アクシズ教の不真面目神父   作:全智一皆

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第二十六話「嵐の前の静けさ」

 

■  ■

 神父が紅魔の里に寄ってから数日が経過した頃に、カズマ達は到着した。

 そして出会い頭から、

 

「おや、誰かと思えばバケモノ神父ではないですか」

 

 頭のおかしい紅魔の娘からバケモノ呼ばわりされたのであった。

 これには寛大かつ寛容な素晴らしい心を持つ神父も、その心に荒波を立てずにはいられなかった。

 一瞬で距離を詰め、その小さな顔を容赦なくアイアンクローで鷲掴みして持ち上げながら、左手に持った煙草を近付けつつあった。

 

「文字通りの烙印押してやろうか?」

「痛いっ、凄まじく痛いです! ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっっっ!!!! 貴方のお爺さんがあまりにもアレだったもので、つい!」

「あ? なんで其処でジジイが出てくるんだ」

「実はね」

 

 主神のアクアが経緯を説明する。

 ゆんゆんからとんでもない爆弾が落とされた事。

 それを作った相手に文句の一つでも言うのと、里帰りの意味も込めて紅魔の里に行く事にした事。

 その道中で、神父の知り合いと語る安楽少女と出会い、色々と話した事。

 またその道中で、オークの大群に襲われた事。

 そして、そのオークの大群からカズマを救ったのが神父の祖父であった事。

 それらを説明すると、神父は深い溜め息を零した。

 

「あのジジイ……人に頼み事しといて呑気に観光か? それとも何か目的でも…。あのジジイは何考えてるのか分からんから、予想のしようがない」

「すっごくたのしかったです、まる」

「カズマが壊れてしまった…神父様、どうにかならないか?」

「ほっときゃ治る。……で? そのジジイの何を見て俺をバケモノと呼ぶに至るんだ、あ?」

「イタタタタタっっっっ!!!!! はなします、話しますから! 首が、首が抜けるー!」

 

 そして繰り返される祖父の伝説。

 強化系の魔法を一切使っていないにも関わらず、音速で動いたという身体操作。

 そして本人が自ら語った、伝承魔法の応用である『伝承の押し付け』。

 そして、回転式拳銃(リボルバー)一丁で邪神を半殺しにした事。

 神父はあー、『漣』な。と、納得しながらも苦い顔を浮かべた。

 

「サザナミ?」

「肉体を動かす上で必要な部位の全てを大雑把ではなく、一部一部を細かく且つ最速で動かす身体操作技術だな。パントマイムとかストリートダンスにおける基礎、アイソレーション―――分離、独立などの意―――で各部位を把握、後は身体操作だ。結果として音速に至るんだとさ」

「頭おかしいんじゃないですか?」

「それには俺も同意だ。俺も未だ完璧には出来ん。あのジジイは努力の方向性を間違えてる、確実にな」

 

 めぐみんの鋭い罵倒に、神父も深く頷いて肯定する。

 家族である神父からしても、祖父の技術力は明らかにおかしい。もはや人間の領域から完全に逸脱している。

 そんな実力を有しているにも関わらず、魔王を討伐する役目の一切を放棄しているのだから訳が分からない。

 その祖父から言わせてみれば、単に格好良いと思った事を実践したかっただけらしいが。

 

「やっぱ特殊な家系だったりするのか? 神父さんのお爺さん」

「さぁな、ジジイの家庭についてはババアしか知らん。自分の素性を明かしてるのはババアだけだ、息子である親父すら知らんらしい」

「徹底してんな…。或いは、お爺さんの奥さんが凄いだけなのか」

「まぁ、凄くはあるな。一つの場所に留まらない放浪癖があったジジイを留まらせてる時点で。相当惚れ込んでんだろ」

「祖父の話はよく聞くが、その逆で祖母に関する話は無いのか?」

「特徴的な事は無い。ジジイに伝承魔法と射撃と身体操作、お袋にナイフ術。親父とババアにはこれと言った何かは教わってないし、そういう逸話も無い」

「いや新情報出てきたよ? 神父さんのお母さんも何かあんの? 何なの、アンタの家系は特徴しかないの?」

 

 家庭の話をする度に、様々な情報が更新されていく面白い家族である。

 此処に来て、神父の母親の情報が追加された。

 神父にとっての師匠とは、即ち祖父だ。神父が扱う技術の殆どは祖父譲りのものだが、ナイフ術だけは唯一の例外である。

 それまで見せる事などなかったが、神父はナイフの扱いも心得ているらしい。それも母親から教わったものだと。

 

「まぁ、お袋にそれを教えたのはジジイだがな。間接的に言っちまえば、俺の持ってる技術の全てはジジイで構成されてる。とは言え、伊達にジジイの娘じゃねぇぞ。昔はよく負けてた、今は分からん」

「何なんでしょうね、私は貴方のお爺さんを見たので大抵の事には驚かなくなった気がします」

「その慣れは悪い慣れだ、捨てとけ。ジジイを基準にしちゃ世界が崩れる。アイツは人間じゃない、バケモノだ。幼少期を含めて千回以上は挑んだが、擦り傷一つ付けられた試しがない」

「そんな強いのになんで魔王倒さねぇの? めっちゃ楽勝っぽさそうだけど」

「『それをするのはオレじゃない、それこそ主人公と呼べる様な奴がやれば良い』…だとよ」

「めっちゃ人任せじゃない…」

「そんな人間を転生させたの、お前だけどな」

 

 忘れてはいけない。

 転生する人間をこの世界に送り込んでいたのは、紛れもなくこの水の女神アクアなのである。

 

「ある意味でバケモノを誕生させた女神か。恥を知れ」

「なんで!? なんでそこであたしを罵倒する流れに持ってくのー!?」

「この神父もカズマも、一日に一回はアクアを罵倒しないと気が済まない病気か何かでしょう」

「なんと羨ま……じゃなくて、であればアクアの代わりに是非とも私を!」

「言い直せてねぇじゃん」

「カズマ、しっかり手網握っとけ。この女はマジで何を仕出かすか分かったもんじゃない」

「それが出来たら苦労してねぇんすよ……」

 

 たかだが一つの手網程度でどうにかならないのが、このお嬢様である。

 アクセル随一のドMだ、面構えが違う。神父としてはカズマを憐れむばかりである。

 

 まぁ、閑話休題(それはともかく)

 煙草を再び吸い出しながら、神父は視線をカズマ達から外して近所の家の物陰の方へと移す。

 ひょっこりと微かに出ている半身。神父達をじっと見つめている小心者の少女が、其処に居た。

 

「今日は観光の予定か?」

「まぁ、はい。カズマ達にも是非紅魔の里を知ってもらいたく」

「なら其処の物陰に隠れてるコミュ障も連れて行っていけ、いい加減に執拗くなってきた」

「な、何故バレた!?」

 

 驚愕に包まれるゆんゆん。

 神父は何故バレないと思ったんだコイツ……と、煙と共に溜息を吐き出した。

 やれやれ、と小馬鹿にする様な素振りをしながら、めぐみんが忠告する様に言った。

 

「バカですね、ゆんゆん。この神父には潜伏も隠密も無意味ですよ。というか基本的に何しても無駄に終わります」

「人をバケモノみたいに言うな。いい加減にしないと冗談抜きで脊椎ごと首を引っこ抜くぞ、爆裂娘」

「か、かかかかかカズマ!!! 昨日の事は許してあげますから、どうか私を守ってください!」

「はぁ!? お前ふざけんなっ! 文字通り首根っこ引き抜かれるとか勘弁しろ! 俺はまだ剣に成りたくない!」

「伝承魔法を使えば、まぁ出来ん事はないがな。カズマ脊椎剣」

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!」

 

 曲がりなりにも神父だと言うのに、悪魔の如き力を扱うとはこれ如何に。

 とは言え、こう改めて聞くと神父も大概と言うべきだろうか。

 

 黙示録の四騎士。世界の終焉を記録した書物において語られらた、人類を破滅させる四つの概念の一つ―――戦争。

 自身の所有物を武器として扱う事の出来る力。神話でも何でもない、単なる一解釈を幻想(コミック)のキャラクターの能力としたそれすらも実現が可能。

 なんなら神父は祖父から口伝で語られただけで、実際にそれを見た訳ではない。

 神父からしてみれば、大した事でもないのだろうが。

 

「うぅ…わ、私はまだ忘れてませんからね! 怒ってますからねっ!」

「そもそもお前が引っ付いてこなければ、ああはならなかったがな」

「それこそ貴方が狙撃しようとしなければ、私も止めませんでしたよ!?」

「お前が得るべき教訓は、『話しが通じる様で通じない相手も居る』という事だ。諦めろ」

「そんな理不尽なっ!?」

「アクシズ教徒だからな」

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