アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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正確に・生死を・掌握


第十八話「3S」

 

■  ■

「…」

 

 慌ただしい日々も終盤となり日が暮れ始め、カズマ達も集合して部屋で休み始めた頃。

 神父は同室のウィズを放って一人、机に向き合っていた。

 携帯したライフルバッグのジッパーを開き、その中身―――バッグの中に仕舞われたもう一つのバッグを顕にして、机の上へと並べ始めていた。

 

 大量生産されたアサルトライフルの中でも極めて高い命中精度を持つ折り畳み式銃床(ストック)自動小銃(オートマチックアサルトライフル)『SIG SG550』。ストック・スコープに及びカスタマイズ。

 短機関銃の代名詞たるMP5の後継に相応しき大口径短機関銃(サブマシンガン)『H&K UMP45』。グリップ・スコープに及びカスタマイズ。

 自動拳銃(オートマチックハンドガン)『S&W M&P 9L』。グリップ・銃口に及びカスタマイズ。

 

 全て神父が創り出したものであり、独自にカスタマイズを施した代物だ。

 だが、神父は何もゼスタ殺害が目的というだけで、ここまでの重武装を用意していた訳ではない。ゼスタを殺すだけならばここまでの重武装は不要だ、神父であればリー・エンフィールドを用いる事もなくガバメントのみで瞬殺出来る。

 その神父が、何故ここまでの重武装を用意しているのか。それは―――神父がそのまま紅魔の里へと赴くからである。

 

「ジジイの野郎…まだまだ現役だろうに、俺に仕事ぶん投げやがって。何が『結構前に半殺しにした邪神の封印状態の確認よろー』だ、巫山戯てんのか」

「えっ、ウォルバクさんを封印したのって、ウィンさんだったんですか!?」

「知らなかったのかよ。いや、ジジイが封印した訳じゃねぇけどな。ただ単に半殺しにしただけだ」

「邪神とは言っても女神を半殺しにするって…やっぱり凄いですよね、ウィンさん」

「巫山戯た態度を取りながら冷静に一人銃弾撃ち(ビリヤード)始めるからな。銃一丁でだぞ? どうなってんだあのジジイ」

 

 スライドをスライドストップまで下げ、レバーを回してM&Pの分解を始めながら、神父は己が師でもある祖父への技術に毒を吐く。

 銃弾撃ち(ビリヤード)。どこぞの興奮すると強くなる系武装探偵の家系が使用するそれは、本来ならば飛んできた弾丸を自分の撃った銃弾で弾くという曲芸である。

 しかしそれの応用として、それぞれ弾速の違う銃を使う事で一人で銃弾撃ち(ビリヤード)を行い弾丸の着弾点を変える、『一人銃弾撃ち(ひとりビリヤード)』という技が存在する。

 だが、神父の祖父―――ウィンチェスターの場合、それを同じ弾速のもので実行するのだと言う。

 あまりにも実現不可能なそれを、実現させるのだと。

 

「あ、そうだ! 実は私、一度ウィンさんと模擬戦した事があるんです!」

「ジジイとお前が? おい、あまり大地をイジメてやるなよ。戦場にでもするつもりか?」

「そ、そこまではやってませんよ!? まぁ、ちょっと人に見せられないくらいにはなっちゃいましたけど…」

「流石は猟犬と魔女、やる事が派手だな。で、ジジイに負けたか?」

「いえ、引き分けでした。でも、技術的な面で言えば、やっぱりウィンさんには勝てませんでしたよ。特に、魔法の最も威力が低い部分を見極めて弾丸を通す境抜き(コンフィーネ)にはしてやられました」

 

 境抜き(コンフィーネ)

 それは、魔法の最も威力が低い部分を正確に撃ち抜く事で魔法を貫通して対象を撃つ技術。

 例えるなら、『ファイアー・ボール』という火の球を放つ魔法を使ったとしよう。これに境抜きを用いた場合、弾丸は火の球で最も火力が低い部分―――中心の数cm上を正確に撃ち抜く事になる。

 魔法で放たれる火や水には、基本的に温度の変動がない。名を叫び、使用すれば設定された温度のまま現出し、対象へと攻撃行動に移る。

 理科の授業で、アルコールランプに付けられた火に先生が掌を普通に通して無事なのを見せるのとほぼ同じだ。

 人の手が燃えない温度の部分―――そこを正確に撃ち抜く技術だ。

 

「あー、アレか。気持ち悪いよな、アレ。別に目が良い訳でも魔法に詳しい訳でもないのに、なんであんな芸当出来んだろうな」

「最初目にした時は、流石の私も破顔しましたよ。すぐに魔法を全体調整して対応しましたけど」

「気持ち悪いな、お前」

「酷くないですか!?」

 

 ばっさりと切り捨てて罵倒する神父。だが、普通に考えて頭がおかしい対処法である。

 魔法の威力を上げるのではなく、魔法を制御する杖から離れた魔法を調整する事自体が困難極まるというのに、さらに魔法の全体を調整するなど神業にも等しい。

 火球の温度を完全に高温度で統一させる。杖から離れた魔法の温度を、完全に統一させるのだ―――これが出来る魔法使いなど、宮廷でもそう多くはない。

 気持ち悪いと罵倒されても致し方なしというものである。

 

「あれか、お前等の世代ってバケモンしか居ねぇの?」

「そんな事ありませんよ!?」

「じゃお前とジジイなんなんだよ。話聞く限りバケモン以外の何者でもねぇぞ」

「し、神父さんだって人の事言えないと思います!」

「俺はお前等みたいな人外染みた技を使った憶えはないが? 悪魔よ、悉く滅び去れ(コルト)はあくまでもジジイの『伝承魔法』を使っただけだ。魔法の詠唱も、俺でなくとも出来る。カズマに関してはスキルであるにも関わらず影響させてたしな」

「うぐっ…」

 

 痛い所を突かれ、言い淀むウィズ。

 神父は人外染みた技を使った事など一度もない。その偉業こそ、確かに生涯英雄として語り継がれるに相応しいのだろうが、それを為す元となったのは祖父の技術だ。

 断言するが、祖父の技術が無ければ神父はラプラスという魔神を相手にして生きて帰る事など出来なかった。

 神々が何億もの時間を費やして尚も生き続けた魔神に不意討ちを成功させても、命を刈り取る事は出来なかった。よくて重症を負わせる程度でしかない。

 

 まぁ―――使った事がないだけで、決して使えないと言わないのが、神父らしいとも言えるのだが。

 

「よし、終わった。はー…疲れたわ」

「お疲れ様です」

 

 整備を終えた銃達をバッグに戻し、立ち上がる。

 バキバキと鳴る背中。神父の疲労もかなり溜まっている様だ。

 

「時間も時間だし…温泉行くか。お前もさっさと済ませとけよ、アクア様と絡んで浄化されちゃ面倒だ」

「ふふっ、大丈夫ですよ。貴方のお陰で」

「そうかい。なら好きにやっとけ」

 

 素っ気なく適当に返し、神父は温泉へと向かうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱ居たな、お前」

「し、神父さん!? なんで混浴に!?」

 

 カポーン…と、あるあるな音が鳴り響く風呂場には、見慣れた少年が居た。

 そう、皆様ご存知カズマである。混浴場である。

 

「お前の事だから絶対に此処に来るだろうと思ってな。やらかして面倒事に巻き込まれるのは御免だからな、ストッパーだ」

「そんな殺生な!? アンタそれでも男か!?」

「こんなんでも男だ。まぁ、あくまでもついでだがな」

「ついで?」

「あぁ―――やけに感じ慣れた気配があったからな」

「……あら、私?」

 

 神父が目を移したのは、タオルを巻いた赤毛の女性。

 タオル越しでも分かる圧倒的なプロポーションに目を引いていたカズマだが、神父の視線は決してそういう類のものではない。

 軽蔑、或いは侮蔑。心の底から馬鹿だと思っている存在が発するであろう気配を、彼女から感じ取っていた。

 

「アンタが何を司る輩かは詳しく知らんが…この街で派手に動いてみろ。即座にお前を撃ち殺す」

「ふふっ、初対面なのに物騒ね。何処かで出会ったかしら?」

「ヘラの毒蠍。堕つる明星(ルシファー)

「―――へぇ」

 

 二つの単語を聞いた瞬間、女性は眉を潜める。

 神の血を引く英雄を殺した神殺しの毒、全知全能の唯一神に叛逆した、唯一無二の天使の伝承。

 神をも蝕む猛毒と神をも失墜させる枷。その二つに反応した時点で、神父は確信した。

 この女は―――神の類であると。

 

「そう…貴方が、ね。ふふ…こういうのを運命って言うのかしらね?」

「……さぁな。生憎と俺はそこまで見抜ける程、人間を辞めちゃいない」

「それで良いわ。貴方も、彼も―――人間だもの。まぁ、彼の場合は少し癪ではあるけど…もう私―――女神としての―――は気にしていないもの」

 

 余裕のままに笑いながら、湯船を身を出してゆっくりと上っていく。

 そこからの会話はない。ただ、一方的な敵意だけが女性がその場から去る最後まで残り続けていた。

 

 彼女が、怠惰を司る女神ウォルバクだと神父達が知るのは―――王都で教え子の妹と戦う時の事だった。

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