アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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第十三話「撃鉄を起こせ」

 

■  ■

「つまり、あれか? お前は俺をあの爆裂娘のライバルだと勘違いしたから、勝負を仕掛けに来た…と?」

「は、はい…その通りです……」

「オーケー、分かった。今から爆裂娘の家に爆裂魔法撃ち込んでくるからちょっと待ってろ」

「わぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!? 待ってください待ってください! めぐみんは、めぐみんは悪くないんですぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!!!!!!!」

 

 何処からともなく取り出したリー・エンフィールドを担ぎ、神父は真剣な表情で席を立ち上がった。狩りの時間だぜ、ウィザードガール。

 これはマジだ。本気と書いてマジだ。このまま神父が外に出れば、アクセルの街の被害など考える事もなくめぐみんを潰す一心でカズマ達の屋敷に爆裂徹甲弾を放つ事請け合いである。

 神父の外套を掴み、ダバダバと涙を流しながら必死にしがみつくゆんゆん。だが悲しいかな、そうまでしても神父の歩みは止まらない。

 男女平等にして万物平等。存在等しく差別無し。神に罵詈雑言を浴びせる気概を常に持ち合わせるこの男には、乙女の涙すら効果が欠片もない。

 

「安心しろ、あの爆裂娘だぞ。爆裂魔法で死ねるなら本望だ」

「何も安心出来る要素がないっ!? というか力強いぃぃぃぃぃ!!!!!」

「たかが小娘一人に止められる様な鍛え方してないもんでな。しかしアレだな、その二つの贅肉の重量を含めてもお前は軽いな。全く引っ張られている気がしない」

「ぜ、贅肉って何ですか!? ウィズさんに聞いてた通り、本当にデリカシーがないんですねっ!」

 

 流石のノンデリ発言に、涙を目元まで引っ込めてゆんゆんが声を荒げる。

 無論、神父はノーダメージだ。驚いてすらいない。煽る様でもなく、寧ろ淡々と正論を突きつける。

 

「なんだ、言う事はしっかり言えるじゃねぇか。それをパーティでの関わりでも出せれば友達作りも楽だろうにな」

「うぐっ…! お、男の人っていつもそうですよね! 正論ぶつければすぐ黙ると思って…女の子は繊細なんですよ!?」

「知らん」

「三文字で纏められた!?」

「アクシズ教に入る前から俺は男女平等主義でな、相手が幼気な子供であろうと夢を一刀両断する。アルカンレティアに住んでからは一層強くなっちまった。お前は分かるか? 泣いてる少女に話し掛けたら満面の笑みで入信書を出された時の気持ち」

「………」

 

 ふい、と目を逸らすゆんゆん。

 アルカンレティアではよくある事だ。基本的に誰も彼もがアクシズ教徒なので、ありとあらゆる手段を用いてアクシズ教に入信させようとしてくる。これが日常である。

 それは大人は勿論、子供ですら例外ではない。路地で泣く、親が居ないやら逸れたやらで理由をつける、優しくされたら泣き止む、名前を書いてほしいと言って紙を差し出す、入信書。これ、子供アクシズ教徒の常套手段。

 ゆんゆんとしても、そんな事をされ続けたならば普段の様な優しさを保てるかは全く分からない。正直、怒り狂うより先に恐怖が訪れる様な体験だ。

 

「俺はな、物事を解決する時は必ず根本を叩く。お前が俺を訪ねる事になった原因を消すんだ。つまり、あの爆裂娘を殺れば片が付く」

「それでも爆裂魔法を撃ち込むのは考え直しましょう!? そんな事しちゃったら、アクセルにも迷惑が掛かっちゃいますよ!?」

「俺は一向に構わん」

「そんな無茶苦茶な!」

「あと、お前はいつまで俺に引っ付くつもりだ? 重くないとは言え、流石に面倒だ。早く離れろ」

「い、イヤです! 貴方がめぐみんから手を引くまで、私は離しませんっ! 絶対にです!」

「ふぅん…絶対、ね。過去にも何度かそういう台詞を聞いたが、俺は何度もそれを覆した。絶対に勝つ、絶対に認めない、絶対に死ぬ……つまりだ、『絶対』なんて言葉はだいたいアテにならん。お前が得るべき教訓だな」

「そんな教えを説くみたいに言いながらソレ私に押し付けるの止めてくれませんか!? ひぃ…!? 冷たい怖い! 誰か助けてー!」

 

 頭にガバメントの銃口を突きつけられながら、声に出して助けを呼ぶ。

 ゆんゆんは助けを呼んだ、しかし誰も来なかった……。

 いつの間にか教会の外に出て、道を歩きながら館まで向かっている神父とゆんゆん。しかし、その様子に住民の誰一人として口を出さない。ついでに目も向けていない。

 

(今の神父様は機嫌悪いし関わらんどこ…)

(あの子凄いな、あの神父に銃口突きつけられてるのに離してないぞ)

(くわばら、くわばら…十字切っとこ。偉大なるエリス様、どうかあの少女に救いの手を)

(つーか絵面が酷いな。女の子に銃突きつけてる時点であれだけど、それを見て見ぬ振りしている俺たちも相当だぞ)

 

 声に出さず、心の声で当たり前の様に会話する村人達。

 まぁ確かに、酷い絵面ではある。平気な顔して煙草咥えた男が涙目の乙女の頭に銃口を突きつけている。

 そして、住民達は揃いも揃って完全に無視だ。ガン無視だ。人の心ないんか?と言われても仕方のない場面ではあるだろう。

 責められても仕方ないだろうが、機嫌の悪い神父に話し掛ける事程、このアクセルにおいてやってはいけない事はない。

 

(じゃあお前行って来いよ。神父に口出してこいよ)

(行く訳ねぇだろバカか。んな事したら風穴開けられるわ、頭軽くなるっつーの)

「元から頭軽いんだから今更どうにもならんだろ。試してやろうか?」

「平然と心読むの止めてもらっていいですかぁ!?」

「それで言うならお前らも心の声で会話すんなよ。冒険者じゃねぇ一般人だろ、何当たり前みたいに念話使ってんだよ」

「…そういう流れだったから?」

「流れ云々でスキルにない技術使うなよ」

「それアンタにだけは言われたくない」

 

 心を読まれた住民達が、口を揃えた。

 神父は冒険者ではない。故にステータスカードを持たず、自分のステータスやスキル、魔法の内容などが正確には分からない。

 にも関わらず、神父は自らの力を正確に把握し、さらには習得していないスキルを人力で使用する。

 技術によるスキルの真似事―――というよりは、スキルではなく単なる超絶技巧である。

 

「で、今から何しに行くんだ? リー・エンフィールド担いでるって只事じゃなさそうだけど」

「爆裂娘の家を爆裂する」

「バカじゃないの? 神父様バカじゃないの? 何をそんな平気な顔で堂々と殺人&破壊予告してんの? それ立派な犯罪だよ?」

「女神アクアの御心のままに。あの館にはエリス教の人間が居る、窓をぶち割るより効果的だな。アクシズ教万歳」

「それで言い訳通ると思ったら大間違いだからな!? 幾らアクシズ教でもやっていい事と悪い事があるだろッ! おい、皆止めろ! この不真面目神父、街の中で爆裂魔法使うつもりだぞ!」

 

 ―――バカじゃねぇの!?

 ―――不機嫌だからってそこまでするか!?

 ―――鬼畜! 悪魔! 不真面目!

 ―――わたしたちの事も考えろー!

 ―――この前はよくも酷いポーション飲ませてくれたな! 仕返ししてやるっ!

 

『うォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!』

 

 一団結とはまさにこの事だ。

 周囲の住民達が、身の危険も顧みず一斉に襲い掛かってきた。わりと全身全霊である。

 はぁ…と、神父はため息を吐いた。

 身に纏うコートを脱ぎ捨て、ゆんゆんの拘束を解く。既に抜いていたガバメントを地に向けて、ただ一言。

 

「『テレポート』」

 

 ヒュ、と。神父の姿が消え去った。

 

「え?」

『え?』

 

 その場に居るのはゆんゆんだけだ。神父ではない。

 襲い掛かった住民達は、もう止まらない。止まれない。止められない。全員が一斉に身を踊り出たのだ、止められる訳がない。

 要するに―――詰みだ。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 少女の絶叫が、冬のアクセルに響き渡った。

 

 

 

 

「あら、神父服じゃないなんて珍しいですね?」

「面倒事に巻き込まれてな」

「いつものも良いですけど、やっぱり私服も似合いますね!」

「どちらかと言えば肌着の類じゃないか、これ?」

 

 ちなみに、神父がテレポートしたのはウィズの店である。

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