アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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第十七話「ウィンチェスター」

 

■  ■

「王都で療養中だと?」

「はい…残念ながら」

「おい残念ながらって言ったぞ、この人。自教の司祭が死なない事を残念がったぞ」

 

 アルカンレティアに到着し、宿で一時体を休めたカズマ一向は二手に分かれて街を散策していた。

 めぐみんとダクネスは二人で買い物などに出掛け、カズマ・アクア・神父の三人は女神のご要望によって教会へと赴いていた。

 カズマとしては面倒極まりない所だったのだが、神父にとってはゼスタが何処に居るのかを聞き出す機会でもあったので都合が良かった。

 だが―――その教会のシスターに尋ねた結果、帰ってきたのは訃報まがいの情報だった。

 アクシズ教の司祭、ゼスタはアクシズ教を宣伝すべく片田舎の町に赴いた際、其処で何者かに襲撃を受けて致命傷を負い、現在は王都で療養中の身である、と。

 

「あのゼスタがか?」

「はい、あのゼスタ様がです」

「何なの、そのゼスタって奴は強いの? それを殺そうとしてたの?」

「仮にもアクシズ教の最高責任者、このアルカンレティアで司祭を務める男だ。職業は上級職のアークプリースト、腕は確かだ。ついでに洞察力も優れてる、そう簡単に奇襲を受けるとは思えん」

「嫌いだからこそ詳しいのか、何だかんだ信頼してんのか、どっちなんだ…?」

「信頼してんのよ。何せうちの司祭だもの!」

「あぁ、悪い意味で信頼してるよ。いつか絶対にやらかしてくれると思ってたんだ、お陰で殺る口実が出来た」

「との事です」

「なぁぁぁんでよぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 悉く女神のフォローをぶち壊す神父。さしもの主神も、これには涙目である。クソワロタ。

 

「ちょっと、誰よ今笑ったの!? ワロタって、ワロタって聞こえたんですけど!?」

「きっと邪神エリスでしょう。後でロケラン撃ち込んでおきます」

「おっ、良いですね。神父様、それ(わたくし)にも教えてください」

「勿論」

『とばっちりにも程がありませんか!? 私なにもしてないんですけどー!?』

 

 今更である。

 アクシズ教であれば女神エリスに嫌がらせの一つや二つくらいはして当然だ。特に女神エリスと直接的な関わりがある神父であれば、尚の事。

 ロケランは当たり前。神に爆散あれ。これこそ天に唾―――ありったけの火薬が詰め込まれた―――吐くというやつである。

 

 閑話休題(それはともかく)

 

 神父は煙草を吸いながら、その詳細を聴き始める。他所の教会であろうとお構いなし、神父にとって喫煙と飲酒は命も同然だ。

 

「療養中と言ったな? 療養し始めたのは何時頃だ?」

「そうですね…時期で言えば、神父様が魔王軍の幹部を討伐した辺りでしょうか?」

「ベルディアか。となると、十一月の中間初めか。それなりに時間は経ってるな。状態は?」

「それが……変わっていないんです」

「はぁ?」

「幾ら回復魔法を掛けても傷は癒えず、あのゼスタ様すら気を失って横になっているままで…」

 

 傷が癒えない。

 数ヶ月もの時間が経過し、尚且つ回復魔法を幾ら掛けても傷は癒えず、依然として致命傷のまま。

 意識なく眠ったまま、今も尚、回復魔法を施されて漸く命を繋いでいる状態との事だ。

 

「…悪魔にでもやられたか?」

「いえ、悪魔ではありません。そもそもゼスタ様がその片田舎でセクハラしたのが原因ですから」

「何してんだよアイツ馬鹿じゃねぇの」

 

 つい真顔で言い放つ神父だが、これには他の二人も頷く他ない。

 アクアに関しては、いつもの事ね! 変わってない様で安心だわ! と、ちょっと違う方向で安堵していた。

 安心出来ねぇだろ、とカズマが引っ叩くと喧嘩が始まった。やっぱ仲が良いですね、この熟年夫婦。

 

「えぇ、本当に。しかし、それを差し引いても異常は異常です。何より、最高責任者が居ないというのもアルカンレティアとしては困ったものでして…」

「…悪魔じゃないなら、やったのは何だ? 人間か?」

「はい。ゼスタ様を見付けてくださった御老人が、そう教えてくださいました」

「そいつがゼスタの野郎を助けたのか?」

「王都までテレポートして運んでくださったそうです」

「へぇ…テレポートか。アークウィザードか何かか?」

「いえ、御本人は『しがない猟師』だと」

「……………………………猟師、猟師ね」

「神父様?」

 

 猟師という単語を聞いた瞬間、神父は思考を止めた。煙草を外し、懐に潜めていた市販の酒を入れた水筒を呷る。

 推理する必要など皆無だ。片田舎の猟師、それだけで十分に正体を理解する事が出来た。

 自分は知っている。誰よりも、その人間の事を知っている。

 

 考える必要はない。確信は一歩先、少し前に傾くだけで手に入る。だが、まだ違う可能性はあるかもしれない。

 神父は天を仰ぎながら、幾つかの質問を投げる。

 

「その片田舎の町の名前は分かるか?」

「ええっと、確か…()()()()()()()()だったと思います」

「ゼスタを見に行った事は?」

「ありますが…あの、神父様?」

「いいから答えろ。さっきの質問で確信はしてるが、一応だ。どんな傷だった?」

「……まるで、小さな爆発に巻き込まれたかの様な、酷い状態でした。体の至る所に、小さな穴が出来ていて…」

「ちょいちょい、二人揃ってえげつない話すんの止めて? 俺そんな耐性持ってないんだよ?」

「安心しろ、カズマ。もう終わった―――誰にやられたのかは、分かった」

「え、マジ?」

 

 分かる。分かるに決まっている。

 何故ならば。

 何故ならば―――その人間は。

 自分の師であり、先輩であり、友であり―――血の繋がった家族なのだから。

 

「それ、俺のジジイだ」

「え」

 

 声が重なり、全員が神父を見る。

 神父の祖父。つまりは―――転生者。

 

「隠居したっていう、神父さんの爺さん!? あのリー・エンフィールドの製作者かよ!?」

「あぁ、断言出来る。どっかの兄弟に憧れて、自分を『ウィンチェスター』だとかほざきながら悪魔もモンスターも誰彼構わず撃ち殺しまくったお陰で、魔王軍から触れてはならぬ禁忌(アンタッチャブル)、ウィンチェスターの猟犬とかいう物騒な異名を頂いて、いきなり隠居するとか言い出して自分で町作った浪漫馬鹿だ」

 

 世間で知られる名はウィンチェスター。

 数十年も前の時代、氷の魔女ウィズに並び数多のモンスターを撃ち殺し、魔王軍に大打撃を与え、さらには世界に降り立った一柱の邪神を瀕死寸前まで追い込んで野に捨てたとされる伝説の男。

 それが、ゼスタを追い込んだ犯人だった。

 

「となると、そのゼスタって奴に撃ちまくれたのは…おじいさん特製の弾丸?」

「多分厄星(ニガヨモギ)だな。しかしゼスタの野郎、ババアにセクハラしやがったのか。命知らずにも程があるぞ」

「ちょ、ニガヨモギ!? 今ニガヨモギって言ったわよね!? 貴方のお爺さん、そんなモノまで創ったの!?」

 

 ニガヨモギ。

 聖書の黙示録に登場する厄災の星。人類を滅ぼす蝕みの星。

 第三の御使いが喇叭を吹いた時、天より松明の様に燃える星が墜ちた。それは世界の川の三分の一とその水源を穢し、苦しめ、数多の人間を殺害した。

 原初の神、世界最大にして最高の信仰を誇る唯一絶対の象徴。たった7日で世界を創り上げた存在が落とした唯一の星、その伝承を利用した弾丸。

 聞くだけで身の毛が弥立ち、恐怖で全身が真っ青になっていく様な効果を想像させるが、どうやらそんな事はないらしい。

 

「名前程の効果はねぇよ。数ヶ月経ってんなら、そろそろ毒が抜け切る筈だ。すぐに治る」

「マジでどうなってんだよ、アクシズ教。司祭が熟女好きて」

「実年齢に反して見た目が二十後半の妖艶な女。女皇淫魔(サキュバスクイーン)も顔負けのプロポーション」

「神父さん、御話をちょっと詳しく」

「止めとけ、ジジイのウィンチェスターはリー・エンフィールドと同じで特別製だ。厄星(ニガヨモギ)、ヘラの毒蠍、爆裂魔法式44-44弾、堕つる叛逆(ルシファー)、法儀式済み聖水銀弾……装弾を上げればキリがない」

「すんませんでした」

 

 流石は神父の祖父。創るものが尋常ではない。

 それはそれとして、一度は会ってみたいものだと、カズマは思うのだった。

 

「まぁ、それはそれとして都合が良い。ちょっくら王都まで行くか」

「待て待て待て待て待て待て待て待てッッッッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!! 今の流れ的に許してやってよ!!!!! オーバーキルにも程があるぞ!?」

「知らん。まだ生きてるならさっさと殺すに限る。あれを王都で野放しにしておけば、最悪レイン達に被害が出かねん。他人ならばいざ知らず、仮にも俺の教え子に手を出す可能性があるなら、早いところ滅した方が為になる」

「神父さまー、次の責任者は誰に致します?」

「比較的マトモであれば誰でも良いだろ。セシリーでも構わん」

「話進めないでっ!? ねぇ待って、お願い待ってー! うちの子殺さないでー!!!!」

「教義より抜粋、()()()()()()()()()()

「そこだけ!?」

「都合の良い所だけ切り抜きやがったぞっ!?」

 

 数時間もの格闘の末、カズマとアクアは何とか神父を引き止めるのに成功したのだった。




コンバーティブル
セミオート・ポンプアクションの二つに切り替える事が出来る汎用性の高い構造方式。ベネリM3やフランキ・スパス12が有名。
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