アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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第二十二話「旅発つ」

 

■  ■

 魔王軍幹部の1人、ハンスが討滅されてから数日が経った。

 1日は亡くなった館の翁の葬儀に費やした。神父とアクアを主導とし、アルカンレティアにおいて彼の世話になった者、彼と親しかった者達で行われた小さな葬儀ではあったが、それは確かに彼を弔う想いが集うものだった。

 それからは色々な事があった。源泉を浄化したアクアに対して殺意を抱いたアルカンレティアの人間達を神父が単独で鎮圧したり、アクアが本当の女神であると認識させたり、色々と。

 そんな事があって、そうして―――カズマ達は、アルカンレティアを発つ。

 

「休めなかった……すっごい目にあった…」

「今更だろ。お前在る所にトラブル有り、だ。二度とお前と旅行には行かん」

「否定出来ないのが悔しい。アクアの所為って事にならないかな…」

「ぶっちゃければ、お前の幸運よりもアクア様のトラブルメーカー気質が強いだけの話だ」

「てんめぇアクアッ! お前の所為じゃねぇか!」

 

 神父のフォローは何も間違っていない。

 真面目な話、カズマが有する豪運よりもアクアのトラブルメーカー気質があまりにも強過ぎるのだ。

 まぁ、ハンスの件に関してはカズマもアクアも何も悪くないのだが。

 

「なんでよぉ!? あたし悪くないわよ! 皆の為を想ってやっただけでしょ!?」

「結界が無ければ無限にアンデッドを引き寄せて自分で浄化するとかいう、悪辣なマッチポンプの天才が何か言ってるぞ。おい爆裂娘、判決を言い渡せ」

有罪(ギルティ)です」

「だそうだ。弁護士による反論の余地もない」

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!!!!!!!」

 

 またも泣き出すアクアを余所に、神父は何でもない様に煙草を吸い始める。

 未だ怒りは冷め切らない。老い先短い男だったのだ、それが寿命ではなく他殺になってしまったというだけの話―――それだけで、納得など出来る訳はない。

 仇討ちは未だ果たせていない。あの老人をその手で殺した女を殺す事が出来なければ、仇討ちを果たしたとは言えないだろう。

 特に何か目的があったという訳でもなかった神父の人生に、新たな目的が追加されたのはある意味では喜ばしい事だ。

 ラプラスの殺害に加えて、その信徒の殺害が決まったのだ。一木一草悉く、我が敵を根絶やしにしろとはまさしくこの事だろう。

 見敵必殺(サーチアンドデストロイ)だ。聖書の内容を読み上げながら殺してやろう。

 

「そういえば、神父さんはこの後どうするんだ? アクセルに戻るのか?」

「いや、紅魔の里に行く。お前等とは暫くお別れだ」

 

 カズマからの質問に首を横に振り、自らの目的を伝える。

 元々そうする予定だった事。

 祖父から紅魔の里で確認してほしい事がある事。

 ついでに紅魔の里の知人達にも挨拶をする事。

 

「紅魔の里かぁ…めぐみんの故郷だっけ?」

「そうですね。私のというか、文字通り紅魔族の故郷という形になりますかね。私もゆんゆんも、紅魔の里で育ちましたから」

 

 魔法への適性が高く、上級魔法を幾つも習得する事が可能な種族―――紅魔族。

 誰しもが紅い瞳を持っており、生まれつき非常に高い魔力と知力を有し、修行を重ねたその殆どが上級職であるアークウィザードとなる。

 めぐみんやゆんゆんもその紅魔族であり、彼らは皆揃って紅魔の里と呼ばれる里で育っている。

 まぁ、その起源はとある魔法の研究者によって作り出された、魔力を増幅する改造手術を施された改造人間―――要するにモルモットだった訳だが。

 

「神父さんも紅魔族の友達居るんだな。意外じゃないけど」

「そりゃ居ますよ。本来なら詠唱がない浄化魔法に詠唱を付け足す男ですよ? 加えて実力も高い。皆寄ってきますよ」

「何なら師事受けてる奴も居るからな」

「は? 誰ですか貴方に師事するとかいう馬鹿は。死にますよ」

「対魔王軍遊撃部隊とか大層な名前してた癖に弱かったからな。ストレス発散も兼ねて偶に修行してんだよ」

「よりによって、ぶっころりー達ですか!? 修行好きなそけっとではなく!?」

「あー…そんな奴も居たな。木刀持ってる癖に剣技の腕が大した事ないから忘れてた」

「扱いが酷い!?」

 

 紅魔族随一の靴屋のせがれの名を持ち、ニート仲間によって構成された、『対魔王軍遊撃部隊(レッドアイ・デストロイヤー)』という自警団のリーダーであるぶっころりーとその仲間達。

 ぶっころりーが惚れており、それでいて「紅魔族随一の美人」と呼ばれる占い師の女性、そけっと。趣味で持ち歩く木刀から剣技の腕があるのだと誤解され、修行でフルボッコにされた悲しい女性である。

 これらの他にも神父に師事する紅魔族は多く、その全員が漏れなくボコられている。

 主に口上と詠唱の途中で的確にゴム弾を撃たれて敗北する事が殆どである。

 

「ちなみに、その用事って?」

「昔のジジイが半殺しにした邪神の封印を確認する事」

「邪神を半殺し!? マジでどうなってんだよアンタの家系! 神を半殺しにするってそんな簡単に出来るもんなの!?」

「信仰が無いなら力は無いも同然だ。特に邪神となればな。『ヘラの毒蠍』を使えば信仰があろうがなかろうが関係ないが」

「スペックが可笑しいわよね、本当。ヘラの毒蠍(アンタレス)とか堕つる明星(ルシファー)とか人間が創れる魔法じゃないんですけど」

「前から気になってんだけど、そのヘラの毒蠍(アンタレス)とかの弾丸って、どうやって創ってんの? 特典だけじゃないよな?」

「魔法だな。ジジイが開発した唯一無二の魔法―――『伝承魔法』」

 

 『伝承魔法』。

 それは、この世界に転生した日本人が送られるという訳があって生まれてしまった世界の法則を利用した魔法。

 日本人が抱く『〇〇と言ったら〇〇』というイメージが具現化し、モンスターが生み出されるという現象が発生する事がある。

 この世界で初めての死を経験したカズマには、大変苦い思い出でもある存在『冬将軍』もまた、そのイメージの具現化によって誕生したモンスターである。

 神父の祖父は、カズマの様に側に女神アクアという存在が居ないながらにそれを発見・解析し、自らの魔法として組み込む事に成功したのだ。

 その結果として、神話や伝承と因果関係があるものに、その神話や伝承のイメージ通りの効果を付与する魔法が生み出された。

 それこそが『伝承魔法』。世界で数少ない、神を殺し切れる魔法である。

 

「お前が知る所で言うなら『類感魔術』、もしくは『偶像の理論』だな。あれが近い」

「あー…確か、学園都市統括理事長のアレイスターなんとかが使ってたやつだっけ?」

「まぁ、別に間違いではないな。それは類感魔術の応用、『霊的蹴たぐり』だな」

「その類感魔術というのは何なのだ?」

「“形の似たもの同士は互いに影響し合う”という発想に則った魔術の事だな。これを言い換えて、“姿や役割が似ているもの同士は互いに影響し合い、性質・状態・能力などとしても似る”という理論が『偶像の理論』だ。伝承魔法の場合は、オリジナルと全く同じ力を発揮するという違いがある」

 

 類感魔術と呼ばれる魔術の基礎を言い換えた魔術理論―――『偶像の理論』。

 『姿や役割が似ているもの同士は互いに影響し合い、性質・状態・能力などとしても似てくる』という魔術理論。

 形を模しただけの偽物であれ、この偶像の理論によって本物の力を得る事が出来るのだ。と言っても、その本物の力はオリジナルの0.00000数%程度でしかないのだが。

 余程の品でも数%であり、しかしそれでも十二使徒に匹敵するらしい。

 

 だが、この『伝承魔法』は偶像の理論と違い、扱う物の完成度など関係なく、それらに関連しているのであれば完成度など無関係に100%の純度で神話や伝承のイメージをそのまま付与する事が出来るのだ。

 

「めっちゃチートじゃん。神父さん、あの世界でも無双出来るんじゃね?」

「さぁな。流石に『魔神』には敵わんだろ、殺る前に世界を壊されちゃ話にならん。ついでに『神浄の討魔』にも勝てんな、あれは敵を味方にするスペシャリストだ」

「ちょっと待って? 今更だけど神父さんラノベ分かる系?」

「ジジイの受け売りだがな」

 

 神父の祖父は日本人である。

 転生者なのだから、日本のライトノベル作品を知っていても何ら不思議はないだろう。

 だからと言って、それを息子や孫に教えているのも中々だが。

 

「…俺ガイルの正式名称は?」

「やはり『俺』の青春ラブコメはまち『が』って『いる』。だろ」

「はがないの正式名称は!?」

「僕『は』友達『が』少『ない』」

「ただの人間には興味ありません!」

「この中に、宇宙人・未来人・異世界人・超能力者が居たら、あたしの所に来なさい。以上」

「星刻の竜騎士(ドラグナー)のエーコのフルネームは!?」

「質問多いな、お前…。確か、エーコ・ペンドラゴン・アウローラ・クリスタ・レーナ・アンヘルス・イリア・ロランス・リアーヌ・ミュリエル・オクタヴィア・ロベルティーネ・デ・ラ・ローザ・レスペランス・ヴァン・コンポステーラ・ド・アヴァロン…だったか。バカ親父に俺も覚えたんだからお前も覚えろって言われ続けた」

 

 親も親だった。

 息子に覚えさせる名前じゃないランキング、堂々のNo.1である。この世界じゃ知ってる人間殆ど居ないぞ。

 

「神父さん最高だ! ちょっと今度からラノベ話しに行っていいか!?」

「受け売りだって言ってんだろ。ジジイと会った時に存分に話せ」

 

 面倒事が増えそうで、溜め息を吐く神父であった。

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