アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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第二十四話「紅魔の里へ」

 

■  ■

 安楽少女との他愛のない雑談を済ませた後、徒歩で森を抜けてから数時間が経過した頃。

 神父はようやく紅魔の里、その入口まで辿り着く事が出来た。

 

「1年振りか。わりと長い間行ってなかったんだな」

 

 涼しげな風が吹き、木々の葉を揺らす。

 神父はいきなり溜め息を吐いて、一歩を踏み出した。

 その瞬間―――

 

「『ライト・オブ・セイバー』!」

「『ファイアー・ボール』!」

「『ブレード・オブ・ウィンド!』」

「『雷霆の槍(ケラウノス)』!」

 

 木の影に潜伏していた幾人もの紅魔族が、一斉に魔法を発動して全てを神父へと解き放ったのだ。

 使用者の魔力次第で切れ味が変化する『ライト・オブ・セイバー』。

 球状の火炎弾を放つ『ファイアーボール』。

 風の刃を飛ばし、相手を斬り裂く『ブレード・オブ・ウィンド』。

 雷霆の槍とは言うものの、しかしただ強力な落雷を起こすだけの魔法『ライトニング・ストライク』。

 どれも直撃すれば人を殺す威力を誇るものばかりである。だが、神父から零れた溜め息は自らの死期を悟ったが故のものではない。

 未熟と惰弱に対する呆れから来た、溜め息だった。

 

「やっぱ遅いな、お前ら」

 

 バァンッッッ! と、二つの銃声が重なり合い、強く鳴り響く。

 バックステップで呆気なく魔法を回避すると同時に、刹那に等しき秒で引き抜かれた二つの愛銃が咆哮を上げる。

 一瞬の動作でホルスターから引き抜き、引き金(トリガー)へと指を掛けて放たれたSAAの銃弾は、常人では認識する事すら叶わない。

 飛び跳ねる事なく、ただ真っ直ぐに駆け抜けたSAAの鋭い弾丸は、神父を燃やし尽くさんとする炎の球の端を貫き、燃え尽くされずに空を舞う。

 ガァンッ! と鈍い音がした瞬間、狙いが外れていた筈の弾丸は軌道を変更し、二つの弾丸が同時に二人の魔法使いの脳天を撃った。

 

「なんだと……!?」

 

 境抜き(コンフィーネ)

 魔法の最も威力が低い部分を撃ち抜く事で、弾丸を破壊、消滅させる事なく魔法を貫通して相手を撃つ技術。

 弾丸や球体の大きさによっては中心であろうと耐える事はあるが、神父が用いた弾丸は親切設計のゴム弾だ。炎の中心で耐えられる様な構造ではない。

 だが、端を狙えばその弾丸は襲撃してきた魔法使いには当たらない。周りは木々で、跳弾に使える様な耐久性もしていないだろう。

 ならば―――跳弾が出来る様なものを此方で作れば良い。

 一人銃弾返し(ひとりビリヤード)。弾速が異なる二つの銃を用いる事で、銃弾の軌道を変える技術だ。

 SAAの銃弾はガバメントの銃弾によって軌道が変わり、ガバメントの銃弾はSAAの銃弾によって軌道が変わり。

 銃弾と銃弾が文字通りのビリヤードの如く弾き合い、各々がまるで意思を持ったかの様に動き出し敵を二人撃ち抜いたのだ。

 

「出来ない事はねぇんだよ、一応。ジジイの方が速いが」

「くっ、流石は我らの師!」

「そもそも奇襲を仕掛けるなら飛び出すな。そして声も出すな」

「久々のダメ出しだ! しかし神父師匠、我ら紅魔族に魔法の名を呼ぶなというのは無理極まります!」

「小声で言え」

「カッコ良くないじゃないですか!?」

「くだらん。そんなもん捨てろ」

「そんな殺生な!? というか貴方がそれ言います!?」

 

 オリジナルで詠唱を追加しているお前が言うか、と反論するも、

 

「生憎、俺が詠唱するのは真正面からの戦闘と遠距離狙撃の時だけだ。詠唱も殆ど浄化魔法だからアンデッドの類にしか使わねぇしな」

 

 使用場面の説明でノックアウトである。

 神父の詠唱は、基本的に直接戦闘か遠距離狙撃の極端な距離での戦闘の二択なのだ。ベルディアの時は遠距離狙撃、デストロイヤーの時は狙撃だがそもそも奇襲なんざしていない。ハンスの時は直接戦闘だ。

 それ以外で詠唱を使う事は殆どないのだ。それこそ誰かに見せて欲しいと乞われない限り。

 

「ふふ…! ですが神父師匠、貴方は1人忘れていますよ!」

「いや、まだ全員倒してねぇんだけど」

「ぶっちゃけ奇襲が失敗したなら私達は絶対勝てませんので」

「開き直んな。そこは最後まで全力で挑め、熱意出せよ」

「一番似合いませんね」

「実弾で撃ち抜かれたいか?」

「ぶっころりー隊長ぉぉぉぉ! 早く来てくれェェェェ!!!!!」

「名前出してんじゃねぇよ馬鹿野郎がッ! だが準備は整った!」

 

 木々の真上から飛び降りながら現れたる男こそ、ぶっころりー。

 この自警団の隊長であり、紅魔の里で最も最初に神父に敗れた男の異名(不名誉なもの)を持つ紅魔族である。

 準備は整ったと高らかに声を上げながら、ぶっころりーは自身に秘めたる魔力を解き放ち、奔流を走らせる。

 唐突な魔力の解放には、流石の神父も気を取られた。

 もう既に魔法を放つ寸前まで練られた魔力を、よくも隠せたものだと心の中で賞賛する程に、ぶっころりーは魔力の隠蔽上手く出来ていた。

 だが忘れるな―――この神父は、決して真っ当な人間などではないのだと。

 

「だから姿を現すなっつってんだろ、馬鹿が」

「がはっ!?」

 

 早撃ち(クイックドロウ)の牙がぶっころりーの額を貫き、高めた魔力の奔流が一気に沈静化する。

 そう。この神父はお約束を守る様な人間ではないのだ。敵であれば誰であろうと撃つ。例えどんな場所だろうと、どんな時だろうと、どんな都合があろうと、迷う事なく引き金に指を掛ける事が出来る男なのだ。

 要するに、変身バンクの途中や〇〇レンジャーやらキュア〇〇など名乗る時に、脳天や鼻腔などの急所を狙って撃つ外道である。

 そんな神父が、木の上から飛び降りて顔を上げるという隙だらけの動作を態々見逃す筈がない。事実、即座にヘッドショットだ。

 

「この外道! 人でなし!」

「ぶっころりーが華々しく散る所だったのに!」

「アンタ人の心無いんか!?」

「鬼! 悪魔! 不真面目神父!」

「アクシズ教徒の俺にそれ言われてもな」

「そうだった…! この人、わりとアクシズ教の人間だった……!!!」

 

 かくして。

 対魔王軍遊撃部隊は、たった一人の神父によって呆気なく壊滅した。

 これで記念すべき十敗である。

 

「で、どうする? まだ起きてる奴も居るが」

「勘弁してください。もう無理です」

「平気で距離潰してくる人と戦える訳ないだろ、いい加減にしろ」

「なんなら距離取っても銃で狙い撃ちされるし」

「流石は術士殺し」

「というかイリヤルートまだですか?」

「受け入れろ、彼奴はどうやっても助からん」

「あァァァァァァ!!!!!!! 巫山戯るな、巫山戯るなァ、馬鹿野郎ぉぉぉぉ!!!!」

 

 神父の祖父の影響か、紅魔の里では某運命関連の知識を持つ紅魔族が何人か居るらしい。

 ロリ系お姉ちゃん専用のルートも無ければ救いも無い。あるとすれば、晩御飯で美味しく食事しているか、カーニバルなファンタズムで楽しげにはしゃぐ姿だけである。

 

「お爺さんに頼み込んでくださいよ! さつきルートはよ!」

「其奴も助からん。ジジイも無から有は生み出せん」

「どうにかしろよください! 人の心与えて!」

「確かに、人の心があれば彼奴等は幸せになれたかもしれない。正義の味方と一緒に暮らせたかもしれない。眼鏡の少年と恋人になって、学校に通えただろう。……でもそうならなかった、ならなかったんだよ。だから、この話はここでお終いなんだ」

「くっ、うぅ……!!」

 

 まるで救えたかもしれない双子の死を悲しむ男の様に、その紅魔族は項垂れた。

 拳銃を片手に煙草を吸いながら天を仰ぐ神父の姿は、暴力教会に所属していても何ら違和感は無い。

 

 

「奇跡も魔法も無いんだよ、皆死ぬしかないんだ」

「神父様、多分それ別の奴だと思います」

「Zeroの原作、魔法少女の原作と脚本。両方書いたの同じ人だぞ」

「なんですと!?」

 

 あの人が関わっていたら、だいたい碌な結末にはならない。あの魔法少女達も、シビュラの犬も、基本的にハッピーエンドは迎えていないのだ。

 まぁ、それこそが特徴であり良い点なのだが。廻天が楽しみである。

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 

 ホルスターに銃を収め、神父は何でも無い様に門をくぐった。

 紅魔の里。その奥の方に、彼が目指す場所はある。

 

「あのー……起こしてくれたりは?」

「安心しろ、そのうち起きる。起きなきゃ水でもぶっかけろ」

「スパルタにも程があるだろ!?」

「ゴム弾で叩き起さないだけマシだろ」

「それもそっか」

「おい、納得すんな。だいぶ言ってる事やべぇんだぞ、あの人」

 

 わりと手遅れなレベルで感覚が麻痺している紅魔の若きウィザード達であった。

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