室に入ると伊地知先輩が出迎えてくれた。……伊地知先輩、少しやつれてる気がするわ。
「はい。伊地知先輩だけですか?」
「うん。リョウは今日はシフトの日だから。さっきまでぼっちちゃんのお母さんも来てたよ」
「そうなんですね。ひとりちゃんは、まだ……」
「まだ眠ったままだよ。普段は通学の為に早起きだけど、今回はちょっとお寝坊さんだね」
握ったひとりちゃんの手を優しく撫でる伊地知先輩。顔を伏せていて表情はよく見えないけど、きっと悲しそうな顔をしてる気がする。
それにしてもこんな状況だけど、こうして眠ってるひとりちゃんをマジマジと見るのは初めてだわ。やっぱりこうしてると美少女よね、ひとりちゃんって。
「可愛い寝顔ですね」
「そうだねー。ぼっちちゃんって会ったばっかの頃に比べたら心を開いてくれてはいるけど、未だにちょっとやや壁があるからこんな無防備なのは初めて見るかも」
「本当ですね。ほら、昔はこうしたら胞子化しちゃってましたけど……」
ひとりちゃんの前髪を左右に分けて普段は隠れてしまってる顔をさらけ出す。
「うふふ、今ならセットし放題ですね」
「やめときなって。もしもその時にぼっちちゃんが目を覚ましたらまたぼっち菌にやられちゃうよ」
「はーい」
でも、それで目を覚ましてくれるなら別にやられちゃっても良いな。伊地知先輩も多分、そう思ってるんでしょうね。
「……伊地知先輩。私もひとりちゃんの手を握ってもいいですか?」
「うん、もちろんだよ」
どうぞ、と伊地知先輩が座っていた椅子を空けてくれた席に座ってひとりちゃんの手を握る。握ったひとりちゃんの手は伊地知先輩がずっと握っていたせいか熱くなっていた。きっと何もない間は朝からずっと握ってるんだろうな。
ひとりちゃん。伊地知先輩とっても寂しそうよ。もちろん私も。早く起きないと皆泣いちゃうわよ。
「……あら?」
今、ひとりちゃんの手が動いたような……。
「ぼっちちゃん、偶に手がピクッて動くんだ。多分夢でも見てるんじゃないかな?」
「そうなんですね……」
「喜多ちゃん、ぼっちちゃんに声を掛けて貰っても良いかな? もしかしたら夢の中まで声が届くかもしれないから」
声、か……。じゃあ私が伝えたいことを言おうかな?
「ねぇひとりちゃん。私あなたに憧れてすっかり人生狂っちゃったわ。友達からもバンドに入っておかしくなったって言われたくらいなのよ。だから責任取って。貴女に追いつけるまでギター教えてよ。私のギターの先生は、ひとりちゃんだけなんだから」
「……重いね」
「伊地知先輩に言われたくないですよー」
届いたかしら? きっと、届いたわよね。ひとりちゃん。
ぼっちside
「はぁ……、やっと学年末テストも終わったねー」
「つ、疲れた……」
中学最後の学年末テストも今日でやっと終わりだ。勉強苦手だから本当に大変だった……。
「ひとりちゃんの手ごたえはどうだった?」
「えっと、何とか平均点は取れてるんじゃないかなって思う。勉強教えてくれてありがとう」
「私も復習になったから気にしないで良いよ。まぁあれだけ徹底的に教えて平均点くらいっていうのがちょっと気になるけど……」
「へ、へへ……」
「ま、私という親友がいることに感謝するんだね。お礼にパフェとか奢ってくれてもいいんだよ?」
「うん、次の休みご馳走するよ。あ、でもお店の中に入る時怖いから先導してね……」
入り方が分からなくて『大将やってるかい?』とか言っちゃいそうだし……。
「あはは、了解。……そういえば聞きたいことがあったんだけど」
「なに?」
「ひとりちゃんはどうして進学先を県外の秀華高校にしたの?」
「……えーっと」
地元での私の数々のやらかしを知ってる人がいない所に行きたいからとは言えない……!
「地元でのひとりちゃんの数々のやらかしを知ってる人がいない所に行きたいからとかそんな理由だとは思うけど」
エスパー!?
「まぁひとりちゃんを一人にするのも心配だから私もそこに行く訳だけど」
「……本当に良かったの? 秀華高校って別に偏差値高くないし、もっと近くて学力の高い高校とか行けたんじゃ……」
「まぁねー。でも正直将来のことよりも今の時間を大切にしたいんだ。そう考えたらさ、ひとりちゃんと同じ高校に行きたいなって思ったの。だから別にひとりちゃんの保護者をするとかじゃなくて、私が好きでそうしたいってだけだから」
「……そっか」
「そういう訳だから、これからも末永くよろしくね!」
そう言って私に抱き着いてくる。……本当にいつも助けてくれてありがたいな。思えば小さい頃からずっとだもんね。他に友達は全然できないけど、いつも一緒にいてくれたから寂しい思いをせずにいられた。この子がいなかったら毎日が辛かっただろうな……。
「それに秀華高校って制服も可愛いんだ〜。今の制服ってめっちゃ地味だからそこも楽しみなんだよね。可愛い制服着たひとりちゃんも楽しみだなぁ」
「あ、秀華高校って服装も多少自由みたいだから私はジャージでも着ようかなって……」
「ジャージ!? 田舎ヤンキーじゃないんだよひとりちゃん!」
「に、似合わないし、服装を考える時間を考えたらジャージが一番かなって……。機能美的にも……」
「何の機能美!? 服を考える時間削って何をするの!?」
「え、えっと……」
な、何をするんだっけ……? 服装を考える時間を無くして別の時間に当てたいって思ってたんだけど、何をしたかったんだっけ?
「そ、それにほら、目立つから目印になるかもしれないし」
「何の目印? 私ひとりちゃんが制服着てても見つけられるけど」
「いや、それはあの……あれ? 誰に対してだっけ……?」
「……本当に大丈夫?」
私を心配しておでこに手を当てられる。
何なんだろう。何か大事な物を、大事な人を忘れてる気がする。何を? 誰を? まともに友達なんて呼べる人、この子しかいない筈なのに。
一体何を忘れてる? わたしは、私は……。
『ねぇひとりちゃん。私あなたに憧れてすっかり人生狂っちゃったわ。友達からもバンドに入っておかしくなったって言われたくらいなのよ。だから責任取って。貴女に追いつけるまでギター教えてよ。私のギターの先生は、ひとりちゃんだけなんだから』
忘れてはいけない人達を、忘れてる気がする……。
星歌side
「よう虹夏」
「お姉ちゃん……」
ぼっちちゃんが意識不明の状況になって5日が経った。
あれからというもの虹夏は面会できる時間は常にぼっちちゃんのお見舞いに来て、ぼっちちゃんの家族と一緒にマッサージしたり髪や身体を洗ったり、それ以外はずっとぼっちちゃんの手を握っている。……いい加減虹夏の方が体を壊しそうだ。
「虹夏、お前家に帰った方がいいぞ。ずっとここにいるじゃん」
「ごめん。家の事全然出来てないもんね。バイトにも入れてないし」
「誰がそんなこと言ってんだよ。家に帰って寝ろって言ってんだ」
目の下に隈が出来てるし、明らかに痩せてる。
家の事は私も苦手ながらに最低限はやってるし、本当はもっとぼっちちゃんの顔を見たいだろうにバイトもリョウ達が頑張ってくれてる。虹夏が気にしないといけないのは自分自身の身体だ。これ以上は体がもたない。
「……どうせ寝れないよ。夜どれだけ布団に潜って目を瞑っててもぼっちちゃんの傍に居られない事がもどかしくて、ずっと目が冴えちゃうんだ。眠れても1時間くらいで起きちゃうし」
「虹夏……」
「だからここでこうしてる方がまだマシなんだ。心配してくれてるのは勿論分かってるよ。自分でもまともな状態じゃないって分かるもん」
酷い顔してるんだろうなー乙女失格だなあははー。なんて無理矢理明るく振舞おうとする虹夏。笑えないんだよ馬鹿が……。
今にも壊れそうな虹夏が見ていられなくて思わず抱きしめる。
「無理すんな。お前の気持ちは分かってるから……」
痛いほどに、な。だって私達からしてみればあの時と同じ状況なんだから。
「……何でかなぁ。何で私の大切な人はいつも車に撥ねられちゃうんだろう」
「理由なんて、ある訳ないだろ」
「そりゃそうだけど。でも、でもさ……、こんなのってないよっ……!」
背中に回された虹夏の小さな手がきつく私にしがみつく。
「なんでいつも……! うっ、ひぐっ……! 私の大切な人がこんな、じゃあお姉ちゃんも、こう!」
「ならないから。大丈夫だから」
「うっ、ふぐっ、うぅぅ……!」
胸の中で虹夏が堪え切れずに嗚咽をあげる。
私だって似たような気持ちだよ。しかし、ああ。本当に、世の中ってのは理不尽だ。
暫く泣いていた虹夏は気が付けば抱きしめられたまま泣きつかれて眠っていた。余程溜め込んでたんだろう。ちょっとやそっとじゃ起きなさそうだな。
「ぼっちちゃん、少しスペース借りるな」
聞こえてないだろうけどぼっちちゃんに断りを入れて、虹夏を椅子に座らせたまま起こさない様にゆっくりと上半身をベッドに預けさせた。ちょっと寝苦しいだろうが最近寝れてないって言ってたし多分大丈夫だろう。
「……ぼっちちゃん」
寝ていてもしっかりとぼっちちゃんの手を握りしめている虹夏の手ごと握る。
「私はぼっちちゃんがやる事は大抵の事は許すつもりだ。可愛いからな。だけど、世界一可愛い虹夏を泣かせる事だけは絶対に許さない」
だから起きてくれ。頼むよ。
……なぁ、母さん。もしも見ているならぼっちちゃんを助けてくれ。虹夏の大切な人なんだ。もう虹夏に泣いてほしくないんだ。母さん、母さん……!
『――――』
ーー何だ? ふと、私の頭を優しく撫でる様に温かな風が吹いた気がした。
窓も空いてないのにどこから……。でも何故だかとても、懐かしく感じた。
ぼっちside
「……あれ? ここは……?」
気がつくと私は見慣れない公園の前にいた。
私今まで何してたんだっけ? 確かさっきまで学校にいて、HRが終わって、それからあの子が声をかけて来て、それから……。
「ごめんなさい、無理に引っ張ってきちゃって」
「ひぅえ!? え、あ、あの……!?」
そ、そうだ。あの子と帰ろうとしたらこの三つ編みのお姉さんに急に引っ張られて、それから気付いたらここにいたんだ。
「あ、ああああのあのあの……!」
「……うふふ。本当にあの子が話してた通り」
優しく微笑むお姉さん。だ、誰なんだろう? すごく優しそうだけどこんな見知らぬ所まで引っ張って来たって事は、もしかしてゆ、誘拐……!?
「誘拐じゃないから安心してね」
え、エスパー!?
「怖がらせてごめんね。でもこれ以上進んじゃうともう戻るのが難しくなっちゃうから。星歌にもお願いされたし、虹夏も待ってるしね」
「……え? にじ……?」
「虹夏。貴女のとても大切な子の名前。思い出して」
にじ、か……。誰だっけ。知らない名前。の筈なのに何故かとても胸が温かくなってく。覚えてない。でもきっと。世界で一番大切な人の名前だ。それだけは間違いない。
「ひとりちゃん、ここはあなたと虹夏のとても大切な場所。そして今日は虹夏との約束の日」
「約束?」
「うん。大切な約束」
「……」
「そして私は無理に『入って』来たからもうこれ以上ここにいられないの」
……一体さっきから何の話をしてるんだろう。ここ、ってどこ? この公園の事?
「本当はもっとひとりちゃんとお話ししたかったんだけどもう時間が無いから。だから二つ、大切なことを伝えるね」
お姉さんが優しく私の手を握る。
「外であなたが起きるのを心待ちにしてる人達がたくさんいる。早く起きてあげて。そしてもう一つは」
「私は娘が増えるのは大歓迎だから。虹夏の事、よろしくお願いします」
じゃあまたね、と笑ってそこに誰もいなかったかのようにお姉さんが消えた。……何だったんだろう?
「え、っと……。それでここは……?」
私の大切な場所って言ってたけど、あるのは小さい子向けの遊具が少しあるだけの何の変哲もない公園。ここが私の大切な場所?
ぐるりと見渡す。程の広さでもないけれど、ふと私の目に寂れたブランコが目に留まって、自然とそのブランコに私は座った。
何だろう。ここで私、誰かと会ったような……。
それともう一つ気になるのは。
「ひとりちゃん、やっと見つけた!」
声のした方へ視線を向けると、そこには息を切らせたあの子がいた。こっちに駆け寄ってきて私の腕を掴む。
「まさかひとりちゃんを連れていかれるとは思わなかったから心配したよー。大丈夫だった?」
「う、うん。危ない人じゃなかったから。……ねぇ、気になることがあるんだけど」
「なぁに?」
『あの子』が私を見つめる。何か映ってるとは思えないような青い瞳が私を見つめる。……思えば私って、この子の顔をちゃんと見たことあったかな?
心臓が掴まれる様な感覚を覚えながら私は問いかけた。
「ここはどこなの?」
「……さぁ? あのお姉さんに急にひとりちゃんを連れてったから私も急いでこの公園まで追いかけただけだし」
「違う。この公園じゃなくて、『ここ』は、どこなの? それに」
「それに?」
「あなたは、誰?」
「……」
沈黙が流れる。いつも楽しくお喋りしてくれるあの子とは思えない程、冷たく黙った。
いつも隣にいてくれた女の子。顔も知らない女の子。うぅん、知らなかった女の子。今まで靄が掛かってた顔が今ならハッキリ見える。
「……私が誰かって、見たらわかるでしょ?」
うん、今なら見たら分かる。三つ編みにした髪の毛でサイドポニーにしている見覚えのある髪型。だけどその髪色は桃色で、纏めた髪の毛の反対側には跳ねた髪の毛を黄色と青の髪留めで留められている。そうだ、これは。
「見ての通り、後藤ひとりだよ。あなたと同じ、後藤ひとり」
前髪から覗く青い瞳が私を見つめる。
「……どういう、ことなの? 何で私が二人いるの?」
「んー。まぁ簡単に言うと、ここは夢の中なんだよ」
「夢の中?」
「まだ思い出さない? 私達事故にあったんだよ。それからずっと眠ってるんだ」
事故……。そうだ、私STARRYの帰り道に車に撥ねられたんだ。あれからどれくらい経ってるんだ?
「事故にあってからずっと長い夢を見てるんだけど、ここでちょっとトラブルが起きたんだ」
「トラブル?」
「うん。早く起きたい後藤ひとりと、目覚めたくない後藤ひとりに別れたんだよ」
「め、目覚めたくない?」
どういうこと? もう一人の私が言ってる事が本当なら私ずっと眠り続けてるんだよね? なんで起きたくないなんてことになるの?
「だってさぁ、考えてもみなよ。現実の私はギターがちょっと出来るだけでそれ以外は壊滅的で、もしもバンドが上手くいかなかったら私達にどんな未来が待ってると思う?」
「そ、それは……」
ところてんすら売れずに実家に引きこもってしまう終わった私が思い浮かぶ。
「そんなんでしょ? っていうかバンドが上手くいく可能性の方が普通に考えて低いじゃん。なんでそんな現実に戻らないといけないの?」
「それは、だって……」
……な、なんでだろう。ここまで来ても大切な何かを思い出すことが出来ない。大事な約束があった筈なのに。
「それとさっきここがどこかって聞いたよね? ここはね、後藤ひとりのささやかな願いが叶った場所なんだよ」
「私の、願い?」
なに、それ? 私の願いって……。
「分からない? なら……」
私を掴んでいるのと反対の手を上に伸ばして軽く息を吸って
「かくれんぼする人この指とーまれ!」
高らかに叫んだ。それ、それは。幼稚園の頃の……。
「……ここはあの日指を掴みに行けなかった私に、掴みに来てくれた世界なの」
「じゃあ、あなたが」
「独りぼっちは嫌だ。寂しい。たった一人で良いから友達が欲しい。そんな私のささやか過ぎる願いを、あの日私が叶えたの。私が私の指を掴んでね」
「な、何であなたが」
「起きてほしくなかったからだよ。あなたは全然思い出さないし夢だと気付く気配もなかったから、起きない様に幸せな夢を見続ける様に誘導してたの。あなたが何を望んでいるのかなんて分かってるしね。私の事だし」
「……そこまでして、起きたくなかったの?」
「当たり前でしょ!!」
「っ!」
私の腕を掴んでいた手がより強く握られる。
「さっきも言ったけど現実の私は壊滅的なんだよ!? 勉強は出来ない運動は出来ないコミュ力は無い未来に希望は無い! 何で起きないといけないの! ここでなら大嫌いな自分をいくらでも変えられるのに!」
「変えられる?」
「そうだよ! 夢の中でならどんな自分にでもなれる。思い浮かべてみて、なってみたい自分を」
なってみたい自分……。
「誰の言葉にも左右されずありのままでいられる自分を」
「スルークールカースト上位にいるような底抜けに明るくて皆に愛される自分を」
「そして、私を見てみて。今の私は面倒見が良くて、勉強が出来て、どれだけ駄目な私でも受け入れてくれる優しい人なんだよ。料理もすごく上手なんだ。私の、私達の憧れの人の様に!」
「ここでなら何にだってなれる! 他にもギターがもっと上手くなってロックスターにだってなれるし、あなたが望むなら大好きな人達もここに呼ぶことだって出来る! いいじゃないここで! 現実の事なんて忘れてここで眠り続けよう!」
……この子の気持ちが私に伝わって、いや、私の中からあふれ出してくる。それはそうだ。この子は私なんだから。この子が言ってる事は私の言葉なんだ。
大嫌いな自分、全くその通りだ。猫背だし、隈は酷いし、年中芋ジャージだし。おまけに防虫剤臭い。バンドが上手くいかないとニート確定な私。好きになれる要素が無い。でも、それでも。
「それでも、起きたいんでしょ?」
「……うん。大事な約束をした様な気がするから」
「でも無理だよ」
「え?」
「試しにあなたを掴んでる手を振りほどいてみなよ」
言われて腕を掴んでいると手を振りほどこうとしてみるけど、その手はビクともしなかった。
「は、離して……!」
「違うよ? あなたが自分で離さないんだよ?」
「……え?」
「言ったでしょ、私はあなた。この夢の世界に縛り付けてるのは自分自身なんだよ。本当に心の底から起きたいって思ってるならこの手は簡単に離れるよ。でも私の手が離れないという事は起きたくない意思が強いってこと」
「そんな……」
「もう認めようよ。そんな約束ひとつの為に辛い現実に戻るなんて嫌だってことを」
……ああ、そうだ。私だって嫌なんだ。15年間も独りぼっちだった、誰も見つけてくれなかったあの現実に戻るなんて私だって嫌なんだ。どれだけ寂しかったか。どれだけ辛かったか。未来に不安しかないあの現実に帰る勇気なんて、私には無い。
そう思うと同時に、私を掴む手が私の腕と溶け合っていく。これは……?
「私達の心がようやく一つになった証拠だよ。……戻ろう、一つに」
そしてここで優しい夢を見続けよう。そう言って私が私を抱きしめる。……そうだね。もう全部忘れて、ここで眠り続けよう――。
目を閉じて一つに溶け合っていく。その時、
「あ! ギターーッ!!!!」
とても聞き覚えのある、大好きな声が聞こえたと同時に溶け合っていく私達の身体はまた離れた。
「……へへ、なんて。やっと会えたよ、ぼっちちゃん」
「え、え? に、じか、ちゃん……?」
そうだ、虹夏ちゃんだ。どうして今まで忘れてたんだろう。
でもどうして、ここに……? あ、そうだ。ここは私の夢の中なんだ。つまりこの虹夏ちゃんも夢って事か。
「違う……」
「え?」
「この虹夏ちゃんは私達の夢の中の虹夏ちゃんじゃない。なんで、どうしてここに虹夏ちゃんが……」
「ぼっちちゃん」
私達の前まで来た虹夏ちゃんが私の手を握る。
「ほら、帰ろう? 皆待ってるよ」
「……帰りたく、ないです。現実の私は何も取り柄が無くて、いつも虹夏ちゃん達に迷惑をかけて、もう嫌なんです。大嫌いなんです、自分が」
「そっかぁ……。でも私はぼっちちゃんの事好きだよ?」
「え?」
「中々実を結ばなくてちゃんと勉強を頑張るぼっちちゃんが好き」
「私達の事をちゃんと見てくれてるぼっちちゃんが好き」
「困ってたら助けてくれるぼっちちゃんが好き」
「普段頼りないけどいざとなったらカッコいいぼっちちゃんが好き」
「カッコよくギターを弾くぼっちちゃんが好き」
「優しいぼっちちゃんが好き」
「あ、う……」
「ぼっちちゃんが好き。大好き。ぼっちちゃんとずっと一緒に私はいたいって思ってるよ。それじゃ、駄目かな?」
私は、私は……
「それにリョウも、喜多ちゃんもぼっちちゃんがぼっちちゃんだから好きなんだよ。声、聞こえなかった?」
「声……?」
「うん。喜多ちゃんも、リョウも素直じゃないから多分私が見てないところでぼっちちゃんに声を掛けてたんだよ」
『……ぼっち、起きて。ぼっちがいない結束バンドなんてつまんなさ過ぎるよ。面と向かって言えないけど、私だってぼっちのこと大切なんだよ。またぼっちって、呼びたいからさ……』
『ねぇひとりちゃん。私あなたに憧れてすっかり人生狂っちゃったわ。友達からもバンドに入っておかしくなったって言われたくらいなのよ。だから責任取って。貴女に追いつけるまでギター教えてよ。私のギターの先生は、ひとりちゃんだけなんだから』
いつか聞いた声が私の胸にまた響いた。そっか。私の事、待ってくれてるんだ。
「後、さ。出会ってから今までたくさんカッコ悪いぼっちちゃんを見てきたけど、今でも私の気持ちは変わってないよ」
「気持ち、ですか?」
「うん。むしろあの頃よりもっと確信してるんだ。ぼっちちゃんがいたら私の夢を叶えられる、って。だからこんなところに引き籠ってないでこれからも見せてよ。ぼっちちゃんのロック……」
「ぼっち・ざ・ろっくを!」
……私って、本当に単純だな。自分が嫌いだって事も、未来が不安だって事も何一つ解決してないのに。
「さぁ、皆の元へGO!」
「あ、はい」
虹夏ちゃんが傍にいる。結束バンドの皆がいる。たったそれだけのことで起きたいって思えるんだから。
虹夏ちゃんの手に引っ張られてブランコから立ち上がる。さっきまでビクともしなかった私を掴む手はあまりにも呆気なく、私の腕から離れた。
「……認めない、私は消えないから」
虹夏ちゃんと同じ髪形をした私が私を睨みつける。
「……さっき私を掴む手が離れないのは私が起きたくないから、って言ってたよね」
「そうだよ。だから何?」
「あなたは私、なんだよね? なら手が離れたって事は、あなたも起きたいって思ってるって事じゃないのかなって……」
「……」
「でも現実が怖いって気持ちはやっぱりまだあるのは確かだから……。だから、見ててほしいんだ。私がギタリストとしてみんなの大切な結束バンドを最高のバンドにするところを」
その時こそ、一つに戻ろう。それまでまた怖いって震える日もきっとあるけど、ちゃんと頑張って見せるから。
「……私ってそんな顔するんだ」
「え?」
「分かったよ。まぁ私も虹夏ちゃんとの約束を破りたくないって気持ちはやっぱりあるしね」
私が虹夏ちゃんへと近づく。
「約束、破ろうとしてごめんなさい」
「大丈夫。ぼっちちゃんが約束破る訳ないって信じてたから」
へへ、と虹夏ちゃんが笑いかける。ああ、私ってどうしようもないくらい虹夏ちゃんの事が好きなんだな。もう一人の私を通じて胸がとても暖かくなっていくのを感じるとどうしようもなく実感してしまう。……友達相手に、こんな風になるものなんだろうか。もしかすると、私は……。
「……ところでどうやったら、かえ、れ……」
あ、あれ? 何かだんだん意識、が……。
「じゃあ精々おっかない現実で足搔いてみせてよね。私はここで見てるから」
それと虹夏ちゃんを泣かせたら許さない、という言葉が聞こえた辺りで私の意識は落ちていった。
「……っ……!」
「……う、ん……?」
なんだろう……。誰かの声が、聞こえるような……。
「……っち! ぼっち!!」
「ひとりちゃん! 起きて!!」
「……………リョウ、さん。喜多ちゃん……?」
まだ少し霞む目で声のする方を向くと、そこには必死に私を呼んでくれていたリョウさんと喜多ちゃんの姿があった。私が起きたことに気付いた二人は目に溜まった涙があふれ出していた。
「ひとりちゃん、良かった……! 本当に、良かったっ……!」
「馬鹿ぼっち……、心配かけないでよ……!」
「むぐっ、あぶぶ……!」
二人が私に泣きながら抱き着いてくる。え、っと……。ここ、病院? 私どうしたんだっけ……?
「ぼっちちゃん起きたか! 本当に良かった!」
「あ、店長さん……」
瞳を潤ませた店長さんが優しく頭を撫でてくる。
「何があったか覚えてるか?」
「えっと……、あんまり……」
「まぁそうだよな。ぼっちちゃん、車に轢かれて今日まで一週間近く眠り続けてたんだぞ」
「事故……」
そうだ、STARRYの帰り道で急に車が突っ込んできて……。それから、そうだ。長い夢をずっと見てた気がする。そこで、私……。
「……あの」
「ん?」
「に、虹夏ちゃんは……」
「そこでぼっちちゃんの手を握ったまんま熟睡してるぞ」
え? 確かに言われてみると右手がすごく暑い。喜多ちゃん達が抱き着いていて見えなかったけど、察した喜多ちゃん達が離れてようやく虹夏ちゃんの姿が見えた。……何だかやつれてるような。
「伊地知先輩、ひとりちゃんが寝てる間面会時間はずっとここにいたのよ」
「え」
「虹夏の方が体壊れるんじゃないかと思った」
そ、そんな! よく見たら涙の跡がある……。あ、あわわ、これはもう切腹じゃ済まされない。一体どうしたら……!
「私の大事な妹を泣かせたんだ。ぼっちちゃんはどうしてくれるのかな?」
「あ、あ……!」
こ、殺される……! わ、私が虹夏ちゃんの為に出来る事って……、えっと、えっと……!
「せ、責任とって幸せにします!!」
「キャー! まさかの起き抜けプロポーズ!」
「ぼっち大胆」
「はっはっは!」
変なこと言っちゃった! で、でも、大切な虹夏ちゃんの為なら人生をかけるくらい全然大丈夫だし……!
「んぅ……、ぼっちちゃん……」
まだ寝ている虹夏ちゃんが私の手をほんの少し、キュッと強く私の手を握る。……本当に虹夏ちゃんの為なら私の人生をかけてもいい。
虹夏ちゃん。私の大切な人。いつも優しくて、暖かくて、良い匂いで、出来るならずっとずっと傍にいたい。笑顔でいてほしい。
うん、もう間違いない。虹夏ちゃん、私、虹夏ちゃんの事。
「大好きです」
虹夏side
5月13日。ぼっちちゃんとの約束の日。私とぼっちちゃんは約束通りあの公園にいた。
あれからぼっちちゃんは元々怪我自体は大した事が無かったから目を覚ました2日後には退院した。頭を打ってたから少し心配だったけどあれから特に何事もなくピンピンしている。
「な、何とか今日までに退院出来て良かったです」
「そうだね。でも病み上がりだし、早めにお家に行こっか?」
「あ、はい。でももう少しだけこうしてお話ししたいんですけど、いいですか?」
「うん、勿論」
ベンチにぼっちちゃんと隣り合って座る。
「あの、虹夏ちゃん」
「んー?」
「私、ここで虹夏ちゃんと出会ったこと、今でもハッキリ覚えてるんです。ここで虹夏ちゃんと出会って、私の人生はすごく大きく変わったので。あの日の事、すごく特別なんです」
「うん」
「で、でも正直虹夏ちゃんがあの日の事、日付まで覚えてたの意外でした。だって虹夏ちゃんにとっては友達が一人増えただけの事なのに」
「まぁねー」
それは確かにそうなんだよね。よっぽど覚えやすい日に出会ったとかならまだしも友達が出来た日なんて一々覚えてないのが普通だ。リョウや喜多ちゃんと出会った日だって覚えてないし。
それに私も何もあの日ぼっちちゃんと出会った時に日付を覚えておこうだなんて考えもしていなかった。だけどそれでも5月13 日にぼっちちゃんと出会ったことを覚えていたのは。
「本当に、何となくだったんだよね」
「何となく、ですか?」
「うん。何だか忘れられなくてさ。変に頭にこびりついて離れなかったんだ。だから何かその内完全に日付までしっかり覚えちゃったんだよね」
だから特別覚えておこうだなんて思ってはなかった。でも今となってはそれで良かったって思える。だって絶対にあの日ぼっちちゃんと出会ったことは、私にだってとても大切な事だったって今ならそう思えるから。
「そ、そうなんですね。あ、それと一つお願いがあるんですけど」
「お願い?」
「は、はい。あ、あの、近い内に虹夏ちゃんのお母さんのお墓参りをさせてもらえませんか?」
「……え? お母さんの?」
「は、はい」
「それは別に構わないけど……、なんで?」
「そ、その、この前病院で話したこと覚えてますか?」
「えーっと、夢の中に閉じ込められた話だっけ?」
「は、はい」
「私多分、その中で虹夏ちゃんのお母さんに助けられたんです」
「そうなの?」
「全部をハッキリ覚えてるわけじゃないんですけど、でもあれは虹夏ちゃんのお母さんだったと思います」
「……そっか」
そう言えば私もすごくぼんやりとしか覚えてないけど、ぼっちちゃんの傍で寝てる時に何か夢を見てた気がするんだよな。お母さんを追いかけてたらどこかに迷い込んで、そこで探してたものを見つけた、ような……。
「そ、それに改めてご挨拶がしたいなって思ってて……」
「挨拶? ってなんの?」
「それは、えっと。……へへ、内緒です」
頬を赤らめて口に指を添えて内緒のポーズをするぼっちちゃん。一体どこでそんな可愛いのを覚えてきたんだぼっちちゃん。罰として頭を撫でまわしてやる。わしゃわしゃわしゃ。
「あぶぶ」
「ふふ。あ、そうだ。私も気になってたことがあるんだけど」
「あ、はい。なんですか?」
「私が起きた時さ、リョウ達が顔を真っ赤にして驚いてたんだけど何があったの?」
あの時はそれよりもぼっちちゃんが目を覚ました嬉しさの方が勝って、思い出すのが恥ずかしいくらい泣いてしまって聞くタイミングを逃しちゃったんだよな。
「……あれは、ちょっと気持ちが溢れ出してしまったっていうか……」
「どういうこと?」
顔がすごく真っ赤になってしまってるぼっちちゃん。どうしたんだろう。
「え、っと。今はまだ話せません。まだ自分の事が信じられないので。でもいつか、自分にもう少し自信がついたら」
ぼっちちゃんが私の手を、胸の中へ抱きしめる。
「その時は私の気持ち、聞いてください」
私の目を潤んだ瞳でまっすぐ見つめるぼっちちゃん。
……正直、それもう言ってるようなものでしょ。でも今はまだ問い詰めるような事はしないでおこう。きっと私が聞きたくて聞きたくて、すぐにでも応えたい想いだろうけど。ぼっちちゃんから気持ちを聞くその日まで心待ちにしておこう。
いつかその日が来たら、その日にファーストキスはあげてしまおう。