“End of ice age” 作:鳩ポッポ
秋津島皇国──
それはかつて、共産主義と自由主義、東と西の二つの陣営に世界が分たれる前、極東に存在した島国である。
冷戦世界が構築される前に起きた、三国同盟と連合国の二大陣営に世界が分かれて戦争を行った世界大戦にて、その国はライヒに栄華を誇った帝国率いる三国同盟側の一翼として連合国に挑んだ極東の新興国であった。
大戦の半世紀前まで時代においていかれていたその島国は急激な改革を進め列強と肩を並べる強国に成長し、世界大戦前期では物量で遥かに勝る中華やルーシー連邦を押しこみ、連合王国にもアジアの戦場で連勝を重ねるなど、躍進を見せる。
しかし合衆国の世界大戦参戦後、その国力差から徐々に敗退を重ねるようになり、ついに四方の海から本土への侵攻を許すにいたり、連合国に無条件降伏した。
三国同盟の中で最後まで戦い続けた皇国の末路は、ルーシー連邦の占領下となった帝国やイルドアとは異なり、合衆国・連合王国・中華・ルーシー連邦による分割占領を受け国家を解体されるという厳しいものとなった。
皇国の君主である皇家一門は世界大戦における戦争責任を取る形となり、分家や庶流に至るまで連合国によって戦争犯罪人として処刑され断絶。
皇国の閣僚や軍部の将校、官僚、思想家、政治家、財界など多岐にわたる分野から戦争犯罪者として立件された人数は数千人に上り、そのことごとくが皇家同様に処刑されることとなった。
国家として再興する可能性を潰され、戦時中に度重なる都市爆撃と本土決戦の戦火に焼かれたことで国土は荒廃しきり、全てを破壊され奪われた上で国土を四つに引き裂かれるという状態から、戦後世界への復帰の道を歩み出すこととなった。
……歩み出す、はずだった。
残骸だけが残され、復興を急がなければ残る人々の生存もままならない状況に堕とされた秋津島における分割統治は、凄惨を極めるものとなった。
蝦夷と東北は、ルーシー連邦の統治下となった。
秩序を知らぬ労働者の赤き旗を掲げるルーシー連邦の赤軍は、帝国における占領時と同様に占領軍による略奪や強姦などの現地民への蛮行が横行。
さらに自由主義陣営と袂を分つこととなり、連邦は東北と関東・中部の占領地の境界に鉄条網を設置するなどして物理的に分断を図り自由な行き来をできなくした。
さらに大戦で荒廃した都市の復興や極寒のシベリアの大地を開拓する労働力として現地住民の多くを強制的に連行し、強引に奪った土地には連邦本土より移民を多く送り込んだ。
のちにアジアにおける冷戦の最前線となる連邦統治下秋津島には、傀儡政権である蝦夷共和国が設立されることとなるが、元々そこに住まう秋津島の住人の多くは過酷なシベリアに強制連行されて寒さと飢餓でほとんどが命を落とすこととなる。
蝦夷共和国は冷戦の最前線として軍備が拡大。それを背景に鉄道や港湾を始め物流を起点に産業が目覚ましく発展し、共産主義陣営の中でも経済・軍事面においてバイエルンに匹敵するほどの力を持つ国家に成長することとなる。
しかしその地にかつて住んでいた民族はほとんど残っていない。
鉄条網を隔て西側世界と分断された蝦夷共和国では、いつ冷戦が熱を帯びた戦争になるかという緊張が満ちる地となっていた。
四国と台湾は、高雄共和党の統治下となった。
秋津島皇国との戦闘で最も多くの被害を出した中華は、占領下の現地民にその報復をぶつけた。
武装解除され占領を受けた現地民は、ただでさえ何もかも破壊され残されていない状況で中華の占領軍の略奪を受け、抵抗すれば容赦なく弾圧され殺されるという暴力による支配を受けることとなった。
和産内戦に敗れた共和政府が亡命してからは、腐敗した杜撰な統治によって秩序は乱れ、治安は悪化し、格差と貧困が拡大。中華からの人口流入とそれを支えるための徴収・圧政により食糧不足から大規模な飢饉が何度も発生。西側の人道支援も共和政府による物資の横領が多発したことで民衆──特に先住民である旧皇国民に全くと言っていいほど行き渡らず、大量の餓死者を出すこととなる。さらには放置された餓死体の腐敗などから土壌や水質が汚染され流行病が拡大したことなどにより、中華占領下における秋津島の現地民の人口は急速に減少することとなった。
最終的に和産内戦で大陸本土を失陥し事実上の敗北を喫した中華の共和党勢力は、合衆国がルーシー連邦と対抗するために中華共産党に接近したことなどから西側諸国からも利用価値なしとみなされ、国際社会からも追放されることとなる。
中国地方および九州は、連合王国の統治下となった。
世界大戦後、それまでの植民地帝国の支配体制は財政難と現地の激しい抵抗により崩壊し、戦後の賠償も帝国やイルドアがルーシー連邦の占領下に入ったことで敗戦国から獲得することができず、莫大な戦費を賄うため合衆国などから受けていた多額の借金が財政を圧迫し、世界の海を支配していた連合王国の帝国時代は終わりを迎えることとなった。
多くの植民地が開放され、維持のための負担は減ることとなったが、戦勝国であっても借金が消えることはない上に、欧州に拡大する共産主義に対抗するため戦争が終わったにも関わらず軍事費の削減は進まない。
苦しい財政難に置かれた連合王国が負債の負担を求めた先は、抵抗する力を喪失している秋津島の連合王国占領地であった。
大陸との海の交易拠点として栄えており、本土と比較して合衆国の都市爆撃の被害が少なく、四国とともに本土決戦の舞台にもならずに終戦を迎えた九州は、旧皇国領の中でもまだ傷が浅く余裕がある地域だった。
故に連合王国はここから利益や資金を搾取することで本国の財政難を賄うことにした。
とはいえ、本土よりマシというだけで九州・中国地方の戦火による被害は深刻であり、連合王国の背負う莫大な負債を賄う力などない。
ならば、人権など与えない帝国時代の植民地支配のやり方で利益を搾取すればいい。
抵抗運動が激化する他の植民地の不満を逸らす捌け口としても、敗戦で抵抗する力を失っていた旧皇国の連合王国占領地は圧政を敷く上で都合が良かった。
何より、皇国は連合王国のアジア支配に終わりを告げさせる苦戦を強いた敵だった。
苛烈な支配と搾取は比較的傷が浅く独力での復興も不可能ではなかったかもしれない九州を戦時中以上の荒廃した地に変貌させることとなった。
共産主義の拡大を防ぎたい合衆国からの復興のための援助もあり、連合王国は10年ほどで国力を建て直すことに成功する。
それからようやく支配地域である旧皇国の連合王国占領地の復興にも本格的な投資を行うこととなり、他の占領地と比べ早い段階から復興が進むこととなった。
しかし冷戦による東西対立、和産内戦の結果と共産党と西側の一時的な和解に伴う高雄共和党の連合からの追放による国交断絶、合衆国の占領政策に伴う要求から、連合王国は他勢力の占領地との国境を分断し旧皇国民の流入を拒絶することとなる。
連合王国占領下の旧皇国地域は搾取される時期があったものの復興を進めることができたが、一方で他の地域に取り残された旧皇国民の同胞を見捨てる形で復興することとなった。
本土の主要地域である中部・関東・近畿地方は、合衆国の統治下となった。
朝鮮半島、東南アジア、中国大陸と共に、列島分断占領によりアジアにおける東西冷戦の最前線となるこの地では、共産主義の拡大を防ぐために本来ならば早期の復興と民主国家としての再興・再軍備を進める必要があった。
しかし世界大戦にて合衆国を率いた大統領は自由主義陣営の盟主国のトップでありつつも、共産主義陣営との協力共存を推し進める考えを持つ人物であり──そして、皇国民族に対し並々ならぬ差別思想を持つ人物であった。
移民の国として発展した新大陸の合衆国は、大戦の前の時代から皇国からも移民を受け入れていたが、皇国との関係悪化と開戦による断絶から、移民とはいえ合衆国の国民であったはずの彼らを排斥・隔離する政策をとる。
さらに極端な民族差別思想を持つ当代の大統領の方針により、皇国に関しては無条件降伏以外認めず国家解体および分割統治が決められていたため、皇国側も抵抗が強まり本土決戦という事態を招くこととなった。
これにより合衆国の戦力の多くがアジアに傾いたことで、欧州の三国同盟側のほとんどは連邦が飲み込み、和産内戦も連邦の支援を受け民衆を味方につけた共産党側が優勢となるなど、東西対立時代の初期は共産主義が拡大することとなる。
加えて当代の大統領は敵性人種として皇国民を国家ではなく民族単位で“世界と人類の平和と安寧に対する敵”と指定し、合衆国統治下の旧皇国領にてすでに降伏した相手に対する占領軍を用いた大規模な民族浄化作戦──ジェノサイドを敢行するという、軍政グアムの成立にまで発展し後の政権から“合衆国を勝利に導いた英雄による史上最低最悪の愚行”と言われることとなった大量殺戮が行われることとなった。
連合王国や高雄共和党には合衆国占領地の旧皇国民の亡命を受け入れた場合西側からの追放を行うという勧告まで行った上で、世界大戦が終わった世界での合衆国の継続戦争が勃発することとなる。
政府を解体していた旧皇国側とは交渉の窓口が既にない。
無条件降伏後、占領軍による強姦や暴行が相次ぎながらも敗者として抵抗を許されなかった旧皇国民にとって、戦争が終わったにも関わらず再び占領軍から銃を向けられることとなったこの事態は、終わりのない継続戦争の始まりとなる。
──生き残るためには抵抗するしかない。
本土決戦の為に皇国自身も把握しきれないほど内陸の山々に広げられた地下要塞や、国土の7割が山岳である高地国家であった皇国の地形を活かし、平地や海岸から内陸に逃げ込んだ旧皇国民は、人狩りをするべく殺戮の行進を続ける合衆国軍を相手に死に物狂いの抵抗をする。
地理の読めない山々を舞台にした、降伏すれば死であることから決して抵抗をやめないゲリラを相手に行う戦闘。
度重なる爆撃で都市を中心にインフラが破壊されており困難な補給。
捕虜を取ることもなければとられることもなく、大戦とは違い交渉窓口がない為相手を絶滅させるまで終わることがないため、お互いに戦時国際法を無視した降伏した敵への虐殺や非戦闘要員に対する殺傷、無差別爆撃に化学兵器の投入、さらには皇国を無条件降伏受諾に導いた原子爆弾による核攻撃と、合衆国と合衆国統治下旧皇国間により行われた戦争は、かつての大戦を上回る破壊と殺戮を撒き散らす戦争となった。
終わりのない戦争、最低限のルールすら無い無秩序な地獄。
戦意高揚と民族浄化の正当性を示すための喧伝として、最前線の様子がほとんど隠されることなく報じられた。
その凄惨極まる戦場と、なんとか生還しても心身を深く傷つけられた兵士たちの様子が生々しく映されたそれは、当初は皇国民族に対する敵意が勝っていた合衆国世論を徐々に反戦へと傾けていくこととなる。
加えてアジアでも中国や朝鮮で敗退し共産主義の拡大を招いたこと、なにより大統領自身が敵である共産主義に寛容だったことから、戦争に勝利し不動の人気を獲得したはずの政権の支持は低下していくこととなる。
継続戦争は長期化し、放射能汚染の被害が合衆国兵士にまで多発するようになり、世論は急速に反戦に向かうこととなる。
それでも当代の大統領は戦時下の緊急要件として戦争終結までの選挙停止による任期延長を強行し占領地の民族浄化作戦を継続。
これに堪忍袋の尾が切れた一部の合衆国軍は将兵の生命と安全を確保するためという名目でフィリピンやグアム、沖縄といった合衆国のアジア領土に勝手に撤退すると、継続戦争終結と国民の参政権を守るためならば政権側との軍事衝突も辞さずの構えを見せ事実上の独立を行う。この勢力は本部をグアムに置いたこと、合衆国軍による統治を行ったことから“軍政グアム”と呼ばれることとなった。
それでも時の大統領は軍政グアムと軍事衝突してでも民族浄化作戦の遂行をしようとしたが、国民の支持は軍政グアム側に傾き、戦時下の特例としての選挙を行わない任期延長を続けたことから参政権を剥奪し独裁政権を作ろうとしているという危機感が合衆国民に広がったことで、議会から弾劾決議が上がり、合衆国連邦裁判所が基本的人権である参政権を迫害しているという理由から大統領の罷免判決を下す。
こうして戦争を終結させた英雄にまでなったはずの当代の大統領は、罷免という形で政界から追放されついには政権交代を迎えることとなった。
しかし、継続戦争は終わらない。
西側の弱体化を狙う東側から秘密裏に武器支援を得られた旧皇国勢力の抵抗はより激化し、強引に内陸侵攻を続けた結果同地には多くの合衆国軍が取り残されており、その救出のために増援が派遣されそれがさらに戦闘を激化させるという悪循環を生み出していた。
新政権は皇国の合衆国統治地域の放棄をしてでも継続戦争の終結を目指すが、降伏したにも関わらず民族浄化作戦を行った合衆国に対する旧皇国民の信用は地に落ちており、また政府を解体し上層部を処刑していたことで旧皇国側との交渉の窓口も無くしていたことから撤退のための停戦交渉すらできず、交渉を試みようにも武装非武装問わず合衆国の人間は問答無用で殺す殺戮者となっていた抵抗勢力側には交渉など不可能だったため、継続戦争の終結が困難になってしまっていた。
最終的に合衆国は最後の兵員を撤退させるまでに民族浄化作戦の発令から半世紀という長きにわたり旧皇国領での戦争を継続することとなった。
これが、四つに分割された旧皇国が辿ったそれぞれの末路である。
最終的に合衆国軍の撤退という形で唯一連合国の占領から解放されることとなった合衆国統治下地域は、国土の大半を放射能に汚染され荒廃した大地から“灰の国”と呼ばれるようになる。
灰の国は国際社会の全てから国家として認められておらず、同地域はいまだに合衆国の一部という扱いにされているが、実際には合衆国は撤退し継続戦争を生き延びた人々によって領有されている。
世界大戦は半世紀前に終結し、交際社会は新たな東西冷戦の時代を経て、今再び新しい時代を向けて動き出そうとしている。
その世界にあって、唯一世界大戦の時代に取り残された存在。
民族浄化をしようと絶滅戦争を仕掛けてきた相手はついに根負けして撤退した。
彼らは勝利した。生き残ることに成功した。
そして、戦場跡には連邦から援助され、合衆国の軍勢が逃げる際に放置した武器や弾薬だけが残され、他は全て破壊された。
ようやく見ることができるようになった外の世界を見れば、戦争は過去のものとして扱われ人々は新しい時代を生きている。
人殺しの道具と、汚染された大地に適応したことで壊れた変化を遂げた異形だけしか手元にない自分たちを取り残し、悲惨な世界大戦とともに忘れ去って。
……ああ、そうか。
この世界は、連合国は、民族を理由に絶滅を望まれた自分たちを、絶滅させられなかった末に地獄の過去と共に蓋をして無かったものにしようとしているのか。
灰の国に取り残された者たちの胸に、憎悪の炎が宿ったのは、偶然か、それとも必然か。
半世紀の時を経て世界が過去のものとした世界大戦は、彼らにとっては現在であり現実であった。
明日を食い繋ぐ物がない。
だが、糧を奪うための武器はある。
民族の絶滅を望み、叶わず過去に放置し平穏を享受している世界全てに、この憎悪をぶつける力だけがある。
許すはずがない。許されるはずがない。
継続戦争は終わらない。
奴らが我らに絶滅を望んだならば、我らは奴らに滅亡を望もう。
さあ、戦争を続けよう。
まずは壁を築き逃げ込むことすら拒絶し、我らの受けた苦難に目を背け耳を塞ぎ、連合王国の庇護の下で自分たちだけ復興を果たして平穏を享受している、かつての同胞という名の裏切り者どもの末裔たちよ。貴様らからだ。
灰の国は動き出す。
冷めた世界で、あるいは温かさを取り戻そうとする世界で、唯一つ灼熱の憎悪の炎を燃やしながら。
物語の舞台はどの国に?
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バイエルン民主共和国(東側陣営・連邦派)
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ライヒ連邦(西側陣営)
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ヒルトリア連合(第三勢力)
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アルビオン連合王国(なお豪州)
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南米は無いの?(票が多ければ作るかも)
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灰の国(独立勢力)