アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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神父の過去が一部明らかとなります。


番外編 不真面目神父と生真面目検察官

 

■  ■

 時間は少しだけ遡り、十一月の最後辺り。

 機動要塞デストロイヤーを迎撃し、その本体を停止させる事は出来た。

 しかし、女神アクアの要らぬ一言によってコロナタイトは暴走、あわやアクセル爆破の危機に陥ったのである。

 それを阻止すべくデストロイヤー内部に侵入し、コロナタイトを発見して対処する任を負ったカズマ達。しかし、デストロイヤーを護衛する様にゴーレム達が群がっていた。

 が、そこに関しては何ら問題はなかった。デストロイヤーを守る様に群がっていたゴーレム達は、神父の祖父が創り出した、核弾頭発射機もさることながらのもはや戦略兵器と言っても差し支えない狙撃銃―――リー・エンフィールドから放たれた『高速爆裂徹甲弾』によって、跡形もなく破壊されたのだ。

 ゴーレム達に同情しながら内部に入っていったカズマ達は、暴走する動力源であるコロナタイトをテレポートで見知らぬ土地へと転移させた。

 結果としてコロナタイトは爆発したのだが、どうやら転移した先はアクセルの領主たるアルダープの屋敷であったらしく、実行を指示したカズマは罪に問われる事となったのだ。

 

「なんだ、懐かしい顔だな」

「貴方は―――」

 

 カズマが連行される所で、偶々(たまたま)ギルドの入口を通りがかった神父は、カズマを連行する人間の一人に声を掛けた。

 長い黒髪、眼鏡を掛けてもキリッとした目を保つ、シャキッとした服装に身を包む女性―――ベルゼルグ王国の検察官、セナである。

 声を掛けた神父の顔を見たセナは、目を見開いた。

 どうやら顔見知りであるらしい。

 

「……驚きました。まさか本当にアクセルに居るとは」

「飲酒も喫煙も日課にしてる不真面目な神父なんざ、俺以外に居ないだろ。ゼスタのクソ野郎でも俺より真面目だぞ」

「…それもそうですね。貴方は昔から誰よりも不真面目でしたから」

「そういうお前は随分と変わったな。別人みたいだ。具体的に言うと行き遅れてそうなぐらい生真面目になってる感じ」

「ぐはっ…」

「図星かよ。お気の毒だな、まぁ頑張れ」

「くっ…! 貴方があんな事をしていなければ名誉毀損で訴えていたと言うのに…!」

「まだ続いてんのかよ…王族も飽きねぇな。神と言い王族と言い、なんでそうもこすり続けるかね…或いはジャティス辺りがまだ言ってんのか? だとしたら今度行くわ、ぶん殴ってやる」

「本当に死罪になりますよ!?」

「ならとっくに死罪になってるっつーの。生意気利いたアイツを俺が何度殴ったと思ってんだ、両手じゃ収まらんぞ」

 

 未来を知る(第十話のこと)皆様は知っての通り、神父の故郷は王都である。

 全知全能のラプラスを討ち倒すその時までは、王都の民として普通に暮らしていた。家庭教師のアルバイトをしながら普通に生きていた―――というのは、些か間違っていると言うか、少し語弊がある。

 別に普通ではなかった。全然普通ではなかった。その当時から神父は不真面目であり無礼であったのだ。言葉を選ばず言うならクレイジーだった。

 遠慮なく神は罵っていたし、それが原因で襲い掛かってきたエリス教徒も返り討ち。何なら家庭教師のアルバイトをしている際に、生意気を利いた第一王子を普通にぶん殴って説教していたりもした。

 そもそも王族が家庭教師として雇う辺り、そこら辺からわりと優秀だったのだろう。頭が良いというよりは、教えるのが上手かったと言うべきか。

 彼の助言が適切なのも、そういう所から来ているのだろう。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 このベルゼルグ王国の検察官セナは、当時王都に住んでいた神父の知人であった。

 というか、後輩である。別に学校が一緒だった訳ではなく、単にセナが神父を先輩と呼ぶのでそうなっているだけだが。

 

「で? カズマはなんで捕まってんだ?」

「助けてくれ神父さんっ! 俺冤罪で捕まりそうなの! 死刑になりそうなのぉぉぉぉ!!!」

「現状は聞いとらん。まず過程を説明しろ、話はそっからだろ」

「残念ながらそうはいきません。彼はこの後、尋問が待っていますので。そこを退いてください」

「そうか。じゃあ仕方ないな」

「うっそだろオイ!? マジ!? 神父様マジですかっ!?」

「相変わらずうるせぇな、お前。そもそも、お前わりとセクハラしてただろ。クリスから聞いたぞ、アイツの下着をスティールしたんだろ? 随分と罰当たりな事したもんだな」

 

 ざまぁねぇ、と嗤いながら神父は煙草を吹かす。勿論の事、嗤ったのはクリスである。

 冒険者クリスが女神エリスであると知っている神父からすれば、カズマは国教の女神であるエリスのパンツを窃盗した真の勇者だ。

 天界でも決してそんな偉業はないだろう。男神にブラボー! と褒め称えられても仕方ない所業である。

 平気で核を使う様な異世界でなら別に珍しくはなかった事だろう、あの世界ではパンツすら神器なのだ。

 それはそれとして、神父の要らぬ情報を運良く聞いたセナは目を尖らせた。

 

「ほぅ?」

「なんで今そういう事言うんだよッ! 俺の罪状増えたよね、今明らか俺の罪状増やしたよね!? なんでだよ、俺なんか悪い事しましたか!?」

「お前が来てから厄介事が多発したお陰でよく巻き込まれたからな。一回ぐらい反省してこい」

「理不尽過ぎるだろぉぉぉぉ!!!!!!!」

「安心しろ、いざとなったら助けてやる。お前はアクア様のストッパーだからな。ついでに言えば、亡くすのが惜しい人材なのも確かだ」

「我々が何も安心できなくなったのですが? 貴方の行動力は群を抜いてるので何されるか分かったもんじゃないんですけど。というか何気にサトウカズマを褒めましたよね? 私先輩に今まで一度もそんな言葉掛けてもらった事ないのですけど」

「えっ…神父さんに褒められた? ウソだろマジかよ俺ちょっと後で自慢しよ」

 

 カズマを認めている様な発言をした瞬間に物凄い剣幕で喋り始めたセナを横目に、カズマは普通に喜んでいた。

 なんだかんだ、それなりに長い付き合いになった仲で、かなり世話になっている人からの褒め言葉は普通に嬉しかったのだろう。

 普段は無愛想な部活の先生から、「よくやった」と笑って褒められた時ぐらいには嬉しかった筈だ。

 そんなカズマを置いて、神父はセナに容赦ない言葉を言い放った。

 

「そりゃ有能じゃねぇしな、お前。思考も硬い、冗句も通じない、愛想笑いも出来ない、犯罪者はともかく確定してない被疑者にすら高圧的かつ酷薄な態度を取る。どこに褒める要素があるんだよ、バカか。そんなんだから誰とも付き合えねぇんじゃねぇか?」

「うっ、うぅぅぅぅ……!」

「おい、セナさんが涙目になってるぞ!」

「あの生真面目で融通が利かないセナさんが涙目だ! 流石はアクセルの不真面目神父、言葉が鋭過ぎる!」

「いや感心してる場合じゃないだろ。というか神父さんの言葉が普通にキツ過ぎる。あれは誰でも泣く、男の俺も泣く」

 

 それから逃げる様にして、セナはカズマを連れて裁判所へと向かったのだった。

 

 

          ❖

 

 それから暫くが経過して、結局の所、カズマの罪状は保留という形に収まったらしい。

 裁判所で遂に己が身分を明かしたダクネス―――大貴族ダスティネス家の令嬢、ダスティネス・フォード・ララティーナによって救われた様だ。

 しかし神父は決して良い顔をしなかった。

 何故なら、神父はアクセルの貴族について調べ尽くしている為、カズマを訴えた人物―――アクセルの領主アルダープの黒い噂を知っているから。

 クリスからもアルダープがダクネスをしつこく狙っている事は聞かされていた為、今回の貸しはダクネスを含め、ダスティネス家に大きな枷を嵌める事になるだろう。

 だが、その時はその時だ。今はわざわざ動く必要はないし、そもそも神父が自分から動く義理もない。

 夜も更けてきた所だ、もう床に就こう―――そう思った矢先、扉が開いた。

 

「時間ギリギリで来んなよ。馬鹿騒ぎしてたんじゃねぇのか?」

「もう用は済ましたし…その、久しぶりなので、もう少しお話したいなと思いまして……」

 

 やってきたのは、セナだった。

 神父は溜め息を吐きながら、グラスに入れた酒を煽ぐ。突っ立てないで座れ、と目で告げながら。

 セナはおずおずとしながら教会に足を踏み入れ、神父の正面の椅子に座った。

 

「あの時は言いそびれましたが…お久しぶりです、先輩」

「その呼び方も懐かしいな。今思えば、学生じゃない俺を先輩呼びってどうなんだよ。あの時の俺を呼ぶなら先生だろ」

「先生と呼べる程じゃなかったじゃないですか。年齢というより、不真面目さで」

「その不真面目な俺に教えを乞うたお前が言うか?」

「あぐっ…」

「で、王都はどうだ?」

「…えぇ。もう殆どが復旧して、あと数年も経てば元通りになります。先輩が指導した人の何人かは、王都でも名の売れた大工になりまして、その人達が特に頑張ってました」

「となると…あー、彼奴等か。わりと馬鹿やってた記憶があるが、そりゃ随分と成長したもんだ。そういや、レインは王族の側近になったんだったな」

「はい。アイリス様の付き人をしていますよ。私は特に面識がないので、話した事はないのですが…」

「地味だからなレイン」

「それ本人に言わないでくださいね」

「安心しろ、もう嫌と言う程に言いまくった後だ」

「本当に酷いですねッ! 女は繊細なんですよ!?」

「だから殴ってないだろ」

「言葉の暴力です!」

「軟弱か」

 

 バッサリ斬り捨てる。

 神父は男女平等、人魔平等、神魔平等である。彼の前では男女はおろか、ヒトも魔族も神も悪魔も一切の例外なく平等に扱われるのみだ。

 そのだいたいが罵倒である。

 

「…まぁ、元気そうで何よりだ。帰ったら他の奴等によろしく言っといてくれ」

「手紙くらい書けば良いじゃないですか」

「お前な、俺が家庭教師で担当した奴等が何人居ると思ってんだ? 手紙とかくっそ面倒だろ」

「それ、伝える側の私に言います? 私もかなり面倒なんですけど」

「仕事と思え。労働はそういうもんだ」

「身に沁みてます」

「まだ二十歳のくせに言うじゃねぇか。普段からそんだけ言えりゃ、彼氏の一人ぐらい出来る筈だがね」

「せ、先輩だって独身じゃないですか!」

「俺は望んで独身貫いてんだよバーカ。そもそも俺を好きになる様な女は碌な奴じゃねぇぞ」

「あぁ……納得しちゃいます」

「ならさっさと彼氏くらい作れ。ないとは思うが、出来ないからって遊び過ぎんなよ」

「そんな股の緩い女じゃありませんっ! それなら、助言が欲しいです! 先輩の助言は優秀ですから!」

「面倒くせぇ…」

 

 煙草を咥えながら、神父は面倒だと天を仰いだ。

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