アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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第九話「機動要塞デストロイヤー」

■  ■

 かつて、ノイズという国があった。

 魔導大国ノイズ。たった一人の科学者が作り出した道具で以て伝説を築き上げた国である。

 その科学者は女神アクアによって日本から転生した異世界転生者であり、『自分の望むものを作り出す』というチート能力を持っていた。

 魔王を討伐するなんて簡単も簡単なチート能力を持っていた筈の彼は、しかし早々に魔王討伐を諦めて余生を過ごす事にしたのである。

 その過程で、この世界に災いばっか残して逝ったのだ。

 

《デストロイヤー警報! デストロイヤー警報! 機動要塞デストロイヤーが、現在此処アクセルの街に近付きつつあります! 冒険者の皆様は準備を終わらせた後にギルドへ集まってください! 住民の皆様は急ぎ避難を!》

 

「………………………………………………………………ハァ」

 

 長い、長い長い間を空けて、神父は溜め息を吐き出した。それだけの行動で、神父が如何にこの現実に対してうんざりしているかが見て取れる。

 いよいよもってカズマのステータスがバグっているのでないか本気でギルドに直談判する事を決めかねない。

 アレと関わってからというもの、このアクセルにトラブルが多発している気がしてならない。いや、気がしているとかそういうのではなく、実際にトラブルが多発しているのだ。

 元凶はカズマだ、或いはそのパーティだ。あれには何らかの因果性が働いている、そうに違いない。神父はそう確信した。

 

「腹いせにコロナタイトを砲弾にして天界にぶっ放すか…?」

『流石に今回ばかりは理不尽では!?』

 

 間違いない。女神エリスの反論の電波はまさしく御尤もである。

 だが、正当な反論を言われたとて、それに対して、だからなんだ? アクシズ教徒として働いただけだが? と、悪怯れもなく実行するのでどうしようもない。

 止められはせんのだ、アクシズ教徒は。神父も例外ではない。

 

「今回ばかりは、前と状況が違うからな…流石に動かざるを得ないか」

 

 じっ! と、マッチを擦って、咥えた煙草に火を灯す。軽く吸って、深く吐き出した。

 吐き出された濁った白い煙は、しかし教会に張られた清浄な空気を保つ結界によって浄化され、新鮮なものへと分解される。

 この前のベルディアの時とは異なり、今回は大事だ。下手せずとも、放置しておけばアクセルの街が荒廃しかねない緊急事態である。

 避難するにしても時間が足りない。残念ながら、このアクセルにはテレポートを使う事が出来る魔法使いが居ないのだ。

 それに、例えテレポートが使える魔法使いが居たとしても、テレポートで送れる人数には限りがある。どうやっても、時間が間に合わず多くの死者を生むだろう。

 神父としては、このアクセルが潰される事は決して了承出来ない。此処は自分の仕事場だ。最も楽な仕事場だ。そして―――自分を神父としか見ない馬鹿げた連中(アクセルの冒険者)の故郷だ。

 

「ったく、厄日に厄日とは…本当に最近は運がない。後で『ブレッシング』でも掛けておくか。んでもって、デストロイヤーともなれば……あー、そうだ。()()使わないとかぁ…」

 

 神父は苦虫を噛み潰したような顔を浮かべる。

 あるにはある。爆発魔法も爆裂魔法も使えない、というか普通にモンスターとの戦闘で役立つ様な魔法を持たない神父でも、デストロイヤーをどうにか出来るモノがある。

 それは祖父が創り出した銃の一つ。しかし、原典(オリジナル)ではない。

 銃身も、スプリングも、ボルトハンドルも、木製の本体も、覗くスコープも、パーツの全てが祖父が創り出したパーツで組み替えられたオリジナル(独自)のものである。

 そして、弾丸すらも専用のものだ。それ()()()()

 通常の弾丸が存在していないのだ、その銃にだけ。

 

「初お披露目がデストロイヤーで良かったな、と言うべきか…あーあ、もう知らん知らん。文句言われようが知った事じゃねぇ、俺は俺で勝手にやるだけだ」

 

 半ばヤケクソ気味で、神父はさっさと机と椅子を退けて再び地下を降っていく。

 またもや訪れた銃の宝庫。神父としても一月経たずに再び此処に来るとは考えもしていなかった。

 そもそもアクセルは平和な場所なのだ、使う必要もない。獣が居ない山の中で猟銃を使わないのと同じ道理だ。

 最近はやたらめったらトラブルというかアクシデントが多発しているが、アクセルは平和な街である。一応は平和な街である。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 今回、というよりは今回も活躍するのは、狙撃銃(スナイパーライフル)である。

 他の銃とは異なり、立て掛けられた木製の本体を持つその狙撃銃の名は、リー・エンフィールド。

 遊底(ボルト)を手動で操作する事で弾薬を装填、排出する機構『ボルトアクション方式』に値するライフルであり、ボルトアクションのライフルの中でも有名な銃の一つである。

 だが、このリー・エンフィールドは我々が知るリー・エンフィールドとは一味も二味も違う。

 

 まず、細部を構成する鉄部分のパーツ、銃身、ボルトハンドルの全てが最高級の硬さを誇る鉱石に匹敵する質と強度を持っている。

 セーフティ、ボルト、ボルトハンドル、シアー、トリガー、カートリッジ、マガジンフォロー、チャンバー、バレルの全てがアダマンタイトで出来ていると言えば想像しやすいだろう。

 スプリングはメタルスライムの素材と同質であり、反発力はさる事ながら滑りも最高である。

 スコープが付けられており、このスコープは千里眼の効果が複製されて付与(エンチャント)された鏡が用いられており、どれ程遠くても見ることが可能。

 使用する弾丸は、形こそ.303 Britishだが、その実態は爆裂魔法がエンチャントされた徹甲弾―――『高速爆裂徹甲弾(HVEXAP)』という恐ろしい代物である。

 

 これを創り上げた祖父曰く、

 

『ボルトアクションはライフルの中でも最高の魅力が詰まっている! 撃つ毎にハンドルを引いて薬莢を排出する様がくっそ格好良いんじゃ! そのボルトアクションのライフルでクソデカい物をぶち抜くのめっちゃカッコよくね?』

 

 との事らしい。

 

「知るかッ! 浪漫思想だけで無駄に高性能で喧しい武器創ってんじゃねぇよバーカッ!」

 

 神父は珍しく声を荒げた。

 だが神父よ、浪漫武装というのは皆等しく癖があって騒々しいものなのだ。それが格好良いのだ。

 理解しろ、それこそ浪漫なのだと。

 

「バカじゃねぇの、本っ当に」

「すいませんっ! いらっしゃいますか!?って居ない!?」

 

 バンッ! と、扉が勢いよく開かれた音がした。ついでに聞き慣れた女性の声も。

 何でもは知らないわよ、知ってる事だけという台詞を使いそうな猫に取り憑かれた女子高生を思わせる声だ。

 はぁ、とため息と共に煙を吐き出して、そそくさと階段を駆け上がり、

 

「居るっつーの」

「きゃあっ!?」

 

 顔を出してウィズを驚かせた。

 

「なっ、なんでそんな所に居るんですか!?」

「デストロイヤー撃つ為の武器取ってたんだよ。住処を失うのも別の場所に移動するのも面倒だからな、さっさと倒すんだよ」

「あっ、そ、そうです! 私達もデストロイヤーを止める為に作戦を立てていてですね」

「ふーん…。アクア様が魔法障壁を破壊、お前とちびっ子が爆裂魔法で足を潰すって所か?」

 

 顎に手を当ててから少し思考を整理し、案を立てた結果として導き出した答えに、ウィズは破顔した。

 まさに的確、その通りである。

 

「えっ…なんで分かったんですか?」

「妥当な作戦で考えればそれくらいだろ。デストロイヤーの魔法障壁を破れる奴なんざ、『セイクリッド・ブレイクスペル』が使えるアクア様か俺くらいだ。で、俺を呼びに来たのは魔法障壁破壊の確率を上げる為だ」

「……もしかしてギルド居ました?」

「いや警報が鳴ってからも普通に煙草吸ってた」

「何してるんですか!?」

「飲酒と喫煙は日課なんだよ。はぁ…今日は厄日だ。さっさと終わらせてぇわ」

「では、門前に向かいましょう。皆さん、もう準備を終えて集まってますから」

「疾いな。まぁ、その方が都合が良いが」

 

 リー・エンフィールドを背負い、神父はウィズと共に駆け足で門前へと向かったのだ。

 

 

 

           ❖

 

 ―――アクセルの街、外壁の上。

 神父は座り込み、スコープで今もアクセルに向かって暴走している巨大な蜘蛛―――機動要塞デストロイヤーを覗き見て、その中心部を見据える。

 

「成る程、ありゃ速いな。近接戦の冒険者がミンチになるのも頷ける」

「デストロイヤーの武器は、大抵の魔法を無効化する魔法障壁と、その巨躯に見合わない機動性の高さですからね。狙えそうですか?」

「愚問だな。あれだけ図体がデカい上に機動性が高いにも関わらず一直線にしか走らないなら、外す方が難しい」

「カズマ、なんでデストロイヤー相手にこの二人は平然としているですか…」

「練度が違うんだろ。ウィズは元々凄腕の冒険者で、この人は純粋に度胸が凄い」

 

 めぐみんは緊張で足が震えているにも関わらず、ウィズと神父の二人は平然として冷静に状況を見定めている。

 格の違い、というのあるが、純粋にくぐってきた修羅場の数も質も違うのだ。

 片や魔王軍幹部とも渡り合った冒険者、片や最古の悪魔を一人で討った神父である。

 

「うるせぇよ。……アクア様、此方の準備は既に完了しております。そちらは如何でしょう?」

「こっちも問題ないわ! 可愛い信徒の前ですもの、ここで良い所見せつけちゃうわよー!」

「頼もしい限りです。私もアクア様に遅れを取らぬ様、全力で撃ち抜くと致しましょう」

「なんか真面目な神父の面を久々に見た気がしますね…」

「俺も」

「自分でも久しぶりだと思うわ。……ふぅ。じゃ、始めるか」

 

 片足で胡座をかき、片方の足で膝を立ててその上に両腕を交差させ、腕にハンドガードを乗せてスコープを覗く。

 『座り込み』と呼ばれる射撃態勢であり、特に足膝を立てた状態で、その上に両腕をクロスして腕にハンドガードを載せる撃ち方は、『ホワイト・フェザー』という異名を持つ伝説の狙撃手が取った態勢だ。

 意識を研ぎ澄まし、神への祈りを唱える。

 

「智慧の果てに至った神秘。神の奇跡は人の手によって異なる種と模られ、我等はそれを魔法と呼んだ。我等はそれを神秘と讃えた」

「なっ、浄化魔法に詠唱ですと!? くっ、その銃の構えも相まって……格好良いです!」

「良いわね! 詠唱なんてしないけど、ここはやった方が効果が上がりそうな気がするわ!―――女神アクアの名を以て、我が目の先を防ぐ神秘を打ち破ります」

 

「我が権能は水。天界(そら)より穢れを落とす清き恩寵(あめ)、世界を覆う(わだつみ)は生命の源なり」

 

「魔法とは叡智である。されど人が模った神秘とは神秘に非ず。即ち神技の模倣なり、人の身に余らぬ収斂なり」

 

「我が子よ、我が眷属よ。聖浄の標たる真意で以て、紅き黒炎を宿せし(くろがね)の矛で以て、厄災の蜘蛛を保護せし神秘の盾を穿きなさい」

 

「堕落の御業、過去の遺物。我が主神の賜りにより、私は貴様を撃ち穿(うが)つ」

 

「『セイクリッド・ブレイクスペル』」

 

 ドォンッッッ!!!! と、銃声(遠吠え)が鳴り響く。

 神父は魔法を行使する際に、己が銃器を触媒とする。魔法使いが杖を用いて魔法の威力や制度を操作する様に、彼は銃器で以て浄化の力を高めるのだ。

 法儀式の刻印が組み込まれた本体を通して放たれた実体を伴わない魔法の弾丸は、女神の真意と共に空を裂いて蜘蛛を撃つ。

 バキバキバキバキッッッッッッ!!!!!!!!!!

 砕け、崩れ、壊れ、破れ。蜘蛛を覆う神秘殺しの壁は、神父と女神の力で瓦解した。

 

「第一関門突破。次だ」

「行きましょう、めぐみんさん!」

「えぇ! 不真面目神父とアクアにばかり格好良い所は見せられません! 今こそ貴方に魅せましょう、私の爆裂魔法を!」

「生憎と、俺もやる事は変わらんのでな」

 

 ボルトハンドルを引き、空いた薬室へと一発の弾丸を嵌め込んで、装填する。

 先端が紅く、全体が鉛色に染まった弾丸が細い身体に入れ込まれ、足を立たせる。

 アークウィザード二人が詠唱を始める。紅い魔力と緑青の魔力が奔流を生み始める。

 

「黒より黒く闇より暗き漆黒に、我が深紅の混淆を望みたもう」

 

「覚醒のとき来たれり」

 

「無謬の境界に落ちし理」

 

「無行の歪みとなりて現出せよ!」

 

「『エクスプロージョン』ッッッ!!!!!!」

 

 ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォンッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

 

 轟音が空間を殴りつける。哮る爆炎が天を焼く。

 四肢が砕けた。体が破損した。崩れ落ち、その巨体は地に沈み、歩みを止めた。

 けれど―――終わらない。まだ、それでは終わらない。

 

「第二関門突破。予測が当たっていれば、まだデストロイヤーの暴走は―――」

 

「や っ た か し ら !」

 

「この女神(バカ)の所為で終わらない」

 

 それは事実だった。

 デストロイヤーの動きは完全に停止していた。だが、その動力源もまた機能を停止していた―――筈だった。

 しかし女神アクアの余計な一言により、何らかの法則性が働いて動力源であるコロナタイトが暴走を始めたのだ。

 カズマは遠慮なく声を荒げた。

 

「お前ェェェェェェェェェェェェ!!!!!!!!!」

「これがアクシズ教の御神体だ。これで悪気がないから腹が立つ」

「ねぇ、なんでカズマは怒ってるの!? なんで貴方も呆れてるの!? あたし何もしてないわよ!?」

「ほらこれだ。神は揃いも揃って自覚がない。良いから行ってこい、最後の関門だ。コロナタイトを見付けて、転移させるなり何なりしてこい」

「まだ周りにゴーレムが居るんですけど!?」

 

「その為にコレを引っ張り出した。道は切り開いてやる」

 

 ―――再び、魔力が迸る。

 

「闇に餐まれし月光よ、天を奪われし墜ちた鳥よ」

 

 深紅でも、緑青でもない、蒼白の魔力。

 水の女神アクアの信徒に相応しい、群青なる大海の如き力の奔流。

 

「失せよ、消えよ、破れよ、崩れよ。天地開闢の刻は満ちた、滅びの(うた)は読み終えた。是即ち終焉の調べなり、創世への奏でなり」

 

「全てを識れど死には敗れ、全てを為せれど死には抗えず、神は遂に墜ち果てた」

 

「真なる死を、此処に解き放つ―――『エクスプロージョン』」

 

 再び、轟音が鳴り響いた。

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