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「なるほど。カズマだったか? お前は実に愚かな選択をした」
「はい、誠にその通りです」
「なんでよぉ!?」
女神アクアと冒険者カズマから話を聞いた結果、煙草を吸い続ける神父は真顔で現実を突き付ける事にした。
カズマは日本という国から来た転生者である事。
カズマは転生の特典として女神アクアを選んだ事。
準備なんかしていないので冒険者になる為の金がない事。
冒険者になる為の金を貰う為に、この教会に居る神父に会いに来た事。
カズマは素直に肯定し、貶された本人であるアクアは不満たらたらである。
それを聞いた上で、神父は特典としてアクア本神を選んだ事を愚かだと断じた。
実際、選択肢としては有り得ないものだ。愚かではある。ぶっちゃけてしまえば、神様本人よりも一つだけとは言えど超強力な能力やら武器やらの方が有能なのだ。
なんせ、神は本来のスペックのまま外界に降り立つ事が出来ないのだから。法律などのルールが地球にある様に、天界には天界の法則があるのだ。
だが、アクシズ教の人間としてアクアについて詳しく知る彼は、その言葉の後にしかしと付け足した。
「同時に賢くもある。クエストの達成については兎も角として、魔王討伐という目的において、神器やら特殊能力やらよりもアクア様の方が大いに役立ってくれる」
「そうよそうよ! なんせあたし、女神だもの!」
「えぇ…本当に役立つ? 俺の中ではもう既に駄女神認定が結構進んでるんだけど」
「駄女神なのは事実だ、どうしようもない」
「なんでまた貶すの!? さっき褒めてくれたじゃない、そのまま褒めてよ! 駄女神じゃないって否定してよー!」
「アンタは私生活の面において女神の度が下がりに下がり切ってるだろ。水の女神なのに酒で酔っ払うのが何よりの証拠だ。仮にも四大元素の内の一つを司る女神が、酔っ払うなんざ洒落にならん。酔っ払った神は基本的にくだらん事しかやらかさねぇんだ」
ぐさぐさっ、と言葉のナイフがアクアを突き刺した。ここまで来るともはや憎悪されているのではないかと疑ってしまう程だ。
寧ろ嫌悪や憎悪があればマシだったのだろうが、悲しきかな。この男には嫌悪も憎悪もなく、ただ単に思った事を述べているだけなのだ。
それが余計にアクアの心を傷付けているなど、本人は知る由もない。知るつもりもない。
「いいか、カズマ。コレはな、こんなんでも女神だ。それも国教たるエリス教、その御神体であるエリス様よりも遥かに優れた神だ」
「コレ呼ばわりは気になるけど、そうよ! あたしはエリスより凄いんだから!」
「本気で言ってるのか? 俺にはどうも信じられそうにないんだが…」
「よく考えろ。片やあるかないかも不確かでまやかしの様な
「お、おぉ…確かに。そう考えると凄いかも…」
水。それ即ち生命の母。生命の根源たる象徴。
人が生まれるに至った過程、つまり人類の誕生において人類以前の小さな生き物達の誕生には水こそが深く関わりを持ち、起源そのものである。
生命は水の中に生まれ、やがて地を足を着けて進化を続けて、その果てに人という種は生まれた。
アクアは水の女神。生命誕生の起源たる概念にして、ほぼ全ての生物が必ずや必要とする『水』を司る神なのだ。
神としての位で言えば、幸運という有るか無いか不確かで、ステータスの確認が出来るこの世界でこそ認識されているだけのまやかしの如き概念を司るエリスとは、それはもうまさしく天と地の差である。
『なんか当たり強くないですか!?』
なんか電波を受信した様な気もするが、スルーしておこう。いざ降臨となれば遠慮なしに鉛玉を撃ち込んで
あなたは水の女神アクアの信者だ。特段信仰心が厚い訳ではないが、邪魔立てするなら異教徒の祖を滅すもやむなしである。
「じゃ次に、俺が転生者…お前が言う所のニホンジンが否か、だが、はっきり言うと俺はニホンジンとやらではない」
咥えた煙草を外し、二人に煙が掛からない様に真上へと吐き出しながら神父は告げる。
自分は転生者ではない。ニホンジンではない、と。
「そうね。この子は転生者じゃないわよ」
「でも、銃ってこの世界にないよな? ゲームみたいな世界だって、アクアが言っただろ」
「そうね。確かにこの世界では銃なんて造られてないわ。例外として他の転生者が造ったモノが残ったりはしてるかもだけど」
「じゃあ、それも?」
「そうなる。正確にはジジイ…あー、俺の祖父が残したものだ。祖父はお前の言うニホンジンで、特典として『銃に関するものを創る能力』を持ってたんだ。銃は勿論、弾丸も例外じゃない。エンチャントが付与された弾丸すら創れる」
「チートだな…」
「俺はその先祖返りでな。ジジイの能力を受け継いでる。と言っても、俺の場合は単純に銃を創るだけだが、この世界では中々なもんだ」
「ほー…ちなみに、その銃を売ってもらう事は出来たり?」
チラチラと、机に置かれた銃に視線を移すカズマ。
回転式拳銃―――リボルバーと呼ばれる類の銃器。その中でもかなり古い代物。
コルト・シングルアクション・アーミー。通称「ピースメーカー」、SAAの愛称を持つ有名なリボルバーである。
「出来るぞ。ハンドガン一丁で五億エリス、アサルトライフルなら数百億はくだらない」
「たっっか!? たかが銃一丁でそんな値張るのかよぼったくりじゃねぇか!」
「妥当な値段だっつの。お前が言ってんのは『貴方が持っている神器を売ってはくれないでしょうか?』みたいなもんだぞ。ニホンジンなんだろ? だったら、
ぐっ…と押し黙るカズマ。
このファンタジーが如き世界において、銃火器の存在はまさしく異質にして最先端の技術。弾丸やそれに掛けるエンチャントによっては、モンスターすら必死に至らせる代物だ。
それを安値で売る事などしないし、そもそもとして銃火器の存在を公にする事もないのだ。
「まぁ、そういう訳だ。欲しいならくれてやる、遠い道のりだがな。…で、これが本題だな。冒険者になる為の金銭がないので貸してくれ、だったか?」
「あ、はい。恵んでいただければ助かります…マジでお願いします」
「二千エリスねぇ…まぁ、いいか。大して減るもんでもなし。いいぞ、貸してやる。六千エリスにしてくれれば十分だ」
「マジっすか!?」
「ほら言ったじゃない! 良い子なのよウチの信徒!」
「我が主神に褒めていただき感謝の極み」
心の籠もらぬそれを、しかし二人が気にする事はない。ようやく冒険者になれるのだ、スタートラインに立てるのだ。
神父としては、神のくせに物質の創造も出来ないのかと物申したい気分ではあったのだが、言ったら言ったで面倒くさそうなので内に留めた。
懐から二千エリスを取り出し、神父は無造作にそれを二人へと渡した。
「これでようやくスタートラインだ。どうぞ頑張ってくれ」
「マジでありがとうございます神父様」
「止せ止せ、俺みたいなのに様付けするな。それは真っ当な神父に失礼だ」
「自覚はあるんだな…」
「あぁ。直すつもりは欠片もないがな、もはやアイデンティティだ。困った事があればまた来い、内容によっては金をぶん取るが、これでも好評だ」
「本当になんで神父やってんだよ、アンタ…。アクシズ教徒こえー…」
「ちょっとちょっと! その言葉は聞き捨てならないんですけど! あたしの信徒達のどこが怖いってんのよ!」
「独善的かつ自己中心的なクソ害悪でそれを一切理解してない所」
「その信徒にボロクソ言われてますけどアクアさん」
「なんでよー!?」
思いも寄らぬ裏切りに叫ぶ女神を肴に、煙草が美味いと神父はケラケラと笑った。