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あれから数ヶ月程経って、神父も荒んだ精神状態が落ち着きを取り戻しつつあった今日。
「お前らと一緒にアルカンレティアに…だと?」
神父はカズマ達から、一緒にアルカンレティアに行かないかという誘いを受けていた。
水の都アルカンレティア。
このアクセルに赴任する前に神父が過ごし、活動していた場所にしてアクシズ教の総本山。常識ある者であれば決して近付こうともしない一種の地獄である。
奇人変人、異常者の集う都。独善的で自己中心的な人間ばかりが住まう場所を地獄でないと言うのならばなんだと言うのだ。
神父は決して良い顔などしなかった。
「まず理由を言え。アルカンレティアに行こうなんざ正気の発言とは思えんが、一応聞いてやる」
「その発言もアクシズ教のものとは思えないと思いますけど…」
「なんだ、爆裂娘。言いたい事があるなら前に出て、魅力の欠片もない体を張って堂々と言え」
「あぁ゙!? 言いやがりましたね、この不真面目神父! 良いでしょう、言ってやろうじゃありませんか! 昨日はよくも私の額にゼロ距離射撃を食らわせやがりましたね! ゴム弾だかBB弾だか知りませんが、今もずっと頭に痛みが残ってるんですよ!」
帽子を外し、額に巻かれた包帯を存分に見せびらかして激怒の感情を曝け出すめぐみん。
神父の元にゆんゆんが訪ね、決闘の理由を説明して神父がめぐみん宅に爆裂魔法を撃ち込もうと決意したあの日の事だ。
結局の所、爆裂魔法は撃ち込まれなかった。しかしその代償として、めぐみんの額に神父の祖父特製のゴム弾が炸裂したのである。
何処ぞの彼岸花のコードネームを持つ少女が使う特殊弾を想像すると分かりやすいだろう。アレを撃ち込まれたのだ。
「爆裂魔法を撃ち込まなかっただけ感謝しろよ」
「言うにかいて感謝の要求ですかッ! 腹が立つ、本当に腹が立ちます! カズマ、爆裂魔法の許可を! ここでこの外道を殺します!」
「待て待て落ち着け! 確かにお前は背も低いし胸も決してあるとは言えないし肉付きも良くはないが、ちゃんと女の子としての魅力あるから!」
「貴様ァァァァァァッッッッッッ!!!!!!!!!」
「喧しい。さっさと理由を言え」
「うっす」
「カズマ! まだ話は」
「次、口を挟んだらSAAで撃つぞ」
「ごめんなさい……」
人、これを理不尽と言う。
確実な殺意と鋭い眼光を向けられ、それに加えて外套の隙間から見えたリボルバーに神父が手を掛けた所でめぐみんは教会の端の席で不貞寝し始めた。
明らかに悄気げている。私悪くないのに…と落ち込んでいる。
「め、めぐみん、そう落ち込むな。まだチャンスはあるさ」
「そうよ、めぐみん。これからがあるわ」
ダクネスとアクアが慰め始めた所で、カズマが神父へと理由の説明を始める。
切っ掛けは、つい3日前の事。カズマが3度目の死を迎えてしまった事が原因である。
死因は骨折。木の上から落ちて首の骨があらぬ方向に曲がり折れてしまったらしい。
「お前……冒険者を始めて1年が経つんだぞ。なんだ、そのふざけた死因は」
「分かってるよ! 自分でも情けない死因だとは思ってるよ! だからその『だせぇ…』みたいな視線やめてぇ!」
これには神父も呆れる他ない。もはや呆れを通り越して同情すら湧いてしまう。
やはりカズマの幸運値はアクア様と同程度なのではないだろうか、と、神父はカズマの幸運値の真偽をさらに疑い始めた。
「で、まぁ…色々とゴタついてたのも落ち着いたしで、アルカンレティアに湯治に行こうって話になって。それなら、神父さんも一緒に連れて行こうってアクアが言い出して」
「アクア様がか?」
「去年は沢山働いてくれたし、最近はピリピリしてるから、ちょっとは疲れを癒せる様にってさ」
「……腐っても女神、か。信徒は大切にってやつだな」
「俺としても、神父さんには世話になりっぱなしだったからさ。そこらの恩返しって意味でも、どうかなって」
「その気持ちは素直に受け取るが……よりによってアルカンレティアかぁ…」
「めっちゃ顔顰めるじゃん。え、そんなヤバい所なのアルカンレティア?」
「魔窟、地獄、奇人変人の巣窟……例えを挙げれば切りがない。アクシズ教の総本山だぞ」
あのアルカンレティアに良い思い出があるかないかという質問に答えるならば、断じてNOだ。神父はそんなものは存在しないとバッサリ切り捨てる。
良い思い出なんざ欠片もなく、悪い思い出だけが其処には残っている。面倒に面倒が積み重なって常人なら鬱になるくらいには面倒だった記憶しかない。
何処に行っても、何をしても入信書と宣伝の繰り返し。ある種の精神攻撃だ。
「そういう意味でも俺が同行した方が良いのか…精神崩壊されても後味が悪い」
「精神崩壊って言った!? アクシズ教徒ってそんなヤバいの!? 猛烈に行く気無くなってきたんだけど!」
「ちょっと! 今更行かないなんて言葉は言わせないわよ! 行くったら行くの! あたしの可愛い信徒達が待ってるのー!」
「あれの何処に可愛げがあるのかねぇ…ゼスタの野郎とかトチ狂ってる以外の評価が見当たらん」
「うっ…」
「爆裂娘もアイツの被害にあった口か。何となく見当つくが、一応聞くぞ。何された? もしく何を言われた?」
「私を椅子にしてください、や、お兄ちゃんと呼んでくれ…とか。あとは下着姿になってくれとか…」
「カズマ、すぐに出るぞ。たった今
「ちょちょ、落ち着けって! てか遂にって何!? それ以外にも何かやってんのかよ!?」
アクシズ教の最高司祭、ゼスタ。
神父が知るアクシズ教徒の中で群を抜いた異常者にして狂信者。ショタコンロリコンイケメン好きなシスターことセシリーですらたまに呆れてしまう程の奔放さを持つ男だ。
その暴れっぷりには、アクシズ教に入信する前からどうしたものかと神父も頭を悩ませていたのである。
それを消す口実が出来た。これには神父も(凶悪な)笑みが隠せない。
「持っていくのはどうするか…アイツを殺るならリー・エンフィールドは勿論だが、馬車で行くなら野営も考えて銃は他にも必要になるな…」
「見なさい、カズマ。一見すれば殺意に身を包んでいる様で、実はあたし達との旅で必要なものを考えてくれてるのよ」
「そりゃ分かってるけど…大丈夫なのか? リー・エンフィールド持ち出す時点で爆裂確定な訳だけど」
「大丈夫! あの子はちょっと素直じゃないだけだもの! そんな事はしないわ!……多分」
「自信無くなってんじゃねぇか!」
「仕方ないじゃない! 8割ぐらいは爆裂が占めてるんだもの!」
「やっぱ爆裂確定じゃねぇかッ!」
「爆裂…! またあの銃での爆裂魔法を見られるのですね! 良いでしょう、爆裂道の先輩として私が貴方の爆裂魔法を評価して差し上げます!」
「で、では、私が的になろう! 大丈夫だ、私なら何の問題もない…!」
「的にするつもりはねぇし、評価なんざ必要ねぇわ。……よし、これで準備は完了だ。必要なものは揃えた」
黒い縦長のバック―――我々で言う所のライフルバックに各種の銃を詰め込み、それを背負って神父は明確に同行を宣言する。
向かうは水の都アルカンレティア。その目的は―――最高司祭ゼスタの爆裂である。
「目的が酷すぎる。湯治に行くんだよ? あくまでも疲れを癒す為なんだよ?」
「そこはしっかり堪能する。癪ではあるが、あんなイカれた連中の街でも温泉に限っては一級だからな。存分に肩を休ませた後に射殺する」
「堂々と殺人宣言しやがった! マジ勘弁してくれよ、慰安旅行でも騒ぎに巻き込まれるとかゴメンだからな!」