アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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第二十三話「これをやろう」

 

■  ■

「……」

 

 アルカンレティアという魔境から帰還し、無事に見慣れ住み慣れた屋敷へと戻ったカズマ達。

 一日の疲れを癒し、朝を迎えたカズマは珍しく早起きをして机と向かい合っていた。

 机の上には大きめのタオルが敷かれており、更にその上には様々な部品が並んでいた。

 ジェリコ941。アルカンレティアで神父に貸し出され、そして一件の末に神父から代金無しで授けられた立派な自動式拳銃(オートマチック)である。

 

『あ、そうだ。神父さん、ジェリコ返すよ。あんま使う事無かったけど』

『あー、それか。いや、ジェリコはそのままお前にやる。好きに使え』

『えっ、マジ!? ジェリコ貰っていいの!?』

『将来性を見越した先行投資だ』

 

 神父はカズマを評価している。その悪知恵だけでなく、カズマの人間性も含めてしっかりとだ。

 だからこそ、カズマに銃を授けたのだ。ある意味では、信頼の証とも言えるだろうそれを貰ったカズマのテンションは爆上がりであった。

 早朝から神父に銃の組み立てや分解の方法を教えてもらい、そして組手でボコボコにされた経験を活かし、朝から組み立てと分解を繰り返す日課を身につけ始めたのだ。

 そうしてジェリコを組み立て終えると、

 

「ふぁ〜……おはよー」

 

 起床した女神が腹を掻きながら現れた。

 

「おはよ。えらく早起きだな」

「トイレよ」

「お前……マジで女っ気ないよな」

「今更でしょ」

「確かに」

 

 水の女神アクアはだらしない女神である。もう1年もの付き合いになると嫌でも分かる。

 基本的に女っ気が皆無なのだ。良く言えばそこらの女性よりも親しみやすいのだが、如何せん女としてのアレがない。品性が。

 まぁ、男神であれ女神であれ品性のある神なんてそれこそ少ない方だろうが。ギリシャなんかはいい例である。

 

「そういうカズマは何してるのよ?」

「神父さんから貰ったジェリコの整備。結局使ってないけど、日頃からやっといた方が良いって言われたからな」

「ほんと、アンタってあの子に気に入られてるのね。主神としては嬉しい限りだけど、個人的に妬ましいわ」

「お前も敬われちゃいるだろ。神父さん感謝してたぞ、気を遣って旅行誘ってくれた事」

「え、うそ!? あたしその情報知らないんですけど!?」

「今言ったからな」

「何よそれ! すぐ言いなさいよ!」

「後でも先でも相手されないだろ」

「アンタ、流し方があの子に似てきてない!?」

「マジ?」

 

 意外にもカズマは驚いていた。どうやら無意識だったらしい。

 まぁ、カズマは前世では引きこもりだったのだ。

 高校も碌に行っていなかったのもあって、仕事とは言っても的確な助言をしてくれたり、気安く相談に乗ってくれる神父は良き担任教師と言える。

 特にカズマは日本人で銃についての知識もある事もあり、地味にロマン好きな面もある為に神父の姿はより格好良く映るだろう。

 影響を受けても仕方ない。まぁ、その影響がカズマに決して良い訳ではないのだが。

 

「真似をするのは勝手だが、決して取り込むな。お前はお前以外の何者でもないんだ。俺の一部を取り込んだ所で悪影響しか無いぞ」

 

 カズマはカズマだからこそ。佐藤和真という人間だからこそ、今の様な仲間や人間関係が存在するのだ。

 神父という存在は確かにカズマにとって信頼出来る存在なのだろうが、しかしそれだけだ。憧れこそすれ、神父の様に成る事は悪手に他ならない。

 思った以上に深刻かな……と、カズマは頭を掻いた。

 

「あれ、喜んだりしないのね」

「まぁ、助言受けたからな。良い事じゃないみたいだし」

「流石はあたしの信徒。的確な助言ね」

「お前は的確な助言した事…いや、わりとあるか」

「そうでしょ、そうでしょ? 褒めていいわよ? 感謝に感謝を重ねて涙を流しても良いのよ?」

「俺はお前を最初の的にしてやっても良いんだぞ?」

「ちょっと、本当に銃口向けないでよ! ごめんなさい! 謝るから銃口下ろしてー!」

「朝からうるさいですよ、二人とも…。ふぁ〜……って、それあの神父から貰った銃じゃないですか! カズマカズマ、私にも是非触らせてください!」

「いーやダメだね! これは俺が神父さんから貰ったんだ! 誰が何と言おうと貸してやらねぇからな!」

 

 そんなこんなで、カズマ達は朝を迎えたのだった。

 

 

 

 

 それから暫くが経った刻、神父は紅魔の里の道程にある森の中で体を休めていた。

 

「げっ、お前かよ。なんだよ、こっちは光合成してるだけだぞ」

「別に摘みに来た訳じゃねぇよ。人を何だと思ってんだ、テメェ」

 

 モンスターと共に。

 見た目こそ儚げな少女だが、しかしその実態は厄介極まるモンスターであり、心優しい人間であればある程に討伐する事が困難という趣味の悪い生態を持ったモンスターだ。

 安楽少女。そう呼ばれるモンスターは紅魔の里の道程となる森に生息しており、そしてこの安楽少女は神父に命を握られている可哀想な個体である。

 

「少女の体を容赦なく撃ち抜くド畜生だろ」

「モンスターだからな。普通なら其処で死んでる」

「反論出来ねぇのが腹立つ。この似非神父が」

「口が悪いな、やっぱ水は要らねぇか?」

「ごめんなさい。許して、お兄ちゃん。お水がないと、わたし死んじゃうの」

「きっしょ」

「おいテメェ」

 

 常人であれば庇護欲をそそられ、可愛いと思って仕方ない見た目と猫なで声だが、しかし神父には無意味である。

 どんな仕草や声を出そうと、無表情で気色悪いと一刀両断されるのみだ。

 丁度良い形の岩に腰を下ろし、神父は煙草を吹かすと安楽少女は顔を歪めた。

 

「お前さ、それ吸うの止めてくんない? マジで臭うんだけど」

「これを吸わんと落ち着かん。臭いかどうかは知った事じゃない」

「終わってるよ、マジ。…それで? 今日は何の用事で来た訳?」

「邪神の封印の様子を確認する為」

「そりゃまた、規模がデカい事。お前の爺さん、本当に何者なの?」

「銃一丁で一人銃弾返し(ひとりビリヤード)したり、魔法の境目を撃ち抜いたり、邪神を半殺しにしたり、隻眼の老()と語り合ったり、四騎士の一人を突っぱねたりとか、語れば語る程に深堀が生まれる。そんな人間を語るにゃ1日じゃ足らん。本人に聞けばもっと増えるぞ。あの人は持ってる話が色々と多過ぎる」

「聞けば聞く程に人間じゃない。その孫であるお前を含めて気持ち悪いわ」

「風評被害だ。俺はジジイ程の事はしてねぇよ」

「内容の濃さならお前が1番だろ。魔神殺し」

 

 全知にして全能。悪魔でありながら神格を持っていた最古にして最強の悪魔―――ラプラス。

 全てを識るが故に全てを為す者。数億年という永い時間の果て、しかしただの一柱として彼女を殺す事は叶わなかった。

 それを、たった一人の人間が成し遂げた。

 王都において、その人間の名前は明かされてはいない。その本人が全てを語る必要など皆無だと断言し、そして王族は命の恩人である彼の言葉に従っているのだから。

 

「『過』ぎ『去』るって書いて『過去』って読むんだぞ、クソガキ。どれだけ凄かろうが、その時の結果はその時の結果だ。過去の事をいつまでも誇った所で意味はない」

「お前は誇らな過ぎだろ。ぶっちゃけ人間っぽくないぞ」

「モンスターのお前に言われてもな」

「それはそう」

「変に素直だな、お前。まぁ、変に反論しない辺りは面倒じゃなくて良いがな。おら、お目当ての水だ」

「お、サンキュー」

 

 懐から取り出されたスキットルを安楽少女へと投げ渡すと、蔓を使ってあっさりと掴み取り、キャップを外して口を付ける。

 女神アクアによって浄化されたアルカンレティアの源水、其処から汲み取ったその水はモンスターにとっても美味な聖水だ。

 神の力が施された水は悪魔やアンデッドにこそ有効だが、安楽少女はモンスターであると同時に、ある種自然の一端とも言える存在だ。

 そんな彼女だからこそ、聖水のダメージを負う事なく吸収する事が出来るのだ。

 

「前より美味くね?」

「主神が自ら浄化したからな。力も前より強くなってるんだよ」

「ありがてー。美味しいヤミー感謝感謝」

「棒読みにも程があるだろ。本当に思ってんのか?」

「マジで思ってるよ。アリガト、トモダチ!」

「きっしょ」

「おいテメェ」

 

 本来の片言になっても、神父の対応は変わらなかった。

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